第22話 宝積寺玲奈-6
「魔女は、中心都市の住民の中から、特に魔力量の多い者を集めて選ばれます。そして、『闇の巣』の向こうに存在する世界を破壊し、脱走者を抹殺する、という名目で派遣されます」
「……ちょっと待てよ。異世界の連中は、『闇の巣』の向こうに、この世界があることを知ってるのか?」
「はい。どうやって知ったのかは分かりませんが……何らかの強力な魔法を使えば、この世界の様子を知ることができるのかもしれません。強大な魔力を有する何者かが、この世界に来てから、向こうの世界へ帰った可能性もあります。あるいは……」
「……何だ?」
「……いえ。情報が伝わったことの証拠として、異世界の中心都市では、『闇の巣』の向こうにある世界の言語として、日本語が知れ渡っています」
「日本語が……? それじゃあ、この世界のことが、かなり詳しく知られてるんだな」
「……違います。不思議なことに、捕らえた異世界人の中に、この世界のことを事前に知っていた者はいなかったようなのです。この世界が実在すると確信して、こちらに来るわけではありません」
「……どういうことだ?」
「分かりません。『闇の巣』へ飛び込む人を減らすために、詳しい話については、広まらないようにしているのかもしれません」
「だったら、魔女は、この世界について何も知らないまま来るのか? 何がしたいんだ、異世界の連中は?」
「魔女の派遣は、宗教的な意味合いの強い儀式なんです。一度に派遣される魔女は、11人と決められています。異世界の人間にとって、11という数字は神聖なものです。11人の聖なる女が、裏切り者を、本当に存在するのか分からない異世界まで……あるいは、死後の世界まで追いかけて、神に代わって裁きを与える。そこに、異世界の民衆は、美しさと尊さを見出すのです」
「理解できねえな……」
「……現実的な話をするのであれば……中心都市の人間としては、強大な魔力を有する者が魔女になり、『闇の巣』の向こうに行ってしまうことで、ライバルとなる女が減ってくれた方が助かるのだと思います」
「酷いな、色々と……」
「馬鹿馬鹿しく思えるかもしれませんが、魔女は、この世界にとって脅威です。遭遇したら、逃げるしかありません。黒崎さんも、覚えておいてください」
「……まあ、警戒はするが……」
俺はため息を吐いた。
この世界は、異世界人の事情で、大きな迷惑を被っているようだ。
勝手に憧れたり、ゴミ捨て場にしたり、殲滅しようとしたりするのはやめてもらいたい。
「……すいません、一度に色々と話してしまって。お疲れですよね……?」
「まだ、色々と話したいことは残ってるんだが……今日のところは、これぐらいにしてくれ。実は、御倉沢の家で、一度倒れちまってな……」
「そんな……! 大丈夫なんですか!?」
「大したことはねえよ」
俺がそう言っても、宝積寺は、不安そうに俺のことを見つめた。
しばらくして、深々とため息を吐く。
「……だったら、良いのですが……」
「心配させて悪かったな」
「いえ……」
「……なあ。俺の、結婚のことなんだが……」
「その話はやめてください」
「……」
「すいません……。まだ、頭が整理できないんです」
「……分かった」
「明日は、今までと同じように……登下校をしていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
「……ありがとうございます」
「礼を言うべきなのは俺の方だろ。今まで、異世界の侵略者から、俺のことを守ってくれてたんだよな?」
「……私が、やりたくてやったことですから……」
「ありがとな」
「……」
宝積寺は真っ赤になって俯いた。
それから、意を決した様子で言った。
「……あの……こんなことを言うと、不愉快だと思われるかもしれないのですが……」
「何だ?」
「御倉沢のことは、なるべく信用しないでください。本家の人だけではなく、麻理恵さんも、一ノ関さんたちも……。あの人たちは、黒崎さんに害を及ぼすおそれがあります」
「生徒会長は、確かに胡散臭い人だったが……平沢や一ノ関は、悪人じゃないと思うぞ?」
「あの人たちは……悪い人ではないのかもしれません。ですが、御倉沢の命令であれば、黒崎さんに酷いことをするかもしれません。御倉沢は、所属している者に対して、忠誠と服従を要求しますから……」
「じゃあ、神無月は違うのか?」
「神無月は……どちらかといえば、自由放任主義です。御倉沢と違って、所属している方々に、結婚を強制したりはしません。町の外に出て行った人を、裏切り者扱いすることもありませんから……」
「でもな……俺をこの町に呼んだのは、神無月だって聞いたぞ?」
「……申し訳ありません」
「いや、恨んでるわけじゃないんだが……」
「町の外にいて、魔力を有する人は、そのほとんどが神無月の子孫です。神無月は、所属する人間を、積極的に町の外へ送り出していますから。ですが……黒崎さんは、御倉沢の脱走者の家系でした。神無月の調査不足です……」
「脱走者、か……」
「……すいません」
「いや、事実が分かって良かった。話の続きは、また今度にしてくれ」
「……当面は、異世界の魔物に注意してください。それと、黒崎さんは異世界の言語を話せませんから、異世界人と会ったら、なるべく刺激しないようにしてください。相手には、掌を見せないように、注意してくださいね? 握った両手を掲げると、敵意がないことを表せますから……」
「分かった」
俺は、宝積寺に見送られて、自分の家に戻った。
宝積寺と俺の関係について、話ができなかったのは残念だが……今すぐに宝積寺と縁を切れば、俺は、完全に御倉沢の配下になってしまう。
まだ、御倉沢のことを、それほど信用することはできなかった。
今日は、色々な意味で疲れた……。
俺は、普段よりも早く寝ることにした。




