第131話 少将閣下と食事を共にすることは許されません!
「神谷少将閣下! お茶が入りました!」
「あ、ありがとう……」
「閣下。学食の日替わり定食をお持ちしました!」
「ご、ご苦労様。でも、今度からは別に俺が自分で並んで頼むから……」
「そんな滅相もありません! 我々にやらせてください!」
「少将閣下! つけ合わせのキャベツにかけるドレッシングはゴマでしょうか? 和風でしょうか?」
「ゴマかな……」
「承知しました!」
全然、落ち着いて食えねぇ……。
刈谷首相との秘密会談を終えて学園に戻ってくると、ちょうど昼休みが始まるところだった。
お弁当は教室の学生カバンに置いたままだから取りに戻りたかったのだが、今朝、クラスメイトたちから土下座された続きが繰り広げられる可能性が高かった。
そのため、今日は学食で済まそうと思ったのだが、結局はこっちでも面倒くさいことになった。
「お昼のワイドショーでも話題は少将閣下の話題一色ですよ!」
「夕方に総理がこのことについて会見を開くそうです」
「あ、そう」
俺は、あまり興味がないので、誰とも知らぬ生徒が持ってきてくれた日替わり定食に箸をつける。
話しかけてきた時に名乗ってたと思うけど、複数人から話しかけられていたので、誰がだれだか解らない。
「あの、食事してる周囲で突っ立ってられると、食べにくいんだけど」
「いえ! 一般兵士の階級しか持たぬ我々が、少将閣下と食事を共にすることは許されません!」
いや、確かにそうかもしれないけどさ。
学食にいる俺以外の生徒がみな起立しちゃってて食べないから、学食が商売あがったりになっちゃってるよ。
「じゃあ、ご馳走様」
学食の業者さんに悪いので、俺はささっと早食い気味に食事を済ませるとトレーを返却口に持って行こうとするが、
「こちらでお預かりします!」
一歩で、トレーは奪われてしまった。
やりづれ~と思いながら、俺はそそくさと教室へ向かう。
途中、すれ違う生徒たちが敬礼しつつ道を空けてくれるので、実にスムーズに戻れた。
あ~、食べそびれたお弁当どうするか。
美鈴にでもあげるか?
他事を考えて現実逃避をしつつ、なるだけ自然体で俺は自身のクラスの教室のドアを開けた。
「神谷少将閣下。これで……これで、どうかご容赦を」
「その頭は……」
ドアを開けて視界に飛び込んできたのは、悲痛な顔をした坊主たちだった。
「自分たちで刈りました」
「だろうね……」
バリカンで自分でいったって感じの坊主だよね。
バリカンなんてそんな台数ないだろうから、スピード重視で刈ったせいか、ところどころ元の髪の毛の長さの毛が残っているザンバラな所が、より悲壮感をアップさせている。
「女子はベリーショートか……」
「……! 申し訳ありません。甘いですよね。私たちもバリカンで……」
「いや、そういう意味じゃないから! っていうか、そういうの本当に止めて!」
大粒の涙を流しながら、震える手でバリカンを握る女子から慌てて取り上げる。
女子がみなベリーショートになっているので、クラスの誰かも解らない。
「ちょっと、美鈴。本当に助けて……」
「私は皆を止めたんだけど。あ、お弁当あまってるならちょうだい祐輔」
「……どうぞ」
地獄のような空気のクラスで、美鈴だけがマイペースだった。
◇◇◇◆◇◇◇
「終わった……俺の学園生活は音をたてて崩れ去った」
もう、クラスメイトと仲良くなれる未来が見えない。
「元々、半壊状態だったからいいだろ」
「もう、周防先輩がそもそもの諸悪の根源だろってツッコむ元気もないよ……」
放課後、逃げるように生徒会室でいじけている俺の所に、気心の知れた仲間たちが自然と集まる。
「でも俺知ってる。周防先輩は、何やかんや俺の事を心配して来てくれたんだよね?」
「いや、周りからお前の事を根ほり葉ほり聞かれるのがウザかったから、ここに避難してきただけだ」
「……ご迷惑をおかけしてます」
俺と親しくしていたがために、ゴメンね。
「別にいいじゃない。ユウ君も、どうせここにいる元々事情をある程度知ってる面々としか、ほぼ繋がり無いんだし」
「ぐはっ!」
「虎咆先輩、真実の鉈がユウの頭をかち割ってます」
「あわわ! 私もどうせ学園ではボッチだよって励ましたかっただけで」
ミーナと琴美の優しさが、今は心をえぐる。
「琴美の方は大丈夫?」
「私の方は今のところは大丈夫そう。ネットで名瀬会長が色々とエゴサしまくってる」
「ああ、家の用事って言ってるけど、あれは琴美のエゴサしてるんだ」
必死の形相でPC端末のキーボードを叩いてる名瀬会長へ視線を向けるが、お仕事中なら声はかけずにおこう。
「お兄ちゃん怖い……私も神谷先輩みたいに正体がバレたら、お兄ちゃんと一緒に暮らせなくなっちゃうのかな……」
「真凛、心配するな。何があっても俺はお前から離れることはない」
潤んだ瞳で不安そうに震える真凛ちゃんの肩を、周防先輩が抱き寄せる。
「嬉しい! 私もだよお兄ちゃん。いっそ誰も私たちのことを知らない田舎で、夫婦と偽って暮らすのもアリだと思う」
「人の不幸を出汁にして、己の欲望を充たそうとするの止めてくれる? 真凛ちゃん」
すぐに2人の世界に入ってしまう兄妹へチクリと言うのは、俺もちょっと八つ当たりが入っている。
「畑仕事や寄合みたいに他の人の目のある場所では夫婦として振舞って、布団の中ではお兄ちゃんと妹に戻る……いい……」
真凛ちゃんは色々妄想がはかどっているようで聞いちゃいない。
「それにしても、テレビの報道って事実なの? ユウ君」
「これから色々と尾ひれがついた話が出回るだろうけど、第一報で流れた内容は概ね事実だね」
「ユウ君が子供で戦場に立たされてたのは知っていたけど、あんな名立たる戦役で主力として戦ってたなんてね」
国に強制徴兵された事はよく知っているが、実際の戦闘についての情報の開示レベルが低かったミーナは、心底驚いたという印象だ。
「こうやってまとめられると、俺働きすぎでしょ。世界中を飛び回って」
夕方のテレビニュースでは、俺がどういう戦場を駆ったかということが時系列にまとめられていた。
「北米とユーロが突然手のひらを返して日本側にすり寄って来たのも、当時謎だって言われてたけど、ユウ君がいたからなんだね」
「これは、ちょっとオーバーに言い過ぎだけどね」
ニュースキャスターの横でしたり顔で解説する、元傭兵とかいう肩書のひげ面のおっさんや、外交問題に詳しいという触れ込みの国際政治学者のおっさんが、しきりに俺の存在があったからこそ、日本は世界大戦下で外交的に優位に立てたのだと熱弁している。
「このコメンテーターの人たちが興奮するのも無理はないよ。戦時下を理由に開示されていなかった中、ユウという新たなピースが現れて、今まで繋がらなかったピースがどんどん繋がって行って興奮してるんだと思う」
先に俺の戦歴について知っていた琴美が、苦笑いしながら俺のことを嗜める。
そういえば、琴美も特記戦力になって、国家機密に触れて楽しそうにしてたな。
「けど、別に俺だけの戦果じゃないからさ。俺だけ名指しで褒められるのは違う気がする」
「ユウ君は今の状況はあまり嬉しくないの?」
「俺にばっかり注目が集まって、国のために命を投げだしてくれた英霊たちに申し訳ない」
ため息をつきながら、生徒会室のテレビの夕方のニュースで自分のことが語られているのをどこか他人事のような冷めた目で見つめる。
一体、どこの誰が情報を売ったんだ?
そいつは、何を望んでるんだ?
この事態を生み出した見えぬ元凶に、俺は問いかけたが、無論返事なんて返ってはこなかった。
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