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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第120話 ファリア-2

「ファリア……。あまり馴れ馴れしくしてはいけません。貴方は、彼を誘拐したのですよ?」


 カーラルは、窘めるように言った。


「誘拐だなんて大袈裟よ。私は、ただ、彼に協力してほしかっただけなんだから」

「……協力?」


 一体、俺なんかに何をさせようというのか?

 疑問に思う俺の手を握りながら、ファリアは言った。


「お願い! 私達を、御倉沢の人間に紹介して!」

「……は?」


 意味が分からなかった。

 こいつは、どうして花乃舞ではなく、御倉沢と接触したいのか?


 混乱する俺に対して、ファリアは、さらに意味の分からないことを言った。


「貴方は神無月の人だから、御倉沢との仲介を依頼されても困るのは理解できるわ。でも、貴方にだって、御倉沢に仲の良い人の1人や2人はいるはずよね? そういう人に紹介してもらうだけでいいのよ」

「……ちょっと待ってくれ。俺は、御倉沢の人間なんだが……」

「えっ!?」


 ファリアは、激しく動揺した顔をした。


 ……やはり、この異世界人は早見ではない。

 いつでも余裕に満ちた早見なら、どんなに驚いても、目を丸くするだけで、うろたえるようなことはないだろう。


「そんな……! だって、御倉沢家は、異性との交流に厳しいはずよ!? それなのに、貴方は……朝には、長い黒髪の女の子と修羅場になって、それから時間が経たないうちに、他の女の子を、4人も家に連れ込んで……! そういう遊びをするのは、神無月の人間だからじゃないの!?」

「……人のことを、女に見境がないみたいに言わないでくれ。朝に会った女とは、見解の相違で口論になっただけだ。その後で、4人を家に連れ帰ったのは、雨でずぶ濡れになったから緊急避難しただけであって、エロいことをするために連れて来たわけじゃない」

「……」


 ファリアは、大きな失敗をしたように、青ざめた顔で俯いた。


「俺が御倉沢の人間だったら、むしろ好都合なんじゃないのか? 紹介してほしかったんだろ?」

「そうじゃないの……そうじゃないのよ……」


 ファリアは、首を振りながら言った。


 全く要領を得なかった。

 俺を誘拐するようなことをしてまで、御倉沢に紹介してもらおうとしていたのに、俺が御倉沢に所属していては駄目らしい。

 一体……こいつは、どういうつもりだったのだろうか?


「……それにしても、あんた、朝に俺達のことを見てたのか? だったら、どうして昼の近くまで待ってから、食料を漁ったりしたんだよ?」


 俺の質問には、ファリアではなく、カーラルが答えた。


「ファリアさんは独断で動いたのです。既に、4人で貴方の家を探して、食べられそうな物は確保していたというのに……」

「……どうして、そんなことを……?」

「貴方に興味を抱いたからですよ」

「……」

「ちょっと、カーラルさん! 私は、見落としがあったんじゃないかと思って……!」


 慌てるファリアに、カーラルは白い目を向けた。


「あの程度の広さの家を4人で探したのに、本気でそう思ったのですか?」

「……」


 ファリアは反論できない様子だ。


「俺の家には、食える物なんて、大した量が残ってなかったはずだ。4人で食べたら、足りなかったんじゃないか?」


 自分でもお人好しだと思うが、家に入られたことへの怒りよりも、そんな言葉が先に出てきてしまった。

 俺の食事の多くが宝積寺によって賄われているため、心配になってしまったのだ。


「ええ。ですが、ご安心ください。隣の家には、充分な量がありましたので」

「隣の家……? まさか、あんたら……宝積寺の家も漁ったのか!?」

「それは、貴方が朝に会っていたという、黒髪の女の子のことですよね? そのとおりです」


 俺の質問を、目の前の異世界人は、あっさりと肯定した。


 こいつら……自分達が忍び込んだ家の主が、とんでもない危険人物だと知ったら、どんな顔をするだろうか……?

 そんなことを考えた後で、俺は、あることに気付いた。


 この家にいる異世界人の服は、俺が初めて会った異世界人や、ミュレイが着ていたような物ではない。

 明らかに、この町の女が着ている服と似通っている。

 しかも……2人の服には、見覚えがあるような気がした。


「なあ……あんたら、まさか……隣の家から、食料だけじゃなくて、服まで盗んだのか!?」

「……やむを得なかったのです。私達の服は、濡れたり汚れたりして、着替えが必要でしたから。少し小さいので、窮屈なのですが……」

「……」


 俺は、初めて見るはずの異世界人に親近感を覚えた理由を悟った。

 それは……こいつらが着ている、宝積寺の服が原因だったのだ!


 持ち主について知らないとはいえ、異世界人のあまりにも危険な行為に、俺は言葉を失った。


「あんたら……ひょっとして、下着も漁ったんじゃないだろうな!?」

「……貴方は、どさくさに紛れて、何を知ろうとなさっているのですか?」

「……違う。そういう意味で尋ねたわけじゃない」

「いいじゃない。男の子なら、女性の身体に興味があるのは当然よ」


 つい先ほどまで落ち込んだ様子だったファリアが、面白がるように言った。

 自分に興味を示されたと思ったのか、少しテンションが上がった様子である。


「だから、そういうつもりじゃなくてだな……」

「でもね。ちょっと考えれば分かるはずよ? あんなに小さな子の下着なんて、私達には着けられないわ」

「……」


 俺は、2人の異世界人を改めて観察した。


 身長は、俺と同じか、少し高いほどである。

 しかも、一見して分かるほどスタイルがいい。

 この2人には、宝積寺の服では合わないだろう。


 宝積寺の身長は、この町であっても、女子としては高い方だ。

 そして、線は細いが、出るべきところは出ている。

 あいつのことを幼児体系のように言われてしまうと、気の毒に思えたが……こいつらと比較してしまうと、相対的に小さいのは仕方がない。

 体型を隠すために、大きめに作られているはずの宝積寺の服が、明らかに窮屈そうであることが、全てを物語っていた。


「何よ? ひょっとして、私達が不満なの? まさか、小さい子が好みだったり……?」

「……そうじゃない。命拾いしたな、あんたら……」

「何を心配しているのよ? あの子の下着を盗んだら、私達が殺されるとでも思ってるの?」


 ファリアは、不満そうな顔をしながら言った。

 自分の力を過小評価されていると感じたらしい。

 この世界の人間は、異世界人と比べれば魔力が乏しいので、そう感じるのは当然なのだろう。


 知らないというのは、恐ろしいことだ……。

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