お出かけ前に一授業
空を往く、不思議な帯状の何か。
ひらひらと鳥のように舞い、風のままに飛ぶもの。
アレは専門用語で【プルマリクルット環】、俗語では【空魚】というものです。
心持ちプルマ・リクルットで区切ると読みやすい名前ですね。
赤の源素が活性化する夏では、温暖された空気の影響で緑や青の源素が上空に逃げてしまいます。
本来なら分散したままの源素が一時的とはいえ密集すると、ちょっと不思議なことが起こります。
偶発的に繋がった源素が術式の陣を描き、効果を持って【現理世界】に現れてしまうのです。
箱の中に術式具の部品を入れて、大きく振っているうちに完成してしまうような、そんな偶然が生み出した自然の術式。
バタフライエフェクトというかカオス理論的な何かですね。
その紋様や陣にどんな意味があるのか自分にはわかりませんし、ある意味、【神話級】みたいなものです。
上空にあるので無害ですし、見ている分なら幻想的で素敵な光景なのでしょう。
もっとも、これをずっと見慣れている自分たちにとっては幻想的でもなんでもない、ありふれた夏の風物詩です。
「夏も、本格的ですね」
朝起きて、窓を開き、風の匂いと【空魚】を見て夏を感じて、それから階下へと向かいます。
今日は参礼日。
定められた休日ですが、空気を読まない試練官のせいで正午から予定が入ってしまいました。
最近、参礼日に働いていること、多くないですかね?
少し前は術式具の講座を行い、そのあとは帝国に突貫した後処理に費やしたりして、まともに休んでいる感じがしません。
生徒たちは呑気に休んでいても、教師は働き詰めとは。
学生時代には想像もしてなかったですね。
当たり前のように先生も休んでいると思っていたのは、この苦労を知らなかったゆえでしょう。
何せ、考えることはどっさり、山のようにあります。
【貴族院の試練】、生徒たちの教育方針、試練に向けた調整。
『義務教育計画』を妨害しようとしてくるアレコレ。
厄介事が含まれてしまった性教育について等々、頭を悩ますものばかりです。
……ちょーっと普通の教師じゃないんじゃないかと思わなくもないです、ハイ。
他にも早急に仕上げなければならないものが一つあります。
「室温を下げる術式具……、ねぇ? 確か似たものを最近、作った気が」
大まかな概要、回路を頭に浮かべながら、自分は朝食の準備に勤しみます。
【宿泊施設】のパン屋さんから買ってきた大麦パン……、これが硬くて仕方がありません。
しかも、見た目より意外と重い。ずっしりきます。
本当に食べ物かどうかを疑いました。
リーングラードだと小麦の生産領から輸入するのが大変ですから、必然、小麦パンは高価です。
あくまで比較すると高いというだけであって、小麦自体は天候に左右される水物です。
干ばつなどの影響が出ない限り、即時に価格に影響が出たりはしないと思います。
ちょうど今頃は麦の収穫時期ですから、今年の影響よりも去年の影響のほうが色濃いのです。
リーングラードのパンと言えば、小麦と大麦の混ぜ物か、ライ麦と小麦の混ぜ物のどちらかです。
いつもは混ぜ物を買うのですが、すこし試してみたいことがあり、大麦だけのパンを購入しておきました。
前もって購入意思を店に伝え、社宅に運んでもらえるように話をつけていると小僧が朝と夕方に食材を持ってきてくれるので、地味に便利ですね。
小僧が帰る時に明日の食材を伝えておくと、次の日に反映されるわけです。
「あぁ、思い出しました」
一応、大麦から作られている以上、食べられるでしょう。
もう一回、温めればある程度、柔らかくもなりますがそれでも硬いですね。
スープにつけても硬いまま。
ずっと漬けていれば、最後には柔らかくなりますけれど、待ち時間は辛いですね。
漬けて食べるを繰り返すと最後にはスープが冷めてしまいます。
なのでここは、二つの方法を同時にやってみましょう。
「ヤグーの小屋を換気するための術式具だ」
大麦パンの食べ方を考えながら、同時に思い出しました。
そういえば作りました。
すでに牧場主さんにも贈っています。
結果はまずまずでしたが、室温はかなり下がったと思います。
まずまずだった理由は室温が均一にならなかったこと。
ヤグーの対暑能力の低さでしたね。
多少はマシなので、牧場主さんは特に不満はないと言ってくれました。
何事も十全にはいかない、ということでしょう。
「アレを改造して、空調に気を使えば……」
だんだん、頭の中で術式具の形が出来上がってきました。
それでも朝食の準備の手を止めたりしません。
朝のスープはコンソメスープです。
鶏の肋骨を肉がついたまま買い取ったものを、井戸の水で流しながら血糊やら汚れを落とします。
時々、この作業をしていると朝から何をやっているのだろうと悲しい気持ちになりますが、耐えていきます。
洗った肋骨にヒビを入れるくらい叩き、一度、お湯に放りこみ、すぐに回収です。
一度、湯に通すことで灰汁や臭み、流水で落としきれなかった脂肪を落とすわけです。
それから鍋に張った水に放りこみ、竃に置いて煮ていきます。
もちろん、鍋は鉄鉱石採取の授業に使った 鍛 鉄 製! です。男のロマンですね。
蓋をしたら、すぐに野菜を切っていきましょう。
沸騰すると灰汁が出ますし、沸騰前までに用意するのがベストです。
沸騰したら出汁に乱雑に切った野菜をバサバサと放りこみます。
なお、出汁と野菜が3:7に見えるように煮込むのがマイジャスティスです。
さて、ここからは根気の作業です。
浮いてくる灰汁を丁寧に取りつつ、今回の肝である大麦パンに移行します。
包丁ではかなりの力を入れなければ切れない大麦パンも、
「リューム・テクトセン」
格子状に編まれたカマイタチの前では無力ですね。
ポイントはまな板まで切らないように出力を調整することです。
さらにアレンジとして、あまり範囲を広くしないように、まな板のサイズからハミ出ないことです。
土木建築などによく使われる術式も、繊細な作業の多い料理にはあまり向かないようで、あまり料理に術式を使う人はいません。
もっと大雑把な、南部のケバブのような料理だと使われるのでしょうが、二つの理由で倦厭されています。
一つは術式の発動やアレンジを呼吸するように行える一般人がいないことです。
アレンジでできる範囲は広いですが、それでも制限があります。
フロウ・プリムを使っても水を出せないのと同じ理由ですね。
属性と特性以上のアレンジを加えても無意味で、不発に終わるのです。
もう一つは……、と、ここで誰かが自分の社宅に向かって歩いてきているのを感じました。
「狭い歩幅に、気配殺しもできない未熟な感じはセロ君かエリエス君ですかね?」
ですが、ここはエリエス君でしょう。
理由は簡単。一直線に、迷いなく歩いているからです。
教師陣の住む施設にセロ君が足を踏み入れたら、おっかなびっくりですからね。
どこにいても一定の感情とパフォーマンスを保てるエリエス君は、実は理想的な術式師像でもあります。
そんなエリエス君が参礼日に何の用でしょうか?
しかも朝っぱらからです。
「……良い予感がしませんね」
しかし、調理の手を止めるほどでもありません。
サイコロ状に切った大麦パンを木皿に盛って、次は目玉焼きの準備に入りましょうか。
鶏がらと一緒に購入しておいた卵三つ。
ゆで卵にして置こうかと思いましたが、ここで三つ、全部使ってしまいましょう。
使っていないもう一つの竃に術式で火を入れて、フライパンに油を引きます。
この油は鶏油です。
文字通り、鶏から取れる油脂ですね。
皮をフライパンなんかでジワジワと温めて、最後に玉ねぎやら塩と一緒に煮込んでから濾して自家用にしたものです。
結構、色んなものに使うのですが、油の宿命というか酸化しやすいので自分は油壺の中にローズマリーを乾燥させたものを放りこんでいます。
酸化防止剤代わりですね。
ローズマリーは森で見つけたら必ずいくつか摘んでいきます。
乾燥させれば日持ちもしますし、ミルで砕いて粉にすれば調味料にもなります。
卵を割って、フライパンに落としこみ、水を少量加えて蓋をします。
灰汁取りと並行して、砕いた岩塩をミルに入れたところでエリエス君が到着したようです。
ドア前の気配が動いたのでノックをするつもりなのでしょう。
「ドアは開いてますよ。入りなさい」
ジュージューと卵の焼ける音に負けないくらいの声量で、ドア向こうのエリエス君に答えてあげました。
「失礼します」
案の定、ドアを開けたのはエリエス君でした。
何か用事があるのでしょうがエリエス君が切り出すまで待つ必要もありませんね。
「朝食はまだですか? エリエス君」
「朝食はとりません」
リスリアでは朝食を摂る派と摂らない派の数は、摂らない派に傾きます。
朝食を摂らない派は昼食と夕食を多く食べ、摂る派は三食を少なめに摂ります。
ちょうどよく焼けた目玉焼きに塩をまぶし、味付けをしたあと、皿にのせます。
コンソメスープも良い具合でしょう。
こっちも味見しながら塩で味つけしていきます。
「なら、ちょうど良かった。食事にしましょうか。二人いるのに一人で食事を摂ると味気ないですからね」
こういう時、エリエス君は是も非も意見しません。
ずっとこちらを観察しているような目だけを向けます。
「知っていますか? 人間は寝ている時、思うより力を使うということを。朝食を摂るのは寝て消耗した体の力を補給するために行うのです」
「睡眠は休息のためです」
「休息するのにも体力がいるのです。飢えていれば睡眠は浅くなり、深い休息を取れない体になります。休息しているようでしていないのです。君たちは成長期ですから、健やかな成長のためにも是非、三食を摂って欲しいところですね」
しかし、これはただのわがままです。
摂らない派の人が二食しか食べない主な理由は金銭です。つまり収入ですね。
食事の用意もマメで大変な作業ですから、回数を減らすことで手間と消費を減らしているのです。
「金銭的な理由で摂らない、というのなら仕方ありませんが、今日だけでも一緒に食べましょう」
「……はい」
こうして、こちらからアプローチするとすぐに是非が返ってきます。
エリエス君は場合によっては、セロ君よりも情動面に不安な部分がありますね。
情動が薄い。
これに尽きます。
感情の起伏の激しいメルサラが高出力の術式を得意とするように感情の浮き沈みや幅は術式にとって必要な力になります。
しかし、感情の起伏が薄いと高出力が必要とされる上級以上の術式に耐えられません。
逆に起伏がなければ、その分、制御しやすいという面もあります。
どちらが良い、というわけではなく、自分の情動と向き合い、もっとも理に適った術式を構築することが肝心なのです。
一度、試練までに全生徒の術式適性を調べたほうがいいかもしれません。
そこまでやる必要があるか、という話だったのですが学園長の態度が気になります。
万全を期すためにも、少し不安材料になりそうなものは消しておきましょう。
「あと少しで用意できますよ」
特に返事はしなかったですが、エリエス君は黙ってイスに座りました。
もっと愛想を振りまいてほしいですね。
エリエス君の分の食器にスープと目玉焼きを置き、中央にサイコロ大麦パンを配置します。
主食が惣菜のような扱いなのは少しだけ違和感がありますが、まぁ、致し方ありません。
「ではエリエス君。いただきましょう」
「……はい」
なんとなく物侘しい食前の挨拶でした。
もっともエリエス君はこの光景を味気ないとも思わないでしょう。
自分は神を信じていませんし、エリエス君も食前の祈りをしないところから無神者か、あるいは都合良く神に祈る系なのでしょう。
多くの神が信じられている世間様では、まぁ、よくある話です。
ヒュティパが国教であっても、末端ではルーカン、南部ではパルクトーが信じられていますからね。
多神教の宿命というか、統一されていないというか。
その様式もそれぞれです。
なので、食前に祈ろうが騒ごうか気にしません。
「朝食の必要性は他にもあります。まずは体の整調のため。次に成長のため。そして、最後は咀嚼するためです」
「咀嚼」
「噛むことですね。噛むという行為、ごはんを体にいれようとする仕組みによって頭を働かせて眠気を拭き取る作用があります」
眠たいときに弾力のあるものを何度も咀嚼していると、だんだん眠気が取れてきます。
寝ていると栄養の吸収がうまくいきませんし、胃袋もちゃんと働いてくれません。
体が栄養を取ろうとする姿勢を取ると必然、眠気が晴れるように体は作られているのです。
まぁ、あまりにも眠たい場合は噛みながら寝てしまうこともありますね。
この場合は栄養分よりも睡眠による体の安息を求めているので、必ず効果があるわけでもありません。
朝一だと効果が高いというだけです。
「リリーナが眠たそうなときに、口に何かを放りこめば実証できますか?」
「さぁ? さすがにリリーナ君の睡眠サイクルがどうなっているのか知らないのでなんとも言えませんが、間違いなく目が覚めると思いますよ?」
体の仕組みというよりも、驚いて目を覚ますと思います。
それにしてもこのコンソメスープはわりとうまくいきましたね。
魚があれば良かったのですが、そうそう全ての食材が手に入るわけでもありません。
問題は大麦パンです。
一つ、フォークで突き刺してスープにつけてみました。
小さく切ったのは水分との接水面積を広げるためで、一口サイズにしたのは特に意味はありません。
もっと細かく、フレーク状にしてやったらどうでしょうか?
「うん。ものすごい勢いで大麦の味がしますね」
コンソメスープと合うのかと思いきや、そんなことはありませんでした。
フレーク状にした場合、名状し難いコンソメ風味のお粥みたいになるんじゃないでしょうか?
良かった、フレークみたいにバラバラにしてしまわなくて。
この、大きめのサイコロ状が一番、いい感じだったようです。
もちろん、もう大麦パンを買うことはありませんがね。
どうにも自分の口には合わない感じです。
大麦パンにはがっかりです。見損ないました。
「口に合いますか?」
この際、エリエス君にも訪ねてみましょう。
感想、気になりますよね? 食事を作ってあげたりしたら。
黒猫にゃんにゃん隊のノノなんか、両手を叩いて大喜びしてくれたものです。
『マジうめーッス! ちょーうめぇッス! いやぁ、ヨッシー、めっちゃ良い奥さんになれるッスよ!』と褒め囃してきたのでゲンコツを落としてやった去年が懐かしいですね。
去年の今頃はこんなことになるなんて、思っていませんでしたよ。
不可解な生徒たちの行動に頭は悩みっぱなしですもの。
「特筆すべきところはありません」
無味乾燥な意見、ありがとう。
でも、せめてスープの感想だけはして欲しかったですね。
「食事に、そういった機能が隠れているのなら三食を摂っても良いと考えています」
「成長期ですもんね」
つい、なんと言ったらいいかわからなくて適当な返事をしてしまいました。
「で、こんな朝からどうしたのです?」
結構、引き伸ばし気味でしたがようやく本題に入れそうです。
「はい。昨日、セロから聞きました」
うわ、もしかしてセロ君、変なこと言わなかったでしょうね?
まだ背景しか語っていないのに、性について話をしていた云々、とか。
勘違いしかされません、その言い方。
「ずるい」
思わず目をパチクリさせてしまいました。
ずるいって何が?
「私も特別授業をお願いします」
「それは性教育のお話ですか?」
「セイ教育? 新しい教育手法ですか? 実践は」
「あってたまりますか」
思わずツッコみました。
あと手法では断じてありません。
あくまで性教育は教育の一環であって、方法論ではないのです。
細かい部分かもしれませんがデリケートな主題ですし、扱いもそれ相応です。
ただでさえ教会の短い堪忍袋がキレるかもしれない、そんなお題目なのですよ。
事、自分の神経は槍も驚くほどに尖りきっています。
国教の相手だけは絶対に、御免被ります。
「とりあえずわかりました。ようするにセロ君だけ特別授業はずるい、と言いたいわけですね?」
「セロだけじゃない。時々、セロ以外にもしてる」
はて? 特別授業と銘打って口に出したのはセロ君だけだったような気がします。
アレはその場のノリで口にしているので、確実とは言い難いです。
「そうは言ってもあまり時間はありませんよ? 知っていると思いますが正午には試練官が訪れます。その歓待をしなければなりませんから、正午前には家を出ます」
「それまででいい」
どうしましょう?
確かに通常授業くらいの時間なら、付き合うこともできるでしょう。
最悪、留守番を任してしまってもいいとも思っていますが、留守中にテストをずっと受けさすわけにも……、日中の室内は結構、堪えます。
「あぁ、ちょうど良かった」
考えてみれば特別授業っぽいことがありましたね。
「実は職員室の空調をどうにかしようと考えていたのです。その術式具の製作を手伝いますか?」
本職の術式具の設計図ですよ?
「先生の……、やります」
エリエス君なら興味を持つと思いました。
食欲よりも知識欲を優先するとは、この子も変わっています。
もしも術式具元師になったら、ご飯も食べずに作業するタイプになりそうですね。
とりあえず急ぎ、アーキタイプを作って、仮始動させた状態でエリエス君に部品作りを任せてしまいましょう。
幸い、アーキタイプ自体はヤグー小屋で作ったものの余りで作れそうです。
「食事の片付けが終わったら、さっそくやってみましょうか」
「手伝います」
やる気、出してきましたね。
「早く食べます」
短くうるさいです。
「今はちゃんと食事を摂りなさい。勉強だけしていてもダメですよ。体育の授業なんかは体を使いますからね。体は資本です。どんなものでもね。それに体が成長しきっていない時分です。焦らなくていい時は焦らない。わかりましたね?」
「……はい」
目の色が不満そうでした。
桶の中に食器を放りこんで、息つく暇もなく設計図を持ってきての催促があったりしましたが、無事、昼前までにはアーキタイプの送風機ができました。
円盤に支えがついているだけのものですが、発動させると円盤から風が送られてきます。
そよ風が吹く程度ですが、これを元にアレンジしていくわけです。
「先生」
「なんでしょう」
「熱風です」
外で発動させてみたら、見事に熱を含んだ風が送られてきました。
昼前で熱せられた空気を動かしても、熱はそんなに下がらないということですね。
「では、先生が帰ってくるまでにエリエス君はこの送風術式具をどのように改造すれば、室内温度を下げるものに仕上げられるのか。使用金属は青銅と鉄、鉛に銀、真鍮などの銅合金です」
「……どの金属が属性と相性が良いのか聞いていません」
「んー、それも込みで考えてくださいね。アドバイスは【タクティクス・ブロンド】の称号です。最初は結構、わかりやすいですが求めるほどに複雑化していきますよ?」
【黒星】と【緑石】はともかく、【黄金】【白銀】【赤鉄】【青銅】はそのままですね。
ちなみに【緑石】の石は、錫や鉛などの金属のことで、紛らわしいかもしれません。
元々、原石は石にしか見えないからとか、最初はわかりませんって。
でも、真面目に考えるとすぐに解けたりするので、ここは是非、エリエス君には頑張って考えて欲しいですね。
さて。他の教師の社宅からも動く気配があります。
そろそろ出かける準備をするべきでしょう。
「では先生はいきますので、お腹が減ったら朝食の残り、スープと大麦パンがあるので温め直して食べるように。火はちゃんと消してくださいね。この社宅、軽く燃えますから」
「はい」
こうして留守をエリエス君に任せて、自分はロープと術式具を取りに社宅に戻り、それから無表情で悩んでいるエリエス君に見送られて学び舎へと向かうのでした。
今、思うともう少し考えておくべきでした。
参礼日で、昼時になっても寮に帰ってこないエリエス君、という問題について。
そして、自分は生徒たちに何時だって例文のない問題ばかりを出してきていたことを。
その答えを知るのは、自分が色んな出来事のせいでクタクタになった後でした。




