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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第112話 黒崎和己-9

「ちょっと、香奈……!」


 春華さんの話題を嫌っている須賀川が、怒った様子で蓮田に詰め寄る。


「ごめん……。私が言いたいのは……桐生さんは特殊な人だから、普通の人の参考にはならないってことなの」

「……」


 桐生と2回会った時のことを思い出す。

 どちらの時にも、あまり話をしたわけではないため、参考になる情報が多いわけではない。


 だが、宝積寺は、自分に対して否定的な人間には心を開かないらしい。

 ということは、桐生は宝積寺に対して、悪感情を持っていないということだ。

 周囲の人間が、宝積寺のことを悪く言っても気にする様子がないのだから、確かに変わった人物だと言えるだろう。


「それって、桐生美咲ちゃんのことだよね? 黒崎君と同じ頃に、外から来たっていう……」


 渡波の質問に、蓮田が頷いた。


「うん……。外から来る子は珍しいから、どんな子か気になって、ずっと様子を見てたんだけど……。この歳になっても、天真爛漫とか純真無垢っていう言葉が似合う子は珍しいと思って……」

「私は、その子に会ったことがないけど……そういう子は苦手な気がするわ……」


 須賀川が、顔をしかめながら言った。


「でも、桐生さんがいい子なのは、桃花ちゃんと違って、演技じゃないと思うんだけど……」

「関係ないわよ。高校生にもなって、天真爛漫で純真無垢って……そんな子、気味が悪いじゃない」

「そうかな? 桐生さんは本当にいい子だよ? 鈴は優しいから、あの子に会ったら、守ってあげたくなると思うんだけど……」

「どんなにいい子でも、神無月の子だわ」

「それはそうだけど……桐生さんは、まだ御三家のことなんて知らないと思うよ? それに、あの子は魔力もすごく多いから、近くにいると、幸せな気持ちになるっていうか……」

「香奈は、魔力の多い子に甘すぎるのよ……」

「桐生は外から来たのに、魔力に恵まれてるのか?」


 俺が尋ねると、蓮田は頷いた。


「あの子は……すごいの。ひょっとしたら、早見さんと同じくらいかも……」

「はあ!?」

「ちょっと待って! 早見と互角って……それ、本当なの!?」

「……私から見ると2人ともすごいから、確かなことは言えないけど……。麻理恵さんや北上さんと比べたら多いことは、私にも分かるくらいなの」

「……」


 衝撃的な話を聞かされて、須賀川は頭を抱えた。

 一ノ関や渡波も、顔が少し青ざめている。

 外から来た人間が、とんでもない人物だということを聞かされて、相当な衝撃を受けたらしい。


「それは……麻理恵ちゃんなんかにとっては、特にショックだっただろうね……」

「どうして、そんな人間が外にいるのよ!」

「……どうしてなんだろう?」

「……」


 俺達は、しばらくの間、無言のまま歩いた。

 その後で、渡波は気を取り直した様子で言った。


「まあ……結局、黒崎君はすごいってことだよね」

「……どうして、そういう結論になるんだ?」

「だって、黒崎君はアリスちゃんみたいな天才じゃないし、天音ちゃんみたいな何でも許しちゃう子じゃないし、桐生美咲ちゃんみたいないい子じゃないでしょ? 普通の人なのに、玲奈ちゃんに惚れられるっていうのは、すごい人だってことだよ」

「……よく分からない評価だな……」

「雫。黒崎に気を遣って、無理に持ち上げる必要はないわよ。宝積寺だって内心では呆れてるはずだから、そのうち飽きると思うわ」

「……どうして、お前にそんなことが分かるんだ? お前はクラスも違うし、最近は、宝積寺と話したことなんてないだろ?」

「だって、あんたは、宝積寺が抱かれたがってることに気付いてなかったじゃない」

「……は?」


 こいつは……何を言ってるんだ?


 宝積寺は、そんな素振りを一切見せなかった。

 仮に何らかのシグナルを発していたとしても、どうして接点のない須賀川に、そんなことが分かるのか?


「宝積寺は、あんたの前では飲食を一切しないんでしょ? それって、脱いだ時に、お腹が出てたら嫌だからよ」

「……?」

「……ここまで言っても理解できないの? まさか、私達のお腹の中に、内臓があることを理解してないんじゃないでしょうね?」

「いや……。そりゃあ、お前らだって、飲み食いすれば腹は膨れるだろうが……そんなこと、気にする必要はないだろ」

「あんたって……馬鹿じゃないの? 女の子なら、気にするに決まってるじゃない。私だって……」


 そこまで言って、須賀川は顔を逸らした。


「どうした?」

「……あんたと一緒に食べた時には、量を少なくしたんだから」

「……俺の前で脱ぐ予定があったのか?」

「予定はなかったけど……その場のムードとか、そういうものによっては、何かあるかもしれないじゃない! その程度のことは誰だって考えるわよ!」

「……そうか」


 気まずい空気が流れた。

 一緒に食事をした時、少食だとは思ったが……あの時、須賀川は、そんなことを考えていたのか……。


「宝積寺さんって……そういうことを考える子なのかな?」


 そう言いながら、蓮田は首を傾げた。


「当然じゃない。あいつは痩せてるから、お腹が膨らんだら目立つもの」

「でも、そういうつもりなら……もう、黒崎君と、そういう関係になってるんじゃないの?」

「それは……あいつは男が苦手だから、言い出せないんでしょ」

「私は、そうじゃないと思うな……」

「だったら、どうして宝積寺は、黒崎の前で飲み食いしないのよ?」

「……」


 須賀川の質問に対して、蓮田は答えづらそうだった。

 何故か、俺の方を、気まずそうにチラチラと見てくる。


「……何だよ?」

「……」


 蓮田は、須賀川の耳に口を寄せて、何かを告げた。

 それを聞いた須賀川は、困惑した表情を浮かべる。


「ひょっとして……薬?」


 渡波が、何かに気付いた様子で呟いた。


「薬……?」

「ただの思い付きなんだけど……飲み物に何か入れられるのを、警戒してるのかと思って……」

「……ちょっと待て。それは……宝積寺が、俺のことを疑ってるってことか!?」

「それは……」

「黒崎君がそういう人だと思ってるなら、宝積寺玲奈は、黒崎君と付き合ったりしないと思うけど……」


 一ノ関は、腑に落ちない様子でそう言った。


「宝積寺さんは、そういうことを心配してるわけじゃないと思うよ?」


 蓮田は、慌てた様子で言った。


「だったら、何が理由なんだよ?」

「それは……」


 理由に察しが付いた様子の蓮田は、俺の質問に答えたがらなかった。


「……何だよ?」

「……トイレよ」


 須賀川が、代わりに答えた。

 その言葉に蓮田が慌てる。


「ちょっと、鈴!」

「こうなったら、はっきりと教えた方が2人のためでしょ? 宝積寺は、黒崎の前でトイレに行きたくないのよ」

「……は?」

「何よ、その間の抜けた顔は? 女の子なんだから、気にするのは当然でしょ?」

「いや、だが……排便しない清純派アイドルでもあるまいし……」


 そう言うと、周囲の女子が、一斉に俺のことを非難するように見た。


「黒崎君……。女の子だったら、誰だって気にするわ」


 一ノ関が、咎めるように言った。


「いつの時代の話だよ……」

「……私だって気にしていたのよ? 好きな男の子の前で、お手洗いに立つなんて嫌だもの」

「そうだったのか?」

「……女の子には、もっと気を遣って。デリカシーのない男は、嫌われるわ」

「……悪い」


 先ほどよりも、さらに重たい空気が流れた。

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