第96話 渡波雫-1
話をしながら、俺達は森の中へ入った。
木の枝に遮られるため、雨の勢いは弱まる。
それが、前回の時にはマイナスに働いたのだが……今回は、魔力が多いらしい本宮と、平沢から指名された渡波がいるので、少し気が楽である。
「ねえ、霜子さん。私も、黒崎君と話したいことがあるんだけど……」
渡波が、こちらを睨みながら言ってきた。
「構いません。私の用件は終わったので」
「じゃあ、黒崎君。一度、質問してみたいと思ってたんだけど……」
「……何だ?」
「黒崎君って、おっぱいの大きい人が好きなの?」
「おまっ……!」
ストレートな質問をぶつけられて、俺は動揺してしまった。
他の女子たちも、焦ったような顔をする。
「駄目だよ、雫ちゃん! 黒崎君にだって、触れられたくないことがあるんだよ!?」
蓮田が、渡波の腕を引っ張るようにしながら言った。
「でも、私、このまま黒崎君と結婚させられるかもしれないし……。そうなった時のために、黒崎君のことは、なるべく知っておかないと……」
「そんなこと……そうなった時に考えればいいんじゃないの?」
「それじゃ遅いと思うの。それに……黒崎君って、理解できないところが多いから、ちょっとだけ興味があるっていうか……。最低でも、女の子が好きなのか、女の子のおっぱいが好きなのかは知っておきたくて」
そんなことを言っている渡波のことを、須賀川が、俺から庇うようにしながら言った。
「雫、教えてあげる。黒崎は、全ての女が好きで、女の全てが好きなのよ。好きな部分はおっぱいだけじゃないし、好みの女も幅が広すぎて、ほとんど、手当たり次第と言ってもいいくらいだわ」
「須賀川! 誤解を悪化させるんじゃねえ!」
「……信じらんない。最低の男……」
「渡波! 真に受けるな!」
「本当のことじゃない。あんたって、おっぱいが好きで、パンツが好きで、髪が好きで、柔らかい肌が好きなんでしょ? 要するに、女の身体を、好きなだけ眺めて、好きなだけ触りたいってことじゃない」
「人のことを変態扱いするな!」
「だったら、違うって言えるの?」
「……仮にそうだったとしても、俺は、女を片っ端から口説いたりしてねえよ!」
「でも、あんたが私達以外の女を避けてるところなんて、見たことがないわよ?」
「それは……わざわざ、避ける必要がないからだ」
「……やっぱり」
「何が『やっぱり』なんだ?」
「要するに、あんたって、自分が囲ってる女の人数を、最大まで増やしたいのよね?」
「どうしてそうなるんだよ!?」
「だって、あんたの守備範囲って、いくら何でも広すぎるじゃない。女なら、宝積寺でもオーケーなんて……」
「あいつのことは悪く言うな」
「……ごめんなさい」
俺と約束したことを思い出した様子で、須賀川はすぐに謝った。
さすがに、少し気まずそうな顔をしている。
「そっか……そうなんだ……」
渡波が、何度も頷きながら言った。
「何が『そう』なんだ?」
「黒崎君って、玲奈ちゃんのことが、本当に好きなんだね? 玲奈ちゃんって、可愛い子だし、ああ見えてスタイルもいいから……てっきり、可愛い子とエッチなことができれば、相手は誰でもいいのかと思ってた」
「……お前、とんでもなく失礼な奴だな……」
「私、小学生の時……玲奈ちゃんが事件を起こした時に、同じクラスだったの」
「……」
「あの時の玲奈ちゃん、相手の男の子を、殺そうとしてたようにしか見えなかったの……。苦しむ相手を見て……玲奈ちゃん、笑ってた。梢ちゃんが止めなかったら、きっと、あのまま殺してたと思うな……」
その時の光景を思い出したらしく、渡波は、傘を持っていない方の手で、反対の自分の腕を掴むようにしていた。
その時のことについては、平沢も、宝積寺を恐れている様子だった。
同じように感じた人間が多かったために、宝積寺は周囲から孤立したのだろう。
「……その時に宝積寺を止めたのは、平沢じゃなかったのか?」
「栗橋梢よ。私のクラスの委員長」
「ああ……」
須賀川の言葉を聞いて、俺は、前に聞いた話を思い出した。
栗橋という人物は、花乃舞の人間で、女子が痩せると理由を詰問するという話だった。
相当な変わり者、という印象だったが……クラス委員長を任されるだけあって、良識的な部分もあるようだ。
「……ちょっとだけ分かった。つまり、黒崎君は……自分の言いなりになってくれそうな子が好きなんだね?」
渡波は、新たな暴言を吐いた。
「おいおい! どうして、そういう話になるんだ!?」
「だって……黒崎君と玲奈ちゃんの関係って、そういう風に見えるんだもん。この前は、お弁当を届けてたし……。きっと、黒崎君のお願いなら、何でも聞いてくれるんだろうなって思って」
「俺は、宝積寺に頼み事はしても、何かを強制したことなんてねえよ!」
「でも……黒崎君と付き合ってる子って、鈴ちゃん以外は、大人しそうな子が多いでしょ? 香奈ちゃんとか、天音ちゃんとか……」
「……」
絶妙に、反論しづらいところを突かれてしまった。
実を言うと、全く自覚がなかったわけではないのだが……。
「それは違います、雫さん」
突然、本宮が口を挟んできた。
「違うの?」
「はい。黒崎さんは、昨日、アリスさんとデートをなさっていましたから」
「ええっ!?」
「嘘っ!?」
とんでもないことを暴露され、皆に見られて、俺は先ほどよりもさらに慌てた。
「ちょっと待て! 俺は、早見とデートしたわけじゃない!」
「ですが、黒崎さんとアリスさんが腕を組んで歩いていた、との目撃情報が……」
「あ、あれは、早見が勝手に……!」
「信じらんない……!」
「アリスちゃんまで落とすって……どうやって!? 黒崎君って、女を口説く技術だけは一流っていうか……結婚詐欺のプロだったりするの?」
「お前は、失礼なことばっかり言うんじゃねえ!」
「そんなの……酷すぎるよ!」
ついに、蓮田は泣き出してしまった。
須賀川が、蓮田をあやすようにしながら、こちらに殺意の籠もった目を向けてくる。
さらに、一ノ関が、表情の消えた顔で、俺を見つめてきた。
「黒崎君……北上天音のことも、早見アリスのことも、全部説明して。でないと……怒るわ、本気で」
「あ、ああ……」
仕方がないので、俺は、北上と早見のことを長々と説明した。
その間、女子たちは、俺のことを冷えた目で見つめていた。




