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軍の少将になって帰国したら今さら学園に通えと言われました  作者: マイヨ@電車王子様【11/25発売】


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第69話 空キレイ

「今日はいい空ですよユウ様! 運が良いですね!」


「どこがだよ!」


 降下中の風切り音で肉声では会話ができないので、最初からヘルメットにしこまれたトランシーバーマイクで会話をしているので、大声を出す必要は無いのだが、苦手なスカイダイビングに俺の声は思わず怒りを帯びて、発生量を大きくする。


 降下開始直後の、内蔵がヒュッ! となる感覚が治まり、相対速度が合ってようやく、会話をする余裕が出来た。


「降下時間は1分ちょっとです。相手に補足されたら、こちらが対空掃射でお陀仏です」

「それで、観測手の彼女の出番って訳か」


「どうも~、ダイビング楽しんでますか?」


 前方から的井さんが寄って来て、速水さんの手を掴んで降下速度をこちらにピッタリと合わせる。


 降下中に狙った場所に来るのは結構難しいらしいと聞くが、そこは流石、降下訓練が日常業務の空挺団員。大した腕前だ。


「ユウ様を赤ちゃん抱っこして飛べるなんて夢のよう……」

「出来れば金払ってでも、この罰ゲームは避けたかった……」


「対照的な感想ですね~」


 的井少尉が笑いながら、ダイビングジャンパーのポケットから折り畳みのスポッター用光学測量機器を、ゴーグル越しに目に当てた。


「目標艦隊捕捉。ん……? 一艇、先行する艦あり。事前ブリーフィングでも話題になっていた、アンノウンタイプの艦です」


「お見事。流石は、士官学校時代にスナイパー適性Sだった伊緒です」

「観測データそっちに送った。後は頼んだよ、まどか」


 速水さんと的井少尉が短く言葉を交わす。


「それじゃあ、行きますよ」


「ねぇ、マジでやるの?」

「今回の作戦はスピードが命ですから。行きますよ!」


「だから、心の準備の時間が……って、ぎゃああぁぁぁああああ‼」


 速水さんが腹ばいの状態から、頭から地面に落下する体勢になる。


 所謂、ヘッドダウンの体勢になり、降下速度が爆上がりしたことで、俺は本日二度目の絶叫を上げることとなった。




「ちょっと! 小刻みに、空間移動しないで速水さん!」


 降下中に、速水さんは相手の艦からの対空砲火を回避するために、無軌道に短距離空間移動を繰り返す。


 その度に視界が急に切り替わって怖さ倍増だ。


「相手射手に的を絞らせないためです。我慢してください、神谷少将」


『そうですよ。神谷少将と速水少尉が艦を墜とせなかったり、対空砲火にやられちゃったら、観測手の私はただ相手の対空砲火の的になるか、自決しなきゃなんですから頼みますよ』


「しれっと重い!」


 でも、確かにここで俺と速水さんが墜とされたら、的井さんはただパラシュートでヒラヒラと海上に無防備に降下していくだけなので、悲惨な末路しか待っていない。


「だ~っ! もう、やるならとっとと終わらせる! コン、武装展開!」


『いつもより雑な展開ですねマスター。ターゲットは……おや、これは』


「何だあれ⁉ 本当に船か?」


 目視領域に捉えた異形に、思わず降下の恐怖を一瞬忘れて呆けた声を出してしまう。


「あれが、隣国が今回、強気の侵攻に舵を切った理由でしょうか」


 速水さんも、思わず見入ってしまう。


海上100メートルほど上空を浮遊するクジラ型の超巨大艦艇の姿は、上空からの目視だけでも十分に異形な物だと解った。


 しかし、目視領域の高度まで来たという事は、そろそろ相手の対空砲火のバラまきの密度が上がり、速水さんの空間移動でも避けきれなくなることを意味していた。


『目標、前方の大型浮遊戦艦。コン、攻撃はじめ!』

『武装展開します』


 艦は脆い。

 3年前に、俺は同国の艦隊をいくつも沈めた経験から、海戦については楽観視している所があった。


 島国の日本にとって、制海権は国家の生命線たる最重要事項だ。

 故に、特に隣国の海軍勢力は苛烈なまでに削りに削った。


 奴らが、こちらに手出しが出来ないように。


「カノン砲の上空からの一斉射を弾いています! 浮遊戦艦は無傷の模様!」


 観測手に回った速水さんから、相手が健在であるとのダメージ報告が入る。


『あれ? コンが相手戦力を見誤るなんて珍しいじゃん』


 俺が内心でコンに話しかける。

 カノン砲の砲撃も止めてしまっている。


 威力偵察用の攻撃なんて普段はしないのに。

 まぁ、相手の対空砲火も止んでいるからいいけど。


『……失礼しましたマスター。ちょっと、不快なものが見えたので』

『不快?』


『あの浮遊艦……浮遊と防御障壁の動力源は、艦に搭載されたおびただしい数の魂魄と魂装能力者です。魂魄は酷く劣化していて、適合者も意識はすでに無い人形のようなものですが』


『……そうか』


 俺は、あらためてクジラ型の要塞のように大きな浮遊戦艦を見やる。


 あんな巨大な重量物を飛行させる技術は、現代の普通の科学技術では実現していない。


 ならば消去法で、今俺の目の前で起きている非科学的な現象は、魂装能力という新技術によって顕現されたものだ。


『創意工夫というのは、人間の良い所ですが、時に悪魔としか思えない所業もこなしますね。魂魄とその適合者を燃料とするとは』


『コン……』


『はいマスター』

『こんな事、無意味だって知らしめるために徹底的にやるぞ』


『少々、いつもよりたかぶってますね。マスターの精神のブレが私に作用することをお忘れなく。それで、何の武装を所望します?』


『レールガンを使う』


 俺は努めて冷静……なつもりでコンに指示を出した。


『使うのはユーロ第3首都陥落作戦以来ですか』


『あの時は脅しの一発に使っただけだけど、今回は弾数制限なしだ』


『少々過剰な威力ですが。いつものように、カノン砲の砲門数を増やすのでも、相手の防御を砕けますが』


『それだと、無駄に長引かせて術者を苦しめる。やるなら短時間でだ』


『それはそれは。正直、私もあれには生理的嫌悪を催していたので、ぶっ放したい気分だったのでちょうどいいです』


『それでは、攻撃はじめ』



(チギィィィィッ‼)



 幾筋もの、光の線がクジラ型浮遊艦へ降り注ぐ。

 おそらく5、6発目までは防護障壁で耐えていたようだ。


 だが、俺の飽和爆撃の物量の前には成す術がない。


 相手が、多くの魂装能力者を犠牲にするという物量作戦を取っても、それ以上の物量が雪崩れ込んできたら圧壊するのも、また単純な真理だ。


 ついに防護障壁が破れ、空飛ぶクジラはズタズタの穴だらけになり、黒煙を上げながら海に帰る。


「目標、沈黙。艦隊の他の艦艇に動きなし。落下傘、開きます」


 観測手として速水少尉が状況報告をした後、落下傘が開き、ガクンッと身体が持ち上がるような衝撃を受け、心地よい浮遊感が身体を包む。


「この状態でも、他の艦艇は援護もせず傍観か……」


 今回の海域は、日本側が主張する領海線ギリギリ付近で、クジラ型浮遊艦だけが領海線を侵犯してきた。


「敵軍の今回の侵攻は何が目的だったのでしょうか?」


 速水さんが、パラシュートの着地方向を器用に操作・調整しながら、疑問を呈した。


「新型戦艦のテストが主目的ってことかな。艦隊を動かしているけど、あの浮遊艦が通用するなら、あわよくばそのまま侵略って程度の皮算用だろうね。こちらが攻撃を開始しても、他の艦が停船したままで、さしたる動揺が無かったから」


「あのクジラ型の浮遊艦……恐らくは……」

「だろうね。後は、後詰の部隊に調査を任せ……」



(ズガァァァアアアン‼)



 雷鳴のような轟音と爆発がクジラ型浮遊艦から発せられた。


「キャッ‼」


 爆風に煽られて、パラシュートが大きく煽られるが、速水さんの腕のおかげで、何とかキリモミ回転したりはせずに状態を立て直す。


「自爆か……船底に穴を空けて海底に沈める気だな」

「敵ながら、やりきれませんね……」


『マスター、先ほどのクジラ型浮遊艦は、先ほどの戦闘中にスキャン完了しています。何なら今すぐ……』


『今は、沈んでいく死者に手を合わせたいんだコン』

『そうですかマスター。では、またの機会に』


 俺は空中で手を合わせる。


 彼らは、果たして自らの意志で望んで艦に乗ったのだろうか?

 そんな訳ないよな……


 もしかしたら、人間として定義づけられていたのかさえ、怪しいものだ。


 みるみる海へ沈んでいくクジラ型浮遊艦の所々から、内部の空気がバシュッ! としぶきを上げて噴出する様は、図らずもクジラの潮吹きのようだった。


「艦隊はどうやら故国へ戻るみたいですね」


 停船していた敵艦隊は、無事にクジラ型浮遊艦が自爆した様を見て、安心して自国側へ転進するようだ。


「甘いな……一昔前のこの国ならともかく、そっちが先に領海侵犯したんだから、こっちが領海外だからと手を出さないと思ってるのか?」


「領海外の艦隊を沈めると、外務省がうるさいですよ神谷少将」


 速水さんがたしなめるが、俺はこの胸糞悪い状態のまま、この戦いに幕を引く気はさらさら無かった。


 安全圏から、まるで実験動物同士の殺し合いを水槽で観察するように眺めていた奴らに、戦場の恐ろしさを叩きこんでやる。


「要はカノン砲やレールガンをぶっ放したり、目立つことをしなければ良いんだよ。俺に考えがあるから。敵旗艦の艦橋の上に空間転移で、俺を飛ばして」


「解りました。どの道、このまま海面に着水するよりはマシですしね」


 そう言って、速水さんは俺の指示通りに空間移動により、旗艦空母の艦橋の屋根部分に降り立った。


 高所は嫌いだから、眼下は見ないように、その場で片膝をついてしゃがみ込む。


「さてと……何がいいかな……あ、隣国さんだから、折角なら自国の型式の兵器にしてあげようかな。その方が、理解も早いだろうし」


 俺は独り言を言いながら。艦橋の屋根部分に手をかざす。


『コン。オートマター 大陸製 型式 こくけいシリーズを用意』


『マスター、酷刑シリーズはその名のごとく、国際条約違反の代物ですが?』

『彼らの国自身が条約の批准を拒んで、未だ使い続けているんだから、こちらが使っても問題ないだろ』


『対象と規模はどうしますか?』

『対象は艦隊の艦艇全て。規模は誇り高き精強な海兵の心がへし折れて、二度と使い物にならない位に』


『了解しました。具現化飽和術式 オートマター 酷刑 生成します』


 すると、俺の目の前1メートル先に、禍々しい拷問器具が装着された、戦闘用四つ足オートマターが生成される。


 その禍々しい姿に、自分で生成しておいて、嫌悪感情が隠せず思わず俺は顔を顰める。


 酷刑シリーズは、戦場では俺の視界に入った時点で即最優先で吹き飛ばしてきたから、こうやってマジマジとその姿を見るのは実は初めてかもしれない。


そんな俺の悪感情をよそに、まるで工場ラインの完成品ベルトコンベアに乗せられた製品のようにオートマターは生み出され、艦橋や艦の甲板を疾走し艦内を瞬く間に埋め尽くしていく。


 俺の魂装能力を多くの人は、誤解している。


 俺の魂装能力 『飽和』を、相手の防御力を上回る砲弾数、砲門数で攻撃するものだと定義している者が多いが、その解答では配点の半分程度の点しかあげられない。


 まぁ、そう誤解するように仕向けてるんだけど……


「酷刑シリーズオートマターの手に掛かる兵の凄惨さは、使用者側なんだから当然知ってるでしょ? いつまでもつかな?」


 生成が終わった俺は、艦橋にいるであろう艦隊司令部へ向かって、聞こえるはずもないが、そう呟いた。


 飽和とは、相手に最大限の限界を強いる能力。

 それは、何も単純に砲門の数や弾数だけの砲火だけでは無い。


 最大限を超えた精神的な負荷を与えれば、人は容易く壊れる。


 世界大戦下の今の兵は、死という物を間近で見てきている。

故に、多くの兵は死ぬこと自体は大して恐れていない。


だが、死に方だけはせめて選びたいと多くの兵は思っている。


 戦友を庇っての戦死、戦況上重要な戦果を挙げた上での戦死など。

 せめて、自分が死に行く瞬間に、自己満足でも良いから意義を見出したい。


 そういう意味では、今、俺が生成し、艦内を制圧しようとして、敵兵たちの眼前に殺到しているであろう酷刑シリーズの戦闘用オートマターは、人としての尊厳を踏みにじり、歴戦の兵が思わず泣き叫びながら命乞いをしてしまう代物だ。


 死にゆく自分を慰めることもできず、ただ味方の兵に恐怖を植え付ける材料に使われ、無念と絶望に塗りつぶされる死。


「ただいま、戻りました」

「お、速水さん。無事に的井少尉を回収できたんだ」


 俺の後ろに、的井少尉を抱えた速水さんが空間移動で戻って来た。


「敵の大型浮遊艦の撃破、お見事でした神谷少将。この後はいかがされますか?」


 艦橋上でパラシュートを素早く脱着した的井少尉は、俺に現場指揮伺いを立てる。


「2人共、耳を塞いで。そろそろだと思うから」


 速水さんと的井少尉が、言われた通りに両耳を塞いだのを見て、俺も自分の両耳を塞いだ。




(ドンッ! ドンッ!)




 轟音と共に、信号弾が旗艦から撃ちあがった。


「国際法にのっとった降伏の信号弾です」

「艦隊すべての艦が機関を停止しています」


 観測手用のスコープで他の艦隊が同様であることを、速水さんと的井少尉が確認して報告してくれる。


 国際条約違反の兵器を使いながら、こういう自身の命に関わるものだけは、ちゃんと国際基準にのっとっているというのが少し笑える。


 どうやら、相手を凄惨な死への恐怖で飽和させ、軍人としての矜持や職責をかなぐり捨てさせることに成功したようだ。


『コン。具現化飽和術式の一時停止。生成したオートマターはアイドリング状態で待機』

『了解しましたマスター』


 コンにストップをかけた後、今度は現実世界の方で指示を出す。


「オープンチャンネルにて以下の文を打電せよ。『貴艦隊司令長官の賢明な判断に安堵する。知っての通り、君たちの眼前にいるそれを使うと艦内の掃除が大層面倒である。諸君らの投降作業がスムーズに行われることを期待する。 日本軍統合幕僚本部付 少将 神谷祐輔』」


 速水さんが俺が口伝した内容を懐から取り出した折り畳みキーボードでタイピングしている横で、的井少尉は通信機器で空挺団長へ忙しく指揮伺いをしている。


 すると間もなく、空挺団の輸送機が上空に飛来し、後部ハッチから空挺団員が排出されていく。


 空から落下傘が次々と空に花開かせてヒラヒラと降下してくる様は壮観だった。



「そう言えば、今年は久しぶりに花火観たいな……」



 と俺は、日が傾き、少しだけ暑さが和らいだ空を眺めながら呟いた。


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