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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第299話 宝積寺玲奈-31

 俺は、表情をほとんど変えずに話を聞いている、美樹さんの方を見た。


 春華さんは、人を殺せるような性格ではなかったらしい。

 同じく宝積寺の姉である美樹さんに、春華さんは色々なことを相談していたらしいが、美樹さんも人を殺せる人ではない。


 そうでなければ、2人のうちのどちらかは、宝積寺を殺して排除したのではないだろうか?


 美樹さんは時間を止められる。

 この人がその気になれば、宝積寺は、気付いた時には殺されているだろう。


 春華さんは魔光を操ることができる。

 魔素を操る宝積寺が相手であっても、対抗できる可能性が高い。


 どちらも、妹である宝積寺の危険性を認識していたはずなので、心を鬼にして抹殺することだって考えられたのである。

 春華さんが美樹さんに相談をしに行っていたのは、自分の妹が手に余ることについて、愚痴を言っていたのかもしれない……。


 そんな姉たちのことを、妹である宝積寺は全く疑っていないようだ。

 今でも春華さんに心酔している様子で、俺と北上に冷たい視線を向けている。


「私は、ずっと黒崎さんに言いたいことがありました。異性に対する欲望は、積極的に満たそうとしてはいけません。お姉様から愛された私ですら、両親に対して怒りを抱き続けているんです。黒崎さんは、自分の子供から浮気や不倫について責められた時に、何と言って弁解するつもりなのですか?」

「……」

「天音さん。お腹の子は、幸せにしてあげてください。その子を生み出すための行為をした貴方と黒崎さんには、そうしなければならない義務があります」

「……」

「この場にいる皆さんに話したかったことは以上です。神無月のルール上の正当性は理解していますが、私は黒崎さんを生涯許せないので、もうお付き合いをすることはありません。本日をもって、きっぱりと決別いたします」


 宝積寺は、激昂する様子もなく、そう言い切った。

 それから、深呼吸をして、この場にいるメンバーを見回してから言った。


「ですが……皆さんにお願いがあります。最後に伝えておきたいことがあるので、黒崎さんと二人きりにしていただいてもよろしいでしょうか?」

「……この流れでか?」


 今、宝積寺と二人きりになったら、少なくとも何本か骨を折られそうである。

 いや……それで済んだら、幸運なのではないだろうか?


 そう思ったが、桐生や栗橋、早見は、俺に同情してくれなかった。


「黒崎君……玲奈さんが最後のお別れを言いたいんだから、聞いてあげるべきだよ」

「貴方は、殴られても自業自得だと思います」

「それで玲奈さんの気が収まるのであれば、思いどおりにしていただくべきですわ」

「……」


 宝積寺に全力で殴られたら、俺は今度こそ死ぬかもしれないんだが……。

 そう思ったが、周囲からの圧力に抗えず、俺は逃げ出すことができなかった。


 北上は、俺が殺されてしまうことを懸念しているらしく、真っ青になっている。

 しかし、早見が部屋から出るように促した。


 他のメンバーが出て行って、俺と宝積寺だけが部屋に残されてしまった。


 唯一の救いは、美樹さんが部屋の外へ行く前に、俺を安心させるように微笑んでくれたことだろう。

 この人がこういう態度であれば、俺が惨殺される心配はしなくても良さそうだ。


 だが……二人きりになって思った。


 ……怖い。

 本気で、命の危険を感じる……。


 宝積寺は、なるべく感情を排除しているような口調で話した。


「黒崎さんは、結局、天音さんのような大人しい女性が好きなんですね」

「……」

「確かに、天音さんは素敵な女性だと思います。顔立ちは美しく、スタイルにも恵まれていると言って良いでしょう。何より、男性の言葉に反発して、プライドを傷付けることはありません。幼い頃からの付き合いがあって、私としても、天音さんに憧れていた時期がありました」

「……」

「ですが、天音さんは黒崎さんを騙した挙げ句、脳に後遺症が残るおそれのある魔法をかけて、記憶を消した人です。そんな人が好きだなんて、お人好しや女好きという次元の話ではありません。美女を見ると放っておけなくなる病気ではないかと思います」

「……」

「もちろん、相手が天音さんでなければ許せるわけではありません。たとえ、吹雪様から命令されたのだとしても、花乃舞に文化的な背景があっても、私以外の女性と性行為ができること自体が、本来であればおかしいと思います。黒崎さんだって、外にいた時には、そう考える程度の節度はあったはずです」

「……」

「私は、自分の男を見る目の無さが嫌になってしまいました。ずっと、気持ちが揺れ動いていましたが……貴方と別れることができて、清々しています……」

「……」

「……と、言いたかったのですが……」

「……?」

「……私も、黒崎さんのことを責められません。梢さんと、キスをしてしまったので……」

「!?」


 栗橋と……キスをした!?

 こいつは、栗橋のことを警戒していたはずではなかったのか……?


「梢さんの名誉のために申し上げますが、悪いのは私です。私から、一方的にしたので……。あの時は、とても良い雰囲気になって……衝動的な行為でした……」

「……」

「結局、私は意思が弱く、お姉様から期待されたような生き方はできないようです。以前にも、アリスさんとの間で、同じようなことがありましたが……」

「……それって、早見が心中を持ちかけてきた時の話か?」


 俺が尋ねると、宝積寺は気まずそうな顔をした。


「ご存知だったのですか?」

「ああ」

「……あの時、アリスさんから持ちかけられたのが心中ではなく、裸で抱き合うことであったなら……私は応じてしまったでしょうね……。アリスさんを叩いたのは、自分に対する怒りがあって、八つ当たりをしたのだと言われても否定できません。手っ取り早く不安を紛らわせるような人間になってほしくないので、お姉様は性的な接触を戒めたのかもしれないと思う時もあります」

「……」

「私は、精神的な苦しさを紛らわすためだけに、恋愛感情のない相手と性的な接触をしてしまうような、自分の弱さが嫌になりました。ですので……この町から離れて、外で暮らしたいと考えております」

「!?」


 宝積寺が……外で暮らす!?

 数十人を殺すことを、大したことではないと認識しているような女が……!?


「お前……外に、自分の居場所があるとでも思ってるのか!?」

「思っていません。受け入れてもらうためではなく、自分を見つめ直すために出て行くのです」

「やめとけよ! 外では、人が1人死んだだけで、大騒ぎになるんだぞ!? 間違いなく迷惑をかけるし、お前だって不幸になるはずだ!」

「もう決めたことです。美樹さんにもお伝えしました。……美樹さんも、考え直してほしいと思っていらっしゃるご様子でしたが……」

「当たり前だろ!?」

「……私は、この町でも迷惑がられています。結局、私の居場所など、この世界には存在しないのかもしれません」

「……」


 確かに、この町にいても、こいつが幸せになれるとは思えない。

 だが……まさか、外に行こうと考えるとは……。

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