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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
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第一回教師間勝負も開催中!

 すでに掲示板前は生徒たちで溢れかえっていました。

 ここまで人が居るのも珍しいというか、砂糖に群がる彩豊かな蟻のような光景というか。


 依頼の張り紙をじっくり見て決めようとして掲示板前にしがみつく生徒。

 その後ろからは背伸びしてでも見ようとする生徒。

 そして、その後方に飛びかかって踏み台にし始める二人の生徒――ウチの生徒です。


 伸びる手が何かのホラーのように掲示板へと殺到します。ちょー怖ぇです。

 あそこにリューム・プリム――風圧弾とか撃ったら、さぞ面白いことになりそうですね。


「さ、選ぶといいですよ」

「あ、あの中に入るのはこわいのですっ」


 セロ君が怯えてしまいました。


「先生、今日の生徒会活動はクラスで複数の依頼を受けても」


 お、いいところに気がつきましたね、エリエス君。


「そうですね。できれば初回なのでクラスで一つ、が、望ましいのでしょうが、一応、依頼は複数受けられる前提です」


 セロ君が落ち着くようにと袖口を握らせたまま、答えます。


「ということは一人一枚、あるいは一人二枚、でもルールに違反しない」

「そうですね」

「そしてクラスを何パターンかのチーム分けしても」


 如何に効率よくポイントを手に入れるかを考える。

 月間優秀を取るために避けては通れない思考でしょう。


 例えば、炊事や洗濯なんかの【宿泊施設】の住人の手伝いなんかは大体、1~3p。理想値、あるいは予測取得値は平均2pくらいでしょう

 採取や伐採、採掘なんかの少し遠出が必要とされる依頼は2~6p。理想値は4p。

 

 そして、討伐や退治、戦いが予想される依頼は5~15p。理想値は10pです。


 これがどういう意味か、考えられないと月間は永遠に取れません。


 一日のクラスの最大取得ポイントは一人一依頼、全て討伐による50pが予想値でしょう。

 現状、リーングラード周辺の魔獣、あるいは原生生物を単独で討伐する実力を持つ生徒がいないことを考えれば、この50pは確実に妄想の類でしょうね。


 しかも、この方法は非常にデメリットが大きく、一人で討伐できる生徒がクラス全員であるという話にもなってきます。

 実際は各クラスにギリギリ一人、いるかいないか。

 ウチならエリエス君、ヘグマントクラスならフリド君。このあたりですね。


 フリド君に勝ったマッフル君が含まれないのは、相手が原生生物だと力負けする可能性が強いからです。

 強さも相性というわけですね。


 さらに言うと失敗の可能性を考えれば、この案は難しいでしょう。-50pの危険性も考えれば言わずもがなです。


 よくてクラスを2チームに分けて討伐依頼を受ける。

 一日20pが最大値だと思うのです。


 しかし、一日20pを越える方法は一つではありません。

 5人が採取依頼を別々に受ければ、理想値は20pです。

 手伝いの依頼を複数、この場合、2つずつを考えて、全員が個別に受ければ20pです。


 この理想値の最大値である20pをどう越えるか。


 クラスメイトの個別能力、才能、性質、それらをお互いが認識していないと20pの壁は突破できないでしょう。


「先生。クラス混合でチームを組んだ場合、ポイントはどうなりますか?」


 ここまではエリエス君でもわかるでしょう。

 生徒の中では何人かはこのことに気づいているはずです。


 教師ならなおのこと、理解しているでしょうね。


「ポイントの割り算になりますね。10pの依頼をヘグマントクラス2名、ヨシュアンクラス1名、リィティカクラス2名で受けた場合、ヘグマントクラスとリィティカクラスが4pずつ。ヨシュアンクラスが2pという計算ですね」

「それだと不公平」


 実はクラス混合チームだと、このシステムはかなり不公平です。

 討伐依頼にセロ君のような運動や戦いの苦手な子を連れていけば、確実にお荷物です。

 なのに得られるポイントは平等で、しかも通常取得ポイントより低い。


 でも、戦闘できない子を一人放りこんでポイントだけ掠め取ろうと考えれば、戦えない子だらけになってしまう。

 そして、必然、依頼の失敗が確定してしまう。


「そして、ポイントが割り切れない場合、小数点は切り下げです」


 地味にポイント減算の憂き目もあるという。

 まるで悪いところだらけの混合チームは、混合チームにしかないメリットもあります。


 ヨシュアンクラスだと前衛がクリスティーナ君、マッフル君の両名しかいません。

 この二人は確かに前衛役としては十分ですが、仲が悪く、連携が難しい。

 お互い、我が強いですからね。そこらを解消できればその限りではありませんが、前衛に二人を置くと喧嘩しながら戦い始めるので後衛はハラハラし通しでしょうね。


 スカウト役のリリーナ君、後衛のエリエス君、全体サポートのセロ君。


 バランスは悪くないのですが、突破力がある魔獣や原生生物。

 狼型の魔獣スレッチ・ヴォルフ。原生生物だと馬のカルニアホーン、猪のドドンガ・ボアなんかが相手だと力負けします。


 セロ君を外すか、リリーナ君を外して前衛強化が必須でしょうね。

 フリド君あたりを加えれば、上記の魔獣や原生生物にも対処できるでしょう。


 つまり、敵によってメンバーを変えるという方法も取れるのです。

 言い換えれば、成功率をあげられるというわけです。


 ポイントの減少に目をつぶって、高ポイント依頼を達成するか。

 地道に数をこなしてポイントゲットに勤しむか。


 なんてことはありません。

 これらは全て、与えられた状況から生徒たちが自らの意思で考え、数ある選択肢から最適を選ぶための訓練。

 時には最適解を作り出すために作られているのです。


 エリエス君は思案しているようで、小さな口を閉ざして掲示板を眺めていました。

 

 さて、エリエス君はどうやって理想値20pの壁を突破するでしょうか。


「いいか! アレフレットクラスがこの学園で至高のクラスであることを証明するチャンスでもあるぞ。教えたとおりの依頼をこなせば間違いなくクラストップなど取れるんだ」


 ……一人、生徒会システムの意義を理解していないバカがいるようです。

 教師と書いてバカと読むバカが。


 自信満々に指示を出しているアレフレットにちょっと理解してもらわなければなりません。

 無詠唱のまま、沸騰している頭にリューム・プリムを撃つ。狙い撃ちます。


「甘い!」


 緑属性の防御結界がアレフレットを包み、自分のリューム・プリムは溶けこむように防がれてしまいました。


「このアレフレット・フランクハイン、同じ手に何度も気絶させられてたまるか」


 キッと睨みつけてくるアレフレット。


「お前の暴虐なんてお見通しだ」


 自分の不意打ちを予想して防御結界を作っておくなんて、成長しましたね。

 なるほど、対処してくるというのなら自分もやぶさかではありません。


「リオ・ラム・プリム」


 手のひらに乗るくらいの氷の玉を生み出しました。


「ふん。芸のない……、というより一度、防がれたんなら諦めろ! 非常識だろ!」


 残念ながら、自分の辞書に『諦める』とか『オシオキしない』という単語はありません。

 手のひらの氷球を見て、すぐに青属性の防御結界を張っておく程度には警戒しているアレフレット。

 芸がないのは一体、どちらでしょうか。


 おおきく振りかぶって氷球をぶん投げました。


「無駄なことを――おぉ!?」


 あっけなく青の防御結界をすり抜け、アレフレットの頭で咲く氷の華。

 キラキラと空中を舞う氷結晶が綺麗ですね。


 どたん、と、倒れたまま動かなくなるアレフレット。

 事を見守るために手を止めていた生徒が唖然としていました。


 ざわざわとする中、自分はアレフレットの襟首を掴んで、生徒たちから距離を置きます。


「ほら、早く依頼を取らないとなくなっちゃいますよ」


 というと、生徒たちもハッとしたように再び掲示板に手を伸ばします。


 もっとも、この事態でも動じずに依頼を眺めていた二人がいましたけれどね。

 つまり、ウチの生徒です。場馴れしすぎです。


 そして、自分が退避してきた場所はどうやら教師の観覧席だったようで。

 ニヤニヤと笑っているシャルティア先生、ジト目のリィティカ先生、ヘグマントにピットラット先生までいました。


「青の防御結界をすり抜けたように見えたが、どういう秘術を使ったのかね?」

「ヘグマント先生ぃ、その前に言うことがあると思うんですよぅ」


 教鞭を取り出してペチペチと叩かれました。


「生徒たちの前で模範になるべき教師がぁ、人前でぇ、人に術式を撃ってはぁいけませぇん」


 あぁ、リィティカ先生は可愛いなぁ。

 ペチペチと小刻みに頭を打つコレは神のご褒美ですね、わかります。


「ありがとうございます」

「なんで感謝してるんですかぁ!?」


 とはいえ、無駄にリィティカ先生の血圧を上げても仕方ありません。

 ちゃんと理由を説明するのも大人の醍醐味です。


「アレフレット先生ですから」

「意味がわかりませぇん!」


 おかしい。意味が伝わっていない。

 女神リィティカへの信仰が足りないのでしょうか。ポイント割り振りがあったら全振りにするくらいつぎ込んでるというのに。信仰の道は険しいですね。


「まぁ、正直な話、生徒たちに生徒会システムのアレコレを教師が口出すのはどうかと思ったのです」

「ポイントをより多く入手する手段を教えない、むしろ本人たちに考えさせることが目的か」


 さすがのシャルティア先生。

 すでに生徒会システムの意義をちゃんと理解していたようです。


「公平性にも欠けますしね」


 この一言はシャルティア先生を動かすには十分だったようです。

 薄く口を釣りあげると、自信満々に胸を張ります。


「現在、生徒たちは能力の偏りこそあれ、個々のクラスが突出した状態ではない。横並びと言っても差し支えないだろう。平均的、それは誰も優遇されていないと説くこともできる。そして、半月後の貴族院の試練までの試運転……、この半月の余裕で一つ、我々も遊びをしないか」

「遊びぃ、ですかぁ?」

「あぁ。我々の担当クラスのどこがこの半月で一番、ポイントを稼げるか。月間優秀こそ競えないからこそ、現状で暫定的な一位を決めても問題なかろう。教師としての能力を試した……、試練と言い換えてやってもいい」


 あー、悪い虫が顔を出し始めましたね。


「誰が学園で一番、教師として生徒を導いているのかを賭けようというわけですな」


 ピットラット先生が小さくまとめてくれました。


「生徒を賭け事につかうなんて不純ですぅ」

「言うなリィティカ。それにその言葉は適切ではない。より良い教育者として優劣を競い合うことに間違いはなかろう。たゆまぬ努力。それは教育にも当てはまるべきではないか。そして、より上を目指そうとすれば切磋琢磨ほど良い環境だろう? 身に覚えがないとは言わさんぞ」

「それはぁ……、身に覚えがないなんてぇ」

「だろう! 競い合うことは悪ではない。何も悪いことはしていない」

「は、はぅ……」


 ダメだ、女神が邪神に負けようとしている。


「競い合うなら賭けをする必要はないでしょうに」

「甘いな。メリットとデメリットのない競争に何の意味がある。得たければ掴み取る。負ければ失う。古より定められたルーカンの文言、けだし名言だ。やるからには身を切れ。やらない敗北主義者は教師は元より生物として失格だ」


 悪辣なまでに毒舌ですね。


「ましてや己の生徒に誇りがあるなら、引くなどという選択肢などないぞ」


 いやいや、まさか。

 そんな煽りで本当に釣られると思っているのでしょうか。


「私ぃ……」


 グッ、と拳を気合を入れるリィティカ先生。

 そうです。邪神の奸計を打ち破るのです。


「負けたりしませんっ!」


 あれぇ? おかしいな。


「それでこそ戦う女性だ。教師と書いて『ファイター』と読む!」


 肉体派すぎます。


「ヘグマントは」

「もちろん、俺の生徒どもが負けるはずがなかろう」

「面白そうなイベントですな。私も参加させていただきましょうかの」

「よい反応だ。ところで無反応は強制参加だぞ」


 ということで気絶しているアレフレットも参加です。


 この人たち、ちょーノリノリです。


「もちろん、ヨシュアン。貴様は強制参加だ」

「……一応、聞いておきます。理由はともかくワケをお願いします」


 もはや自分の言葉も定かではありませんでした。


「ヨシュアンだからに決まっているだろう」


 意味がわかりません。

 が、参加は確実のようです。


「ルールは簡単だ。生徒たちにポイントの効率的な取得方法の授与の禁止。アドバイスまでは良い。何故なら、アドバイスこそが我々に出来る最大の武器だからだ。生徒たちに最適かつ効率の良い教育を施すことでポイントの取得を促す。それのみが我々に許された法! 生徒に手を貸すな? 違反者は教育者の前にルールも守れんクソ虫と知れ。わかったな」


 これは……、厄介なことになりましたね。

 前もってクリスティーナ君とマッフル君の暴走を止めておかなかったのが最大の痛手です。


 というか、何、自分はやる気になっているのでしょう。わかりません。


 でも、勝負事で挑まれてしまった以上、相手を倒すことしか考えられないのは自覚してるんですよ。えぇ。

 自覚してるけれど直りません。


 これはもう、突っ走るしかないでしょう。


 あぁ、せめて選択肢くらい欲しかった。


 いつか同じことを考えたような気がしますが、心の安静のために考えないでおきましょう。

 この半月もまた、大変なことになりそうです。


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