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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第156話 長町あきら-5

「それにしても……やっぱり、先生はモテたんだな……」


 俺がそう言うと、長町はムッとしながら言った。


「あんな人、モテるはずがないでしょう? 馬鹿なことを言わないでください!」

「……あんな人って、お前……」

「大河原先生は、学生時代に、お姉様のことを散々馬鹿にしていたんです。お姉様が許しても、私は一生許しません!」

「……」


 そういえば、渡波が、そんなことを言っていた。

 水沢さんも、先生とあかりさんは仲が悪かったと言っていた気がする。


「お前が、先生のことを嫌うのは理解できるが……あかりさんの旦那さんは、学生時代には、先生のことが好きだったんだろ? つまり、少なくとも、男子には人気があったんじゃないか?」


 俺の質問を、長町は首を振って否定した。


「誰にでも喧嘩を売るような女性が好きな男なんて、多いはずがないでしょう? 大河原先生は、学生の頃から綺麗でしたけど……お姉様の方が、圧倒的にモテていました」

「そうだったのか?」

「当然です。お姉様は、世界で一番素晴らしい女性なのですから」


 長町は、陶酔したような表情を浮かべた。

 こいつ……あんなに嫌っている宝積寺と、こういうところはそっくりである。


「それなのに……お姉様は、好きな人がいることを伝えて、交際の申し込みは全てお断りしていたんです」

「一途な人なんだな……」

「はい。それほど愛されていながら、あの男は、お姉様の気持ちを弄んで……挙げ句の果てに、大河原先生に交際を申し込んだんです。呆気なく振られても、懲りずに、何度も……。大河原先生は、とても迷惑そうにしていたそうですが、あの男は、土下座しながら『お前の心を救えるのは俺だけだ!』とか言ったらしいです。ああ、気持ち悪い……」


 そう言いながら、長町は自分の身体を抱くようにした。

 酷いことを言っているようだが、確かに、その発言は気持ち悪いかもしれない。


「その場に居合わせた人によれば、大河原先生は、表情も変えずに、あの男の頭を踏みつけたそうです」

「それは酷いな!」

「いいえ。嫌われ者だった大河原先生であっても、その件については、皆から同情されたそうです」

「さすがに、やり過ぎだろ……」

「私も、人の頭を踏むのはどうかと思いますけど……日常的に『桜子のおっぱいは俺の物』なんて言っている男に、同情する人なんていませんよ」

「……ちょっと待て。あかりさんの旦那って、まさか……巨乳好きなのか?」

「そうです。さらに、それを公言していたので、あの人は女性からは嫌われていたと聞きました。特に、身体の成長が早かった大河原先生は、周囲の男子から好奇の目で見られるのが耐え難かったらしいので、言い寄っても上手くいくはずがなかったんです」

「……そうだろうな」


 先生は、胸が目立つのを嫌がって、さらしを巻いていたらしい。

 そんな先生について、「おっぱいが好き」と言わんばかりの発言をするのは、喧嘩を売るようなものである。


 そういえば……先生は、俺が巨乳好きなことについては、不快ではないのだろうか?

 ひょっとしたら、俺が年下だから、胸に惹かれても許せるのかもしれないが……。


「そんな下品な男は、お姉様には相応しくないのですが……お姉様は、『彼はいい人』だと言い続けて……。きっと、騙されたのだと思います。可哀想なお姉様……」


 そう言いながら、長町は涙ぐんだ。


 確かに、あかりさんは不憫だと思う。

 だが……あかりさんの旦那が、大河原先生を放っておけなかった気持ちは理解できる気がした。

 それは、巨乳好きだからではなく、「大河原桜子が嫌われていたから」ではないだろうか?


 水沢さんによれば、先生の攻撃的な言動は、自分の本性が悪人じみていることについてのコンプレックスが原因だったらしい。

 学生時代の先生があかりさんを嫌っていたのは、あかりさんの性質が「いい人」だからだろう。

 あかりさんの旦那は、先生の心中を察していたから、孤立する先生を見捨てられなかったのではないかと思う。


 自分しか味方になれる人間がいない。

 まさに、俺が宝積寺を見捨てられないのと同じ事情だと言える。


 だが、先生と宝積寺には、決定的に異なる点があった。

 先生は、年下の男子以外には魅力を感じないのである。

 そして、先生は、自分の好みについて妥協する気が一切ない。

 だからこそ、あかりさんの旦那には、自分のことを諦めるように促したのだろう。

 そして、現在の先生は、年上の女性に対して抵抗のない俺に、狙いを定めているのだ。


 一連の流れで考えると、俺の中に、表現の難しい、嫌な気分がこみ上げてきた。

 ひょっとして……先生は、年上の女性を拒まない年下の男子であれば、相手は誰でも良かったのではないだろうか?


「……黒崎先輩?」


 長町は、考え込んでいた俺を、不思議そうな顔をしながら見上げた。


「いや、何でもない。それはともかく……この町の姉妹は、やけに仲がいいな」


 俺は話題を変えることにした。

 神無月の姉妹は、長町姉妹や宝積寺姉妹だけでなく、黒田原姉妹も仲が良い。

 それに比べれば、御倉沢の姉妹関係は普通に近いように思えるが、麻由里さんは妹を溺愛している様子だった。

 花乃舞に所属している大河原姉妹も仲が良いことを考えれば、この町全体の傾向だと考えるべきだろう。


「それは、この町で妹がいる女性は、母親の代わりになることが決まっているからです」

「母親の代わり……?」

「この町は、魔素の濃度が高いために、30年以上は住み続けることができません。ですから、親が町から出て行った後には、姉が親の代わりになって妹の面倒を見るのです」

「なるほど……」


 元々、この町は戦場なので、町の人間は仲良くなりやすいのだろう。

 特に、家族であれば、互いに助け合うのが当然だといえる。

 さらに、親に頼れないのが分かっているから、姉は母親の役割を引き受けるということだ。


「特に、私のように姉と歳が離れていると、自分でも無意識のうちに、姉に甘えてしまうんですよね……。あまり頼りすぎてはいけない、と思ってはいるのですが……」

「お前はいかにも妹っぽいキャラだから、いいんじゃないか?」

「黒崎先輩……それは、褒めていないですよね?」

「気のせいだ」

「……」


 長町は、納得できない表情で俺を見上げていた。

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