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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第五章
302/374

俺たちゃ木の中で暮らしてんだよ

 材木集めや調査隊の協力と忙しい今日ですが、一つ一つ、片付けていかねばなりません。


 というわけで午後になり、昼食を胃袋にかきこんでまでやってきた場所は何故か怒号が鳴り止まない『ふんどし小屋』でした。別名、大工たちの巣です。


 この家はいつもふんどしが干してありますね。

 何か歴史の裏で陰惨で鬱々と続いている民間呪術の類なんでしょうか?

 用事さえなければ絶対に近寄りません。


 もっとも小屋というには少し大きいかもしれません。リスリアでは珍しい四角い箱のような形はまさにアパートと言うべきでしょう。


 不穏な空気漂う扉をノックしても誰にも気づかれないので、強く殴りつけました。

 それでも気づかれないので、もう扉を開けました。


 礼儀のない行動ですが気づかないのなら仕方ありません。

 何せ、こっちも時間が足りません。


「失礼します」

「今すぐ森を丸裸にしてやんぜぇ!!」


 そういって巨大なノコギリを持ったモヒカンが扉から飛び出してきました。

 あまりの驚きにえぐるように殴りつけてしまいました。


 モヒカンがぶっ飛び、頭を机にぶつけて気絶しました。

 その瞬間、こちらを叩く視線の数々。思ったより広い室内にモヒカンたちがひしめいていました。

 総数は十名、いくら広いとはいえ、これだけの人数がいると手狭に見えます。


「てめぇは……、そうか。わかったぞ! とうとう殴りこみにきやがったな!」

「材木はなぁ! 生きてんだよー! じっくり乾かしてやんねーといけねーんだよー!  じゃねーと割れちゃうだろーがー! 出せって言われてなー出せるもんじゃねーんだよー!」

「祈れ! そして願え! 俺たちゃ木の中で暮らしてんだよ! 材木を見よ! それこそが愛なんだ! なのに愛のない要求に従えるかー!」


 唐突に叫びだすモヒカンたち。

 蛮族も裸足で逃げ出す迫力があります。

 いえ、正しく蛮族化しています。

 言っている意味がわからないところなんてそっくりですね。


「待てぃ!!」


 ジリジリと圧迫してくるモヒカンたちをどうしてやろうかと考えていると、階上からモヒカンたちの叫びよりも大きく渋い声が響きました。

 とたんに静かになるモヒカンたち。


 直線状の階段から勿体付けるように現れる白いズボン。

 エナメル質の靴が床についた瞬間、目立つアフロは間違いなく棟梁さんです。

 完全に姿を現すとモヒカンたちから爆発する、喝采の声が鳴り響きます。


 この訳のわからないノリはもう季節のない風物詩か何かだと考えています。

 両手を広げて腰をくねらせるポーズで一回転すると、モヒカンたちは再び口を閉じました。


「先月ぶりです。棟梁さん」

「先生よぅ。無い袖は振れないもんだぜ」


 無い袖、というともちろん材木のことです。

 棟梁さんは言葉が足りないくらい一直線に話を進めてくれるので妙な駆け引きをしないで済みますね。


「その件ですが、どうにかなりませんか?」

「材木置き場のナマだけだ」


 ナマ――生材というのはまだ乾燥しきっていない木材のことです。


 建物に使われる木は基本、乾燥された木材――天乾材を使います。

 そうしないと生木は乾燥すると変形します。それが家屋の歪みや倒壊に繋がります。


 素人考えですが、短期間の使用だけなら生木でも十分だと思います。

 もちろん、危険性がまったくないかと言われると頷けません。

 さて、これは目の前に専門家がいるので聞いてみましょう。


「数日の間ならどうでしょう? 生木でも耐えられると思うのですが」

「先生よ。俺にハンパなシゴトをやれってのか……、流石にそいつぁ、聞き捨てならねぇな」

「いえ、質問しているだけです」

「なんと言われようが俺の目が黒いウチにナマは使わせねぇ」


 あぁ、これはダメですね。

 自分も職人だからわかりますが、こだわりは曲げられません。


 三ヶ月前の青空教室の時に自分も同じことをしようとしました。

 気持ちがわかってしまう以上、説得は無意味でしょう。


 なので無理にやらせると二度と依頼を受けてくれないでしょう。


「逆に俺から先生に言いたいことがある。毎日、毎日、オシメの取れていないガキがウチに怒鳴りこんでくる――材木狩りなんて呼ばれてるな」

「できればその子たちの特徴を教えてください。きっちり更生させますので」


 文化祭に全力なのは結構ですが、関係ない人に迷惑をかけるんじゃありません。


「巻き毛の金髪と将来、いい肉付きをしそうなワンパクがよく来るぜ」

「あぁ、もうわかりました」


 クリスティーナ君とフリド君ですね。

 エリエス君が材木狩りの件を話した時は反応すらしませんでしたね。

 だんだん表情を隠すのがうまくなってきているじゃないですか。オシオキですね。


 フリド君はヘグマント経由で怒ってもらいましょう。

 どちらにしてもオシオキは確定です。


 しかし、どうしたものでしょうね。

 材木狩りの件はオシオキで片がつくとしても、根本的な解決にはいたりません。

 あの子たちは無駄に諦めの悪い子たちです。


 材木があれば、材木狩りなんていうアバンギャルドな賊は現れなくなるでしょう。


 問題は天乾材を作るのに時間がかかることです。術式で乾かせるのならそうしていますが、専門の施工術式ですから自分は知りません……?


「棟梁さん。生木を乾かす術式師はいないんですか?」


 木材専用の、人工的に生木を乾かす術式師がいたはずです。

 棟梁さんくらいの腕を持つ大工さんなら、そうした人材も確保しているでしょう。


 術式師が作る木材は人乾材と呼ばれ、主に安い家屋の建材に使われます。

 天乾材に比べ人乾材は色合いが悪いとか割れが酷いとかで、価値が下がるのが珠に傷です。しかし、学園側からすれば問題になりません。

 安ければ経費削減にも繋がりますし、木目を見せるわけでもないので人乾材でも十分なはずです。


「……モヒカンがイヤだと言って、荷物まとめて逃げちまった」

「それは納得の理由ですね」

「元女房だ」


 てっきりモヒカンになるのがイヤかと思ったら『モヒカンたちの存在そのもの』がイヤだったわけですか。

 奥さんもさぞお辛かったでしょうに。


「次はモヒカンを愛せる女性を妻にしてあげてください。で、術陣さえ見せてもらえれば再現できますよ」

「そうか。おい」


 棟梁さんが指を鳴らすと何名かのモヒカンが慌ただしく二階に上がっていきました。


「アレが残した羊皮紙がある。もしもやってくれるなら、材木は格安で譲ってやろう」

「そうしてもらえると自分も予算の番人に怒られずに済みます」


 再び棟梁さんが指を鳴らすと、モヒカンたちはイスを引いてお茶を出してきました。

 全員、暑苦しいスマイルということは客扱いしてくれるみたいですね。


「見つかるまで少し待ってもらうぜ……」


 そう言って上半身裸になって対面に座りました。

 だから、何故に貴方はそう脱ぎたがるんですか。


「前に見た時と靴が違うな」


 突然、言われ、つい足元を見ました。

 生徒たちも気づいていませんでしたが、自分は今、【かむやまびこ】を履いています。

 いちいち靴を変えるのも面倒でしたからね。

 朝から【かむやまびこ】を履いて動き回っていました。


 正直、いつもの靴よりこっちの方がかなり動きやすいんですよね。


「えぇ。夕方には調査隊の居る遺跡に赴く予定です」

「カチコミ用ってわけか」


 鋭いのか思考が明後日の方向なのか、どちらにしても正解でした。


「いいえ。別に何か起こるというわけではありません。ただ、まぁ、魔獣の出たところですから」


 当たり障りのない返答に棟梁さんは鋭い目をしていました。


「そうか……」


 しかし、それ以上は深く聞いてきませんでした。


「もう一つ、お願いがあるのですが聞いてもらえますか」

「いいぜぇ……、言ってみな」

「演劇のための大道具を作っているのですが、お手伝いをしてもらっても良いですか?」

「そいつぁ構わないが、いいのか?」

「えぇ。ただし『リリーナ君が手伝いを頼まない』限りは手を出さないようにしてもらう形ですが」


 リリーナ君は必死で大道具を作るでしょう。

 当然、手が足りません。

 そうなるとどうすればいいか考えるはずです。


 『大人が手伝ってはいけない』というルールはありませんし、ここに考えが至るかどうかが問題ですね。

 無事、問題を解くことができれば言うことはありません。


 ですが、もしもやる気がなくて問題が解けなかった場合です。

 そうなれば文化祭当日に大道具は間に合いません。


 間に合わないだけならまだしも、演劇すらも失敗するようなことがあればリリーナ君は辛い想いをするでしょう。


 そこで最悪の事態を想定して、棟梁さんにも手伝ってもらえるように頼みました。


 リリーナ君が仲間と話し合ってヒントをもらっているのなら、必ずマッフル君がこの抜け道に気づきます。

 そうなれば棟梁さんの助けは無駄にならないでしょう。


「一番はリリーナ君がなんとかして仲間と一緒に大道具を作り終えることなんでしょうが……」


 何もかもうまくいくとは思っていません。

 だからこそ、助けとなる縁をつなげておくに越したことはありません。


「それとは別に今日、少しだけ人員を借りられないでしょうか。大道具を途中まで作っておくと生徒と約束してしまったので、可能な限り仕上げてやりたいのです。もちろん、ちゃんとした依頼です」


 エリエス君から借りてきた設計図を見せると棟梁さんはすぐさま、どこからともなく取り出した三角定規で手直しに入りました。


「素人の遊びに手を出すつもりはねぇ。先生の男気に触発されただけさ」


 その結果、勝手に図面を改造するんですか。

 プロから見れば穴だらけなんでしょうが少し思うところがあります。


「このまま作ると自重で前に倒れるぜ」


 この一言で考えを改めました。

 棟梁さんの見立ては正確です。それはシャワー室の一件でも明らかでしょう。

 なら言うとおり、本当に倒れる危険性があるのでしょう。


 『生徒たちの身の安全』と『生徒たちの自主性』、どちらも大事ですが今回も両方を選べそうにありませんでした。


「ただの――忙しすぎた、というのは言い訳ですね。その気後れというか罪滅ぼしみたいなものですよ」


 あっという間に設計図を手直しし終えるとすっと立ち上がり、何故か彼方を見上げた棟梁さん。

 同時に二階からドタバタとモヒカンたちが降りてきました。


「ありやしたぜ! 兄貴!」


 棟梁さん経由で渡された羊皮紙を広げると焼印のような形で陣が刻まれていました。


「知ってると思うが他で使うような真似はよしてくれ」

「施工術式の類の取り扱いに関しては、一通りさらっていますので問題ありませんよ。それに自分も職人です。しかし、自分が提案したのに言うのも難ですが、本当にこんなに簡単に教えてもらっていいんですか?」


 職人の協会では協会員でもない人間に施工術式の構成陣を見せてはいけないという掟があります。

 ですが、実際に技術として存在するものを流出しているかどうかなんて実際にその技術を使って稼ぎでもしない限り、誰にも発覚しません。

 ちなみにベルベールさんはこの『誰にも』に当てはまりません。


 罰則は教えた者の管理責任まで問われるので、棟梁さんのことを考えるのなら使う場所は選ぶべきでしょう。


 世間様ではそんな不確かな、それこそ片一方の信頼だけで成り立つような物事は信用とは言えません。

 しかし、自分と棟梁さんの間には人には言い表しづらい、ある種の信頼関係が成り立っています。


 お互い、職人であること。


 お互いがお互い、自分の仕事に自信を持っていますからね。

 その自信がそっくりそのまま信頼の役割を果たします。


 もしかしたら棟梁さんは一度、自分がシャワー室を作っているので、その辺の経歴を買ってくれているのかもしれません。

 『この男も何かを作る者だ』という意識は持ってもらっていると思います。


 これらの全てが事実だったとしても、協会の掟に逆らってまで、というのは少し弱い気がします。


「野暮なことは聞きなさんな。男が落ちるぜ」


 棟梁さんの胸元からはダンディズムが溢れていましたが、自分は一気に聞く気を失いました。


 どっちにしろ自分は棟梁さんの前以外で木乾術式を使う気はありませんし、使うのならオリジナルのものに陣構成を変えてから使います。


「では早速、いきましょうか」


 立ち上がり、部屋から出ようとして、ふと扉の前に気配がありました。

 自分たちが出てくるとわかって急いで逃げる音もします。


 さては材木狩りと称する困った生徒ですね。


 ちょうどいいので棟梁さんたちに謝らせましょう。

 何がいけなかったか説明する必要はなさそうですし、オシオキするだけの簡単な仕事です。


「リオ・ラム・ペイル」


 玄関をあけて足を一歩、踏み出した瞬間、地面を這うように走る霜の道。

 それは正確に逃げていく背中を追っていき、犯人の足を凍てつかせました。


 逃走犯は両手を放り投げて、そのまま顔から地面に倒れこみました。


 しかし、捕まえたのはいいのですが、その姿をハッキリ見た瞬間、自分は棟梁さんに断って一人で家から出ました。


「で、何故、盗み聞きをしているんですか」

「言わせんでくんなましぃ……」


 犯人はリューミンでした。

 材木狩りより困った人に遭遇してしまいました。


 リューミンはプルプルと震えながら顔を両手で覆い、痛みを堪え、やがて必死で地面から足を剥がそうとして、反動ですっ転び始めました。

 この人、何がしたいんでしょうね。


 リューミンがいるのなら八傑衆もいると思って周囲を索敵しましたが、気配は感じられません。

 となるとリューミン単品ですか。珍しいですね。


「それでも気になるから聞きんすぇ。食客に聞くのは無粋でありんすが……」


 そして、急にもじもじし始めました。

 その割には目線は大工さんたちの居る家に向かってまっすぐで、心無しか顔が真っ赤なのは何故でしょう。


「あの方はいらっしゃいんしたか?」

「あの方というのは大工さんの誰かのことでしょうが、具体的な名前を言ってもらわないと困ります」

「……息をするように意地悪な人でありんすぇ」


 わりと本気で聞いたんですがジト目で見られました。


「こ、【苔斑こけまだら】みたいな髪型をした――」

「棟梁さんなら元気ですよ。呼んできましょうか? しかし、わざわざ盗み聞きする必要もないでしょうに。話があるのなら堂々と入ってくれば良かったものを」

「な、なんという天然な悪意でありんす……、化生の類でも言んせんことを平然と言い放ちんすぇ」


 何故か非常に恐ろしいものを見るような目で見られました。


「先生よ――もういいかい?」


 待ちくたびれたのか、勝手に現れた棟梁さんを見た瞬間、リューミンは全力のダッシュで逃げ出しました。

 もちろん、拘束術式で縛りました。誰が逃がしますか。


「用事があるのなら逃げる必要はありませんよ。当人は目の前です。さぁ、思い切って色々とぶちまけましょう。主に思いの丈を」


 リューミンは口をパクパクしていましたが、取り合うつもりはありません。


「棟梁さん。どうやらリューミンは話があるようですので、自分は材木置き場に向かわせてもらいます。それまでにはある程度、終わらせておきますので、ごゆっくり」


 棟梁さんはまるで当たり前だ、という顔で頷いていたのですが、実はあまりわかっていないでしょうね。

 対するリューミンはとうとう全身、真っ赤になって戸惑っているようでした。


 しかし、リューミンが棟梁さんに好意を抱いているとは思いもしませんでした。

 出会いに関しては別に考えるまでもないでしょう。


 【宿泊施設】の住人はなんだかんだで結束が固いですからね。

 遺跡事件での捜索も結束を深めるのに一役買った節があります。

 ましてやリューミンも棟梁さんも職人、職種が違ってもこだわりと腕を持つ一流です。


 リューミンが棟梁さんのどこを見て、何を好きになったかですが、そこまで考える必要はありません。

 興味はありますが、材木を乾かすのと天秤に賭けるとやはり、材木に傾きます。


 さて、材木置き場に関しては何一つ、特別なところはありません。


 樹皮を剥ぎ、均一のサイズで統一された材木が半分。丸太のまま転がっているのが半分と言った感じです。

 乾かすはずなのに野ざらしなのは、適度に濡らした方が逆に乾きやすいからでしょうね。


 しかし、術式を使ったからと言って本当に人乾材を作れるのでしょうか?

 通常、天乾材は半年から一年の乾燥期間を置くらしいのです。

 らしい、というのは建築士の故人が言っていたのを思い出しただけです。


「とりあえず一つ、やってみましょうか」


 丸太に手を置き、術式を使うと円筒状の陣が丸太を包みます。

 目に見える形で変化はありませんが、大丈夫でしょうか?

 やがて、パキパキ、と小さな音がし始めました。


 何事かと思って観察してみると、丸太の切り口にヒビが入っていました。

 年輪の中心がパックリと開いています。


 あのパキパキという音は丸太が乾燥して縮み、圧力に負けて割れた音だったのでしょう。


 まずいと思って、一度、術式を中断しました。

 しかし、当然というか割れたものは元には戻りませんでした。


「なるほど。かなり奥が深いですね」


 一度、使ってみた感想から色々と理解しました。


 この木乾術式は基本形なんですね。

 その日の気温や材木の様子から微細な調整を施して乾燥させていくのでしょう。


 間違いなくレギィとエド向きの仕事です。

 ですが、自分でもできないわけではありません。

 いえ、なんかもううまく仕上げないと気が済まなくなりました。


 今日は曇天、肌が少ししっとりするような湿気があります。

 雨が降る様子は見られず、『眼』を開けば青の源素が普段より多く見えます。


 表面に水気があるせいか、内部の水気との『濃さと薄さ』が圧力の差異を生み、割れが起きたとしたらどうでしょう。

 割れるだけではなく、成功していても歪んでいたと思います。ダメですね。


 表面は強く、内部に浸透する源素は弱く、設定し直します。


 しかし、また丸太は割れてしまいました。


「……上等だ」


 これはもう意地です。

 圧力が原因で割れるというのなら、いっそのこと先に割ってやろうではありませんか。

 丸太に切れこみを入れてから乾燥させると、うまいこと乾いてくれました。

 これには思わずガッツポーズでした。


「……背割りか」


 声がしたので振り向いたら棟梁さんが両手を広げて立っていました。

 前から疑問だったんですが、なんです、そのポーズ?


「あまりウチではやらない方法だぜ。先生がやりたいなら止めはしないがな」

「理由をお聞きしても?」

「もったいないだろ」


 簡潔な答えすぎて反論もできません。

 あと大げさに頭を倒して右手を額に、左手で天を指すポーズがよくわかりません。


「……いつから見ていました?」

「ついさっき来たばかりさ」


 あえて自分は追及しませんでした。

 棟梁さんもあえて言わないつもりでしょう。


 少し、熱中しすぎましたね。

 気配探りすら忘れるなんて、職人としての人格が強くなりすぎました。


「ところでずいぶん早かったようですがリューミンはどうしました?」

「眠っちまったから木陰に添えておいたさ。花と一緒にな」


 それは世間一般的にどういう扱いなんでしょう? 死人に花を添えてるのとそう変わらないような気がします。


「花恥ずかしい人だ」

「小恥ずかしい人だと思っていましたよ」


 棟梁さんの、リューミンへの印象は悪くないみたいですね。

 あの変な性格も恋をすると変わるもんなんですね。


「心配するな。部下に面倒を見させている」

「まぁ、アレで結構、食材探しに旅をしているそうなので気にしませんよ。それで乾材ですが、こんなものでどうでしょう? あまりやったことがないので出来の善し悪しまではわかりません」

「家には使えねぇが、乗るわけでも住むわけでもねぇのなら十分さ」


 意外と評価は辛辣でした。


 それが逆に火をつけるとは自分でも思いもしませんでした。


「今から職人の技術を再現できるとは思っていません。ならば――」


 もっと別の、【戦略級】術式師からのアプローチならどうでしょう?

 『眼』を開いたまま、材木を観察します。

 圧倒的に緑の源素が多い材木ですが、青の源素もまばらに含まれています。


 これだと、どの部分に水分が多いかわかりません。

 『眼』の出力をあげ、さらに微細な源素の変化も観察します。


 青の源素の濃淡に対応した木乾術式を走らせ、さらに直接的な源素の操作も加えます。

 あえて赤の源素を直接、材木の中に放りこむ荒業です。


 赤の源素との同居を嫌った青の源素が、ざわざわと動き出します。

 それも木乾術式によって強制的に追い出されます。


 完成したのは割れも歪みもない材木でした。


 棟梁さんに見せると、小さく「ほう……」と頷きました。

 どうやら合格点をもらえたようです。


「この調子で乾燥させていきますから、切っていってください」


 棟梁さんが指を鳴らすとどこからともなく、モヒカンたちが斧や鉋を持って現れました。


「いくぜ! 先生の依頼だ! きっちり耳を揃えて作ってやろうじゃないか!」


 棟梁さんの号令によってモヒカンたちが吠えました。

 いつの間にか持ってきていた設計図を元に部品単位を想定して丸太を材木に変えていきます。


「……いえ、別に全部、作らなくてもいいんですよ?」


 生徒たちのためにもなりませんし、と言う前にモヒカンたちが作業を始めたので、自分の言葉は宙に消えました。


 それから自分は棟梁さんの指示されるがままに人乾材を作り続けました。

 これで材木狩りが消えてくれるのなら言うことはないんですがね。


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