第105話 お兄ちゃん!その子、すぐに殺して!
「入ります」
「虎咆先輩のステージは、観客の撤収まで無事に終わりまし……」
「ああ、周防先輩、真凛ちゃん。お疲れさ」
大仕事を終えて生徒会室に帰投した周防先輩と真凛ちゃんが、入室して絶句する。
そりゃ、生徒会室に見も知らない少女が、それも全裸で、それも複数が、同じ顔で居たら驚くだろう。
ここまでは、想定できる反応だった。
だが、ここから周防兄妹は、俺も予想外の動きを見せる。
「お兄ちゃん! その子、すぐに殺して!」
日頃ひょうひょうとして、年上の俺たちや大人にも物怖じしない真凛ちゃんが、珍しく感情を露わにして、半ば叫ぶようにお兄ちゃんに物騒なお願いをする。
刹那。
周防先輩が即座に抜刀の体勢をとる。
「なんの真似だ神谷」
冷たく尖った目つきで、獲物である美鈴から視線を切らずに、周防先輩は俺に問いかける。
「そりゃあ、こっちのセリフだよ周防先輩。いくらシスコンだからって、ほいほい妹の言うこと聞きすぎでしょ」
マスケット銃を、周防先輩の周囲に上空も含めてドーム状に張り巡らせて、視覚的には閉じ込めた状態に術式を展開する。
「神谷先輩、理由は後で説明するので、とりあえずその子を殺しときましょう!」
「真凛ちゃんも抑えて。らしくないよ、そんな形相」
真凛ちゃんは戦闘能力はないから放っておけばいいんだけど、目つきがとんでもなく険しくて超怖い。
「美鈴は亡命を申し出ているんだから、軍法上も手にかけるのはアウトだよ」
「そんなもの、私が如何様にも握りつぶします!」
「そういう汚いことをお兄ちゃんの前で言わないの、真凛ちゃん」
俺にそう言われて、真凛ちゃんがハッとする。
一応、特機戦力であることをお兄ちゃんには秘密にしていることを、思い出したのだろう。
とはいえ、さっきの真凛ちゃんの言葉を受けての即時の反応といい、周防先輩はおそらく……
「美鈴も、君の魂装能力は解ったから、これらを解除してくれ」
「わかりました」
この能力。
どうやら、服まではオリジナルのコピーは出来ないらしく、全裸なのだ。
そういう意味では、服を着ているのがオリジナルだと解りやすいのは助かるが、かなり目のやり場に困るのだ。
「それじゃあ、美鈴……って、つい見た目に引っ張られて小さい子扱いしちゃうな。ゴメンね」
「それで構いませんよ。私も幼女扱いは慣れておりますし、階級は神谷少将閣下より下ですから」
「東方連合国での階級は?」
「階級は特務大佐です、神谷少将閣下」
「この歳でその地位ってことは、ただの魂装能力者って訳じゃない……か」
「慧眼ですね」
「真凛ちゃんは、何か知ってるって顔だったよね?」
俺は、少し意地の悪い顔で真凛ちゃんに問いかける。
「そ……それは……」
真凛ちゃんが、目に見えて狼狽えた顔をする。
「さっき、少将の俺の指令を無視しただろ。その行動の裏には、それ相応の理由があるんだよな? 周防真凛少佐?」
ピクッ! と周防先輩の眉尻が動く。
「な、なに言ってるんですか神谷少将。わ、私は、ついこの間までただの中学生だった二等兵ですわ」
この期に及んでとぼけようとする真凛ちゃんだが、動揺のためか、声が裏返っている。
日頃、他人の秘密を掴んで、切り刻んで、自分のための切り絵を描く、軍上層部からも恐れられる真凛ちゃんだが、ことお兄ちゃんに自身の秘密を曝されたことについては、感情を揺さぶられるようだ。
「もうお兄ちゃんにはバレてるって」
「そんなことありません!」
「いや、真凛。神谷の言うとおりだ」
「え⁉ お兄ちゃん……」
お兄ちゃんの言葉に真凛ちゃんが絶句する。
「真凛が軍で重要な仕事をしているのは、ずいぶん前から解っていた」
「解ってるって、ど……ど……どこまでなの……お兄ちゃん……」
カタカタ体を震わせ、言葉を詰まらせ狼狽えながら真凛ちゃんがお兄ちゃんに問いかける。
「詳しくは何も知らない。けど、真凛が裏で俺が想像も出来ないような重責を担っているであろうことは、解っている。それを俺には言えない事も」
「お兄ちゃん……」
思っていた以上に、お兄ちゃんが自分のことを解ってくれていたことに、真凛ちゃんは驚き半分、嬉しさ半分という感じのリアクションを示す。
周防先輩は、割と聡い。
俺の階級の事とか、割と早くに気づいてたもんな。
「俺は真凛の秘密を探るような真似はしない。ただ、俺は真凛を信じる。真凛と一緒なら地獄にだって一緒に堕ちてやる。俺はお兄ちゃんだからな」
「きゅ~~尊死……」
「真凛⁉ 大丈夫か!」
お兄ちゃんに正体がバレてしまうという不安とからの、お兄ちゃんに想われていたという多幸感という感情のジェットコースターにより、真凛ちゃんがキャパオーバーで倒れて、慌てて周防先輩が抱きすくめる。
なんか、魂装のエスピオも以前、内心の中での初対面時に同じように尊死してたな。
ご主人も似るものなんだな。
「あの……これは……」
「ああ、ごめん。美鈴ちゃん。シスコンとブラコンのプレイを長々と見せちゃって」
「いえ。何というか……日本国は平和なのですね」
「それは、そうかもね~」
美鈴は戦況危うい、東方連合国所属だ。
その状況と比べたら、こちらの学園生活は呑気なものに映るのだろう。
「さて、何か事情を知ってたっぽい真凛ちゃんは、あの様子だけど……」
俺はちらりと、生徒会室のソファで寝かされてお兄ちゃんに介抱されている真凛ちゃんへ目線をやる。
「俺はまどろっこしい腹の探り合いは好きじゃないから単刀直入に聞くよ、美鈴ちゃん」
「奇遇ですね。私もそうです」
「そう言ってもらえると助かる。じゃあ、聞くね」
俺は、美鈴ちゃんの目を見つめながら、冷静に問いかける。
「俺って、君を、何人殺してる?」
日本語として本来成立しえない俺の質問に対して、美鈴は
「数百人です」
と、淀みなく答えた。
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