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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第153話 長町あきら-3

「でも……黒崎先輩って、玲奈さんが怖くないんですか?」


 長町から、これまで何度も聞いたのと同じ質問をされて、俺はため息を吐いた。


「お前らは、皆、同じことを質問するんだな……」

「皆が同じ質問をするのは、普通なら、玲奈さんが怖いと思うからじゃないんですか?」

「宝積寺の家に忍び込んで、暗殺しようとしたお前には言われたくないんだが」

「……」


 痛いところを突かれた様子で、長町は俯いた。


「……できるわけがないです」

「何だって?」

「できませんよ、人を殺すなんて……。お姉様のために、あの人を殺そうと思って、家に忍び込んだというのに……いざとなったら、脚が震えて……」

「……」

「……でも、玲奈さんは、私の腕を無造作に折りました。あの時は、殺されることを覚悟したのですが……」

「お前が先に殺そうとしたんだから、反撃されるのは当然だろ」

「……そうですね。あの時、玲奈さんが激昂して反撃していたら、あれほど怖いとは思わなかったかもしれません。ですが……あの時の玲奈さんは、とても淡々としていました。最初は、自分が攻撃されたことに気付かなかったほどです。あの人にとっては……人の腕を折るのも、物を壊すのも、違いがないんだと思います」

「宝積寺は、あの時、お前を殺すつもりはなかったと言ってたぞ?」

「えっ……!?」


 長町は驚愕の表情を浮かべた。

 宝積寺は自分を殺すつもりだったのだ、と思い込んでいたらしい。


「イレギュラーの時に、あかりさんを傷付けたことは、宝積寺にとってもショックだったはずだ。さっきの様子を見れば分かるだろ?」

「……」


 長町は、何を言うべきなのかが分からない様子で俯いた。


「……私は、イレギュラーの時の出来事よりも前から、玲奈さんのことが嫌いでした」

「そうだったのか?」

「はい……。理由は、自分でも分かっていなかったのですが……玲奈さんからは、嫌な印象を受けたんです。その理由が、愛様からお話を伺った時に、やっと理解できました。玲奈さんは……春華さんやお姉様の前では、大人しくて頼りない女性のように振る舞いますが……私のことを、まるで獲物であるかのように見るんです」

「……」


 そういえば、早見も同じようなことを言っていた。

 早見の場合には、宝積寺がそういう女だったから惹かれた、という話だったが……。


「宝積寺は、お前を殺したりはしないはずだ」

「そうだとしたら、どうしてあの夜、玲奈さんは腕を折られた私を追ってきたんですか? 普通に考えたら、トドメを刺すためでしょう?」

「いや……反射的にお前の腕を折って、心配して追いかけたんだろ」

「まさか……」

「あり得ると思うぞ? 俺も、宝積寺に条件反射で殴られたことがあるからな」

「えっ……! 大丈夫だったんですか!?」

「いや。失神して、一晩は入院した」

「あっ……。それで、先輩は入院していたんですね……」

「お前の時も同じで、条件反射で攻撃したが、殺す気はなかったんだろ」

「でも……私は、玲奈さんから、殺意というか……強い悪意のようなものを感じたんです!」

「本気で殺すつもりだったら、宝積寺は、お前を1階まで逃がしたりはしなかったはずだ」

「それは、下着を着けてから追いかけたから……」

「……!?」

「あっ……!」


 長町は、両手で口を覆った。

 自分が、とんでもない秘密を暴露してしまったことに気付いたようだ。


「わ、忘れてください!」

「……絶対に無理だ」

「誤解です!」

「……それは無理があるだろ」

「下は履いてましたから!」

「……それはフォローになってるのか?」

「……」


 長町は、真っ赤になって俯いてしまった。


 そういえば、女は、寝る時にはブラジャーを外すと聞いたことがあったような気がする。

 御倉沢の女子がどうしているかは確認していないが……宝積寺は、外すようにしているのだろう。

 お嬢様然とした宝積寺が、パンツ一丁で寝ていたなど……とてつもない大事件だと言っていい。


「頭を叩いたら、黒崎先輩の記憶を消せるかもしれません!」

「やめろ! 記憶じゃなくて命が消えるだろ!」

「だって、こんなことを知られたら……私も先輩も、玲奈さんに殺されてしまいますよ!?」

「……」


 まさか……と言いかけたが、あり得ないとは言い切れない。

 宝積寺は、あの夜、下着姿で寝ていたことを、絶対に知られたくないと思っているのだ。

 さらに、上を着けていなかったという事実まで暴露されたら、それを話した者も聞いた者も殺そうとするかもしれないのである。


「……聞かなかったことにしてくれ」

「そうしましょう!」


 俺達は、この事実を隠蔽すると決めた。


「それにしても、お前……そんなに怖いのに、宝積寺を暗殺しようとしたのか?」

「寝込みを襲えば、私でも勝てるかもしれないと思ったんです。今にして思えば、そう思い込もうとしていただけだったんですけど……」

「そういえば……宝積寺は、どうしてあんなに強いんだ?」

「えっ……?」


 長町は、俺の言葉を聞いて、ポカンとした顔をした。

 こういう顔も、姉妹でよく似ている。


「もちろん、宝積寺が魔素を操れることは知ってるんだが……あいつは、魔素を操らなくても、異世界人を圧倒してみせたんだが……」

「……玲奈さんの能力は、よく分からない点が多いんです。魔素を操れるのは玲奈さんだけですから」

「そうか……」

「ですが、私が知っていることから推測すると……玲奈さんは、異世界人と戦う時に、魔素を操っていたのではないでしょうか?」

「そうなのか? 相手の異世界人は、普通に魔法を使ってたぞ?」


 宝積寺の魔素を操る魔法については、平沢から話を聞いた。

 相手が魔光を生み出すことができないようにしてから、自分だけが魔法を使って相手を抹殺するものらしい。


 だが、宝積寺が部屋に飛び込んできた後で、ファリアは魔法を使っていた。

 つまり、宝積寺は、魔素を操る魔法は使っていなかったのではないのか……?


「魔素は、ロウソクのようなものなんです」

「ロウソク?」

「はい。私達は、魔素というロウソクに、魔力で火を点けます。そうして生み出された火が魔光です。魔光を対象に放つか、自身に取り込むことによって、私達は魔法を使います。魔力が多い人は、より多くのロウソクに火を点けることができるので、多くの火を生み出せる……つまり、より多くの魔光を生み出せるというわけです」

「なるほど」

「ですが……玲奈さんは、ロウソクにあたる魔素を自由に操れると考えられます。つまり、ロウソクの役割を果たす魔素を動かすことも、火が点かないようにすることも……一瞬で完全に燃やすこともできるはずです。それによって生み出せる魔光は、おそらく、本来の数百倍……いいえ、数千倍かもしれません」

「!?」


 あまりの衝撃に戦慄した。

 宝積寺が何故強いのか……それを、ようやく認識できたからだ。

 たとえ、異世界人の魔力が宝積寺の数倍だったとしても、生み出せる魔光の量は、宝積寺の方が圧倒的に多いのである。


「玲奈さんは、その気になれば、この町を火の海にすることだってできるはずです。そんなに強い人が、命乞いをする相手を、笑いながら殺せるような人だなんて……。それを知ってから、暴走した玲奈さんが、この町で殺戮を繰り広げる夢を何度も見て、毎晩のようにうなされて……。あの頃には、頭がおかしくなりそうでした。いえ……本当におかしくなっていたから、玲奈さんを殺そうだなんて考えてしまったのかもしれません」

「……」


 神無月先輩は、本当に余計なことを言ったようだ。

 同じことを伝えるとしても、一体どんな伝え方をしたのだろうか?

 まるで、長町の不安を、わざと高めようとしたかのようだが……?

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