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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第98話 黒崎和己-6

「それで、黒崎君は……誰を正妻にするつもりなの?」


 蓮田が、硬い声でそう言った。


 途端に、皆が黙り込んだ。

 これが、重大な話題だと認識しているのだろう。


「それは……簡単に決められることじゃない」

「……水守にしないの? じゃあ……宝積寺さん?」

「まだ決めてない」

「……まさか、北上さんがアプローチしてきたから? それとも、早見さんのせいで……?」

「原因はあいつらじゃない」

「……水守にしてあげればいいのに……」


 蓮田は、はっきりと、俺を非難する口調で言った。

 さらに、須賀川も、怒りを隠さずに言ってくる。


「この期に及んで、まだヘタレみたいなこと言ってるの? あんたは御倉沢の人間で、私達の中では、明らかに水守のことを気に入ってるでしょ? だったら、相手は水守に決まってるじゃない」

「……そんなに単純な話じゃない」

「信じらんない!」

「香奈さんも鈴さんも、少し落ち着いてください」


 本宮が、静かな声でそう言った。


「でも……!」


 憤る須賀川に、本宮は首を振る。


「強要は良くありません。私達は、御倉沢家からの命令に従うことを当然のこととして生きてきました。自由に恋愛が可能な世界で生きてきた、黒崎さんとは違います。そのことを念頭に置いていらっしゃったからこそ、吹雪様は正妻を自分で選ぶように、黒崎さんに命じたはずです」

「……私は、立場にはこだわらないわ」


 一ノ関が、呟くように言った。

 それから、こちらのことをチラリと見た。


「黒崎君が、私のことを愛してくれるなら……正妻は、宝積寺玲奈でも構わないと思ってるの」

「ちょっと、水守!」

「水守ちゃん……それは、お人好しすぎるんじゃないかな……?」


 他の女子が否定的な反応をしても、一ノ関は澄んだ目で俺を見た。


「黒崎君と一緒にいられれば、私は幸せだから」

「水守ちゃんって……情熱的なんだね! ちょっと意外!」

「そういう問題かしら……? 都合のいい女になってると思うけど……」

「……我慢できることは我慢するわ。嫌じゃないの、本当に。それでも……いきなり女を増やされることだけは、どうしても耐えられないわ」


 一ノ関は、先ほどとは全く異なる、澱んだ目で俺を見た。

 俺と、北上や早見が接近したことが、相当なショックだったのだろう。


「……悪かった」

「北上天音や早見アリスと、本当に付き合うなら……私達には、その前に話して。それが、最低限の礼儀だと思うわ」

「……分かった」

「やっぱり、水守は甘い気がするわ」


 須賀川は、納得できない様子だ。


「ですが、その方が、玲奈さんを刺激しないで済むかもしれません。あの方は、精神的に不安定ですから」

「そんなに、腫れ物に触るような扱いをしなくても……」

「大切にすべきなのは、水守さんの気持ちです。水守さんが良いと言っているのですから、それで良いと思いませんか?」

「……」


 須賀川も蓮田も、本宮の言うことは、強く否定できない様子だった。

 ひょっとしたら、皆に頼られていて、面倒を見ることを厭わない平沢よりも、話がしにくい相手なのかもしれない。


「誰を選ぶかは、黒崎君の自由だとしても……急がないとまずいよね。今回は、時間がないから……」


 渡波が、そんなことを呟いた。


「……今回? 時間がない……?」

「『闇の巣』の話。今回は、開いてる期間が短いだろうって言われてることを、黒崎君だって知ってるでしょ?」

「……何の話だ?」

「えっ!? ひょっとして、誰も教えてくれなかったの!?」

「……よくあることだ」


 俺はため息を吐いた。


 御倉沢とも神無月とも深い付き合いのある俺には、どちらからも情報が回ってこないことがある。

 それは、宝積寺や平沢に悪意があるわけではなく、共に、もう一方が充分に説明しているだろうと思い込んでいることが原因だ。

 加えて、宝積寺が、この町や異世界のことについて、俺に話したがらないことも影響している。

 あいつとしては、俺を巻き込みたくないと思っているのかもしれないが……。


「イレギュラーの後に発生した『闇の巣』は、普段よりも短い期間で閉じることがあるの。その場合には、この世界に、いつもより高い頻度で、魔物や異世界人が流れ込んでくることがあって……。今回は、普通に『闇の巣』が発生した時よりも、魔獣や異世界人との遭遇率が高くなってるっていう報告があるんだって」

「……そうか」


 ならば、現在のこの町は、それなりに危険な状態なのではないだろうか?

 そういう大切な情報は、早く教えてほしいものだ。


「『闇の巣』が閉じたら、正妻が決まってないと、誰を一番大事にすればいいか分からないでしょ? だから、早く決めた方がいいと思って」

「一夫多妻制を採用してるのに、正妻を決める必要があるのか?」

「当たり前だよ! ていうか、決めなきゃならないのは、黒崎君が神無月の人ともお付き合いをしてるからでしょ!」

「……」


 面倒な話である。

 宝積寺を正妻にしたら、御倉沢の連中は俺を攻撃するだろうし、一ノ関を正妻にしたら、宝積寺が正気を保てなくなるかもしれない。

 勝手に女を押し付けておいて、誰が一番か決めろなどと言われるのは、理不尽極まりない話である。

 俺の感覚に従うなら、正妻は、一番最初に付き合いはじめた宝積寺にするのが妥当だと思うが……果たして、一ノ関以外の連中が、それを認めるだろうか……?


「いずれにせよ、黒崎さんは、よく考えてから決めるべきでしょう。そろそろ、パトロールを終わらせる時間ですので、後は皆さんで、冷静に話し合ってください」


 本宮がそう言った。

 それとほぼ同時に、獣の叫びのようなものが辺りに響いた。

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