ある日、家の中、狼さんに出会った
シャワーを浴び終えた自分たちは荷物を纏めて、一緒に帰りました。
教師陣全員で帰るのは何気にこれが初めてでしたが、そんなこと気にならないくらい自分は色々と疲れていました。
「ヨシュアン先生、また悩みかね? 悩める男は辛いだろうが、気にしても始まらんぞ」
カルチャーショックも過ぎれば頭が痛くなると初めて知りました。
頭を片手で抱えた自分を心配したヘグマントの優しさが非常に腹立たしいです。
いえ、ヘグマントは悪くありません。
「むしろ殺める男のように見えるがな。つい勢いで殺ってしまったことに悔恨している様だ」
「人を勝手に容疑者にしないでください」
悪いのは何時だって世間です。
あと腐る程、殺っちゃってますよ内紛で。
「しかし、しばらくは入浴してから帰ることになるな。まだ夏だから良いが、冬までになんとかしないと風邪を引いてしまう」
チラリと見られてもどうにもできませんよ。
社宅のお風呂は来月です。これは決定事項ですからね。リィティカ先生からの御神託もありましたし。
「来月まで我慢してください。人の手が足りません」
「口惜しい限りだ」
自分もちょっと思っていたことをシャルティア先生が言いました。
学園から社宅は歩いていける距離ですが、それなりに歩きますからね。
大した距離でもないのですが寒空の下なら湯冷めすると思います。
社宅広場でそれぞれの社宅に入りましたが、すぐにアレフレットは出てきました。
約束通り、夕飯を奢らなければなりませんからね。
「本当に生徒が作った料理は大丈夫なんだな? 僕の胃は繊細なんだぞ」
「大丈夫ですよ。死にはしません」
「死ぬようなものをまた食わせるつもりか!」
なんのことでしょうか? アレフレットにそんなものを食べさせた記憶はありません。
もしかしたら二ヶ月くらい前の謎の鍋のことを言っているのかもしれませんが覚えていませんね。
「家庭的な味だと思うので期待してください」
「その割にどうして扉を開くのにそこまで腰が引けてるんだ」
またボヤがあったら怖いじゃないですか。
あの時、驚きで呼吸できず煙を吸いこまなくて良かったのですが、今回はなれていますからね。危険です。
ゆっくりドアを開けても煙も臭いもありません。
これは大丈夫のようです。
「おかえりなさい! ヨシュアン先生……と、アレフレット先生?」
台所を拭いていたマウリィ君がすぐに振り向いて笑顔を見せた後、首を傾げました。
エリエス君は食卓に座って本を読んでいました。
モフモフはいつも通りソファーの前でライオン座り……、もしかしてその場所、気に入ってますか?
「ただいま帰りました。少し遅れてしまいましたね。で、仕事の関係でアレフレット先生もご一緒することになりました。あと、そろそろ門限ですが先生の名前で君たちの門限は今日限り解除しておきましたので、安心していいですよ」
「やった。ほら、エリエスさん、言った通りでしょ」
「知ってた」
「えー! 言ってよぉ……、もぅ」
エリエス君はもう少し説明するようにしてください。
マウリィ君からすれば門限破りになるかどうかで、ちょっとやきもきしたかもしれないんですよ。
疑問に思った時や授業中に当てるとちゃんと喋るのに、普段となるとやっぱり無口ですね。
一方、アレフレットはいつものように眉間に皺を寄せていました。
「お前は本当に生徒に甘い……、いや、甘いんじゃないな」
「甘くないですよー。授業中によそ見していたらゲンコツが飛んできますし」
「いや、そういう話じゃない。なんだ……、いや、後で言う」
生徒に聞かれたらまずい話ですかね?
「今日のご飯はなんですか? 先生もいい加減、お腹が減りましたよ」
「やだー。先生、子供みたいなことを言うんですねー」
ものっそい上機嫌なマウリィ君でした。
『ご飯……』
モフモフもご飯という言葉に反応して、のっそりと立ち上がりました。
これに過激な反応をしたのはアレフレットでした。
「な――なんで狼がいるんだ! しっ! しっ!」
モフモフを遠ざけようと必死で手を振るアレフレット。
あ、そういえばアレフレットはモフモフと初対面でしたね。
モフモフは穏やかな瞳でアレフレットを眺めていましたが、興味がないのか大人しくアレフレットの前を通って、専用の木皿の前に座りました。
「なんで狼なんて飼ってるんだ! 狼ってのはな、家畜や人を襲う獰猛な生物なんだぞ! 生徒と狼を一緒の部屋に置くなんてお前は何を考えているんだ! 噛まれて怪我をしたらどうする! いや最悪、死ぬことだって」
「アレフレット先生。この狼は最近、居候しているモフモフです。モフモフ、こちらは同僚のアレフレット先生です」
「紹介して欲しいんじゃない! というか言ってわかるかぁー! さっさと外に連れていけ! 危ないだろう!」
「気のせいですよ」
「気のせいなわけあるか!」
「アレフレット先生。狼くらいで緊張しないでください。まったく……、エリエス君。ちょっと言ってあげてください。モフモフのこと」
エリエス君の瞳がアレフレットに向けられました。
その瞳は『大丈夫』と語っていましたが、アレフレットには伝わりませんからね。
「モフモフはモフモフです」
「意味がわからん!」
絶好調なアレフレットには全然、通用しませんね。
「アレフレット先生。モフモフは大人しいモフモフなんですよ。ちゃんと言うことも聞きますし、ヨシュアン先生が躾しています」
埒があかないと思ってマウリィ君も援護に入りましたね。
「さも当たり前のようにモフモフという生物を作るんじゃない! こちらの意図を察してくれ! これは狼だ! というかなんだその名前? 名前か? 名前をつけるにしてももうちょっとマシな――」
とりあえずテンションの上がりすぎが目立つアレフレットの腹部を殴っておきました。
何より、それ以上、言わせるつもりはありません。
フィヨの文句は自分に言いなさい。殴り倒してあげますから。
「いくらアレフレット先生でもモフモフの名前をバカにすることは許しませんよ。モフモフは大事な人がつけた名前です」
「……ぐ、わけがわからない」
ぐったりと膝をついたアレフレットは放置して、自分は荷物を置いて食卓に着きました。
「で、どうしたんですか? エリエス君」
エリエス君がさっきからずっと自分を見てきます。
その瞳の文字は……、なんでしょう? 今回はわかりませんね。
「大事な人?」
その質問に自分はどう答えていいか迷いました。
言っても詮のない話で、生徒たちには関係のない話です。
何よりも生徒に背負わせてしまうかもしれない。話すことで自分を取り巻く過去に巻きこんでしまうのではないか、そう思うと迂闊に語れませんでした。
「わん!」
突然、モフモフが吠え、悶えているアレフレット以外がモフモフを見ました。
もっともアレフレットもアレフレットで体がビクつきましたが大した話ではありません。
モフモフ……、自分が答えづらいと理解して、吠えたんですか?
わざわざ注目するようなことをしたんですね。
その気遣いに頭を撫でてやりました。
「モフモフも待ちかねているようですし、夕飯にしましょう」
エリエス君は瞳で『不満』を訴えていましたが、曖昧な顔しかできませんでした。
夕飯はシチューとパン、サラダの簡素なものでした。
途中、アレフレットが復活し、席に座ると神への祈りを行い、シチューを吟味するように飲みました。
「……まずまずだな」
若干、マウリィ君の笑みが引き攣り、エリエス君が『殺』をいう文字を瞳に浮かべました。
「食材の保管がちゃんとなってないだろ。新鮮味がない。調味料の幅が偏っている。小麦も少し質が悪いな。つまり、お前のせいだぞヨシュアン・グラム」
さいですか。自炊ですから台所の調味料は使いやすいものしか置いていませんよ。
「料理の腕は悪くないが、素材の状態を見てからの調理法を変えるなどの手法を取らないからこうなる。あるものの素材でできる範囲、できるものを作った。それはいい。ただ、まだ料理の選択幅が狭いからシチュー一択になったな」
これにはマウリィ君が驚きました。
どうやら当たっていたようです。
「まるで美食家みたいなことを言いますね」
「食も美術も同じだ。良いものを食べる、見ることで腕に繋がる。そこのところは【大食堂】で勉強になる。マウリィ。少しでも腕を磨きたいと思うのなら【大食堂】のメニューは一通り食してみるといい」
「はぁ……、善処します」
「そして、この野菜の切り方はまだ拙いな。エリエスか。お前は味が云々よりももっと基礎を積め。あまり凝ったことはせず切り方から順に学んでいけ。野菜には線がある。その線を痛めるような切り方は素材を悪くするぞ」
「……はい」
意外と的確な指示でした。
自分はこうハッキリと料理の指導をしたことがありませんね。
料理は独学だったせいで、教えるほどでもなかったというのもあります。
むしろマウリィ君のように女性が教えた方がいいと思っていましたしね。
「それとヨシュアン・グラム」
「なんでしょう?」
「本当に料理を教えてやりたいのならちゃんとしたものを用意してやれ。これだと一向に為にならな――」
言い切られる前に口の中にサラダを詰めてあげました。
「食事の時はもっと和やかで、豊かで、自由でなければなりません。料理の授業なら別の機会でお願いします」
「――おま、えは! 人の口にサラダを突っ込むような自由は無法というんだ!」
サラダを噛みながら喋らないでくださいね。
「マウリィ君。ピットラット先生は凄腕料理人ですから、レシピが欲しかったらピットラット先生に頼むといいですよ」
「そういう発想のない教え方をするな……、何が創造だ。お前の国がどう教えているか見えてきそうだな、まったく!」
六訓を知らないエリエス君とマウリィ君は『創造』の部分で不思議な顔をしましたが、すぐに気にならなくなったようですね。
そして、ここまで文句だらけのアレフレットでしたが、それでもちゃんと残さずに全部、平らげていました。
生徒のためでもあったのでしょうが、それ以外にも理由がありました。
【十年地獄】を味わった人間に食材を無駄にするという選択肢はありません。
出されたものを必ず食べなければ、次はいつになるかわからない。
そんな経験から平民に近いほどご飯を残しません。
アレフレットの故郷はリスリア西南部の片田舎でした。
そこは特別な場所もなければ交易行路からも外れている財源の少ない場所でした。目立った特産品もないことから貧乏だったようですね。
税を払ったら慎ましく生きる。そんな生活だったのでしょう。
当然、税の余剰分で食べているアレフレットの生家も贅沢なんて出来ませんでした。
下手をすると王都の商人のほうが良い暮らしでした。
特に【十年地獄】の時なんて、平民よりマシだった程度じゃないかと思っています。
自分がどうしてアレフレット相手に嫌悪感を抱けなかったのか。
打てば響く性格にからかうと面白かったのもあります。
貴族らしからぬ行動もあったのだと思います。
貴族とは名ばかりの家。
そんな家で育ち、領主の兄の代わりに戦争に赴いた彼を自分は嫌えなかったのでしょう。
シャルティア先生と同じ、貴族嫌いが出なかった理由ですね。
食事が終わり、次はエリエス君の『眼』の調子を確かめる時が来ました。
普段の訓練を真面目にやっていれば必ず『眼』は使いこなせているはずです。
マウリィ君に食器洗いを任せて、自分とエリエス君は向かい合わせに座りました。
「ではエリエス君。メガネを取って、ゆっくりでいいですから『眼』に集中してください。黄色の源素が集まったと思ったら手を上げてください」
エリエス君がメガネを取ったのを見計らって、指先に黄色の源素を集中させました。
すぐさま手をあげるエリエス君。
散らし、集めるを繰り返す度に手を上げるエリエス君を見ているとそういう玩具のように見えてきます。
「『眼』の修行ももう少し効率のいい方法があればな」
アレフレットも愚痴りながら付き合わなくていいんですよ?
今、アレフレットも『眼』を開いてエリエス君を見ていました。
瞳の部分の内源素が変わるのを確認しているんでしょうね。そういうのは自分がやっていましたが、もしかして一般的には二人でやるものですか?
知らなかったとは言えないので気づかなかったことにしましょう。
「無理矢理、開ける方法ならありますよ」
「何? そんな方法があるのか?」
「失敗すると失明した上、心を源理世界に食われますが」
「……それは効率とは言わない。邪法だ、邪法」
自分の『眼』はその邪法で開けましたからね。
こうして地味で時間はかかりますが安全に修行できるのなら、それが一番、いいのでしょう。
少なくとも開けなければならない、みたいな状況がないだけマシですから。
「お前、そういえば六色見えると言っていたな。信じてなかったがまさか邪法で」
「開けましたよ」
アレフレットが立ち上がろうと腰をあげました。
「お前……」
「必要でしたから」
苦虫を噛み潰したまま、アレフレットは座り直しました。
言葉短かな返答から何かを感じて、諦めたのでしょう。
「くれぐれもこいつの真似はするなよエリエス。悪い見本だ」
「教える気はないので大丈夫ですよ」
エリエス君? 今、ちょっと聞こうとして小さな唇を動かしましたね。
絶対に教えませんからね?
「ふん。力というものはな、正しく習得し、正しく使われるべきなんだ。僕たちが基礎を詰め込むのもそのためだ。正しく培われた力と意思、目的があって初めて正しいと言えるんだ。邪法が邪法と呼ばれるのは正しくないやり方だってことを忘れるな」
「……はい」
別にエリエス君に言ったわけではなかったのでしょうが、エリエス君は頷きました。
その意見には賛成ですが、正攻法では倒せない相手を倒そうと思うのなら自分みたいに肉体改造や強制開眼などを試みなければなりませんよ。
もっともオススメは絶対にしませんがね。
それに王道を往くのは一人で十分です。
王道……、そういえば誰かが言っていましたね。
【十年地獄】を【王化戦争】と。
結局、賢王ことバカ王が制した形になるんでしょうかね。
バカバカしくて今まで忘れていました。
「おい。いつまで集めている気だ」
気づいたら活性化寸前まで集めていました。
すぐに黄の源素を散らして、何もなかったアピールしておきました。
「では『眼』を閉じてください。エリエス君」
一度、瞼を閉じたエリエス君の瞳はもう普通の色でした。
視力がおかしくなっていないか指の本数を当てさせて終了です。
「十分、『眼』が定着しているようですね。これならメガネはもう要らないでしょう」
「嫌です」
エリエス君はメガネに触れて、拒絶の気配を撒き散らしていました。何故に?
「いえ、取りあげたりしませんよ。メガネはエリエス君にあげたものですから」
そういうと拒絶の気配はなくなりました。
気に入ったんでしょうかね、メガネ。最近のチャームポイントですからね。
「『眼』は好きな時に好きなように使いなさい。特に制限はしません。ただ『眼』の使用は目に負担をかけます。あまり使い過ぎないように気をつけなさい」
「わかりました」
『眼』に関するちょっとしたデメリットを注意してから、マウリィ君が食器を洗い終わったのを見計らって、自分はそろそろ終わりを口にしました。
「エリエス君とマウリィ君、二人ともごちそうさまでした。正直、助かりましたよ。本当ならもう少しゆっくりしてもらってもいいんですが、これからアレフレット先生と話し合いがありましてね。モフモフが送ってくれるので夜道は気をつけてくださいね」
「いや、待て。お前の言っていることはおかしい。この狼に送らせる? そんなバカなことが――」
アレフレットの言葉を聞き終わる前にモフモフが立ち上がり、玄関に座り、じっとエリエス君を見ていました。
その様子にアレフレットも言葉をなくしてしまったようです。
「モフモフ、よろしくね」
マウリィ君がモフモフを撫でくりまわし、エリエス君も小さく額を撫でてあげてます。
自分は玄関からエリエス君とマウリィ君を見送りました。
アレフレットはまだ唖然としていました。しつこいですね。
「……あの狼はなんなんだ」
「さぁ? モフモフでしょう」
正直、モフモフを理解しようとした時点で負けですから。
ありのままを受け入れるのが一番です。
その点、生徒たちはモフモフが賢いとわかるとすぐに受け入れましたね。
物事を受け入れ、吸収する速さは子供には勝てませんね。
「狼ですが賢いですよ。人との暮らし、いえ、人を理解しようとしてくれているのでしょう。森に生きる価値観と違うはずなのに合わせてくれています」
「まるで話したことがあるみたいな口ぶりだな」
これに自分は肩をすくめました。
実際、喋っているとは言えませんから。
「そういえば毛の長い狼なんて見たことがないな。狼で間違いないはずだが、しかし……」
「森の奥に住んでいるらしいですね」
「確か伝承で神狼が毛の長い種だと……、いや、まさかな」
知識人は時々、こうしたところから真実を見つけようとするから恐ろしいですね。
その知識人を増やそうとしている教師が言うことではないでしょうが。
仕切り直すようにアレフレットはテーブルの向かい側のイスに座りました。
どうやら話し合いに入るようです。
自分も香茶をカップに入れて、アレフレットの前に置きました。
「まず、僕が聞きたいのはどうして『敵』だと思ったかだ」
「自分も聞きたいことがあります」
例え話でありながら、すぐに適切な本に導いた部分です。
それに前から知っていたような発言もしていました。
その謎をどうにかしない限り、協力を仰げません。
「……あの話の続きか。個人的な話になるぞ」
「構いません」
アレフレットは二度ほど瞬きをした後、それを隠すように目を閉じました。
そして、腕を組むと背もたれに体重を預けました。
「僕の故郷は田舎だ。特産品もなければ有名な何かもない。上税額は少なくていいがほとんどの民が農民ばかりだ。暮らしぶりはそう豊かでもない。こんな格好も王都で司書になるまでしたことがなかった」
教師用制服は下手すると貴族の衣服に近い金額ですからね。
術式具のせいでかなり高額になりましたが、布地だけでも結構な値段です。
通常、平民が着るような衣服とは金額が十倍近く違いますからね。
「挙句、近領のヤツらは交易行路に乗っているからといちいち調子に乗って『牛乗り領主』だの『名ばかり領主』だの言いたい放題だぞ」
恨み言が漏れてますよ。抑えてください。
「領主なら持っているはずの騎竜がないから、ですか」
「馬で十分だろ! 大体、牛に乗れるわけないだろ! 牛車じゃあるまいし!」
いえ、乗った子がいます。
ウチで異様な存在感を持つ不思議生物のことですけどね。
躊躇もなくヤグーを乗りこなせていました。
「騎竜は確かに……、まぁ、格好いいが」
本音が出ましたね。
えぇ、騎竜は馬に比べるとなんというか男心をくすぐるというか、竜に乗る、という憧れを代理で解消してくれるものでもあります。
「僕たちはそれでも良かった。どうせ見下したいだけだろう、そう思っていた。父も貴族の誇りは勝ち誇るだけではないと言っていた。僕はそう聞かされ育ったからな。当然、勉強や薫陶を授かるために他領に赴くことだってあったさ」
マトモなお父さんで良かったですね。
きっと裕福になれる要素が少なかったから傲慢になれなかったんでしょうね。
もしもアレフレットの父親がクソ貴族だったのなら。
自分はきっと殺していたでしょう。人間関係がこれ以上、こじれなくて良かったと心の底から思いましたよ。
「さっき、他領に出たと言ったな。長男でなかったから出来たことで、見聞も広めることができた。むしろ良かったとさえ思っている。だが良いだけではなかったんだ。自領の噂話もこの耳で聞くことができた」
ようやく本題ですか。
そうですね、確かに無意味に見下したりする貴族はいます。
だから資産で劣るアレフレットをいじめたくなるでしょう。
ですが、同時に相手が無視できない存在だからこそ見下すのです。
本当に取るに足らない相手なら貴族は適当にあしらいます。
彼らも暇……、無駄は多いですが暇でもないですしね。
「あいつらが僕たちを見下していた理由は見下したいからじゃなかった」
だんだん表情が固くなっていくアレフレット。
その表情は努めて心を隠しているように見えます。
「僕たち自身、いや、領民に問題があったんだ」




