表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/301

第185話 大河原桜子-21

「このメールのことは、まだ知らない人には黙っておいてあげる。でも……今のままだと、問題が生じるわ」

「問題……?」

「黒崎君は、明日の朝になったら、ここで貴方に起こったことを、全てメールに書いて送ってしまうはずよ」

「いや、送りませんから!」


 さすがに、自分に催眠術がかかっていると分かっているのに、誰かにメールを送ったりはしない。

 そう思ったが、先生は首を振った。


「駄目よ。貴方にかけられた催眠術が、どんなものか分からないもの。ひょっとしたら、メールを送っている自覚のないままで、送ってしまうかもしれないわ。今までも、日記のようなものを書いているつもりはなかったんでしょう?」

「……」


 そんなことを認識していたら、あんな酷い内容のメールを送るはずがない。

 ちょっとした文章を送ろうとして、やたらと時間がかかったことが何度もあったが……あれは、日記に書くべき内容が多かったために手間取ったのだろう。


 メールで日記を送っていたことを自覚できなかったのだから、自分でも気付かないうちに、メールを送ってしまうかもしれない。

 そのリスクは、先生に指摘されたとおりである。


「だから、黒崎君のスマホは私が預かっておくわ。それから、催眠術を解いてもらうために、神無月と交渉しましょう」

「ちょっと待ってください! 先生に……スマホを預けるんですか!?」

「だって、貴方が全てを知ったことを神無月に知られたら、何をされるか分からないでしょう? 最悪の場合、玲奈ちゃんにメールのことを知られる前に、貴方を消そうとするかもしれないわ」

「それは、あり得ませんよ。俺だって、メールのことを宝積寺に知られたら困るんですから」


 単純に、俺達のプライバシーを知られていたことだけが問題なら、俺は宝積寺に相談するだろう。

 それを懸念して、俺の暗殺を計画する人間がいてもおかしくない。


 だが、流出してしまった情報の中には、宝積寺に知られたら、俺が殺されかねない内容が含まれているのだ。

 普通に考えれば、俺は誰にも相談できないため、危険を冒して俺を消す必要などない。


「神無月なら、やりかねないわよ。黒崎君は、一生、玲奈ちゃんに隠し続ける覚悟があるの?」

「……」

「貴方が罪悪感に耐えられなくなって、玲奈ちゃんに相談する前に、メールを無かったことにするかもしれないわ。私と花乃舞に任せてくれたら、これ以上は傷が広がらないように、綺麗に解決してあげる」

「だからって……スマホを先生に預けるのは……」

「私のことが信用できないの?」

「……」

「信用できないなら、それは仕方ないわね。でも、御倉沢の子も、アリスや北上さんも、黒崎君を騙していたのよ? 貴方の周囲に、信用できる人なんているの?」

「……宝積寺のことは信用できます」

「分かるわ。だけど、玲奈ちゃんが、もしも黒崎君のメールを読んだら……どうなるかしら?」

「……」

「黒崎君から心が離れるだけならともかく、殺意を覚えるかもしれないでしょ? メールのことを隠したままで、この問題を解決するために、玲奈ちゃんに協力してもらえるの? そんな危ない手段を選ぶよりも、私や花乃舞の力を借りた方が賢明だわ」


 先生に質問されて、俺はしばらく考えた。

 そして、迷いながらも結論を出す。


「悪いんですけど……今回のことで、先生や花乃舞に頼るつもりはありません」

「どうして? 玲奈ちゃんに、私達のことを信用するなって言われたから?」

「それもありますけど……一番の理由は、俺の直感です」

「……驚いたわ。黒崎君って、そんなものを信じて行動するタイプだったの?」

「普段は信じません。でも、今は非常時なんで……」

「そんなに、私って胡散臭いかしら……?」

「メールについて教えてくれたことは、感謝しています。ですが……俺のプライバシーが流出していることは、もっと早く教えてほしかったです」

「だって、梅花様が『黒崎和己には黙っておけ』とご指示なさったから……」

「……花乃舞の当主は小学生ですよね? 俺の考えたことが流出すると、俺にとって深刻なダメージになるなんて、認識していたとは思えません」

「梅花様はとても賢い御方よ。円に情報を流したのは、黒崎君に、情報が流出していることに気付くチャンスを与えるためだったのよ」

「……余計に、被害が拡大してるじゃないですか。それに、先生だって、俺がスマホを手放した隙に、勝手に見てたんですよね? 酷いじゃないですか」

「あら。私は、黒崎君のスマホを盗み見たりしてないわ」

「……だったら、どうして俺のメールの内容を知ってたんですか?」

「送った先のメールを見たのよ。神無月って、セキュリティが甘いから」

「……それって、不正アクセスっていうやつじゃないんですか?」

「この町には、外の法律なんて適用されないわ」

「……」


 そんな開き直りをされても困る。

 第一、見ていたのが送った先のメールだったとしても、俺が送ったメールを見ていた事実は変わらない。


「神無月だって、私達にメールを見られたことには気付いたはずだわ。それなのに、メールを送らせることをやめなかったのよ。それだけじゃなくて、北上さんから黒崎君に『神無月には内紛がある』という情報を流して、私達を混乱させようとしたでしょ? あの人達からも、黒崎君は軽く扱われていた証拠だと思うわ」

「……あの時の、北上の話は嘘だったんですか?」

「当たり前よ。本当に内紛があるなら、花乃舞に情報が漏れていることを察している状況で、黒崎君に暴露するはずがないもの」

「……」


 それを言うなら、矢板が情報漏洩を示唆しているのに、俺に対して、露骨な内輪揉めの情報を流すのもどうかと思う。

 花乃舞の連中がちょっと考えれば、偽の情報だとバレてしまうだろう。

 北上なりに考えた対策だったのかもしれないが、あまり利口な策ではなかったと思える。


「俺だって、御倉沢や神無月を信用しているわけではありません。ですが、花乃舞や先生に頼るのは嫌なんです」

「……酷いわ。私は、貴方を助けてあげたいだけなのに……」

「色々なことを教えてくれたことには感謝しています。ありがとうございました」

「……」


 俺は、先生を部屋に残したまま立ち去った。



 先生の、俺のことが好きだという言葉を疑っているわけではない。

 しかし、ここで先生や花乃舞を頼るのは、神無月に喧嘩を売っているようなものであり、リスクが大きすぎる。

 それよりは、俺が自力で解決するべきだろう。


 今、俺がやらなければならないことは2つだ。


 既に送ってしまったメールを削除してもらうこと。

 今後、新しいメールを送ってしまわないように、催眠術を解いてもらうこと。


 これらのことを実現できる人物は1人しかいない。

 俺に催眠術をかけた張本人……北上である。


 北上は気が弱い。

 強引に頼めば、メールの削除にも、催眠術の解除にも同意してくれるはずだ。


 北上や神無月だって、宝積寺に俺のメールが見られることを望んでいないだろう。

 そんなことになれば、報復されるのは俺だけじゃ済まないかもしれないからである。

 ならば、その点を突いて頼み込めば、北上を説得できる可能性は低くない。


 明日の朝になればメールを送ってしまうかもしれない。今日中に解決する必要がある。

 北上は、今日も病院にいるだろう。


 俺は、先生の家から出るために、玄関へ急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ