第60話 沖縄旅行3日目 散!
「はぁ……はぁ……どこ触ってんのよ……」
ミーナがベッドの中で、顔を赤らめて苦しそうに喘ぎ声をあげつつ、抗議の声を上げる。
「ふん、いつもの威勢はどこへやらね。ほら、大して抵抗できてないから、パジャマのボタン、もう外し終えちゃったわよ」
速水先生が、やや手荒な雰囲気をまとってミーナに迫る。
「や……大丈夫だから……」
「素直になりなさい。こういうのは同性同士でやるのが一番いいの」
「や……止めてよ……年増ぁ……」
日頃のように悪態をつくミーナだが、その声は普段とは打って変わって弱々しく、身体は言葉とは裏腹にほとんど抵抗できていない。
まるで、本能が、あるいは身体が欲しているかのように、ミーナは速水さんの突き出した物を受け入れるしかなかった。
(ピピピッ!)
「38.3℃……完全に発熱してるわね」
速水先生が、ミーナの脇に突っ込んだ体温計の表示温度を見て、そう呟いた。
「うう……これ位の熱、大丈夫だし……」
ミーナがヨロヨロとベッドから立ち上がろうとするが、膝に力が入らないのか、ベッドサイドからすら立ち上がれずにいた。
「身体が熱い……けど、寒い……」
真夏なのに、身体をガタガタと震えさせたミーナは、やむなく布団を再度被る。
「咳や鼻水は無く、発熱に悪寒、そして皮膚全体が赤く、皮膚に強い火照りを感じる。おそらく重度の日焼けによるものね」
手元にある、軍特性の医療診断ポケットマニュアルを見ながら、速水さんはミーナの症状から簡易の診断をくだした。
「ミーナ、無理しちゃダメだよ」
俺はミーナの枕もとのベッドサイドにしゃがみ込んでミーナの顔を見る。
熱を測り終えてパジャマのボタンを正されて布団を被った辺りのタイミングで、皆がミーナのベッドの元に集合していた。
「う、うん……昨日はちゃんと日焼け止め塗ったのに……」
「ミーナは異国の血が入っていて皮膚の色素が薄いからね。皆と同じ日焼け止めじゃ太刀打ちできなかったみたいだね」
「うう……ちゃんと汗をかくたびに塗り直してたのに……」
ちょっと真夏の沖縄の紫外線を舐めていたな……
昨日のビーチバレーの時はスティックタイプですぐに塗り直しやすい日焼け止めを使っていたのだが、俺たちはともかく、ミーナの肌では耐え切れなかったようだ。
「対処は冷湿布。保冷剤で冷たすぎると感じるなら、水で濡らしたタオルで皮膚を冷やすと良いみたいだ」
周防先輩がスマホで日焼けの対処法を調べてくれた。
となると、小まめに冷湿布を変えるために、ミーナの看病をする人が必要になるな。
「仕方がありません。私が虎咆さんを看病してますから、他の皆は楽しんできなさい」
速水先生が、顧問としての役割を果たそうとしている。
が、そこは俺にも意見があった。
「いや、ミーナは俺が看病するよ。これでも一応、部長だし」
「え⁉ しかし……」
「唯一、車が運転できる速水先生が看病してると、他の皆の行動が制限されちゃうでしょ。今日は元々自由行動の予定だったし、速水先生は皆の行きと帰りの足の役割を担って」
「はい……」
少し不本意そうだが、俺の言う事ももっともだという事で、速水さんはしぶしぶ俺が看病役をすることに同意した。
「すまんな神谷」
「周防先輩と真凛ちゃんは、国際通りでショッピングの予定だっけ? お土産、俺の分も買っといて」
「あい、任されました」
申し訳なさそうな周防先輩の横で、真凛ちゃんが胸を叩いて、俺の分のお土産を買うという任務を引き受けてくれた。
「ユウ、虎咆先輩のことお願いね」
「琴美はどこに行く予定なんだっけ?」
「私も国際通りでショッピング……のつもりだったんだけど、その前に桐ケ谷所長から呼ばれてるから、魂装研究所に行かないとなんだ……」
「あら、桐ケ谷ドクターから直接連絡が行くなんて、琴美はホント、ドクターに気に入られたんだね。けど、1人で大丈夫?」
「うん、不安だけど……『魂装技術の機密にも関わる事だから、1人で来るのですぞ~グヒヒ~』ってメッセージに書いてあったから……」
琴美がゲンナリとした顔で、当該のメッセージをスマホで見せてくれたが、文章として見ると改めて、桐ケ谷ドクターのノリはきつい。
事務官の名取さんはよく耐えてるな。
「速水先生も旅行中運転してばかりだったから、たまにはゆっくり1人の沖縄での時間を過ごしたらどうです?」
「そうですね……沖縄の基地に配属されている仲の良い同期がいるので、皆の送迎が終わったら訪ねてみようかと思っています」
軍人は、特に士官の人は全国津々浦々、果ては世界中に同期が散らばっているからな。
国境付近である沖縄はいくつも基地があるから、速水さんも知り合いが結構いそうだ。
「OK。お迎えの足が必要だから、今日は飲んじゃダメですからね」
「わ、わかってますよ……多分……」
「「「「多分ぅ⁉」」」」
なぜ、そこで自信を持って答えられないんだ、この人は⁉
と皆が呆れる。
「私たちの帰りのタクシー代が速水先生もちでしたら、御存分にお飲みください。私たちはそれでも構いませんよ。ねぇ? お兄ちゃん」
「俺と真凛、火之浦、レンタカーの代行運転で計3台分か。総額2万円はかかるな」
「現実的にソロバンはじいてくれてありがとう……肝に銘じておきます」
これ以上の散財は流石にお財布事情がきついのか、速水さんが萎んでいく。
その様を見て、皆少し笑顔になって、沈んでいた場の空気が少し持ち上がる。
「じゃあ外出組は、しおりの計画通り17(ひとなな)時00(まるまる)分に、国際通りモノレール駅前にあるシーサー像の前で待ち合わせで……ん? 夜はゲーム大会?」
「あ……沖縄での最後の夜だし、皆でトランプ大会がしたくて……」
発案者のミーナが、日焼けではない赤みを顔に帯びさせながら、照れ臭そうに布団を口元まで被った。
「OK。では、夜のゲーム大会には時間厳守のこと。各員準備のため別れ」
「「「了解しました部長」」」」
皆が敬礼の後に、ミーナと俺のいる女性陣の寝室を後にする。
「ユウ君……ごめんね……」
布団を口元まで被ったミーナが、弱々しく謝罪の言葉を述べる。
目は発熱のためか、いつもより朧げでトロンと垂れている
「ペンションで、のんびり過ごすのも立派な休暇だよ」
俺がミーナの額を優しく撫でると、ミーナは嬉しそうに目を細めると、直に瞼が閉じられる。
さて、まずは冷湿布のためにタライに水とタオルを集めて来なきゃな。
俺は、ランドリールームに準備をしに向かった。
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