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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第163話 一ノ関水守-14

「宝積寺や早見が何をしても、お前らが気にする必要はない」


 俺はそう主張したが、須賀川は首を振った。


「そういう訳にはいかないわよ……。私達が一緒に暮らすようになって、夜に何をするのか、宝積寺だって知ってるのよ?」

「しかも、宝積寺玲奈は、私達が気付くことを想定して髪の毛を付けたはずよ。本気で喧嘩を売ろうとしているのかもしれないわ」

「……」


 別れ際の、宝積寺の様子を思い出す。

 あの時、あいつが普段よりも俺に接近していたのは、髪の毛を付けるためだったのだろう。


「黒崎。あんた、今日は水守の部屋で寝なさい」

「……どうして、そうなるんだ?」

「だって、ここで退いたら宝積寺の思う壺じゃない。私達は、あいつに負けるわけにはいかないのよ」

「宝積寺を宥める時間は必要じゃないのか?」

「無理よ、宝積寺を説得するなんて。そんなことができるなら、とっくの昔にできたはずよ」

「……」

「あんたに良心があるなら、私達を見捨てる選択だけはしないで。お願いよ」

「鈴……貴方が先じゃなくていいの?」


 一ノ関は、困惑した顔で言った。

 宝積寺のことよりも、須賀川のことが心配なようだ。


「いいのよ。黒崎が、最初に抱きたくなったのが水守なんだから」

「でも……」

「遠慮はいらないわ。私達、今日から、ずっと一緒に生活するのよ?」

「……」

「……仕方がないでしょ? 黒崎に、同時に相手をさせるわけにはいかないんだから」

「……そうね」

「お前ら……俺の意見は聞かないのか?」


 俺がそう言うと、須賀川は意外そうな顔をした。


「何よ? あんただって、水守の方がいいでしょ?」

「そんなことはない。俺は、お前らのことを平等に愛してるつもりだ。そういう約束だからな」

「そ、そう……?」

「だから、順番はじゃんけんかくじ引きで決めろ。それなら、一ノ関だって納得するだろ?」

「……そうね」


 須賀川と一ノ関は、じゃんけんで順番を決めた。

 結果として、今夜の相手は一ノ関になった。



 そして、その夜。


「……」

「……」


 俺は、一ノ関の部屋にいた。

 2人で並ぶように、ベッドに腰掛けている。


「麻由里さんの料理は、美味しかったな」

「……そうね」

「だからって、冷蔵庫を一杯にしなくても良かったと思うが……」

「……そうね」

「……」

「……」


 会話が続かなくなる。

 俺だけでなく、一ノ関も緊張しているようだ。


 一ノ関は、夕食の時にも、あまり食欲が湧かない様子で、自分で作ったジャム以外はほとんど食べていなかった。

 どうやってムードを作ればいいのか分からないでいると、一ノ関は俺に寄りかかるように身体を傾けた。


「……一ノ関?」

「良かったわ。黒崎君と一緒に暮らすことができるようになって……」

「そうか」

「でも……これで良かったのかしら?」

「……どうして、そう思うんだ?」

「だって……私達は、宝積寺玲奈から、黒崎君を奪い取ったことになるから……」

「お前……今さら、それを気にするのか? もっと早く気にしてほしかったんだが……」

「同居することになったから気にしているのよ。今までは、結婚していた時だって、宝積寺玲奈の方が黒崎君の近くにいたから……」

「……」

「……悪いと思っているわ。黒崎君にも、宝積寺玲奈にも……」


 そう言った一ノ関を、俺は抱き締めて、頭を撫でた。


「……黒崎君?」

「女の感触って、いいな」

「……」

「普通の男には、こうしたい欲求があると思うんだが……宝積寺には、とてもできないことだ」

「……宝積寺玲奈が、触ってもいいって言ったら?」

「それは……言われてみないと分からないな……」

「……触りたい欲求はあるのね」

「あるかと質問されたら……まあ、あるが……」

「……」

「だが、宝積寺とそういうことをするのは、リアリティが感じられないんだよな……」

「宝積寺玲奈だって、生涯に渡って、お互いの身体に触れないような関係を続けたいとは思っていないはずよ」

「確かにな……。だが、宝積寺から、他人に触れられるのが好きじゃないと言われたばっかりだ」

「黒崎君は、あの子にとって他人じゃないわ」

「いや……あれは、明らかに俺を牽制してた」

「……」

「俺は、プラトニックな関係に不満があるからな。それを察してるんだろ」

「私達が、黒崎君を変えてしまったのかしら……?」

「まさか。ずっと我慢してただけで、本当は、早くエロいことをしたいと思ってたに決まってるだろ」

「……」

「……男なら普通のことだ」

「……非難しないわ。そうだったらいいと思っていたもの」

「そうか……」

「……」

「……」


 一ノ関は目を閉じた。

 俺は、そっと唇を重ねた。



「水守、黒崎、起きて!」


 翌朝、須賀川の声が聞こえて目が覚めた。


 見ると、ベッドの脇に須賀川が立っている。

 その顔は、少し青ざめているように見えた。


「鈴……?」

「……もう学校に行くのか? 随分と早いな?」


 俺は、時計を確認しながら言った。

 起きようと思っていた時間まで、まだ1時間以上ある。


「家の前に、宝積寺が来てるわ」

「いや、早すぎるだろ!?」


 俺は飛び起きてしまった。


 しかし、俺も一ノ関も裸のままである。

 一ノ関は、ずれた布団を反射的に直し、俺を見た須賀川は嫌そうな顔をした。


「水守、私達は先に行きましょう。宝積寺だって、さすがに、私達だけで学校に行くのを妨害しないはずよ。黒崎は、宝積寺と一緒に学校に行って」

「……いいのか?」

「いいも悪いもないわよ……。宝積寺を追い返して、3人で仲良く学校に行ったりしたら、あいつが何をするか分からないじゃない」

「生徒会長は、宝積寺のことを、普通の女子と大差ないと言ったんだが……」

「吹雪様の仰ることは間違いじゃないわ。だって、相手が普通の女の子でも、そんなことをしたら何をされるか分からないもの。特に、あんたの場合、宝積寺にお弁当を作ってもらってるでしょ? カッとなったら、わさびや唐辛子を入れるくらいのことはすると思うわ」

「……」


 ……女って怖い。

 はっきり言って不気味だと思う。


「私達は、宝積寺に喧嘩を売りたいわけじゃないの。だから、あんたは宝積寺を刺激しないように注意して。間違っても、無駄な言い訳をしたり、形だけの謝罪をしたり、開き直ったりしないで。責められたら、宝積寺を傷付けていることを、心から謝った方がいいわ」

「お前……随分と、宝積寺に優しくなったんだな?」

「私達は、宝積寺からあんたを奪い取ることを目的にしてるわけじゃないのよ? 無事に暮らせるなら、それが一番だと思うのは当然でしょ」

「……そうか」

「分かったわ。準備をするから……鈴は食べる物の準備をお願い」

「任せて」


 頷いて、須賀川は部屋から出て行った。

 一ノ関は布団から出ようとしたが、思い留まった様子で動きを止める。


「黒崎君……私が服を着るまで、目を閉じていてくれないかしら?」

「……見たら駄目なのか?」

「今は駄目よ。状況を考えて」

「……」


 残念だと思ったが、俺は目を閉じた。



 一ノ関と須賀川は、慌ただしく準備をして出かけた。

 家を出る時に、宝積寺とトラブルになるのではないかと危惧したが、2人は無事に出発したようだった。

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