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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第184話 大河原桜子-20

 メールには、俺にとって秘密にしなければならない内容についても、平然と記されていた。


 宝積寺が下着姿で寝ていたことだけでなく、春華さんのプレゼントである赤いリボンについて、子供っぽいと思っていたことも包み隠さず書いてある。

 こんなメールの存在を宝積寺に知られたら、俺は殺されかねない。


 そして……今だけは、それよりも重大な問題が生じていた。

 メールには、目の前にいる先生について考えていたことも、とても自慢げに書いてあるのだ。

 毎日のようにマンツーマンで授業を受けていただけあって、書いてある分量は、他の誰のものより多い。

 その内容は、エロい対象として見ているということ、そして……。


 俺は、死刑宣告の直前のような気分で先生の顔を見た。

 先生は、満面の笑みを浮かべながら、こちらを見返してくる。


「挟んでほしいの?」

「すいませんでした!」

「いいのよ。男の子って、そういうものなんでしょ? ちゃんと分かっているわ。それよりも……」


 先生は、可愛らしく首を傾げた。


「『おっぱいが本体』ってどういう意味かしら?」

「……」

「あと、『前世はホルスタイン』だって思った根拠を教えてほしいわ」

「……」

「それから、『禁断の乳搾り授業』とか『真夜中の搾乳体験』とかいう言葉もあったけど、母乳を飲んでみたいの? そうだとしたら、子供を産んでからじゃないと無理よ?」

「……知ってます」

「だったら良かった。責任を取って、産むまで頑張ってくれるのね?」

「……それは……」

「嫌なの? ……そうよね。『排便と生理と妊娠は女の価値を下げる』のよね」

「……本当に、そう思っているわけでは……」

「今さら取り繕っても駄目よ」

「……」

「黒崎君は、私のことを、ずっと馬鹿にしていたんでしょう?」

「そんなことは……」

「『天職の売春婦に転職』だなんて、酷すぎるんじゃないかしら。全然笑えないんだけど」

「……」

「『教師としては三流、ラブドールとしては一流』っていうのも、とってもショックだったわ。握り潰してやろうかと思っちゃった」

「……」

「一番許せないのは、『あの格好なら犯されても文句を言うな』っていう言葉よ。はっきり言って、人として最低よね。本気で、玲奈ちゃんに全て暴露してやろうかと思ったわ」

「や、やめてください……!」

「ところで、『あの胸で圧死して天国に行きたい』って書いていたけど、身動きできないようにして、おっぱいを顔に押し付けたら、人って窒息死するのかしら?」

「……知りません……」

「試してみてもいい?」

「やめてください!」

「冗談よ。私、貴方のことが好きなの。そうじゃなかったら、いくら年下の男の子でも、身体を委ねたりしないわ」

「……ありがとうございます」

「でも、あんなに罵詈雑言を書かれたら、殺意が湧くのは当然よね。大抵の女性は、今まで好きだったとしても、愛情なんて消え去るはずよ」

「……」

「それなのに、私の中には愛情も残っているの。自分でも不思議だわ。とっても複雑な気持ちよ」

「……すいません」

「ひょっとしたら、一生許せないかもしれないわ」

「……」

「エッチなことを考えるのはいいの。でも、ここまで見下されたら、誰だって許せないわよ」

「……すいません」

「それにね。黒崎君が見下しているのは、私だけじゃないでしょ?」

「……」

「『こういう女は、ちょっと口説けば簡単に股を開くはずだ』って、メールに書いてある言葉よ。アリスが怒って、誰かに伝えたくなったのは当然だわ」

「このメールを、早見にも……!?」

「北上さんが送らせたメールなら、アリスだって見ているでしょうね。その証拠に、アリスは黒崎君の事情を知っていたでしょう? ついでに言うと、愛様も見たはずよ」

「……」


 俺の事情が、寝室の中のことまで知られていたのは、自分でメールに書いて送っていたからだったのか……!

 あまりのことに、絶望の海に突き落とされたような気分になる。


「他にも、本人に見せたら絶対に怒ることばっかり書いてあるわ。顔立ちや体型を馬鹿にするのも問題だけど……『奴隷にしたい』とか『首輪でつないで飼いたい』とか『裸にして部屋に飾りたい』とか……。女性を、自分よりも下等な生き物だと思っている証拠よ」

「……それは、そのメールが、男友達に向けた書き方になってるから……」

「内心で見下していなければ、こういう書き方はしないはずだわ」

「……」


 一ノ関を罵倒する言葉は、捏造されたと思い込んでいた。

 自分で考えていたなんて気付かなかった。


 俺がこんなに女を蔑んでいたなんて、自分でも驚きである。

 だが、日記の内容こそが、俺の本性だと思われたとしても当然だろう。


 ……死にたい。

 本気でそう思った。


「でも、ちょっとだけ同情してあげる。わざわざ、黒崎君の汚い部分を炙り出すような書き方をさせるなんて、悪意があるわよね。きっと、一緒に訓練していた時に、アリスは黒崎君の本性に気付いたのよ。だから、それを明らかにするような書き方で、メールを送らせたんだわ」

「……それだけが目的なら、毎日、メールを送らせなくても……」

「当然、主な目的は、御倉沢の動向を知ることだったはずよ。当初の予定では、黒崎君は、北上さんと恋人同士になるはずだったんだもの。御倉沢だって、それに釣り合うように、一ノ関さんや渡波さんよりも重要な人物を恋人にすると予想してもおかしくないわ。でも、黒崎君は玲奈ちゃんと恋人同士になってしまったでしょう? 結果として、御倉沢の幹部とお付き合いをしなかったから、スパイとしては機能しなくなってしまったのよ。その代わりに、玲奈ちゃんの動向を知るために機能するようになったのよね」

「……」

「黒崎君が女の子を下に見ていることは、大抵の子が気付いていると思うわ。指摘されたことがあるでしょ?」

「……はい」


 御倉沢の人間である渡波が、神無月に宛てたメールを見ていたとは思えないが、はっきりと指摘された。

 隠していたつもりでも、態度で分かってしまったのだろう。


「できれば、更生することを勧めるわ。玲奈ちゃんだって、いつまでも大人しい箱入り妹のままでいるとは限らないんだから」

「……」


 宝積寺は、俺にとって好ましい女である。

 だが、それは、宝積寺が北上を参考にして、大人しくて従順な女として振る舞っているからだ。


 春華さんは北上を理想としていたが、宝積寺の本性は北上とは異なる。

 いずれ、俺と夫婦の関係になったとして、今と同じような女のままでいるとは限らないのだ。


 本当は……ずっと今のままでいてくれたら、それが一番いいのだが……。

 この本心については、誰にも知られたくなかった。

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