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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第五章
293/374

裁定神パルミアに誓え!

 翌日の放課後、学園長に決闘しにいくと伝え学び舎を出ました。


 シャルティア先生とヘグマントがついてきたのは純粋に両者の立会いが必要だからでしょう。


 ヘグマントは『敵地に仲間を一人で置くわけにはいかない』と考えているかもしれません。

 実際は同盟国の駐屯地ですが、今は敵地と変わりありません。

 少なくとも調査隊内部にいる一派はれっきとした敵です。


「決闘を調査隊の駐屯地で行って良かったのかね?」


 学園の正面門を抜けたところでヘグマントが口を開きました。

 腰にある大剣は護身だけではなく、最悪を想定したものでしょう。


「えぇ。学園内で行えばどうしても生徒たちの目に付きます。今回は少し周囲に被害が出る恐れがありますし、生徒を人質に取られたら面倒ですしね」


 すでに教師陣には法国の内情を一部、説明しています。

 調査隊の中にアルファスリン君の立場を貶めようとする一派が紛れこんでいる、その程度の情報で十分でしょう。


「ふむ……、法国内部の派閥争いか。どの国も程度の差こそあれ、あるか」

「だが、今回の件はあまりに酷すぎる」

「手口がかね?」

「考え方だ。考えてもみろ、クリスティーナの件はガルージン一派も考えていなかった脚本だったかもしれないが、どのような手口であっても四聖団の評価を落とすことになったろう。特に調査隊への不信感に繋がれば三国協定そのものを壊しかねんぞ。三国協定は三国共に利益があるから制定された。そこで法国だけが協定に参加できなければ魔獣被害の代償を自国だけで支払わなければならない。誰が考えたか知らないが法国そのものを危険に晒すやり口だ。間違いなく今回の件でガルージンの氏族は法国内で地位を落とすだろうが、そんなことをわざわざ……ん?」


 シャルティア先生は自身の顎を指先で触れました。


「ヨシュアン。今回の一派、正体は掴めているな。吐け」


 インガルズさんと応接間で会話した内容を聞かれたわけではなく、ただそこまで問い詰めているだろうと信頼の上での問われ方でした。


「そこでどうして自分に聞くか疑問ですね」

「問い詰めて欲しいのか? この卑しん坊め」


 口ほど目つきは優しくありませんでした。


「……反モモ・クローミ派です。理由は一年半前に行われた帝国の第何次かわからない侵略戦争のせいでしょうね。出る杭が打たれたわけです」

「英雄が何故、国に貶められなければならん!」


 若干、声が大きいのはヘグマントなりの憤りなのでしょう。

 ヘグマントは軍の考えに染まっていますから、その発想と憤りはわかります。


「愚問だぞヘグマント。英雄の使い方は大きく二つだ。英霊として祭り上げるか、姫を娶って一件落着、だ。モモ・クローミなら王子に貰ってもらうのだろうが、あいにく法国に王子はいない。そうなると、政治能力があれば後継者の補佐候補、なければ軍務の片隅に置かれる、ぐらいか。野放しにはできんのなら飼い殺しだ」


 それか自分のように複数の顔を持って『裏でこき使われる』か、でしょうね。


 しかし、アルファスリン君曰く、モモ・クローミは今も一国民として暮らしているらしいのです。

 周囲が牽制し合った結果の平和でしょうか?

 案外、もっと単純な結果かもしれませんが別段、知りたいとは思いません。


「うむ。内紛の英雄たちも重用されたのだから、あながち間違いではないのだろうが。しかし、見ない者はどうなったのだろうな。死んでもらいたくはないものだ」

「もしかしたら、どこかで畑違いの仕事でもやってるかもしれませんよ?」

「そうであれば面白い話だな! あるいは救われる話かもしれん!」


 当の本人は最初は憤っていましたがね?

 今ではすっかり教職が板についてしまいました。


「ある意味、幸せな末路だな。だが、モモ・クローミか。大体、読めてきたぞ。今回の件」

「ご教授願っても?」

「犯人は残りの王女のどちらかだ。あるいはその周囲か。それは少し考えればわかる。結局、どの形であれ最終的な判断は王女が下しただろう。王女が何を意図したか、この部分が肝だ。アルファスリン姫とモモ・クローミの分断もそうだろうが、もう一つ、狙いがある」


 駐屯地まであと少し、というところでシャルティア先生が足を止めました。

 自分とヘグマントもつられて止まりました。


「氏族の地位を貶めることだ」

「ガルージンのですか?」

「いや、ガルージンの氏族を含めた各氏族の『モモ・クローミ取り込み』を防ぐためだろう」


 ようやく合点がいきました。

 表の目的は姫とモモ・クローミの分断。裏の目的は王女を擁護する氏族のうるさい声を排除することだったのでしょう。


 モモ・クローミの勢力が強すぎることが今回の原因なら、どこかの氏族が表立って彼女の擁護に回ることも牽制したのでしょう。

 特に動きが激しい氏族を選抜し、その氏族の手先を唆し、調査隊に放りこんだわけです。


 ガルージンが目立ったのは偶然でしょうね。

 忠誠心が暴走しやすいタイプだったのは供述からもわかっています。


 本来は学園側の住人にちょっかいかけるだけで済む話だったのが予想外に転がってこの有様です。


「そうなるとガルージンの氏族は見せしめですか」


 もともとガルージンの氏族はモモ・クローミ排斥か取り込みを狙っていたのでしょう。

 それを危惧した王女がリスリアを利用した、というわけですか。


 面倒事は他所でやってもらいたいものです。


「帝国に何度もちょっかいをかけられているからな。法国側にも根強いヒト種への不満もあるのだろう。王国も関係ないとは言い切れない。ガルージンの暴走はそこを計算しきれなかったのだろうな」

「所詮は他国と侮りもあったのでしょう。ですが、それは今回の件で思い知ってもらいます」

「殺すなよ。面倒になる」


 死ぬほうが救われる。そういうやり方もあります。


「つまり生かさず殺さずだな!」

「足の一本でも折っておけ。それで済む話だ」

「うむ! 捕虜の足を斬るのはどこでもやることだな!」


 それは嫌すぎます。


 せめて拷問官を用意したいところですが青銅位は拷問官も担当しているらしいので、ちょうどいいでしょう。どちらにしてもタダで済ますつもりはありません。

 アルファスリン君から受けたストレスも含めて、きっちりお返ししましょう。


 再び歩き出した自分たちを待ち構えていたのは『あるはずもない広場』でした。


 リーングラードまでの道のりは見ての通り山道です。

 予算の関係上、道が作れなかったこともあって学園内以外はほとんど手付かずです。


 なのにどうしてでしょうか。

 山道を少し横にズレただけの場所に、まるで何年もかけて広げたような場所があるのは。

 森の中にポッカリと空間ができているんですよね。


 これが『森に道を広げる』といった法国独自の技術ですか。

 まさか広場まで作れるとは思っていませんでしたが、考えてみればできなくもないのでしょう。

 少なくとも技術の延長線にある結果です。


 そして、広間の隅にはいくつもの布を重ねた天幕が並び、しかし、そのどれもが壁となるはずの布が見当たりません。

 もしかして、法国の住人からするとちょっと暑かったんですかね?


 夜になったらつけられるように作ってあるんでしょうね。

 そう考えれば、そこらに丸めて置かれている布、アレは壁用になるのでしょう。


 自分たちが姿を現した瞬間、叩きつけられる視線、視線、視線。

 好意的なものから、疑惑をもつ目、敵意を孕むものまであります。この統一されていない感じがまた派閥や氏族の思惑を思わせます。


「いい花道だ。私に相応しいと思わないか」

「見た感じは獣道という感じですがね」


 ヴェーア種たちが整列して待つ姿は獣とヒトが交じるような光景でした。


「獣道でも道であるのなら歩くしかあるまいさ」


 シャルティア先生を先頭に、自分とヘグマントは警戒しつつ後を歩きました。

 シャルティア先生に刃を向けることがあれば死者を出すのも厭わないつもりです。


「よくぞ参られた」


 正面で迎えてくれたのはインガルズさんとアンドレアスさんでした。


「決着をつけに来た、というべきか?」

「ある意味では一つの決着となりましょう」


 アンドレアスさんの答えにシャルティア先生は小さく頷きました。


「此度の決闘は両国の和議であり、また同時に我らの罪を濯ぐものだ!」


 インガルズさんが周囲に向けて声を張り上げました。


「どのような結末であれ、その終始、決着に一切の手を出さないと裁定神パルミアに誓え!」


 周囲の兵たちは皆、剣を正面に向け、天に掲げました。


 これは決闘をする者への礼儀であると同時に不義があろうと決して手を出さない、そして、手を出した者は裁かれる覚悟がある、という意味です。


 まぁ、一種の儀式です。

 神を大真面目に信じる法国なら、それなりに拘束力のある儀式なのでしょう。


「こちらの決闘者はヴェーアシャカール氏族がガルージンだ」


 代理による名乗りですか。

 これはルーカンの決闘前の名乗りと同じ効果があり、本人が名乗ったと見なされます。


 両手を鎖で縛られたガルージンが横合いから連れてこられました。

 ガルージンは自分を見つけると獰猛な唸り声を喉から発していました。これは反省していませんね。


 良かった。その反抗的な姿のお陰でお情けを与えずに済みます。

 殊勝な態度であっても手を抜くつもりはありませんがね。


「学園が用意する決闘者はヨシュアンだ」

「双方、死すらも厭わず己が腕を決闘神ルーカンに捧げることを誓うか?」


 途端、ガルージンは大きく腕を動かし、鎖の音を響かせました。


「シャカールの誇りにかけて! ヒト種の喉元を食いちぎってくれる!」


 熱い視線に肩をすくめ、自分は小さく手をあげ、胸に手を置きました。


「ルーカンが食あたりにならないか心配ですね」


 自分の不遜な態度にアンドレアスさんが『何を言っているんだこいつは』という懐疑の視線を向けてきました。

 冗談なので普通に受け取ってもらえると助かります。お願いします。


 一方、インガルズさんはアンドレアスさんと自分の様子を面白そうに眺め、口元を歪めました。


「決闘の前に決まりの確認を行ってもよろしいですか?」

「相手の死を持って勝利することを基本とし、決闘者に戦闘続行の意志がない場合は敗北条件と見倣す」

「それは気絶も含めてですか?」

「相手が気絶した時点で勝者だ。対戦者が敗北を認めた場合もそうだ。この決闘で受けた怪我の治療費はそれぞれの組織が責任を負うものとする」

「そうですか。問題ありません」


 一部を除いて古式ですね。

 おそらくガルージンの所属する一派が古式を要求したと見えます。

 この要求を跳ね除けても良かったのでしょうが、古式の方が今の略式より強い制約を加えられます。


 アンドレアスさんも今回は外交も関わっていることですし、古式でも良いと判断したのでしょう。


「これよりルーカンの決闘を行う! 両者、定められた位置につけ!」


 自分はシャルティア先生とヘグマントを置いて、広間の中央へと歩きました。

 インガルズさんの近くならシャルティア先生の身も安心でしょう。ヘグマントも居ますしね。


 無手でその場に立つことが意外だったのか、周囲がざわめきました。やがて収まったところを見ると拳術家か術式師と思われたのかもしれません。


 大体、十歩くらい向こう側でガルージンは鎖を解かれ、従士らしき同族から奇妙な剣を受け取りました。


 長剣というにはあまりにも幅広すぎ、大剣というには持ち手も刀身も足りません。

 片手での行使を想定した、幅の広い剣ですか……、一つ、思い当たる武器があります。


 鞘から抜き放たれたその剣はまるで竜の尻尾のようでした。


 ブロックを積み上げたような刀身はわずかな隙間が見え、柄頭に垂れ下がる赤と黄色の糸飾りに一際長い二つの鋼線も確認できました。

 間違いありません。

 柳葉刀形状の多節機構剣です。よくあるタイプですね。


 見た感じ、刀身の材質は骨ですね。

 術式具ではない……、と見せかけて内部に鉄を仕込んでいる可能性もあります。


「我が氏族に伝わりし【竜刀・巻舌】。無数の帝国兵を刻んだこの剣で死ねるのだ。光栄に思うがいい!」


 アルファスリン君も大変ですね。

 部下を選ぶこともできないんですから。


 何一つ、反応を返さない自分にガルージンは長い鼻を小さく揺らしました。


「臆したか雑種!」


 それでも無視していると、それ以上は何も言ってきませんでした。

 ただ目に滲む殺意は一切、隠していません。


 その殺意には粘着くような憎しみと絶対に対する狂信の色が見えます。

 しかし、敵意こそあれ『自分に向かって』というにはあまりに憎しみが薄い気がします。


 もしかしたら帝国の兵に何かを奪われたのかもしれませんね。

 大事な友か愛する者か、その哀しみを引きずってヒト種そのものを憎んでいるのなら個人への憎しみが薄いのもよくわかります。


 言ってしまえば彼は自分を通してヒト種そのものに憎しみをぶつけているのでしょう。

 己の氏族と貴種を強く信じることもヒト種への蔑みに変えています。


「戦の神ルーカンの名において両者の健闘を祈る!」


 決闘の文言を高らかに諳んじるインガルズさんの手元から、鋼の硬貨が空に舞いました。

 あれは法国や王国に流通している硬貨ではありませんね。


 落ちてくる硬貨を観察すると見たことのない紋様が刻まれていました。

 決闘専用の硬貨でしょうか?


「死ねぇ! 雑種ぅ!」


 よそ見していた自分に向かってガルージンは剣を振りました。

 接近速度は速く、すでに五歩手前まで近寄っていました。

 ですが、そこからの位置で剣を振るには明らかにタイミングが早すぎ、距離的にも遠すぎます。完全に殺傷範囲外です。

 ですが予測通りなら刀身が伸びてくるでしょう。


 思ったとおり刀身が伸び、自分の首元めがけて剣先が食らいつこうとしました。

 まるで蛇みたいですね。


 切っ先という名の蛇が口を開けて首を切り裂こうとした瞬間、キラキラと輝くものによって阻まれ、大きく弾かれました。


「勘違いをされているようですが」


 【青の獣の鎧】は防御性能が優れた術式です。

 全身甲冑の防御に身軽さ、強襲能力の高い立体機動能力、『あらゆる妨害にも負けずに標的へと確実に接近するため』に作っています。


 馬の速度が加わったヘグマントの木槍を逸らせるのなら、ただ鋭いだけの剣では貫くことすら敵いません。よほどの名剣か術式を込めてないと無理です。


 信じられない顔をした次の瞬間には再び、ガルージンは強い攻撃の意思を目に宿しました。

 性格はともかく、一合から次の有効手段を探れる良い兵のようです。


 次は近づき、【青の獣の鎧】ごと自分を締めつける、でしょうか?


 思ったとおり二歩、前に進み、殺傷範囲の少し外側から剣を振りました。

 ジャラジャラと音を立てて接近してくる刀身部位を一つ、手で掴みました。


「これは決闘ではありません」


 慣性の命じるまま自分に巻きつく剣は、半周する頃にピタリと動きを止めました。

 間髪いれず、距離を詰めてガルージンの鳩尾に靴先をめりこませました。


「―――ッ!」


 ガルージンは大口を開けて呼吸を吐きました。

 その耳元にはきっとメリメリと骨の軋む音が聞こえているでしょう。


 彼が手放した剣は大きなトグロを描いたまま、地面へと落ちていきました。


 他の誰かはどうか知りませんが、少なくとも自分にとって多節機構剣は戦いやすい武器です。

 多節機構剣にとってメリットである柔軟性も凍らせてしまえば、ただの変わった形の置物です。


 こうして氷で刃を保護してしまえばなお良しですね。

 切れ味も意味を持たず、使い勝手の悪い形状だけ残ります。


「ただの【断頭台しょけい】です」


 術式を【赤の獣の鎧】に変更し、苦しみ、喘ぐガルージンの後頭部を掴んで顔面を地面に叩きつけました。

 壊れたように鼻血を出すガルージンに構わず二度ほど繰り返して、ポイッと放り投げました。


 ひしゃげた長い鼻を両手で抑えているガルージンはきっと意識が朦朧としているでしょう。それはいけません。

 意識がはっきりしていないと苦痛を味わえないじゃないですか?


 【獣の鎧】を解いて、ガルージンの両手両足を雷の縄で縛り上げました。


「勝者、ヨシュアン・グ――」

「待ってください」


 勝利を宣言しようとしたアンドレアスさんを軽く手を上げ、止めました。


「たかが鼻が折れ、束縛された程度です」

「戦闘能力を失った時点で決闘は終わりだ」

「いいえ、違いますよ。戦闘能力ではなく、戦闘意思を失った場合だったはずです」


 アンドレアスさんはギョッとして身を乗り出しました。


「明らかに戦闘続行は不可能だ」

「不可能かどうかの判断は自分たちにあります。決闘前に確認したはずです」

「気絶している可能性がある」

「痛みで呻いていますし、まだどうにかしようともがいているようですが」


 指差した先のガルージンは痛みで体を捻ったまま固まっていました。

 頭を揺さぶったので朦朧としているかもしれませんが気絶はしていません。


 インガルズさんへと首を向けるアンドレアスさんは、しかし、インガルズさんのゆっくりと首を振る仕草で諦めに変わりました。


「……決闘の続きを認める」

「ありがとうございます」


 強い憎しみがあるのでしょう。それを支える狂信があるのでしょう。

 総じて言えることは一つです。


「お前の憎しみは薄すぎる」


 種族への憎しみは否定しませんよ。

 大事なものを失った痛みも復讐も肯定しましょう。


 だけど貴種への傾倒? 狂信? なんですかその不純物は。

 そんな程度で憎しみを曇らせるから『今、そうして無様に倒れている』んですよ。


 術式を編み、指を鳴らした瞬間、ガルージンの喉から何語ともつかない悲鳴が垂れ流されました。

 電撃による痛みは気絶などさせません。


「目的の希薄な憎しみだけで突っ走るからそうなる」


 殺傷レベルを理解し、弱い電撃であれば死ぬこともありません。


「本当に誰かが憎いのなら、狂おしいほど殺したい相手がいるのなら――」


 ガルージンは全身を突きさす針のような痛みを、ただただ苦痛を、受け入れるしかありません。


「――苦しめるための手段は厭わない。そうだろ?」


 当然、ありとあらゆるを行使して苦しめるでしょう?

 今のお前にしているように。


「この怒りが理解できるか? この憎しみが理解できるか? できるだろう。お前も同じなんだからな。だから当然、理解しているだろう?」


 ガルージンが口角から泡を吹き、白目を剥いていても喋るのをやめません。


「お前が傷つけようとしたヒト種は『俺』の生徒で、お前が切り捨てようとしたものは『他人の憎しみなど関係ない』という都合のいい理屈でしかない」


 誰かを傷つけたら当然、誰かに憎まれるに決まっています。

 ジグマルドを殺せばレギィに憎まれて当然なのです。


「復讐者は復讐されて然るべきだという理屈を背負えなかった時点でお前は復讐者として二流以下だ」


 もしも憎しみを何かで薄められるのなら、そうすべきでしょう。

 そして、それが正しい憎しみの晴らし方でしょう。


「憎しみの理屈に狂えないのなら、部屋の隅で自決でもしろ」


 しかし、正しさを許容できないのなら、もう他に手段はありません。

 許すことができないのなら、憎しみを果たす以外の道はありません。


 自分は生徒たちを傷つけようとしたコレを許せるでしょうか?


 そこまで考え、情動を止めたのは浮かぶ生徒たちの姿です。


 あぁ、ちくしょう!


 感電するガルージンの顔を掴むと自分にも電流が流れてきました。

 その術式の効果を抗術式力で耐え、頭を持ち上げて膝を強く踏みつけました。


 ゴキリ、と鈍く鳴る音を確認してからぶん投げました。


 ゴロゴロと転がっていくガルージンに、もう電撃の苦痛はないでしょう。

 

「ガルージンは気絶しました。勝利宣言をお願いします」


 それだけ言って、天を仰ぎました。


 どうして、頭を回さなかったのでしょう。

 どうして、考えつかなかったのでしょう。


 ここでガルージンを擁する一派が激昂したら生徒たちにも被害が出るじゃないですか。

 事が自分だけで済まないとどうして忘れていたのでしょう。シャルティア先生に釘を刺されたばかりじゃないですか。


 憎しみの理屈に狂いすぎて、目的を忘れてどうするんですか。

 何度、同じ失敗を繰り返せば気が済むんですか、『俺』は!


 ガルージンが決闘に負けた腹いせに生徒を襲わないように足を折り、それから降伏か気絶で済ませるだけだったでしょうに。

 どうして足を折るだけで我慢しきれなかったのですか。

 電撃は余計だったでしょう?


 まだコトコトと噴き出そうとする憎しみの粘液を抑制法で雁字搦めにして、心の奥底に沈めながら、きっと自分の顔は後悔で歪んでいたでしょう。


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