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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第49話 一ノ関水守-9

 一ノ関が、料理をテーブルに並べた。

 様子を伺っていたが、鍋を爆発させてはいなかったようだ。


 俺は、一ノ関の手を借りて、席に着いた。

 そして、そこに並べられた物を見て言葉を失う。


「……なあ、一ノ関」

「何かしら?」

「これは……何だ?」


 俺は、テーブルの上に並んでいる、見たことのない料理の数々を見ながら言った。


「何って……私たちの夕食よ。決まっているでしょう?」

「……」


 酷い。

 あまりにも酷い。

 これは……嫌がらせなのか?


「じゃあ、教えてほしいんだが……この、白飯の上にかかっている物は何だ?」

「いちごジャムよ」

「……」


 当然のことのように言う一ノ関を見ながら、俺は、改めて蓮田の言葉を思い出していた。


 あいつは、何があっても一ノ関のことを嫌いになるな、と言っていたが……。

 これは……さすがに、無理かもしれない。


「それで……この、目玉焼きの上にかかっているのは、何だ?」

「りんごジャムよ」

「……この、茹でたキャベツとブロッコリーにかかってるのは、何だ?」

「マーマレードよ」

「……じゃあ、この、サンマの開きにかかってるのは、何だ?」

「ブルーベリージャムよ」

「……」


 何と言っていいのか分からず、俺はしばらく沈黙した。

 そして、試しに言ってみる。


「なあ、一ノ関」

「何かしら?」

「これは……俺を笑わせようとして、失敗したのか?」

「そんなことはしないわ。貴方に喜んでほしくて、一生懸命作ったのよ?」

「……一ノ関。悪いことは言わないから、俺たちは離婚しよう」

「そんな……! 私の料理を見て、そんなことを言うなんて、あんまりよ! 一体、何がそんなに悪いっていうの!?」

「むしろ、この料理のどこが悪くないのか、俺に説明しろ!」

「あらゆる物は、果物のジャムをかければ美味しくなるのよ! 貴方は料理なんてしないでしょうけど、そんな基本的なことも知らないなんて……ショックだわ!」

「……」


 そういえば、須賀川が、果物ならいくらでも食べられると言っていた。

 おそらく、一ノ関も同じなのだろう。


 つまり、こいつにとっては、果物のジャムが万能な調味料である、ということなのではないだろうか?


「……一ノ関。頼むから、俺が食べる分には、ジャムをかけないままで用意してくれ」

「そんな……駄目よ! 料理は、ジャムをかけることで完成するんだから!」

「うるせえ! こんな気持ち悪い物が食えるか!」

「……!」


 一ノ関は、身体を震わせた。

 そして、俺を、夫からDVを受けた妻のような目で見てくる。


 ……さすがに、言い過ぎただろうか?


「……悪い。だが、どうしてもジャムを使いたいなら、俺の晩飯はパンにしてくれ」

「駄目よ! 夕食にパンを食べるなんて、人間に許される行為じゃないわ!」

「それはどこの宗教の教義だ!?」

「……とにかく、冷める前に食べましょう? ひょっとしたら、貴方は市販のジャムに対して良くない印象を抱いているのかもしれないけど……この料理に使っているのは、私が手作りしたジャムなの。砂糖をなるべく使わない、果物の自然な味に近いジャムなのよ?」

「……」


 そういう問題ではない。

 だが、この様子だと、言っても無駄なようだ。


 とりあえず、俺は、ジャムが入っていないように見える味噌汁を口にした。

 そして……吐き出さなかった自分を、褒めてやりたくなった。


「……一ノ関。この味噌汁の具は何だ?」

「パイナップルとバナナよ。味噌には、すりおろしたマンゴーを加えてあるの」

「……随分とトロピカルな味噌汁だな」

「この組み合わせが一番美味しいことに気付いた時、私は自分が天才なんじゃないかと思ったわ」

「……天災レベル、だな」


 俺は、ジャムを脇にどけながら、何とか食える分だけを食べた。

 しかし、飯はパサパサで、サンマの開きは水洗いがしてあるなど、ジャムがないと、それはそれで酷い味だ。

 そして、一ノ関は、自分が作ったジャムまみれの料理を、美味しそうに頬張っている。


 異世界人の遺伝子が、優れているだって?

 冗談じゃない。こんな、おぞましい料理を作らせるような遺伝子を、これ以上広められてたまるか……!


 幸せそうな一ノ関を見ながら、つくづくそう思った。

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