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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第189話 大河原桃花-8

「お兄ちゃん。私のことは桃花って呼んでよ」


 大河原桃花は、頬を膨らませながら言った。

 こいつの場合、こういう言動をされると、あざとさを感じてしまう。


「お前……本気で俺の妹になるつもりか?」

「仕方ないでしょ? お兄ちゃんとお姉ちゃんが結婚したら、私は義妹になるんだから」

「そうじゃない。俺がお前を名前で呼ぶってことは、実の兄妹みたいな関係になるってことだ。そうじゃないなら、そんな親しげな関係になるつもりはない」

「……そっか。妹になりたかったら、エッチなことをさせろってことだね?」

「誰もそんなことは言ってねえだろ! 無理矢理、エロい方向に話を持って行くんじゃねえ!」


 こいつは……間違いなく、俺に対して悪意を抱いている。

 一体、俺がいつ、この女に対して性的な行為を要求したというのか?


「桃花、黒崎君をからかわないで。黒崎君が求めているのは、手っ取り早く性欲を満たしてくれるような妹じゃないわ。可愛くて、優しくて、従順で、お淑やかで、何より兄のことが大好きな妹に決まっているじゃない。性欲を満たすことを要求するのは、言うことを聞かせた後よ」

「いや、先生、それはさすがに……」

「そうだよね。お兄ちゃんには、性欲以上に支配欲が溢れてるんだもんね」

「そのとおりよ。よく分かっているのね」

「うん。この日のために、お兄ちゃんの日記を、隅から隅まで読んだんだから」

「……」


 俺って……そんなに、女を服従させたい欲望に溢れていると思われているのだろうか?

 この姉妹と話をしていると、生きる気力が削られていく……。


「黒崎君、安心して。桃花は、きっと貴方の期待に応える妹になるわ」

「……どういう根拠で言ってるんですか?」

「だって桃花だもの」

「ここで、あかりさんと同じロジックを使わないでください……」


 うんざりしてしまう。

 姉妹の仲が良好なのは結構だが、お互いのことを盲信するのはやめてもらいたい。


「そうだよ、安心してよ。私、ちゃんとした妹になるから」

「だったら、俺や俺と親しい女に危害を加えるなよ? もちろん、記憶を消すのも、メールに書いたことを流布するのも禁止だ」

「いいよ。お兄ちゃんが、お姉ちゃんに相応しい男になるなら」

「……『相応しい男』なんて、お前の主観で決まる要素を入れるな」

「そんなに難しいことは要求しないよ。お姉ちゃんを捨てたら、生まれてきたことを後悔してもらうだけだもん」

「桃花ったら……。黒崎君に、あの時みたいなことをしたら駄目よ」

「そんなことしないよ」

「ちょっと待った! 『あの時』って……何ですか!?」

「……知らない方がいいこともあるわ」

「そうだよ、知らない方が身のためだよ」

「……」


 駄目だ、こいつら……ヤバすぎる……!

 魔法を使ってでも、この2人から逃げる方法について本気で考えてしまう。


「落ち着いて」


 俺は、先生に抱き締められた。

 先ほどの大河原と違って、こちらを包み込むような力加減だ。


「桃花には、ちゃんと言って聞かせるわ。私は、貴方達にいい関係になってもらいたいの」

「先生が言って聞かせるって……全然安心できないんですけど……」

「……分かったわ。だったら、美樹さんに間に入ってもらいましょう」

「美樹さんに……?」


 先生にとっての美樹さんは、宝積寺にとっての春華さんと同等か、それ以上の存在らしい。

 そんな人に仲裁してもらえるなら、先生に裏切られるような心配はしなくても良いだろう。

 だが、妹である大河原にとって、美樹さんがどのような存在なのかが不明であることが気がかりだ。


 そう思ったが、大河原は激しくうろたえた。


「えっ、美樹さん……!? ちょっと待って、そんなに大事にするの!?」

「当たり前でしょ? 貴方……自分が何をしようとしたか分かってるの?」

「だって、お兄ちゃんの記憶を消しても、それでお姉ちゃんと暮らせれば結果オーライでしょ!?」

「……そんなわけがないじゃない。私のことを想ってくれるのは嬉しいけれど、やり方が極端なのが貴方の悪いところよ」

「……」


 大河原は、いきなり土下座した。


「ごめんなさい」

「そんなパフォーマンスをされてもな……」

「駄目なの? 北上先輩のことは、すぐに許したのに」

「それは北上だからだ」

「じゃあ、服を脱いでキスしたら許してくれる?」

「やめろ! お前……全然反省してないだろ!?」

「だったら、どうすればいいの?」

「さっき言っただろ……。絶対に、俺や、俺と親しい人間に危害を加えるな。勝手に記憶をいじるな。俺のメールのことは秘密にしろ」

「……分かったよ。言うとおりにするよ」

「それと……他人の家に忍び込むな。須賀川には、家に入ったことを謝れ。それだけ約束してくれれば、お前のことを妹だと認めてやってもいい」

「須賀川先輩って、私のことを嫌ってるんでしょ? お兄ちゃんのメールに、私のことを悪女だって言ったって書いてあったよ?」

「それは不法侵入とは関係ない。それに、須賀川がそう言ったのは、お前が忍び込んだ後だ」

「……分かったよ。仕方ないから言うとおりにしてあげる」

「どうして偉そうなんだよ……」

「だって、私が妹になってあげることって、お兄ちゃんにとってはメリットしかないんだよ? 少しは感謝してもらわないと割に合わないよ」

「俺は、妹になってほしいなんて頼んでない。お前が頼んでるだけだ」

「……」


 大河原は不満そうな顔をしている。

 自分がここまでしているのに……そう思っているようだ。


「黒崎君、桃花は有能よ。まともに戦ったら、間違いなく私より強いし、アリスとだって五角に渡り合うかもしれないわ」

「まさか……」

「本当よ。贔屓目で見ているわけじゃないわ」

「……」


 そういえば、大河原は莫大な魔力を保有しているはずだ。

 魔獣は簡単に始末していたし、姿を消す魔法だって使える。

 おまけに、早見ですら使えないはずの、催眠術をかける魔法だって使えるのだ。

 本当に早見に匹敵するほど強いのかは分からないが、それに近い実力があってもおかしくない。


「でも、こいつがどれだけ強くても、今は関係ありませんよね? 助っ人を募集してるわけじゃないんですから」

「関係ならあるわ。桃花ほどのボディーガードがいれば、この町の女性が貴方に近付くのは難しくなるもの」

「この町の女性……? 何の話をしてるんですか?」

「貴方も知っていると思うけど、『闇の巣』が閉じるまでに、それほどの時間があるわけではないのよ。そうなったら、大変なことになるわ。今のうちに、心構えをしないと」

「大変なこと……?」


 俺が意味を理解できずにいると、先生は重々しい口調で言った。


「この町で、子作りが本格化するのよ」

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