Way of life of the parent what is the best teaching materials for children .
早朝、自分は陽がまだ昇り切る前に出勤しました。
何故なら通常出勤時間では準備が間に合いません。
保護者が見学するに当たって、見学席を設ける必要があったからです。
見学のために保護者を長時間立ちっぱなしにするわけにもいきません。
一時間そこらならともかく二時間、それも最初から最後まで見学する以上、長椅子の一つや二つくらい用意すべきでしょう。
ちなみに用意すべき場所は見学予定地の室内運動場と儀式場、教養実習室、錬成実験室。教室はシャルティアクラスとアレフレットクラスです。
長椅子は棟梁さんたちが用意してくれたので、後は食事に料理人たちがどんなトンデモ――いえ、変な創作料理にチャレンジしないように念押しし、そして何よりも一番、最初にしておかなければならないことがありました。
「失礼します」
医務室で眠るシャルティア先生に会いに行くことです。
まだ暗い医務室を術式ランプの火で灯し、シャルティア先生の寝台に近づきました。
すぐに機嫌悪そうなシャルティア先生と目が合ったので、どうやら扉の音で起きたのかもしれません。
「体の調子は……、よろしくないみたいですね」
喉の調子が良くないのか何度か口をパクパクとさせていましたが、諦めに似た吐息を吐きました。
「喋れないのなら無理に話さなくても大丈夫ですよ」
『こんな朝から女性の寝台に来て、どうするつもりだ』と目が語っていました。
いえ、朝駆けとかそういうのじゃないですよ?
あと口だけでなく目も雄弁ですよね、本当に。
「こんなことを言うのはアレなんですが、今日は無理をしてもらおうかと」
義務教育計画は失敗しやすい計画です。
試練に失敗すれば当然、失敗です。生徒たちに犠牲が出れば失敗です。例えその二つを成功させたとしても多くの貴族から反対が出れば頓挫します。
そして、成功したとしても社会システムに不具合を発生させるかもしれず、効果は必ず生まれるとしても何時、芽吹くかわからない等と言った不確実性、そして、新しい知識層と社会の間で摩擦が生まれ、武力を使用した革命に至る危険性もあります。
もちろん多くの利点のある計画なのですが、反対するだけの理由や意味があります。
こちらの都合では成功させたいところなんですがね。
「少しでも楽になるものを用意してきました」
ポケットから小瓶を取り出して、シャルティア先生の枕元に置きました。
『毒か』
毒じゃないですよ? 同僚に一服盛ってどうするつもりですか。
珍しく薬を飲むのを戸惑っているところに中々新鮮です。
『……お前が持ってきたものだからな』
自分への不信が原因でした。
すみませんでした、今まで色々無茶して隠し事とかしてしまって。
「ん~、見たことのない薬ね」
「飲まないでくださいよ?」
後ろからにょっと腕が伸び、薬瓶を掲げて眺めていたのは女医さん(36)でした。
一応、入った時から気配を感じていたので別段、驚きはしません。
「内容物は?」
「これを」
昨日、ポルルン・ポッカの森から帰ってきた後、エドと会うために【貴賓館】を訪ねました。
夜にエドのところに行くのは非常によくない気配がしていたのですが、背に腹は変えられませんでした。
結局、シャルティア先生のための薬を作ってもらい、その時に薬の効能と使用薬剤を書いたメモももらっていました。
そのメモを女医さん(36)に渡すとさっと中身を見て、顎に手を乗せました。
「へぇ……、霊桃果まで使っているなんてすごいわね。この薬だけで同じ重さの金と交換できるわよ。もらってもいいのかしら」
「霊桃果ですか?」
「ポルフィルという霊木になる果実のことね。まぁ、ポルフィルの実でも通用するわよ。希少な果実でね、これで作られる薬は病人をたちまち癒し、傷を回復させ、健常者には何日も眠らないでも大丈夫な体力をつけるというわ」
意外と医療関係者には有名な果実なんですね、アレ。
認知度が高すぎて顔が引きつりそうです。
「必ずシャルティア先生に飲ませてから学園の備品として扱ってくれるのなら所有してもらってもいいですよ。もちろん、使用判断もお任せします」
「ちゃっかりしているわね。おまけに言い訳まで用意しておくだなんて気が利くじゃない」
学園の備品扱いなら貴族が見ても勝手に持って行ったりしないからとエドの発案でした。
理屈としては王領と同じですね。
学園の備品は全て王の所有物という扱いにして、勝手に持って行った者を強く罰するようにすれば好き勝手はできないでしょう。
ティルレッタ君の父親のような貴族だけではなく、別の貴族も来ている以上、警戒は必要です。
「薬の配分は女医さん(36)にお任せします。それでシャルティア先生……」
『言わんでもいい』と語る目に少しだけ心苦しさがあります。
今日だけでいい、という言葉はあえて言いませんでした。
それはシャルティア先生を侮辱しているのと同じ意味です。
シャルティア先生も今日の重要性、計画の意味を理解しているのならそう考えてくれています――教師陣の共同意識を信じましょう。
「少し変かもしれませんが、朝の会議までお大事に」
自分が今、できる最大は薬を用意するまでです。
それ以外はどれだけ仕事をこなせるか、にかかりますが現状、グランハザードの手の内が少ししか読めていないのが辛いところです。
せめて生徒たちが親の前で無茶をしでかさないか――それだけです。
それだけだったんですよ?
それが不安の種は会議中に起こりました。
「私の復活だ! 称え敬うが良い!」
シャルティア先生が扉をぶち破る勢いで会議室に現れました。
「シャルティア先生。もう大丈夫で――」
シャルティア先生は心配していただろうリィティカ先生が駆け寄る前に肩を掴み、にっこりと微笑みました。
「大丈夫? ふっ……、当然だ。むしろ何を心配していたんだリィティカ。相変わらずかわいいヤツだな。何かおかしなことでもあったのか?」
シャルティア先生はまるで男性のようにリィティカ先生の頬に指を這わせ、惑わすような瞳と仕草で流し見ていました。
蠱惑的な瞳なのにどうしてでしょう?
女性的な色気は皆無です。
「えっとぉ……、全体的にでしょうかぁ?」
「ほう。全体的におかしいというのなら、それは普遍と変わりない。つまり、問題ないということだな」
これにはリィティカ先生も苦笑いでした。
変な空気をまとったままシャルティア先生は自らの席に着きました。
その威風たるや女王のようでしたがたかが出席した程度でそこまで全力全開な理由がわかりません。
「どうした同僚諸君。鳩が術式を食らったような顔をして。粉微塵にでもなるつもりか? 私の再誕の朝にそんな呆れた顔をしているようではこれから先、生き残れんぞ。何をボサッとしている」
ボサッとしたくもなります。
何せ誰もそのテンションについていけねぇんですよ。
「何しろ我々の相手は憎っくき保護者共だ。愚かしくも教育の本質など毛ほども理解していない蒙昧だ。生徒を教育するだけではなく『これから先』というものに無知すぎる者共に教育の何たるかを教える日だ」
よくよく見るとシャルティア先生の目は微妙に焦点があっていませんでした。
あ、これ間違いなく薬が原因です。マジですんません。
「そこまではいい。改めて教育の本質を教えるだけで良いのだから。白紙は色に染まりやすいのと同じく、父兄が子供の成長を見て、その肌と頭で教育を実感できるだろう。だが――」
突然、演説を開始したシャルティア先生を他所に自分たちは目を合わせました。
小さく頷き返すヘグマントやピットラット先生、少し思案顔で原因を考えているリィティカ先生、皺になった額をもみ始めるアレフレット――それぞれの所作は様々でしたが皆、一様にシャルティア先生の異変を察したようです。
ちなみに学園長はいつも通りです。
この人が動じるはずがありません。
「――教育というものを知っている層は別だ。今まで表に裏に軽く接触してこようとしていた貴族連中はいた。どこぞの四馬鹿が良い例だな。それらは裏を返さずとも情報収集の後、自らの利益になる道を選ぶためのものだ。それすら行わずに先入観で行動するバカは考慮に入れなくともいい。貴族が学園内部に居る。教育というものの価値を知りながら『あえて賛成派に加わらなかった消極的な輩』がもしも賛成派に加わったらどうだ? 今回、父兄のみという選抜された貴族の数名は『情報を喉から欲しい連中』や『自らの派閥』そのものではない。だが、情報を手に入れたことによって手札を得た彼らは主観を交えて秘密の話をするだろう。上役か派閥の者かは知らんが、それぞれは断片的な情報、主観の混じる情報を伝えまわる。そうなると彼らの頭に残りやすい文字はなんだ?」
義務教育計画は失敗しやすい計画ではありますが、裏を返せば成功条件の一つ一つが明確である、ということでもあります。
一つ目は生徒たちが貴族院の試練に打ち勝ち、今から半年後まで無事であること。
これは毎日、教師陣が油断なく生徒たちの安全に気を配り、鍛えていけば必ず達成できるはずです。
どこかの白いののような変化球な試練さえなければ、ですが。
二つ目は賛成派の増加です。
貴族の思想を変化させることで『貴族院の試練に打ち勝っても計画頓挫という可能性』を消し去ります。
この二つの手段が成功して初めて計画は安泰と言えるでしょう。
本来なら二つ目は義務教育計画後、生徒たちが社会に出てから成果を出すことで初めて実用性をアピールできるのですが、グランハザードが父兄を連れてきたことによって直接、影響を与えられます。
これは間違いなくグランハザードの狙いの一つでしょう。
だからこそグランハザードの利益が微妙に読みづらくもあります。
「印象と利益ですね」
「その通りだ!」
素晴らしく滑らかに回る言葉を聞いていると真横から視線を感じました。
「なんです? 演説の途中ですよアレフレット先生」
「お前はあいつに何をしたんだ」
チラリと横目でアレフレットを見ると確信に満ちたジト目がありました。
何故、シャルティア先生がおかしい理由を自分と結びつけたのか甚だ疑問ですね。
「……悪気はなかったんですよ。辛そうだったので状況を鑑みてよく効く薬を」
「すぐにでも適度という言葉を辞書で引いてこい」
「生徒たちの成績簿と採点と来月の教材が終わって、今回の事件が片付いて来月に変な事件さえ起こらなければ必ず」
「それはやらないのと同じだ!」
否定しないところを見るとアレフレットも変な事件が起きると予測しているんですね。
ついでに言うとその変な事件は高確率で想定の抜け穴を通って発生するので、対処しようがありません。
「我々がすべきことは生徒たちがこの半年でどうなったか、それを明確に、わかりやすい形で父兄どもに納得させることだ。後の印象操作は学園長と私が担当しよう。他に何かしたいこと、やりたいこと、付け加えるべき案はあるか?」
「でしたら一つ、印象操作にも繋ぎ易くする案があります」
「ほう、腹案とは相変わらず面白いことを考えるヤツだ。私のものになるか? ん?」
「素面の時に言われたらその気になりそうですね。もしかしたら、という但し書きもつきますが」
「私は常に真面目だぞ」
そのグルグルとよくわからない何かが渦巻いた瞳には何の説得力もないんですよ。
「今回の授業参観で生徒たちの変化に気づいた父兄は色々なことを考えるでしょう。単純に生徒たちを応援する者。逆に生徒たちを使おうとする者や生活の向上に役立てようとする者、自分より良い職についてもらおうとする者、様々でしょう」
中には無理に貴族に売り込もうとする野心家もいるかもしれません。
能力の高さが野心に繋がるケースも想定していないと、バカ王と自分がせっせと各領地の力を削いだというのにまた力を蓄えてしまいます。
理想的な展開はバカ王に仕えるか権力よりも先立って動ける身軽な冒険者になることですが、バカ王直属の部隊は敷居が高すぎますし、生徒に住所不定の不安定な業種を勧めるわけにもいきません。
騎士団あたりがベストでしょうが、今度は文官気質の生徒たちの進路先に困ります。
というか進路に関してはこれが正解というものが見つかりませんでした。
なので完全に各領地に流れる生徒を防ぐことはできません。
同時に将来くらい自由に選ばせてやりたいと考えている自分がいる以上、生徒たちに領地に仕えるなとは言えません。
自分たちにできることは一つです。
「ですが、自分は生徒たち自身のしたいことも大事にしてもらいたいと考えています。父兄と生徒たちとの間で意見も分かれるかもしれません。そこで生徒と父兄、そして教師による三者での面談をするのはどうでしょう?」
親が子供に求めるビジョン。
生徒自身が求めるビジョン。
それぞれはきっと想像の欠けた部分や現実的でないものを含むでしょう。
そうしたビジョンの隙間を埋めるアドバイザーとしての立場です。
「おま――言いたいこともやりたいことも分からなくはないが現状、僕たちは今月の学習要綱を満たせていないんだぞ! そのうえでこの騒ぎだ! 遅れが出ているのにこれ以上、時間を使うつもりか!」
学習要綱が満たせなかったのは自分にも原因があります。
いえ、そもそもがこちらの想定外のことが起こりすぎていた感もありました。
生徒たちの変化も想定しておかなかった自分たちのミスです。
結果、必然的に遅れが出てしまったのもわかります。
「ですが、第二試練が終わった後では遅いとは思いませんか? 目標があるから目的を見据え、今何をすべきかを定め、意思を持って臨んでいくのです。第二試練が終われば残り四か月は短すぎます。やはり時間がどうしても必要です。生徒たちの考える時間と自分たちが考える時間、どちらを優先するか考えるまでもないでしょう」
「わからなくはないが理想だけを言うな! 現実は時間が足りていないんだ! 仮に僕たちが本気で全ての時間を費やして、どこまでできる! どこにそんな余裕がある!」
アレフレットは正論です。
自分だって理想論を言っている自覚があります。
そのために一番、厳しいことを全員に押しつけている自覚もです。
「不測の事態が多かったさ。予測なんてできやしなかった。お前のせいじゃない。できない目標を掲げて無理をするのはいい。だが、実際にお前もそこのバカ女も倒れたということはもう限界なんだ。ここで少し目標を下げたところで誰も責めやしないだろ」
誰かのせいとか誰も責めたりはしないとか、そういうのはどうでもいいんです。
ただリィティカ先生もアレフレットの意見には同意なのか、難しい顔でゆっくりと頷いていました。
心優しいリィティカ先生は倒れたシャルティア先生が心配だったのでしょう。
そのためなら反対に回ることも辞さない覚悟に惚れ惚れしますね。
ですが、自分も生徒たちを考えて言ったことを簡単に撤回するつもりはありません。
「ですが、先のことを考える時間を今の内にほんの少しでも与えてやりたいんですよ。半年間、学び続けたことで生徒たちもそれぞれの長所や短所、得意不得意とすること、性格的に向いていること等、把握してきた頃だと思うんです。自身について鈍感な子だと迷ってしまうかもしれませんが、そんな子には教師が教えられるだけの交流はあったはずです」
「だから、何でもかんでもできるものじゃ――」
「両方だ」
突然のシャルティア先生の一言にアレフレットは気圧されたように言葉を止めました。
いえ、わかりますよ?
あの狂乱した聖剣みたいな目で見られると一瞬、つんのめりますよね。真面目なテンションなのに急に素に戻される瞬間によく似ていて、その次の瞬間くらいに喋りすぎた翌朝みたいな気持ちになるのも痛いくらいよくわかります。
「どちらかしかできないとは言わさんぞ。何でもかんでもできなければ何のための我々だ。時間がないというのならこんな議論そのものが無駄だ。思い出せ、何を第一にすると決めた?」
「生徒を第一に。それと最終目標は計画の成功ですね」
「そんなことはわかってる! 言うだけなら誰だって言える! 具体案を出せって言うんだ! 夢の中の戯言を現実に変えられる素敵な計画のな!」
ふんぞり返って座ったアレフレットはどこか虚勢を張っているように見えました。
一方でシャルティア先生は一端、席を立ちあがり、ファサッと髪を広げました。
その仕草、動き、全てが劇的でしたが意味が分かりません。
「何を勘違いしている。もしかして三者面談で使う時間を授業に割り当てようとか考えていないだろうな」
「授業時間以外にどの時間を使うんだ! 基本僕らはそうしてきた――!」
アレフレットは理解した顔になった瞬間、口の中の苦虫を潰し始めました。
あぁ、なるほど。
自分も少し考え違いをしていました。
何も授業時間を潰す必要はありません。
「放課後があるだろう。それに来ていない父兄もいる。完全に来ていない者は五名ほどか。父兄の合計人数四十五人と生徒より多いが十四組が親類縁者を二、三名、引き連れていることを考えれば、そう時間を取られるわけではないさ」
「……生徒会はどうする」
「己の未来と日銭、どちらを天秤にかけたいか生徒たちに聞いてみるか? 少なくとも私はそんな目先の銭を取るような教育をした覚えはないな」
生徒会は学園内流通にも関係しているのでなくなると困りますが、一日二日動かなくなるくらいでは流通に影響はありません。
話が長引いたとしても二日ほど放課後を使えば三者面談は可能です。
「予定変更の報せこそしなければならないが授業参観後に三者面談を行うと言えばいいだけの話だ。それと三者面談後、親と話し合いたいという生徒もいるだろう。そのために次の参礼日は居留地との行き来を許可したい」
「決まりましたか?」
これに学園長の問に自分とシャルティア先生はいち早く、頷き返しました。
「学習要綱の進みに不安があれど! 何! 体育は訓練密度を増してやれば追いつけるからな! それができるのも体育だからということもあるが生徒どもが己を高めようと今まで努力と研鑽を続けてきた結果だ!」
問題もあった自主訓練ですが確かに積み上げられてきたものです。
『基礎を積み上げてきた結果』が結実し、よりハードな内容になっても耐えられるようになったのです。
いえ、もっと簡単に言える言葉があります。
「何より今、生徒どもの意思を聞きたいのは俺も同感だ。生徒どもが何を見据え、何になりたいかを聞いてみたい!」
生徒たちを信じましょう。
自分たちの無茶な本気に耐えられると、この半年と少しが証明してくれると信じましょう。
「正直ぃ……、わたしは無茶をしてほしくありませぇん」
眉を八の字にして、困ったようにリィティカ先生が口を開きました。
「生徒たちもそうですがぁ、ヨシュアン先生は毎回、倒れているしぃ、シャルティア先生だって病み上がりですぅ」
「時に男は倒れなければならないんですよ」
「毎月、倒れるのはちょっとぉ……」
おかしいですね。軽傷の月もあったんですが?
「女も時には倒れるぞ? 主に押し倒されることもあるが押し倒すこともある」
「それは意味が違いますぅっ!」
どんなコンディションでも適度に下ネタをぶっこんできますね、この女傑。
自分は頬を真っ赤に染めたリィティカ先生の愛らしい姿を見られるので満足ですが。
「それでも生徒たちの意見を聞きたいっていうのはぁ、やっぱりありますぅ。やっぱりどれだけ教師と生徒で繋がれてもぉ、両親の絆には敵わないなんて……、そういう比べるものじゃないってわかってはいますけどぉ」
リィティカ先生の仕事量を考えると安請け合いしたくない、というのもわかっています。
「ただ自分があの子たちのどこに立っているのかなぁ、って知りたいだけなのかもしれませんけどぉ」
無理をさせたくない、しかし、無理をしてでも聞いてみたい、そんな葛藤が見て取れました。
まだ迷っているようで明確な賛成ではありませんが、少なくともどちらも真摯な気持ちからだと水気の多い瞳が語っていました。
「そうですなぁ……、教え子の意思を聞く、という機会は稀ですな。その稀な機会がこうして訪れようとしているとは……、いやはや。まだ教養は余裕がありますので私としては皆様の及びつかない部分を手助けできればと考えておりますな」
ピットラット先生は賛成派のようです。
もうこの時点でアレフレットの意見を聞く必要はなくなったのですが、全員がアレフレットを見ていました。
「僕は反対だぞ。決まった以上はやるが僕は反対したということだけはちゃんと覚えておけよ。自分たちから無茶をしたいと言い出したんだ。それも生徒たちの意見も聞かずにな」
意味なく予防線を張っていますが、アレフレットの性格からするとアレは己への発破かけも含まれていますね。
それでいて何かあったら言い訳に使おうと考えているので相変わらず微妙にこすっからいですね。
「では決まりましたね。授業参観後は個別に三者面談を開始してください。私も生徒たちの行く末には興味がありますので、簡単でいいので彼らの進路先とその理由だけを書類にまとめて提出してください。個別で問題があるようなら相談は随時受け付けますよ。もちろん、同僚内で意見を出し合うことも忘れずに」
濃い朝の会議を終わらせた後、自分たちは学園初の授業参観のために動き出しました。
幸い、自分のクラスは父兄が三名で済みますが、楽な分だけ他の教師にフォローに入れるように色々と気を配っていきましょう。
「……あ」
準備中、ふと思い出し、顔を上げてしまいました。
そういえばヴィリーに授業参観の件、伝えていませんね。
まぁ、無理矢理、参加させたら無駄口だけで済むでしょう。




