第112話 学園祭の打上げと言ったら焼肉食べ放題
(ジュウジュウ)
肉の焼ける音と、時折、焦げた臭いが鼻につく。
「え~、本日はお集まりいただきありがとうございます」
「前置きはいいから早く始めましょうよ名瀬会長~」
「それも、そうね。それじゃあ、皆さん学園祭お疲れさまでした~! 乾杯~!」
「かんぱ~~い‼」
「さぁ焼くぞ! 食べるぞ~‼」
名瀬会長のシンプルな乾杯の音頭により、宴が始まった。
ここは、特務魂装学園からほど近い所にある食べ放題焼き肉店である。
今日は生徒会主催で、学園祭で各担当として尽力してくれた部活の関係者などを招いた、学園祭の打ち上げが行われているのだ。
「食べ放題だから、各自食べきれる分だけオーダーすること! お残し厳禁よ!」
「はい!」
名瀬会長が声を張り上げた後に、運動系のクラブの人たちが、早速、肉やら唐揚げやらを山盛りに積んだ皿を、いくつも持って、自席を往復している。
「テストの後の打ち上げはファミレスが定番だけど、今回は焼き肉なんですね」
「これなら、人数が多くても処理しやすいからね。みんなのオーダー取りまとめたりするのは面倒じゃない。食べ放題なら最初から料金も決まってるから、事前にお金を徴収出来て明朗会計だし」
俺の問いかけに、手をヒラヒラとさせながら、名瀬会長がこの店に決めた顛末をあけっぴろげに語る。
確かに、主催側の生徒会としては楽だ。
「なんかこういう打ち上げっていいね。周りも学生ばっかだし」
待ちきれないという感じのミーナが、はしゃいでいる。
たしかに、こういう大人数の打上げって、なんだか少し大人になった気分を味わえて楽しい。
「あらあら。戦場の歌姫様は、芸能の世界に染まり切って、夜な夜な高級焼肉店に懇ろの怪しいプロデューサーと行って、無駄に舌が肥えてるかと思ったのに、こういう店で喜ぶだなんて、存外、舌は庶民のままなのね」
「ああ? 私がユウ君以外の男と会食なんて行くわけないでしょうが。名瀬会長こそ、名家のお嬢様なんだから、こんな庶民のお店なんて口に合わないんじゃないかしら? お金だけ置いてさっさと帰れば?」
打ち上げの開始早々、早速、名瀬会長とミーナがバチバチやっている。
「どうどう、ミーナ。今日は楽しい打上げなんだからノーサイドだって。すいませんね土門会長」
「名瀬君も落ち着け。こちらこそすまんま。あと神谷、俺は元会長だぞ」
それぞれ保護者である、俺と土門元会長が、バチバチの2人を宥めすかす。
「名瀬会長もミーナも、本心では久しぶりに会えて嬉しいんですよ。お互い、全力でぶつかり合える希少な相手だから」
「「ちがうわよ! こんな女!」」
俺の所見に対し、2人が息の合った返しをする。
「ほら、息ぴったりじゃん」
「名瀬君も、授業の演習の相棒が居なくて張り合いがないと言ってたじゃないか」
「「うう……」」
名瀬会長とミーナが恥ずかしそうに俯く。
「あの2人は仲が悪いの?」
「いや、あれで仲が良いんだよ美鈴」
2人の掛け合いが初見の美鈴は少し心配そうな顔をしながら訊ねてきたのを、琴美が苦笑いしながらすぐさま否定する。
名瀬会長とミーナの掛け合いは、もはやただの挨拶みたいなものだ。
さっきの嫌味の応酬も、『久しぶりだな兄弟!』みたいに抱き合ってるようなものだと周りも認識しているので、周りも気にも留めずに肉に夢中だ。
「じゃあ、後輩たちで肉とか取りに行きましょうか。ミーナは何がいい?」
「とりあえず、ロースとハツと上ミノとホルモン、たこ焼きとポテトで」
「あはは! 了解」
ミーナも結構渋いチョイスだな。
「名瀬君も何がいい?」
「え? そんな、取りに行くなら私が……」
恐縮して立ち上がろうとする名瀬会長を、土門前会長が優しく肩をつかんで座りなおさせる。
「今回、前例のない学園祭を成功に導いてくれたのは名瀬君のおかげだからな。打ち上げは功労者を労うものなんだから、今日は僕がアテンドするよ」
「会長そんな……」
「僕は元会長で今は君が会長だよ、名瀬君」
「私にとっての会長は、ずっと会長だけなんです……」
「ハハハッ。とはいえ、学園祭では僕は何もしてないんだがな」
「ウソですよ。本当は、土門前会長が裏で、部活動連合に地ならしの調整をしてくれていました」
「あ、コラ! 火之浦。それは内緒だと言っただろ」
「土門前会長が話を先に通しておいてくれたおかげで、スムーズに担当の割り振りが出来ました。女所帯の今期生徒会だと、どうしてもいかつい部活動連合には舐められますし」
土門前会長の小言を、琴美は意図的に無視して、裏での土門前会長の尽力について、ここぞとばかりに話す。
「ケンくん……」
「こ、こら名瀬君。学校の皆の前では、名前呼びは駄目だろ」
「あ……じゃあ、後でゆっくり甘えるから」
2人だけの甘々空間が形成されて、さすがに居心地が悪くなった俺たちは、肉をとりに向かった。
まだ何も食べていないのに、なんだか口の中が甘くて、今日はスイーツはそんなに入らないかもしれない。
◇◇◇◆◇◇◇
「すごい! お肉だけじゃなく、寿司や唐揚げ、綿菓子まである」
目をキラキラさせて、美鈴が各種の料理が並んでいるのを眺めて、感嘆の声を上げる。
「美鈴の国では、こういうお店ってなかったの?」
「私の国では、食料は配給制だったから、こういう潤沢な食料が並んでいるのは見たことがない」
「そっか」
美鈴の言葉に、俺は何とも言えない気分になった。
お国柄もあるだろうが、飢えているのが向こうの国での日常なのだろう。
俺も、前線に居た時には、常に食事というものについては無意識にセーブする癖がついていた。
持っている食料が全て尽きてしまった時の絶望感と焦燥感は、ちょっと経験してみないと解らないと思う。
「あ、でも魂装能力者として見出されてからは、軍の中では特別待遇でお腹いっぱい食べられた」
「まぁ、美鈴の場合は、能力を行使する上で必要なわけだしね」
「けど、幼少期にちゃんと食べれなかったから、結局は背は小さいままだった」
「……今日は好きなだけ食べろ! いくら食べてもいいから!」
「ホントか⁉ 祐輔」
「ああ。思う存分食べろ美鈴」
凄く景気の良いおじさんみたいな物言いだが、食べ放題なんだから、いくら食べても問題ないし。
「この国に来てよかった」
ニカッと笑った美鈴の顔は、まだ例の私立小学校の制服に身を包んでいるのもあり、無邪気な子供のようだった。




