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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第139話 早見アリス-20

「ちょっと待ってくれ! 俺が……北上を口説いたのか!?」


 我に返って、俺は早見を問い詰めようとした。

 すると、早見は呆れた様子でため息を吐いた。


「意外ではないのではありませんか? 貴方には、弱っている玲奈さんを口説いた実績があるのですから。天音さんは、いかにも落としやすそうな女性ではないですか」

「だが……俺は、そんな軟派な人間だった記憶はないぞ!?」

「そうですわね。私としても、そのような情報があれば、黒崎さんと天音さんを2人きりにはしませんでした。つまり、天音さんは、女性に慣れていない男性が口説きたくなるほど美しく、しかも、勢いだけで落とせるほどガードが甘かったのです」

「おかしいだろ!? 北上は、お前に言われて、男を拒絶するようにしていたはずだ! 俺が口説こうとしたら、舌を噛み切るとか何とか言って、逃げ出したはずじゃないか!?」

「仰るとおりですわ。私が天音さんに、『黒崎さんには親身になって接するように』と指示していなければ、そうなっていたでしょう」

「……」

「今にして思えば……良妻賢母のような雰囲気を有する天音さんであれば、外の男性に喜ばれると思って、黒崎さんをお任せしたのが間違いでした。……初対面の男性と相対するのが嫌だったのは、私も同じであったものですから」


 そう言って早見は俯いた。

 こいつも、男には嫌な思いをさせられてきたという話だったが……それが、俺を迎えた時にはマイナスに影響したらしい。


 それに、早見が北上を接待要員として選んだ意図は理解できる。

 気弱な北上には、守ってやりたくなるような雰囲気があるからだ。


 早見は文句の付けようのない美人だが、あまりにも完成されている。

 何より、自立していて隙がない。

 こいつよりも、北上の方が、男をもてなすのに適していることは確かだろう。


「貴方に迫られて、男性に免疫のない天音さんは、簡単に交際を了承してしまいました。それまで、男性を遠ざけていたために、熱烈なアプローチを受けた経験がなかったのです。とはいえ……さすがに、当初は、天音さんが黒崎さんに気を遣っているのだと思いましたわ。まさか、心の底から、黒崎さんに惚れてしまうとは……」

「どうして、そんなことに……?」

「後から考えると、天音さんは、気が弱いだけでなく、異性に強引に口説かれたいという願望を抱いていたのだと思います」

「……」


 俺は、何も知らずに、そのツボを突いてしまったのか……。


 それにしても……北上には、男の狩猟本能のようなものを掻き立てる性質があるのだが……あいつを口説こうとするなんて、その時の自分が恐ろしくなった。

 この町の女子が美人ばかりである実態を見ていなかった時の俺にとっては、北上こそ絶世の美女であり、高嶺の花だったはずなのである。

 ひょっとして……異世界からの侵略者と戦うことになって命の危険を感じていたために、駄目で元々という気分だったのかもしれない。


「黒崎さんが御倉沢の人間だと分かった時……私達は、愛様と共に今後の対応を検討しました。そして、黒崎さんの記憶を消して、私達との関係をなかったことにすることを決めました。天音さんは、とても強く反対しましたが……記憶を消した後で、再び恋人の関係に戻すことを約束して、最終的にはご理解いただきました。その約束を守るためには、天音さんと黒崎さんが自然と面識を持ち、親しくなれるように手配しておく必要があったのです。そこで、黒崎さんのお宅は、玲奈さんのお宅の隣にしました。引き籠もっている玲奈さんのお世話をしていた天音さんであれば、黒崎さんと顔を会わせる機会があるはずであり、お話をするのに困らないと思いましたので。しかし……」


 そこまで話して、早見は唇を噛んだ。


「まさか、黒崎さんが玲奈さんとお付き合いを始めてしまうとは……。誰にも予想できなかったハプニングでした。玲奈さんに事情を説明した当日、私は黒崎さんを尾行していたので、説明は愛様からしていただいたのですが……その時の玲奈さんのお怒りは、想像を絶するものだったそうです」

「……」


 大体の話は事前に示唆されていたが……やはりショックな話だった。


 まるで生け贄のように、戦いの最前線に送られようとしていたこと。

 騙された状態で訓練を受けたこと。

 自分が御倉沢の人間だということが判明したために、記憶を消されたこと。


 どれも、俺の人権など完全に無視した、とんでもない話である。


「……お怒りはごもっともです。しかし、記憶を失う前の黒崎さんは、私達からちやほやされて、良い思いをしていました。その記憶も消えてしまったので、余計に理不尽だと感じるのだと思いますが……」

「北上が、色々としてくれたのか?」

「天音さんだけではございませんわ。私達は、揃ってビキニ姿で訓練したことがあるのですよ?」

「……!」

「正確に申し上げれば、あきらちゃんはワンピースタイプの水着でしたが……理由は分かりますわよね?」

「……ああ」


 幼児体型の長町に、ビキニが似合うはずがない。

 他のメンバーの体型が規格外なことを考えると、晒し者にするようなものであり、水着姿にすること自体が不憫に思えた。


「それだけではありません。黒崎さんは、訓練中の事故で、天音さんの胸を触りました」

「……!?」

「他にも、制服を着て訓練した時には、転んだ拍子に天音さんのスカートを引っ張りました。その時、天音さんの下着を、しっかりと覗き込んでいらっしゃいましたわ」

「その記憶だけでも、今すぐに戻せ!」

「……」


 早見の目から、人間のクズに対して向けるような視線が放たれた。


「……冗談だ。本気にするなよ……」

「とても、冗談を仰っているお顔には見えませんでしたが……」

「……気のせいだ」

「被害に遭われたのは、天音さんだけではございませんのよ? 利亜さんだって、訓練中の事故で黒崎さんに胸を触られても、逃げ出さずに協力してくださったのです」

「!?」


 俺が、白石先輩の……胸を触った!?


 白石先輩は、俺以上の高身長でボーイッシュな雰囲気とは裏腹に、体型はとても素晴らしいものだった。

 北上ならば、まだ今後の可能性がないわけではないが……白石先輩の身体に触る機会なんて、もはや一生ないのではないだろうか?

 そんな貴重な記憶まで消されたなんて……とても残念である。


「ちなみに、黒崎さんは、あきらちゃんのお尻にも接触していましたが……あまり嬉しそうではありませんでしたわ」

「当然だろ……」


 去年の長町あきらは、小柄なだけでなく、まだ中学1年生だったはずだ。

 あいつの身体に触れて喜んだら、ロリコンだと疑われるだろう。


「……ところで、俺はお前の身体も触ったのか?」

「いいえ」

「おいおい! 北上や白石先輩ばっかり触られたんじゃ、不公平だろ!?」

「触らせないことが、私の価値だったのです。ご理解いただけるでしょう?」

「……」


 確かに、早見は神秘的なところが魅力でもあるのだが……北上はともかく、白石先輩や長町は、理不尽だと思わなかったのだろうか……?

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