第13話 宝積寺玲奈-2
「玲奈さん……!」
「お邪魔します」
そう言うと、宝積寺は平沢を押し退けるようにして教室に入ってきた。
こんなに強引な宝積寺を見るのは久し振りである。
「待って、玲奈さん! 私たちの問題は、御倉沢の中で片付けるわ!」
「私のことで、一ノ関さんたちに酷いことをしようとしているのでしょう? 貴方のことは、いい人だと思っています。ですが、御倉沢のことは信用できません」
そう言ってから、宝積寺は俺に歩み寄ってくる。
そして、頭を下げた。
「申し訳ありません。黒崎さんには、大変ご迷惑をおかけしました」
「いや……お前は何も悪くないだろ」
「いいえ。私は昨日、黒崎さんを守っていただくように……アリスさんに依頼しました」
「なっ……!?」
「アリスさんは、下校する黒崎さんの後を尾けて、一ノ関さんたちと黒崎さんが打ち解けるところを目撃しました。そして、一ノ関さんが黒崎さんをご自分の家に招き入れるところや、長時間滞在した黒崎さんがご自宅に帰るところを、ずっと監視していたそうです。アリスさんは、その全てを私に教えてくださる前に、麻理恵さんに話してしまいました。腹が立ったから、だそうです」
「……」
俺は平沢の方を見た。
平沢は頷く。
どうやら、俺と一ノ関たちのトラブルについて平沢が知っていたのは、早見が告げ口したからだったらしい。
「お前……どうして、よりによって、早見に頼んだりしたんだ?」
「……私は、神無月にも、あまり友人がいません。天音さんは、昨日は用事がありましたので……」
「何なんだよ、神無月って?」
「この町で、御三家と呼ばれている名家の1つです。私やアリスさん、天音さんは神無月家の下に属する家の人間です。残る2つの内の1つが御倉沢家で、麻理恵さんや一ノ関さんたち……そして、黒崎さんも御倉沢に属しています」
「俺も……?」
「はい」
「……一応聞いておくが、御三家の残る1つは?」
「花乃舞家という家です。黒崎さんと何らかの関係のある方だと、担任の大河原先生が所属しています」
「……」
突然、御三家などと言われてもピンとこなかった。
ましてや、そこに俺が所属しているなど、初耳である。
しかし、宝積寺の話を聞いて、謎の解明に近付いたような気がした。
「ひょっとして……俺のクラスの伊原は、御倉沢に属してるのか?」
「そうです」
「なるほど……」
どうやら、伊原は御倉沢に所属している女性の名前だけを挙げていたらしい。
だから、北上や大河原先生は対象外だったのだ。
あいつが、御倉沢の人間である平沢の名前を挙げなかった理由については、まだ分からないままだが……。
「アリスさんも、天音さんも、決して悪い人ではないんです。ただ……アリスさんは男性のことを嫌っていますし、天音さんはアリスさんのことを盲信しているので、このような事態に陥ってしまいました」
「要するに、悪いのは早見だろ? だったら、罰を受けるのは早見だけでいいじゃねえか」
「御倉沢家には、神無月の一員であるアリスさんを罰することはできません」
「それで、一ノ関と他の2人だけが酷い目に遭うのか? そんなの不公平だろ」
「……申し訳ありません」
「いや、宝積寺を責めてるわけじゃないんだが……」
「……気が気ではありませんよね。昨日、自分が抱いたばかりの女性が、危機に晒されているのですから」
「!?」
俺は、驚いて宝積寺を見た。
宝積寺は、表情の消えた顔で、こちらのことを見つめていた。
「アリスさんは、黒崎さんが一ノ関さんの家から出てきた時に、とても満足した様子だった、と仰っていました。私にだって、2人で何をしていたのかは分かります」
「おいおい……」
「……責めるつもりはありません。私と黒崎さんは、お付き合いをしているわけではありませんから。それに……」
宝積寺は、そこで言葉を切って、俺のことを暗く澱んだ目で見た。
「……外の世界では、一ノ関さんのような女性が理想とされるのでしょう?」
「……」
「玲奈さん……貴方もなのね?」
平沢が、呆れた様子で言った。
宝積寺は、平沢の言葉の意味が分からなかったらしく、戸惑った表情をする。
平沢は、一度俺の方を見てから、宝積寺の腕を引いて、教室の隅に連れて行く。
そして、小声で宝積寺に事情を説明し始めた。
宝積寺は、それを聞きながら、顔を赤くしたり、蒼くしたりしていた。
しばらく経って、宝積寺が改めて俺に近寄ってくる。
「……申し訳ありませんでした」
「いや、分かってくれればいいんだ」
「……私は、アリスさんのことは、大切な友人だと思っています。ですが……黒崎さんに、ご迷惑をかけるのでしたら……!」
宝積寺から凄まじい殺気のようなものが放たれたので、俺は慌てて制止する。
「待て! お前、絶対に物騒なことを考えてるだろ!?」
「……すいません」
「いや……確かに、俺は早見に迷惑をかけられたが……お前にとっては、数少ない親友なんだろ? だったら、大事にしないと駄目だぞ?」
「……はい」
宝積寺は、一応、落ち着いた様子だった。
平沢の前で、とんでもないことを口走らなくて良かった。俺は安堵した。




