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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第166話 大河原桃花-3

「つまり、俺には、年上の先生と恋人になる可能性があるから、希望の存在だってことか?」

「はい。ですが、それだけではありません。私にとっても、先輩は大変興味深い存在です」

「お前にとっても……?」


 大河原は、わざわざ振り返って、笑顔を浮かべながら言った。


「実は、私にも、宝積寺先輩と同じようなところがあるんです。ですから、宝積寺先輩とも親しくしていらっしゃる黒崎先輩は、特別な人だと思っています」

「……そうか」


 宝積寺には極端な二面性がある。

 そして、それは大河原も同様だ。

 つまり、二面性のある女とも付き合える男だから、俺には希少価値があるということだろう。


 そう思ったが、大河原は笑顔のまま俺に告げた。


「言っておきますが、私と宝積寺先輩が同じなのは、性格に裏表があるとか、そういうことではありませんよ?」

「……?」


 だったら、一体、どこが……?

 そう考えていると、大河原は一旦足を止めて、こちらに近寄ってきた。


「私、イレギュラーの時に宝積寺先輩が何をしたのか、姉から聞いております」

「……?」


 言われても、すぐには意味が理解できなかった。


 イレギュラーの時に、宝積寺がやったこと……?

 大河原も、同じ……?


「……!?」


 ようやく意味を理解した瞬間、俺は思わず後退っていた。

 脳みそが、俺の全身に、大災害を予告しているような感覚に襲われる。


「お前、まさか……!」

「どうなさったんですか、黒崎先輩? 宝積寺先輩がなさったことを知ってからも、お二人は恋人同士なのですよね?」


 大河原は、人懐っこい仕草で距離を詰めてきた。

 本気で身の危険を感じて、俺は逃げ出しそうになる。


「ご安心ください。私は、理由なく人を殺したりしませんから。宝積寺先輩だってそうでしょう?」

「……」


 宝積寺とは、俺があいつの本性を深刻に受け止める前の時点で、かなり親しくなっていた。

 だから、よほどのことがなければ、宝積寺が人を殺さないことを知っている。

 いや……あくまでも、宝積寺の主観が基準なのは分かっているのだが……宝積寺が怒るポイントは分かっているし、それなりに信頼しているのは確かだ。


 しかし、大河原桃花がどういう人物なのか、俺は知らない。

 この状況で、警戒しないはずがないだろう。


「ついでに申し上げると、私は、人を殺すのが好きなわけではありません」

「……そうなのか?」

「はい。ただ、人を痛め付けるのが好きなだけです」

「……!!」


 激しい恐怖を覚えて、俺は目の前の女から、一気に離れた。

 その反応に、大河原は不満そうな顔をする。


「どうして、そんなに怖がるんですか? 殺さない私の方が、宝積寺先輩より、まともだと思うのですが……」

「むしろタチが悪いだろ!」

「そんな! 私は、誰かを痛め付ける時には、愛情を込めてやります!」

「関係ないだろ! やられる方の身になってみろ!」

「……酷いです。このことは、姉にすら教えていないことなんですよ? 先輩を見込んでお話ししたことなのですが……」


 大河原は、可愛らしく不満そうな顔をした。

 だが……そういう表情を意図的に作れるのは、こいつが相手を油断させるスキルを身に付けているからではないだろうか?


「先生は……お前のことに、気付いてないのか?」

「おそらく、気付いていると思います。私達は、何でも話す関係ですから。はっきりと質問されたことがないので、話していないだけです」

「……」

「ですが、そんな私であっても、姉は愛してくれます」

「まあ、そうだろうな……」


 この町では、姉妹は親子のような関係である。

 欠点のある妹だからといって、簡単に見捨てられるはずがない。


「先輩が、どんなに凶暴な女性でも愛せる男だと知って、私はとても嬉しかったんです。そういう人なら、ちょっと攻撃的なところのある姉のことを、安心して任せられますから。それに、私との義兄妹関係にだって支障がないでしょう?」

「俺は、凶暴な女が好きなわけじゃない!」

「存じ上げております。本当は、松島さんのような、優しくて、美人で、スタイルが良くて、男性に対して従順な女の子が好きなんですよね?」

「……先生がそう言ったのか?」

「分かりますよ。男性って、大体はそうですから。そういう男性には、私のような可愛い義妹が不可欠だと思います」

「自分で言うなよ……。ていうか、さっきと自分の評価が違いすぎるだろ」

「あら。宝積寺先輩とお付き合いをしていたら分かりますよね? どちらも、私であることに変わりはありません」

「……」

「ついでに言わせていただくと、黒崎先輩って、早見先輩みたいな、小悪魔っぽい女性のことも好きですよね?」

「……早見は例外だ。あいつほどの女は、この町にだって他にいないからな」

「私も、早見先輩と同じくらい美人だと思いますけど?」

「……」


 否定しようとしたが、言葉に詰まった。

 個人的には早見の方が好みだが、大河原が見劣りすると断言するのは難しいからだ。


 こいつも早見も、骨格や内臓といった根本的な部分が、他の女と違う。

 いや、それ以上に……自分の容姿に絶対の自信を持っており、他人に見られることに慣れている。

 そのためなのか、姿勢とか、表情とか、身体の使い方とか、そういった部分に差があるのだ。


 他の女であれば、例えば北上や宝積寺だって充分に美人なのだが……あいつらには、他人に見られることへの抵抗感があるのだろう。

 そのせいで、他者を惹き付ける魅力が劣るのかもしれない。


「でも、スタイルがな……」


 俺は、思わず呟いていた。


「先輩。それは胸の話ですか?」


 大河原が、一瞬で距離を詰めてきてから言った。

 その顔は笑みを浮かべたままだが、目が笑っていない。


 ……どうやら、地雷を踏んでしまったらしい。


「い、いや、そうじゃなくてだな……」

「そのようなご評価を頂けるのでしたら、私としては、お礼に先輩の下半身の長さを調べて、皆さんに発表したいと思います」

「どうやって調べるんだよ!?」

「脱がせて測るに決まっているではないですか」

「よせ! やめろ!」

「失礼いたしました。人の身体のサイズを勝手に測るのは失礼ですから、切り離して、ただの物体にしてから……」

「勘弁してくれ!」

「冗談です」

「……」

「ですが、酷いと思いますよ? 姉も私も、胸の大きさのことは、とても気にしているのですから」

「……悪かった」


 大河原先生は、自分の胸が大きすぎることを気にしている。

 一方で、妹の大河原桃花は、自分の胸がそれほど大きくないことを気にしているようだ。

 なぜ2人を平均した大きさではないのかと、どちらも思っているかもしれない。


 人の身体というのは、思いどおりにならないものだ……。

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