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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第160話 宝積寺玲奈-18

「ところで、さっきの話ですけど……白石先輩は、桐生に何かを教えてるんですか?」


 俺が尋ねると、白石先輩は頷いた。


「美咲は、この町の人間とは違う教育を受けてきたからね。異世界の言葉とか、色々なことを教えないといけないんだよ。僕は家が近いから、愛に頼まれて家庭教師みたいな役割を引き受けたんだ」

「異世界の言葉……? 桐生は、そんなことを勉強してるんですか?」

「ああ。美咲は頭のいい子だけど、さすがに、全てを一から覚えるのは大変そうだよ」

「そうですか……」


 俺は、桐生について何も知らないという事実に気付いた。

 桐生だって、俺と同じように外から来たのだから、この町の教育水準の高さなどに苦しんでいるはずだ。


「なあ、宝積寺。桐生って、学校では誰の授業を受けてるんだ?」


 質問すると、宝積寺は困った顔をした。


「……美咲さんは、私達と一緒に、教室で授業を受けています」

「!?」

「さすがに、理解できない部分が多いご様子ですが……天音さんが隣の席にいらっしゃるので、分からない部分については、その場で確認していらっしゃいます」

「……」


 外で教育を受けていたはずの桐生が、この町の連中と同じ授業を……?

 それで深刻な問題が発生しないというのは、一体どれだけ頭が良いのだろうか?

 俺は、大河原先生にマンツーマンで教わりながら、宝積寺にも色々と教わっていたのに、成績が急上昇する気配はないのだが……。


「……黒崎さんの頭が悪いわけではないのだと思います。美咲さんには、異世界人の血が濃い状態で残っているようですので……」

「美咲は、外では有名な進学校に通っていたらしいよ。きっと、特に優秀だったんだろうね。それだけじゃなくて、あの子は身体能力も高いんだ。もっと早くこの町に来ていたら、実戦に臨んでもおかしくなかったよ。……いや、外から来た彼女を戦わせるつもりはないけどね」

「……」


 宝積寺が、困った様子だった理由が分かった。

 これ以上話すと、自己嫌悪に陥りそうだ……。


 俺は、白石先輩に感謝を伝えて、宝積寺と共に立ち去った。



「桐生とは仲がいいんだな」


 俺の家に向かう途中でそう言うと、宝積寺は頷いた。


「はい。美咲さんと一緒にいる時だけは、心が休まりますので……」

「……」

「……あ、あの……決して、黒崎さんと一緒にいるのが苦痛だというわけでは……」

「いや……フォローはしなくていい」

「……お姉様が仰っていたんです。女性は生涯に渡って女性であり、恋人であれ夫であれ、男性の前では気を抜くべきではないと……」

「……」


 春華さんは、周囲の人間からの期待に応えることが重荷や苦痛ではなかったらしいが……宝積寺は、気を張っていないと問題があるのだろう。

 だが、親しい相手の前で気を抜くこともできないというのは、疲れる生き方のようにも思える。


「俺の前では、素の自分を出してもいいんじゃないか?」

「……」

「……ひょっとして、嫌なのか? 女だからって、誰でも北上みたいに振る舞う必要はないと思うんだが……」

「……すいません」

「いや、謝る必要はないんだが……」

「気が緩むと、色々なことが面倒になってしまうんです。そのために、見られてはいけない姿を見られてしまいましたので……」

「……」


 初めて俺達が会った時のことを、こいつは今でも悔やんでいるらしい。

 俺にとっては良い思い出なのだが……そんなことをストレートに言ったら、こいつは激昂して俺を殺すかもしれない。


「だったら、他の女子と仲良くなればいいんじゃないか? 家が違うと難しい関係になるのは分かるが……例えば、松島なんて、いい奴だと思うぞ?」

「松島さんのように、向こうがこちらに気を遣っていると、私も気を抜けないです」

「……」

「……いい子だというのは、そのとおりだと思います」

「そうか……。だったら、これからは、時々あかりさんに会いに行ったらいいんじゃないか? そうしたら、あかりさんだって喜ぶと思うぞ?」

「……」

「……悪い。長町もいるから、気まずいよな……?」

「それもありますが……あかりさんには甘えられません。私は……あと少しで、あかりさんを殺してしまうところだったのですから……」

「さっき会って、和解したんだろ?」

「……だから嫌なんです。あかりさんは……謝れば、すぐに許してくれる方だと分かっていましたので……」

「……」

「3年前……私は、あかりさんに対する警戒を怠っていました。実の姉のように慕っていたのに……あかりさんは、私を止めようとする方だということが分かっていなかったんです。悔やんでも悔やみきれません……」

「戦うのに夢中だったら、そういうこともあるだろ」

「そうではありません。他の方々のことは、概ね、警戒していましたから……」

「お前……戦ってる最中に、仲間のことを警戒してたのかよ……?」

「違います」

「違いますって……どういうことだ?」

「あの時、私の仲間と呼べるのは、あかりさんと利亜さんと美樹さんだけでした。他の方々は、ただ一緒にいただけです」

「……その時のメンバーは、春華さんの仲間と、御三家の当主だったんだろ?」

「そうです。お姉様の仲間は、あくまでもお姉様の仲間であって、私の仲間ではありませんでした。それは、他の方々にとっても同様であったと思います。御三家の当主の方々は、各々の家を代表している存在にすぎません。あの時、あの場にいたメンバーが仲間の集まりだと思っていたのは、あかりさんだけだったのではないでしょうか」

「……」


 春華さんがいなければ、共に戦っていても、仲間ではないということか……?

 異常にドライな連中である。

 いや……それほどまでに、御三家の対立は深刻だということなのかもしれない。


「そういえば……細かいところにツッコミを入れて悪いが、早見はお前の仲間じゃなかったのか?」

「アリスさんは何をするか分からない方ですので、仲間ではありません」

「……」


 こいつ……仲間だと思ってない相手のことを、親友だと認識してるのか……。

 そういえば、早見は宝積寺に対して常に好意的だが、宝積寺は早見に触れられると迷惑そうな顔をしていることが多い。


 宝積寺と早見の関係が、あまりにも複雑であることに驚かされた。

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