第101話 親方! 空から‼
「がぉぉおおおお!」
ミーナの咆哮の後に、照明やレーザービームの演出が派手に会場を照らすオープニングの後に、コンサートは始まった。
「ミーナちゃん可愛いぃぃぃいいい!」
「頼むからトラ耳つけてくれぇぇぇぇ!」
「俺を食べてぇ!」
ちなみにこの、咆哮はオープニングでの定番フレーズで、ミーナが顔の横で両手を広げて、爪を立てた猛獣のように吠える通称ガオーポーズは、巷で大人気だそうだ。
「みんな惜しいよな。ミーナ本人は、トラじゃなくて断然ネコ派なのに。ネコ科って所しかかすってない」
俺は、ステージ内の高台指令室から腕組みをしながら、まずは他の観客のリアクションへの感想を述べる。
「ライブ会場の後方の壁に寄り掛かって、新規ファンに老害ムーブする古参ファンみたいなこと言うな」
「ミーナのデビューのきっかけになった幼年学校のミスコンの場に居たんだから、小三という意味ではその通りだね」
周防先輩の茶化しに、俺は一切動じない。
これだけたくさんの人がミーナを知ってくれているという事実と、彼女が猫のように甘えてくる姿を自分だけが知っているという秘密を共有しているというのが、一種の愉悦を感じさせる。
って、何か本当に厄介なファンみたいな発想だな。
ミーナのためにも、いつもの変わらないユウ君でいた方が、多分ミーナは喜ぶよな。
「神谷……それで、お客さんは来ると思うか?」
「ん? お客さんなら見ての通り満員御礼じゃない」
「はぐらかすな。虎咆という戦場の歌姫を狙う勢力は、確実にこのチャンスをものにしようと躍起になってるだろ」
「……それって、真凛ちゃんに聞いたの?」
「いいや。俺の警備計画に変更を加えられた箇所について考察すれば、おのずと答えが出る」
「……さすがだね、周防先輩。俺と違って、将来はいい武官になりそうだ」
「それで、来るとしたら巡行ミサイルか?」
「そうだね。内部で事をやらかそうと企てた奴は、軒並み潰されたから、もう超遠距離射撃しか残されてないね」
本当は、内部に侵入した、或いは侵入しようとした輩は、軒並み周防先輩の大事な大事な妹ちゃんの手によって全て捕縛されているのだが、正体をお兄ちゃんに秘密にしている真凛ちゃんのために、そこは明かさないでおく。
「なぜ、相手にみすみす攻撃を許すような真似を」
「今後の展開のために必要だからさ。これで、国内の反乱分子は文字通り終根絶やしだ」
「それは、虎咆の命が危険にさらされることよりも価値のあることなのか?」
「……その、当のミーナから提案された作戦だからね」
俺を半ば非難するような周防先輩に向かって、俺はため息交じりで答える。
「虎咆から?」
「俺だって、最初は即却下したよ。けど、ミーナや音楽隊側から強く要望があってね。日頃、前線で命を張っている兵に比べれば囮になることくらい造作もないって」
なお、不自然さが出てはいけないと、この囮作戦の存在は音楽隊の隊長とミーナしか知らない。
相手に違和感を気取られて空振りする訳には行かないのだ。
音楽隊の楽屋の前で若い隊員が血気盛んだったのも、どこかでこちらの様子を監視しているであろう、相手さんを欺く上で実に良かった。
調子に乗った下っ端モード全開で絡んでくれて、あの若い隊員たちには金一封を贈りたい。
『マスター。巡行ミサイルが発射されたようです。学園敷地内に入るまであと20秒』
『あいよ。一体、どこの誰が大金をかけて国内に発射拠点を用意したんだか』
コンからの報告を受けたが、俺は動かない。
「周防先輩。巡航ミサイルがこっちに向かってるみたい。すでに下降シークエンスに入ってるかな」
「迎撃するのか?」
「うん。ちょうど歌もサビの盛り上がりどころで良かった。3・2・1」
空に閃光が、まるでナイアガラ花火のように輝く。
俺の能力で打ち上げた迎撃ミサイルの豪華な束が、相手の巡航ミサイルを捕らえていた。
「お~、さすが名瀬会長の遮音フィールド。空中撃破音がこのコンサート会場には響かないね」
「迎撃できたのか?」
「うん。ばっちり」
遮音フィールドにより適度に低減された、巡航ミサイルが木っ端みじんになる音で、一瞬観客たちが背後を振り返るが、閃光と音の程度から、ただの花火と思ったようだ。
「よく正確に亜音速の巡航ミサイルの弾頭を撃ち抜けたな」
「わざと残しておいた、敵のレーダー誘導員がきちんと誘導してたから弾道が読みやすかったんだよ。あ、誘導員もさっき身柄を確保されたみたい。発射拠点も制圧部隊が行ってるから2射目は無いかな」
「なるほど。ところで、空中からの残骸物はどうなる?」
「それも抜かりはないよ。名瀬会長に、遮音フィールド意外に障壁の層も展開してもらってるからね」
「……という事は、名瀬は残骸が回収されるまで、障壁フィールドを展開しっぱなしか?」
「あ……」
やばい! 落下物が無いかの確認をしないと、いつまでも障壁の展開を解除できない。
これじゃあ、名瀬会長が干上がっちゃう!
「早急に確認してきま~す!」
「まったく……」
やっぱり、机上で色々計画するのは苦手だな。
しかし、結局ミーナの歌は冒頭の1曲しか聴けなかったな……
そう頭の中でボヤキながら、俺は迎撃ポイントである学園敷地の端っこまで疾走した。
◇◇◇◆◇◇◇
「地面からの目視OK。空中で静止している残骸物は確認できず。そっちはどう? 琴美」
「空中のドローンからも確認は出来ず」
「OK。じゃあ、障壁フィールド展開解除。お疲れ様、名瀬会長」
無線で琴美とやり取りをしつつ一緒に、空を見上げながら、責任者たる俺が解除の術式の解除を指示する。
「ふぅ……」
無線越しに、名瀬会長が息を吐く声が聞こえる。
大規模な範囲での防壁と遮音フィールドの展開だったから、かなり疲れているようだ。
「名瀬会長、お疲れさま。ゆっくり休んで」
俺は名瀬会長の労をねぎらって、無線を切る。
され、かなり学園の敷地の端まで来てしまった。
周りは演習林として活用されている所で、人気はない。
ここから戻るのは骨だが、ミーナのライブがまだ続いているのは、こだまして聞こえてくる歓声から明らかだ。
これならフィナーレには間に合うかもなと主ながら、俺は駆け足で野外コンサート場へ向かう。
(バキバキッ! ガサガサッ! ドサッ!)
そんな俺の前に何か落下物が落ちてきた。
「あぶね! 木に、さっきの巡航ミサイルの残骸が引っかかってたの……か⁉」
危うく労災事故になるところだった。
と思いつつ、上から落ちてきた落下物を見て、俺は絶句してしまう。
落ちてきたのは、ミサイルの破片のような無機物ではなかった。
肌色のそれは、枝に引っかかりつつ落ちたおかげか、全身の至る所に擦り傷を作りつつも、息はあるようだ。
肌色のそれは、
「うーん……」
と、苦悶めいた声を上げる幼女は、草の上で一糸まとわぬ素っ裸の姿で、俺の目の前に横たわっていた
次回、新キャラ登場。
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