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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第二章
119/374

帝国行きは途中、国境駅に止まりません。

 金に輝く月は徐々に西へと傾きつつある現在。


「リーングラードに潜入したアサッシンの名前はロンドリー・ファーバート。対術式師部隊【キルヒア・ライン】だったのですが素行が悪く、規律を守れない性格だったようです」


 学園のローブではなく内紛時代に使っていたローブを着て、自分は月を背に王城の最上階、そのバルコニーにいました。

 学園のローブだと帝国内で身バレする恐れがあるので着替えました。


「彼が【キルヒア・ライン】に入った理由は考えるまでもないでしょう。虚栄心。見栄。そのために手段を選ばなかったようですが、結局、【キルヒア・ライン】の訓練に耐え切れず逃げ出した後、帝国の不良部隊【マー・シリース】に配属。そこでも問題を起こし、部隊を逃げ出した後は実家であるファーバート領に帰属。実家からは勘当寸前だったようです」


 普段はつけない革製のウェストポーチに六色の源素結晶を放りこみ、生首はちゃんとした防腐処理をした状態で袋に詰めて腰にぶら下げています。

 もちろん、その全ては鎖で固定しています。


 生首はこの時期だと、すぐにでも腐敗臭がするので凍らせていたのですが、これで防腐処理に術式を使う必要もなくなりました。


「ファーバートの実家は帝国貴族でも中級。おそらく今回の暗殺任務は実家からの最終通告だったと思われます。ファーバート家は帝国貴族の中でも懐古思想、すなわち古き良き帝国を愛する考えの貴族です。現帝王が行う身分を重視しない、実力主義な考えに反発があったとされています。以前より精力的に発言権を増やそうとする姿勢が見られ、隠す気もなかった節があります。そうなると今回の黒幕はファーバート家で間違いはないかと。法国近くリスリア沿いの領地……、帝国首都から見て北西部の領地を収めているため、帝国の中枢部まで行かなくて済むのが幸いでしょう。もっとも気をつけるべき相手は【キルヒア・ライン】の外周部隊。彼らは精鋭揃いであり、リスリア王国でいう法術式騎士団相当の実力があると目されています」


 何がすごいって、アレです。

 たかが一個人の情報をここまで調べてあったことですよ。


 調べた、ではなく、あらかじめ調べてあったところがポイントです。


 自分が寝ていた間の時間は、膨大な情報の中から個人を見つけるのに使われたようですね。つまり、既に知っていたということです。


 確かに、バカ王に情報は大事だから諜報部隊は鍛えておいて損はないと言ってきましたが、この4年でどこまで成長したんですか。


 リスリア王国はいつの間にか立派な諜報国家になってしまったようです。

 これって自分のせいでしょうか?


「いいえ。それはヨシュアン様のせいではありません。元より暗殺や間諜は防ぐべき事柄でした。過去の過ちを繰り返さないために明快で管理しやすい諜報部隊は必須でした」


 先王時代の諜報部隊は軍に属していない扱いだったり、無駄に激務だったりとかなりブラックな職場だったらしいです。

 らしい、というのは戦場で出会ったこともあったり暗殺されかけたこともあったのですが、彼らの私生活や職場形態、職業事情をついぞ知る機会がなかったからです。


「そういえばヨシュアン様には教えていませんでした。現在のリスリア王国、諜報部隊。その名前は――」


 別に今、教えてもらいたいものでもないのですが。


「――『黒猫にゃんにゃん隊』です」


 あまりのネーミングセンスにベルベールさんの顔をまじまじと見てしまいました。


「間違えました」


 あぁ、良かった。

 どこぞの歓楽街にあるパブの名前かと思いました。


 ベルベールさんでも間違うことがあるとわかっただけでもなんだか親近感ですね。良かった良かった。


「『とびだせ! 黒猫にゃんにゃん隊』でした」


 屋上の柵に頭をぶつけました。色んな意味で、いてぇです。

 誰だ、そんな名前をつけたヤツは……火を見るより明らかでした。絶対にバカ王ですね。


「ロンドリー・ファーバートは帝国でよく使われる『捨て駒』候補でしたから、事前に一通りを調べていただけに過ぎません。問題児ほど噂になる。それはどこも変わりないようで。特に隠されていた情報等は見当たらないところから、典型的なパターンでしょう」


 何事もなかったようにベルベールさんは情報を読み上げてくれます。

 

 色んな頭の痛みを振り払って、情報を頭に叩きこみます。


「『捨て駒』ということは……、アレですか。あの自爆要員の」


 かつて王国と帝国が戦争していた頃に使われていたとされている帝国のお家芸です。


 帰還率の低い最重要施設攻略に単身乗りこませて、自爆するという荒業です。

 自爆方法は術式を暴走させるとか爆弾を持つとか、失敗作の高威力術式具を使う等々、過去の資料に書いてありましたね。


 コスト面で物を見るつもりはありません。

 ですが人員育成分の手間と重要施設一つ、というのは非人道的すぎて判断できません。


 個人的な意見でいいのなら一つ。

 それが有効な場面もある、ということだけでしょうか。


「ヨシュアン様がもっとも懸念すべきは【キルヒア・ライン】の外周部隊でしょう。移動ルートが予測できない上に王国と帝国の境にある緩衝地区、その近くまで展開することもありますので、ご注意ください」


 ご注意くださいって言われましても。


 【キルヒア・ライン】。


 対術式師に特化した、リスリア王国でいう法術式騎士団と同じ性質を持った術式騎士部隊です。


 これは……、正直、自分も相手にしたくない部隊ですね。

 

「【戦略級】術式を防ぐ概念結界が相手だと、さすがに自分も切り札を封じられている状態になりますしね」


 【戦略級】術式は【戦略級】術式でなければ防げない。

 これはメルサラとの勝負でも、一度、生徒たちの前で見せたものです。


 この法則と同じように【キルヒア・ライン】の使う術式は自分たちの使う【戦略級】術式を防ぐ手段を有しているのです。

 さて、どういう原理なのかは一度も防がれたことがないので、わかりません。


 ただ、防がれたことがあるメルサラが言った言葉から推測するに、概念攻撃を防ぐ何かのようです。


 帝国は自分にとっても未知の相手ですから気をつけないといけません。


「せめて術式の形式さえわかれば、干渉できるのですが」


 自分の特技、ハッキング技術は結界にも有効です。

 というか全術式に有効です。【戦略級】もなんのその。


 しかし、術式がどんな陣で構成されているかがわからないとハッキングもできないという弱点もあります。


 最低でも三回ほど、相手の術式を見てみないことにはどうにもできません。というか三回見ても理解できないと意味がありません。


 そもそも帝国の使う術式の解析はまったくというほど進んでいません。

 エド任せですものね、アレも。


 ハッキングは……、諦めたほうがいいですね。難易度高すぎです。


「ファーバード家の支配する街はちょうどリーングラードの近くにある地方都市と同じくらいの規模とのことです」

「まぁ、そのあたりはどうとでもなりますから」


 さて。敵の背景、帝国の様子はバッチリです。


 要約すると『【キルヒア・ライン】に見つかるな』『地方都市クラスの領主館に潜入・制圧』『金目のものを奪ってくる』の三本になります。


 これだと、どうにも自分が特殊工作員にでもなったような――そういえばそんな仕事ばかりでした。

 王都でのんびり研究しながら術式具を売ってる日々で良かったのに。


 いつの間にか教師なんかやらされて、これまたいつの間にか乗り気になっちゃって、まぁ……。あげくに生徒と共犯者のために帝国にカチコミするハメになるとか。


 自分の人生は一体、どこに向かおうというのでしょうか。わかりません。


「でも、それがいい」

「なんですと?」

「ヨシュアン様が心の中でよくおっしゃってるフレーズですね」


 あんな無茶苦茶な気分を無理矢理な前向き気分で演出するためのフレーズを口に出さないでください。

 そうでも思わないと心がくじけていくのです。


「左様ですか」


 左様です。ほっといてください。


 そろそろ出発の時間です。

 ここで学園長の窓下みたくクレーターを発生させるわけにもいきませんので、まずはエス・ウォルルムで空中に飛んで、そこから術式で加速、【ウルクリウスの翼】で加速を維持、帝国領までまた休みなしで移動です。


 思うところがないとは言いません。


 そろそろ飛び出そうかと思ったら、大きな気配が部屋に入ってきたようです。


「出発前に生前の顔を見に来てやったぞい」

「縁起でもないこと言わないでください」

「出発前に生前の顔を見せに来てやったぞい」

「縁起でもないこと言わないでください」


 ドシドシ、ガチャガチャと大きな音を立ててバルコニーに顔を出したのはベルリヒンゲン老でした。


「いやいや、そんな露骨に嫌な顔せんでもいいじゃろう。聞きたいことがあるだけだぞい」

「……はぁ?」


 このジジイ、一体、何の用でしょうか?


「いや、のぅ? 今回、珍しくリスリアから仕掛けるわけじゃが……、【輝く青銅】が帝国の領地を襲っていいものじゃろうかの?」


 いまさら何を言い出すのかと思えば。


「帝国がちょっかいかけてくるのは今に始まったことではないがの。それらを飲み込んで外交で駆け引きしてきたからこそ、復興途中であったにも関わらず表立って手を出してこんかった」


 自分が手を出すことで戦争になるのではないか、ということですか?

 その可能性は……、なくもないでしょう。


「内紛が終わり、ようやくリスリアも平和になった。あの時代の多くは歴史に語り継いではならないことじゃったろうな。【火榴橙かりゅうとう】……、【イコンの子供たち】……、奴隷の解体市場……、善人が見れば気すら触れる内容ばかりじゃ」


 さらりと自分の作ったものが入っていました。

 いや、もう封印してるので問題ありませんったら問題ありません。


「伝え聞くということと経験するということは違うぞい。紙上を見ただけで想像するものとは違う。熱や痛みを伴う、本物の実感じゃ。火に炙られる痛み、切り裂かれる痛み。戦争になれば、そのような経験をお主の大事な生徒にまで巻きこんでしまうのではないのかの?」


 だからこそ、飲み込めと?

 全てを見なかったことにして、哀れな生贄を捧げて、事を丸く収めろと。

 戦争になるかもしれないから、小を切り捨てろと。


 多くが幸いなら、それでいいと。


「どこに大事なものを踏みにじられてまで、黙っていられるバカがいるんですか」

「そう言って黙っておられんかったバカが次の火種にでもなるつもりかの」


 顎鬚をさすりながら、遠くを見やるベルリヒンゲン老。


「美徳なのじゃろうな。正常な判断、正常な怒りじゃ。誰かへの怒りと憎悪だけで内紛を生き抜いたお主はそう……、正常だからこそ狂っとること自覚せい」

「狂っていない人間こそ、狂っていたと言われる【十年地獄】の中でですか?」

「お主ら、現【タクティクス・ブロンド】はどいつもこいつも同じじゃわい」


 メルサラと一緒にされるという耐え難い屈辱。


「今度、靴の中に画鋲を仕込んでおきますから」

「剣山の一つでも仕込んでみせい! 踏み潰してくれるわ!」


 言ったな? クソジジイ。

 ならば粘着玉です。


「……どんな邪悪なことを考えておるんじゃ?」

「別に。気のせいですよ。言いたいことはそれだけですか?」


 さすがに引かないとわかったのでしょう。

 ベルリヒンゲン老はため息をついただけでした。


「ファーバート領に入れば昼間だぞい。迅速に制圧してみせい」


 そう言って、腰に差していた大剣とは違う長剣を鞘ごと投げてきました。


 過度な装飾や遊びは一切なく、刀身は水のように滑らかなです。

 質素でありながら、ありとあらゆるものを断ち切れそうな、そんな重みがあります。


「銘は【ズィーガリオン】。勝利の名を持つ剣じゃ」

「売ったらいくらになりますか?」

「売るな! 罰当たりもんが!」


 最悪、これを売ってお金に変えようと思いましたがダメなようです。

 ものすごい殺気が向けられていますから、売ったりしたら首をハネられるでしょう。


「我がベルリヒンゲン家に伝わる忠義と勝利の証だぞい! それを一の言に売るとは何事じゃ!」


 そんな大事なもの、自分に渡さないでください。

 術式師なんだから剣はあまり、意味をなさないのです。

 それでも、お守り代わりとしては十分、実用的です。


「そろそろ時間ですので、失礼します」


 ぎゃーすぎゃーすと喚いているベルリヒンゲン老を無視して、エス・ウォルルムで空に舞い上がりました。


 またしばらく、王都に帰ってくることはないでしょう。


 見納めようにも街の小さな明かりしか見えません。

 ぐっすりと寝たせいか体の調子はリーングラードから出て行った時より、むしろ良くなっています。


 パフォーマンスは十分に発揮できるでしょう。


 自由落下に身を任せると同時に、加速のための術式を発動させ、【ウルクリウスの翼】を起動させます。


 一蹴りで王都を抜けて、帝国領内を目指します。


 道中、大したことは起こりませんでした。

 強いて言うなら、誤って放牧地に着地し、羊飼いの少年の腰が砕けるほどビックリさせてしまったことくらいでしょう。


「父ちゃーん!? 空から人がー! 天上人がおちてきたー!?」


 と、叫びまくっていた少年をなだめてから、また出発しました。


 きっとあの村では伝説になっているでしょう。

 もう絶対、あの村にはいきません。いきたくありません。近寄らないです。


 どんな噂になっているか怖くて聞けません。

 もしかしたら大問題だったかもしれませんが、いつか風化していくでしょう。

 間違っても天上人が落ちてきた村として、観光業が盛んにならないことを祈るばかりです。

 

 それから陽が登り、朝日を背に王国と帝国を繋ぐ砦。

 そして、最前線でもある【モルゲンゾンゲ・フロント】――通称【旭日橋きょくじつきょう】に到着しました。


 まずは砦部分。石造りでありながら、紙が隙間に入らないほど敷き詰められており、王国と帝国の境界である【ドロセナ河】の入口部分に相当します。ついで橋の部分は実は帝国との共同作業で出来たとされています。


 技術者や職人には敵対とか関係ないんでしょうね、きっと。


 3000名近い人員を収容でき、リスリア王国側の平地を利用すれば一万人以上をここに集めることができます。周囲の村や街はこの【旭日橋きょくじつきょう】の人員を入れ替え、物資を運ぶために作られていると言っても過言ではありません。


 ここには多数の兵士の意気と、少なくない伝説があります。


 暇なので、その一つを紹介しましょう。


 リスリア王国の歴史の中で【無敵】と謳われた騎士の伝説。

 彼の騎士は帝国の兵の猛攻に合い、その勝負は夜半深くまで続いたとされています。

 部隊そのものが疲弊し、それでもなお攻め続ける帝国に休みなく応戦した兵隊たちも疲れや傷で倒れる者が多くなった時でした。

 彼の騎士はそれでも傷つき倒れる兵のために戦い続け、やがてまた何度目かの朝日が登り始めたとき、おもむろに剣を掲げました。

 

「見よ! 我が【樫の乙女】の姿を! この最強の剣がある限り、我らは負けぬ!」


 朝日を正面から浴びて輝くその剣は、幾度も敵兵を斬ったはずなのに血濡れ一つなく黄金に輝いていたといいます。


 まるで太陽の祝福を浴びたように彼の騎士は、何度、敵に斬られても傷がふさがり、一方、奮った剣は河を切り裂き、数多の敵兵を河底に沈めたといいます。


 この【樫の乙女】こそがリスリア王国の国宝の一つです。

 ちなみにバカ王が割った国宝は【湧水連珠】という無限の水を生み出す壷型の術式具でした。


 ……アレの修理のために王家に伝わる古代術式を一つ、完全に再現する必要がありました。


 そのことで知った衝撃の事実。


 リオ・ウォと呼ぶ製水の術式。

 あれって【神話級】だったんですよね。

 リオ・ウォはフロウ・プリムみたいに【神話級】を劣化させた術式だったようです。


 【湧水連珠】の術式は元々、水を出すための術式ではなく……、と、そっちよりも【樫の乙女】のほうです。


 【樫の乙女】という剣ですが、使い手を選ぶようです。

 完全にその力を発揮できた者は今のところ、彼の騎士くらいでした。


 一応、今も持ち主が居て、その持ち主というのは黒色ゴキブリ野郎なのであえて何も言いません。

 まぁ、その黒色ゴキブリでも完全に力を制御できないとのこと。ざまぁみろです。


 そして、この【樫の乙女】という剣はなんと隕鉄でできている剣なのです。

 何度か、奪って溶かして材料にしてやろうかと思いましたが自重しています。


 別に黒色ゴキブリに負けるのが嫌で止めたわけではありません。


 仮にも国宝だからです。

 疑問の余地もありません。


 隕鉄製の剣はそれほど巨大な力があるということです。

 自分が使っていた【愚剣】もそうでした。


 もっとも【愚剣】は隕鉄製というよりも、隕鉄製カートリッジですが。


 さて、ここは国境。

 つまり、自分はここで帝国に行くための書類を提出して、賃金を支払い、帝国に行くための手続きをしなければいけません。


 ですが、今回の仕事はアレです。

 非公式ですので、無理矢理、突破します。


「止まれ! ここから先は帝国領内だ! 即座に術式を解除し、この警告に従え!」


 すでに索敵範囲に引っかかっていたようです。

 制止の声が暴風の音の向こう側から聞こえます。


 んー、拡声の術式ですね。

 音速の勢いであるにも関わらず、声が聞こえるという不思議ですが【源理世界】からの音域干渉です。

 【源理世界】に音はありませんが、音を作り出す法則は存在しているのですよ。

 その結果、【現理世界】で声として表現されるわけです。


 はい。でも、音速は急には止まれません。


 一向に術式を止めない自分をどうやって観測しているかは知りませんが、あと数十秒もしないうちに【旭日橋】を通り越しますよ?


 向こうもその気のようで、いきなり目の前に無数の術陣が空中に現れました。

 大小、合わせて……、数は数えるのも馬鹿らしいですね。


 味方に撃ち落とされるなんて嫌ですから、さらに速度を上げて突っ込みました。


 【ウルクリウスの翼】は細かい機動をするような術式ではないので、突っ込む以外の選択肢がないのが悔やまれます。

 国境警備の人たちの術陣が完成し、空気の槍が自分めがけて殺到してきます。


 その全て、当たってやるわけにもいきません。


「――ッ!」


 右側、片方のインテークを急に始動させます。

 急激に重くなった右側のインテークに吊られて、自分の体は大きく右側に傾き始めます。

 そしてすぐにインテークを止める。


 今度は浮力が発生し、自分の体は三次元的にねじるような軌道で音速域を……気分が悪い。

 三半規管が悲鳴をあげてます。


「……うげッ」


 ついでに無茶な軌道のせいで体に大槌を押し付けられているような圧迫感。

 まちがいなく加速と減速による自重の影響です。足が重いッ!


 内臓が悲鳴をあげ、吐瀉物でも撒き散らしそうになりながらも、根性で耐えます。

 視野が真っ赤に染まっているのはアレですか? 循環血液が足りてませんか?


 これはまずい。

 帝国に行く前にピンチです。


 しかし、頑張った甲斐あって、空中で展開されていた術式の全てを回避するに至りました。


 河を越えて、すぐに訪れたのは――


「……マジか」


 ――つい素に戻るほど、高密度で展開された空中の術式。


 帝国側の砦からの放たれた迎撃術式でした。


 ……今、悟りました。

 帰りは絶対、国境は止めておこう。

 というか国境を進行ルートに使ったことがダメでした。


 血を吐きそうな気分のまま、また術式群につっこむ自分でした。



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