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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第146話 平沢麻由里-2

「そろそろ、私も帰るわ」


 水沢さんを見送ってから、片付けを手伝った後で、平沢が俺にそう言った。


「お前……水沢さんのことが苦手なのか?」


 俺がそう尋ねると、平沢は顔をしかめた。


「由佳さんはいい人だと思うわ。でも、私にとっては、一生かかっても恩を返せない人なのよ……」

「何があったか知らないが、水沢さんは、恩返しを期待するような人じゃないと思うぞ?」

「そんなこと、貴方に言われなくても分かってるわ。だから困ってるんじゃない……」


 平沢は、そう言ってからため息を吐いた。

 そして、まるで積年の苦労を抱えているような顔をしながら話を続ける。


「せめて、姉さんが罪悪感を抱えていたら、こんなに気が重くならずに済むんだけど……」

「麻由里さんが、何か悪いことをしたのか?」

「姉さんは、イレギュラーの時に、春華さんの仲間として参加しようとしたのよ」

「イレギュラーの時に?」

「……本当に恥ずかしいわ。御倉沢の代表が姉さんだと、魔力量が足りないから、他のメンバーと釣り合わないのに……」

「麻由里さんは、春華さん達を助けようとしたんだろ? そこまで言うことはないんじゃないか?」

「貴方は何も知らないから、そんなことが言えるのよ。姉さんは、誰とでも仲良くしようとするの。そのこと自体を責めるつもりはないけど……雪乃様に禁じられたのに、何の根回しもせずに春華さんと組むなんて、信じられない決断よ……」

「でも、結局は参加しなかったんだろ?」

「そうよ。由佳さんが、姉さんのことを説得してくれたから」

「水沢さんが……?」

「由佳さんは、姉さんに対して、イレギュラーの期間中は妹である私を守ることに専念するように勧めたらしいの。でも……間違いなく、姉さんのせいで私が肩身の狭い思いをすることを防ごうとしたのよ」

「……」

「そのせいで、由佳さんは、御倉沢での地位も、好きな人との将来も失いそうになったのよ? しかも、姉さんは、あの時のことについて、悪いことをしたと思っていないらしいの。そのことが、本当に申し訳なくて……」

「水沢さんが、麻由里さんのためじゃなくて、御倉沢のために戦ったのは事実だと思うぞ? 生徒会長だって、水沢さんの判断が正しかったと思ったから結婚を許したんだろ?」

「……結果的にそうなっていなければ、私は姉さんと口を利かなくなっていたかもしれないわ。善意による行動であっても、良い結果に結び付くとは限らないって、考えれば分かりそうなものだけど……」

「……」

「……少し話しすぎたわね。貴方は、明日から学校に来るでしょう?」

「そのつもりだが……」

「じゃあ、また明日、学校で会いましょう」


 平沢は、麻由里さんと顔を合わせるのが気まずかったのか、そのまま帰っていった。

 俺が平沢を見送った後で、麻由里さんが玄関に顔を見せた。


「あれ? 麻理恵ちゃん、もう帰っちゃったの?」

「はい」

「そっか……」

「あの……麻由里さんは、他の家の人間と付き合うことに抵抗はないんですか?」

「どうして、そんなことを質問するの? 喧嘩してるわけじゃないんだから、当然でしょ?」

「水沢さんは、御三家は敵同士だと言ってますけど?」

「由佳ちゃんは心配性なの。神無月の人達も、花乃舞の人達も、いい人が多いのに……」

「……でも、御倉沢に対して敵意を抱いている人だっていますよね?」

「嫌だわ、黒崎君ったら。そんな人、いるわけないでしょ?」

「……」


 この人……まさか、この町の実態が見えてないんじゃないだろうな……?

 そんな不安が頭をよぎった。



 翌朝、俺が起きてリビングに行くと、白いエプロンを着けた麻由里さんが、こちらに笑いかけてきた。

 一瞬だけ、新妻のようだと思ってしまった。


「おはよう、黒崎君。食事の用意はできてるから、好きなだけ食べていってね?」


 そう言われてテーブルの上を見ると、何人分なのかが分からないほど大量の料理が並んでいた。

 昨日よりも多いようにしか見えなかったので、俺は混乱した。


「……今日も、この後で、誰か家に来るんですか?」


 恐る恐る尋ねると、麻由里さんは無邪気な笑顔を浮かべた。


「いいえ。全部食べてもいいのよ?」

「……冗談ですよね?」

「だって、外の人って、この町の人よりも食べるんでしょ? 特に、若い男の子は、たくさん食べるって聞いたわ。この町の女の子って、小食な子が多いから、料理をしても物足りなくて……」

「……分量は、この10分の1で充分です」

「遠慮しなくてもいいのよ?」

「ていうか、絶対にわざとですよね!? 昨夜は普通の量だったじゃないですか!」


 正確に言えば、昨夜の量でも多いぐらいだった。

 だが、水沢さんの娘はもちろん、他の女性は大して食べなかったため、俺が食べる量が多くなってしまったのだ。

 客を呼んだ時には、充分な量の食事を出すのが普通であり、残っても良かったのではないかと思っていたのだが……。


「昨夜は、麻理恵ちゃんに、そんなに沢山作るなって止められちゃって……。そのせいで、黒崎君は料理を全部食べちゃったでしょ? きっと量が足りなかったんだと思って、お腹が空いて眠れないんじゃないかって心配だったの」

「……」


 平沢……止めるだけじゃなくて、麻由里さんの誤解を解いてくれ……。

 大量の料理を前にして、俺は頭を抱えたくなった。


「……とにかく、食べられる分だけ食べて行きますから、痛みにくい物は弁当の代わりに包んでもらえますか?」

「あら、お弁当なら用意したわよ?」

「えっ……!?」


 激しく嫌な予感がした。

 そして、その予感は当たった。

 麻由里さんは、5人分以上の弁当を用意していたのだ。


「……お気持ちだけ受け取らせてください」

「遠慮しないでいいのよ。いつか、誰かに、目一杯の料理を食べてもらうのが私の夢だったんだから」

「……」


 生徒会長は、どうして、俺の世話を任せる人として、この人を選んだのだろうか?

 まさか、こうなることを予測して、俺に嫌がらせをするために……?

 俺は頭を抱えて、しばらく悩んでしまった。



 結局、テーブルの上の料理を食べられるだけ食べて、弁当の一部を受け取り、これほど大量の料理は要らないことを念押ししてから出かけることにした。

 麻由里さんは、俺が大食漢ではないことを理解して落ち込んだ様子だったが、玄関に来た時には笑顔を浮かべていた。


 朝から、満腹になるほど食べるのは久し振りだ……。

 俺は、腹をさすりながらドアを開けた。

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