第121話 トシにぃとジャングル♪
「ワクワク」
「ユウ様。ワクワクが声に出ちゃってます」
呆れたような声音で俺に指摘する速水さんだが、これは無理からぬことなのだ。
「ごめん速水さん。だって今日、これからトシにぃが我が家に来るんだよ? 部屋綺麗だよね? 飲み物は、トシにぃの好きな金沢の加賀棒茶を百貨店で買ってきたんだけど、大丈夫かな?」
「く……ユウ様をこんなにソワソワさせるトシにぃさんへの嫉妬を感じずにはいられない……」
先日、高見学園長から、ユンカー要塞にいるトシにぃのお姉さんである、小箱紗良大尉の救出作戦について、早速トシにぃに連絡を取ったら、直ぐにこちらに来るとの事だった。
幼年学校の教官の仕事については、有給休暇を取得すると言っていたが、そこは俺の少将パワーで幼年学校長に根回しをして、俺からの協力依頼で、原隊任務からの一時離脱という形にして、トシにぃの有休が減らないように対応してもらった。
こういう時にこそ、無駄に高い地位を使わないとね。
「ふわ……おはよう祐輔。なに? こんな朝から来客があるの?」
「おはよう美鈴。最近、朝起きるのがどんどん遅くなってないか?」
「夜更かしでネットサーフィン出来るの幸せ」
「最近は、ブラウジングって言うらしいぞ」
「へぇ。祐輔、物知り」
「俺の方が半年ばかり、シャバの世界への復帰が速いからな。俺も、こっちに戻って来た時にネット動画とか観て感動したわ」
「なんだか部屋がいつもより綺麗。今日のお客さんはそんなに大事なの?」
「ああ。俺の恩人でな。トシにぃ……って、愛称じゃ解んないか。小箱中佐が来るんだ」
「小箱……」
「美鈴も知ってるのか? トシにぃは敵国にも武勇が轟いてるんだな」
「小箱紗良大尉の親類縁者? ユンカー要塞の」
「美鈴、トシにぃのお姉ちゃんのこと知ってるのか?」
「うん。敵の女傑として有名だった」
「……敵?」
「私は東方連合の軍属だったから、ユンカー要塞の攻略に投入されたことがあった」
「あ、そっか……って、トシにぃのお姉ちゃんって、ハオ族側に捕らわれてるんじゃないの?」
「状況は分からない」
「その辺の説明は俺がする」
「あ、トシにぃ! いらっしゃい!」
「勝手に上がらせてもらったぞ。ったく、玄関の鍵も開けっぱなしじゃないか。これでも国家の重要人物なんだから、セキュリティはちゃんとしろ」
「久しぶりの対面での再会なんだから、もうちょっとムードとかないの? トシにぃ。『よく生きてたなブラザー!』みたいなさ」
「懐かしがられたいなら、四六時中、用もないのに公用アカウントメールにどうでも良いメールを送ってくるな」
いつの間にか来ていたトシにぃに軽口を叩きながら、俺はコーヒーを淹れる。
「はい。トシにぃの好きなモカ、砂糖ミルクなし」
「ん……」
「何だか祐輔、お世話してるの嬉しそう」
「あ~、トシにぃと初対面の美鈴にも気付かれちゃうか~そうだよね。俺たちの関係って、やっぱり端から見ると直ぐに分かっちゃうみたいだよトシにぃ」
「社内恋愛してるOLが結婚の圧を彼氏に掛けるような気色の悪いことを言うな」
「グギギ……ユウ様との勝手知ったる軽妙な掛け合いが妬ましい……」
「速水。どうどう」
一先ずは、和やかにコーヒーを楽しんだ後に、トシにぃが本題を切り出す。
「今回は俺の身内が面倒をかけて申し訳ありません、神谷少将閣下。軍幼年学校所属 小箱中佐。これより貴方の指揮下に入ります」
「あ……兄貴分に仕事上とはいえ頭を下げられて敬われるの、何かゾクゾクする。もう一回言ってトシにぃ」
「俺の方はサブイボが出てるから、もう口調は普段通りに戻すぞ。無論、指揮命令には従うが」
くそ。さっきの録音しておけば良かった。
「まずは、うちの姉の小箱紗良大尉ついての情報だ」
「トシにぃのお姉さんも軍人なんだね」
「今のあの人は、正規の軍人として扱って良いのか疑問なんだかな」
「どういうこと?」
苦々しい顔をしながら、トシにぃが話を続ける。
「うちの姉の紗良は、陸軍特殊作戦群の所属だったんだ」
「え、凄い! 空挺の更に上の、マジで軍のトップエース部隊じゃん!」
「姉の紗良は、任務でハオ族の軍事アドバイザーとして出向いていた。そして、ハオ族と協力して難攻不落のユンカー要塞を築き上げた」
「はぇ~」
「東方連合軍では有名だった。あの地形を生かした天然の要塞と兵の士気の高さは有名だった」
トシにぃの話に、俺が感嘆の声をもらすも、何で日本人のお前が知らないんだと、美鈴にチクリと言われてしまう。
「で、何でそれがお姉さんが正規の軍人じゃないって話に繋がるの?」
「難攻不落のユンカー要塞が築かれ、十分な戦果をあげたということで、本国から姉は帰投命令を受けた。だが、姉はこれを拒否したんだ」
「え!? なんで⁉」
「それは俺も解らん。ただ、そこから通信がも取れなくなった」
「それって、ハオ族側に捕えられたって事なのかな」
「いや……あの姉からして、色々と斜め上な状況にいる気がするが」
ボソッと呟いたトシにぃは、複雑な顔をして視線を彷徨わせた。
「じゃあ、事前のブリーフィングはこんなもんかな。じゃあ、行こうか」
「行くって言っても、遠い異国だぞ」
「そこは、速水さんの進化した空間転移術式でね。複数人が移動できるようになったから。装備が整い次第、出発ね。甘いもの持って行こう。出発して即ジャングルだから、溶けない甘味の準備をお願いね速水さん」
「承知しました」
「相変わらず気楽なもんだな……」
「トシにぃとジャングル~♪」
トシにぃの呆れた声をバックに、俺は背嚢をウキウキ気分で引っ張り出して、いそいそと準備を始めた。
「じゃあ、行軍頑張って。私は二度寝する」
「なに言ってんだ美鈴。お前も行くんだよ」
「なんで⁉」
「前に言った通り、美鈴を引き取る時に、俺が側から常時監視してるって言うのが条件だったからな。美鈴には俺の任務に付き合ってもらうしかないんだよ」
「……しかし、今回ばかりは、私の同行は止めておいた方が良い。交渉相手がハオ族でユンカー要塞と言うならば」
「なんだ美鈴。本体でジャングルへ行くのは初めてだからビビってるのか?」
「そういう訳じゃない……」
「大丈夫。ハオ族の人たちは温厚ないい人たちだったから。料理はちょっといまいちだけど、チャイは旨いから。よし、装備を整えて出発だ!」
その後、美鈴は何も言わなくなったので、説得できたと判断した俺は自分の荷造りをいそいそと始めるのであった。




