第114話 渡波雫-4
俺達は、ザリガニが死んでいることを確かめた。
一ノ関と渡波は、剣でザリガニの胴体を刺している。
相手が魔物とはいえ、死体を繰り返し突き刺すのはどうかと思った。
だが、魔物が死んだフリをしているかもしれないので、仕方のないことだろう。
ここは戦場だ。
死傷者を出すわけにはいかない。
だが、相手が人間と同じ姿をしていたら……?
そんなことを考えて、ゾッとしてしまった。
「良かった……。こんなに楽に勝てたのは雫のおかげよ」
確認が済んで、安心した様子で須賀川が言った。
「たまたまだよ。今回は、私が戦うのに向いてる魔物だったんじゃないかな」
そう謙遜したが、今回の戦いは、渡波のおかげで勝てたと言うべきだ。
幹部でもないのに、御倉沢で特別扱いされていたのは伊達ではない。
「それにしても、皆、ビショ濡れだね……」
濡れて重たくなった髪を気にした様子で、渡波が言った。
「……黒崎君」
「……」
一ノ関から白い目で見られて、俺は目を逸らした。
頭から水を被ったような状態で、服が身体に張り付き、女子の胸は強調されている。
ひょっとしたら、脱いだ状態よりもエロいかもしれない。つい目が行ってしまう姿だ。
「黒崎君……私達のスカートの中も見たでしょ?」
渡波が、冗談めかした口調で言った。
「……見ようとして見たわけじゃない」
「あんまり喜ばないでね? 見せたくて見せたわけじゃないから」
「分かってるよ……」
ちなみに、一ノ関のショーツは青で、渡波のショーツはピンクだった。
女子の下着くらい、性行為を体験すれば気にならなくなると思っていたが……やはり気になるらしい。
俺も戦いに参加していれば、こいつらのスカートの中が丸見えでも、確認する余裕はなかったのだろうが……。
「ねえ……早く帰って、魔獣を仕留めたことを報告しよう?」
蓮田が、自分の身体を抱くようにしながら言った。
「そうね。でも……私達、また、こんな所まで来たのね……」
「ここは……どこだ?」
「神無月の居住地の近くよ」
「じゃあ、ひょっとして……俺の家に近いのか?」
「そうよ。初めて私達が会った時よりも、あんたの家に近いわね」
そう言われて、一ノ関を傘に入れて歩いたことを思い出す。
ここからこいつらの家に行ったら、あの時よりも身体が冷えるだろう。
「だったら……いっそのこと、俺の家に来るか?」
「えっ!?」
「……言っておくが、変なことを考えてるわけじゃないからな? ここからお前らの家は、結構な距離があるだろ? 俺の家に行けば、とりあえず、シャワーを浴びることぐらいはできる」
「でも、黒崎君の家って……宝積寺さんの家の隣だよね?」
蓮田は、困惑した様子で言った。
「そうよ。私達が集まって、変なことをしていたなんて思われたら……」
須賀川も、あまり乗り気ではないようだ。
「宝積寺に誤解されたら、俺が事情を話す。やましいことがなければ、問題ないだろ?」
「……」
女子達は、どうするべきかと、互いに顔を見合わせた。
簡単には決断できないようである。
「いいよ、行こう……黒崎君の家」
最初にそう言ったのは渡波だった。
「いいの?」
須賀川の質問に頷いた渡波は、ブレザーを脱いで頭から被るようにした。
「……!」
渡波の白いブラウスは、濡れて身体に張り付いていた。
ピンク色のブラジャーと胸の膨らみのラインが、くっきりと現れている。
「ちょっと、雫……! 透けてるわよ!?」
「分かってるよ。でも、そんなこと、気にしても仕方がないでしょ? 私達って、これから何回も、こういう格好になるんだから」
「でも……」
「許容した方がいいことは許容することが、お互いのためなんじゃないかな?」
「……そうね。黒崎君に見られるなら、構わないわ」
そう言って、一ノ関も渡波と同じようにした。
当然のことだが、いつ見ても……デカい。
刺激が強すぎるので、俺はすぐに目を逸らした。
「ちょっと……! そういうショーじゃないのよ!? 少しは遠慮しなさいよ!」
「……悪い」
「あんた……私達を家に呼んで、本当に何もするつもりがないんでしょうね!?」
「しねえよ……」
「鈴ちゃん、ちょっといい?」
突然、渡波が須賀川の袖を引っ張り、俺達から離れる。
「何よ?」
不機嫌な須賀川に、渡波は何かを耳打ちした。
「……えっ!? それ……本当なの!?」
「本当だよ。吹雪様から聞いたんだから」
「……何の話だ?」
俺が尋ねると、渡波は意味ありげに笑った。
「ちょっとね」
「あんたには関係ない話よ」
「……この状況で、俺に関係ないってことはないだろ?」
「まあまあ」
渡波は、俺を宥めるように言った。
須賀川は、俺の方を困ったように見てから、突然、ブレザーを脱いで、渡波や一ノ関のように頭に被った。
「鈴……?」
態度を変えた須賀川に、蓮田が困惑した表情を浮かべる。
「……よく考えたら、黒崎のことを気にして濡れ続けるなんて馬鹿らしいわ。香奈も脱いだ方がいいわよ」
「……」
少しの間だけ躊躇したが、結局、蓮田も他の女子と同じようにした。
須賀川のブラジャーは白で、蓮田のブラジャーは黄色っぽい色をしている。
「あんたの家はあっちよ。道を覚えてないなら、付いてきて」
「……ああ」
須賀川に先導されて、俺達は俺の家に向かった。
その道中で、俺は目のやり場に困ってしまう。
横で揺れているものが、こちらの注意を惹こうとするのだ。
「お前ら……俺に見られるのが嫌なら、通りすがりの誰かに見られるのも気まずくないか?」
「大丈夫よ。言ったでしょう? 私達の下着や胸なんて、気にするのは黒崎君だけよ」
「そうだったとしても、他の男に見られるのは……」
「……嫌なの? 黒崎君が?」
「正直に言えば……そうだな」
「ちょっと……他の男に見られないように濡れ続けろって言うの? 私達だって、やりたくてやってるわけじゃないんだから、変な風に束縛しないでよ」
「……気分的に嫌なだけだ」
「安心して。この町は人通りが少ないから」
「だが、下校中の男子に見られるかもしれないだろ?」
「まだ午前中よ?」
「……」
一ノ関に言われて時計を見ると、確かに、まだ11時にもなっていなかった。
ザリガニと壮絶な戦いを繰り広げたつもりだったが、それほど時間は経っていなかったようだ。
「黒崎君って……女の子に対する独占欲が強いんだね。自分は目移りするのに……」
蓮田が、不満そうな口調で言った。
「私達は愛されてるってことかな?」
「こいつの場合は、自分勝手なだけだと思うわ」
「……」
反論できなかったので、俺は何も言わなかった。
「ここが黒崎君の家? 本当に、玲奈ちゃんの家が隣にあるんだね……」
俺の家に辿り着いて、隣の家の表札を見た渡波が、興味津々といった様子で言った。
「早く入れて。段々寒くなってきたわ」
「ああ」
家の鍵を開けて、俺は4人を招き入れた。
俺も含めて、全員、水が滴る状態である。
「……?」
何故か、違和感のようなものを覚えた。
しかし、原因が分からない。
俺は、明らかな問題の方を優先することにした。
「それじゃあ、お前らは先にシャワーを浴びろ。俺はリビングで待ってる。信用されないかもしれないが……わざわざ覗きに行ったりしないから安心してくれ」
「……いいよ。一緒に入ろう?」
渡波の言葉で、空気が凍り付いた。




