表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/301

第137話 宝積寺玲奈-16

 時間を見計らって、俺は家を出た。

 そろそろ学校が終わる時間であり、早見が帰ってくるはずである。


 宝積寺から教えてもらった住所を頼りに、早見の家を探した。

 辺りには、広くて凝った造りの家が建ち並んでおり、御倉沢とは趣味が違うことが伺えた。

 同時に、俺と宝積寺は、神無月の居住地域の中でも隅の方で暮らしていたことが分かる。


「……これか」


 俺は、一軒の家の前で立ち止まった。

 表札には「早見」と書いてあり、庭には色とりどりの花が咲き誇っている。


 この庭……早見が、自分で手入れをしているのだろうか?

 あいつなら、何ができても不思議ではないが……。


「丁度良い時間ですわね」

「……!」


 俺のことを驚かせるように、後ろから声をかけられて、振り返って怒鳴りつけそうになった。

 だが、後ろを向いたタイミングで、そこに意外な人物がいるのを見た。


「宝積寺……!?」

「……ご退院、おめでとうございます」

「お元気そうで何よりですわ」


 早見の横には、宝積寺が並んでいた。

 一体、どうしてここに宝積寺が……?


「玲奈さんは、あの日の夜から、私の家で寝泊まりしています。玲奈さんのお宅は、異世界人に浴室の窓を破格されて、中を荒らさてしまいましたので」

「……災難だったな」

「いえ……」

「本日、玲奈さんはご自分の家にお戻りになる予定です。私としては、もうしばらく同棲しても良いのですが……」


 そう言いながら、早見は宝積寺の腕を取った。

 宝積寺は、露骨に嫌そうな顔をする。


「……アリスさんと一緒に暮らすのは、気が休まりません」

「まあ! そのようなことを仰らないでください。私と玲奈さんの仲ではありませんか」

「……泊めていただいたことには、感謝しています」


 宝積寺は、素っ気ない態度で言った。

 甘えるような仕草をする早見のことが、本気で迷惑なようだ。


「ぜひ、もう一晩だけでも泊まってください。黒崎さんとの距離ができてしまって、寂しいのではありませんか?」


 早見は、俺に対してサラッと嫌みを言った。


「……余計なお世話です」

「そうですか。残念ですが……私は、いつでも歓迎いたしますわ」

「……アリスさんを頼ったのは間違いでした」


 宝積寺は、いつになく気が立っているように見えた。

 その原因は、早見の態度だけでなく、俺が引っ越したこともあるのだろう。

 早見には、あまり宝積寺を刺激しないでほしいと思った。


 

 その後、俺達は早見の家に入った。

 御倉沢の家や宝積寺の家と違って、玄関に花が飾られており、壁には絵がかけられている。


「では、私と玲奈さんは着替えてまいります。もしも覗いたら、黒崎さんには地獄の苦しみを一生味わっていただきますので、覚悟してくださいね?」


 早見は笑顔でそう言ったが、目は笑っていなかった。


「……覗かねえよ」

「アリスさん、失礼ですよ? 黒崎さんは、覗きはしない人です」


 宝積寺が、早見を諭すように言った。


 その言葉で、俺と宝積寺が親しくなった経緯を思い出す。

 実のところ、あの頃の俺と比べたら、エロい言動への抵抗感は薄れているのだが……余計なことを言うべきではないだろう。


「まあ! そうなのですか?」

「はい」

「玲奈さんに保証していただけるのであれば安心ですわ」


 早見は、宝積寺の言葉を信用した。

 さすがに、男のエロい言動に厳しい宝積寺の言葉を疑ったりはしないようだ。



 2人は、家の奥へ行ってしまった。

 俺は、リビングのソファで待たされる。


 しばらく経ってから、着替えた宝積寺が、荷物を運びながら戻ってきた。


「……では、私は失礼いたします」

「1人で大丈夫か? 荷物を持つ人間が必要なら、送るぞ?」

「……ありがとうございます。ですが、この程度であれば問題ないので……」

「そうか……。お前には、今まで散々世話になったのに、急に引っ越して悪かったな」

「いえ……吹雪様のご命令ですから……」

「これから、1人になって……寂しいんじゃないか?」

「……慣れていますから」

「無理はしないでくれ。俺なんかで良ければ、電話で話すことくらいはできるぞ?」

「……ありがとうございます」


 宝積寺は、悲しそうな顔をしながら、無理に作ったような笑みを浮かべた。

 その顔に、罪悪感を掻き立てられた。


「……ところで、早見はどうした?」

「お見送りは、ご遠慮いただきました。黒崎さんと、2人でお話ししたかったので……」

「……そうか」

「黒崎さん……少々、よろしいでしょうか……?」

「……何だ?」


 宝積寺は、俺の隣に腰掛けた。

 こいつが距離を詰めてくることは珍しいので、緊張してしまう。


「黒崎さん……アリスさんには、気を許さないでください」

「……」

「アリスさんのことを好きになってしまったのは、仕方のないことだと思います。ですが……アリスさんは、善悪を超越している方です。悪いことでも、やりたいと思ったことは、やってしまうところがあります」

「……分からないではないが……」

「黒崎さんは、女性に困っていないでしょう? アリスさんと親しくなる必要はないのですから……気を確かに持ってください」

「……何だか、早見が俺を誘惑しようとしてるみたいな口振りだな?」

「……予感がするんです。アリスさんは、悪いことを企んでいるような気がします。私の思い過ごしであれば良いのですが……」

「……そうか」

「……すいません。私は……アリスさんに、嫉妬しているのかもしれません」

「……」

「……失礼いたします」


 宝積寺が立ち上がったので、俺は玄関まで見送った。

 去り際に、宝積寺に声をかけそうになったが、何と言っていいのかが分からず、結局、何も言えなかった。

 宝積寺が出て行った後で、俺は少しの間、そのまま立ち尽くしていた。


「強引にでも、家までお送りしてはいかがですか?」


 後ろから、早見が声をかけてくる。


 俺は振り返り……飛び退きそうになった。

 早見が、信じられない姿をしていたからだ。


「お前……何て格好をしてるんだ!?」

「あら。そのお言葉は、大河原先生にお伝えしないのですか?」


 からかうように言った早見は、大河原先生と同じスーツを着ていた。


 まるで先生の格好を再現するように、胸元が大胆に開かれており、谷間が見えている。

 さらに、短いタイトスカートの先に、細い生足が伸びていた。


 ある意味では、ビキニ姿よりもエロく感じられる格好である。


「今は、私のことではなく、玲奈さんのことです。女性は、追いかけてきてもらったら、嬉しいと思いますわよ?」


 早見に言われて、俺は家を飛び出しそうになった。

 だが、思い留まって首を振る。


「……いや。今の宝積寺には、そういうことはしない」

「黒崎さんは、玲奈さんに対して、もっと親切になさるのかと思いましたわ」

「今、追いかけたら……俺は、見返りを期待しないではいられないからな……」

「……それは最低だと思いますわ」

「……自分でもそう思う」


 最近になって、他の女子との関係が、急激に進みすぎているからかもしれない。

 自分でも、調子に乗ってしまっている気がする。

 そろそろ、宝積寺との関係を、身体的な接触も含めて進めたいという欲求が、抑えられなくなってきているのだ。


 だが、宝積寺には、その気はないだろう。

 あいつが考えている男女関係は、もっと純粋なもののはずだ。


 外の常識では、宝積寺の方が正しいのだが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ