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金色の箱庭  作者: たかまち ゆう


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第110話 和己と玲奈-2

 俺が、宝積寺の発言を肯定した日。

 夜になって、宝積寺は、お裾分けだと言って夕食を持って来た。

 それは、時間があまりない状況で、気合いを入れて作ったとしか思えない夕食だった。


 さらに、宝積寺は、先ほどとは態度が変わっており、自身の非礼を詫びてきた。

 狙いどおりになって笑いたい気分だったが、なるべく態度に出ないように気を付けて、殺すと脅されたことについては、すんなりと許してやった。


 俺の方からも、宝積寺の家に無断で入り、裸に近い格好を見てしまったことについて改めて謝罪した。

 すると、宝積寺は顔を赤くして「……もう怒っていませんから……忘れてください」と言ったのである。

 最大の懸念事項がなくなり、俺はホッとした。


 その時の宝積寺は、髪は乾かしてあり、赤いリボンを結んでいた。

 子供っぽい趣味だと思ったが、俺は空気を読んで「そのリボン、似合ってるな」と言った。

 すると、宝積寺はとても嬉しそうな顔をしたのである。

 その様子から、本人はリボンを気に入っていることを察した。



 それ以来、宝積寺は毎日のように俺の家にやって来て、色々なことをしてくれるようになった。

 といっても、エロいことは何もしてくれなかったのだが……。

 宝積寺はそういう態度を見せなかったし、俺も身体が目当てだと思われないように気を付けた。

 せっかく良い関係になったのに、迂闊な言動をしてケダモノ扱いされたら、激しく拒絶されるかもしれないからだ。


 試しに、宝積寺に「彼氏とデートしたことはあるのか?」と尋ねると、強い口調で「そのような、ふしだらなことはしません!」と言われてしまった。

 あまりにも大袈裟だったので、「お前くらい美人なら、男子が放っておかないだろ?」と尋ねると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 やはり、こいつは、この地方の名士の娘か何かなのだろうというのが、その時の俺の認識である。

 そんな考えは、宝積寺の家を訪れた北上も、良家の娘のような雰囲気だったことで補強された。


 軽い女ではないことが分かったので、俺は宝積寺のことを、一方的に恋人扱いしないと決めた。

 そう認識したら、手をつないだり、抱き締めたりしたいという欲求が湧いてくることが分かりきっていたからである。

 心の底では、宝積寺の方からスキンシップを求めてくることを、ひたすら待っていたのだが……宝積寺は、俺に一切触れようとしなかった。


 エロいイベントは無かった代わりに、宝積寺は、俺の全てについて面倒を見ようとした。

 朝昼晩の食事の世話や洗濯、家の掃除などである。


 さらに、学校が始まってからは、朝になって俺が家を出ると宝積寺が門扉の外で待っており、下校する際にも教室の外で待っている、ということが日常化していた。

 そして、宝積寺の家に招かれて、勉強も教えてもらうことになったのである。

 今時、こんなに男に尽くそうとする女が存在するとは思わなかったので、あまりにも極端な言動に驚かされた。


 だが、それよりも驚かされたのは、俺が「この辺りには街灯もないが、痴漢に遭ったりしないか?」と尋ねた時だ。

 宝積寺は、「そんなことがあったら、相手を殺します」と言ったのである。


 初めて会った頃のキャラを引きずっているのかと疑ったが、宝積寺の口振りは本気のものだった。

 まさか、本当に殺したりしないだろうな……とは、怖くて質問できなかったほどだ。


 大人しそうに見えるが、男女関係については異常なほど潔癖であり、怒らせると何をするか分からない。

 宝積寺玲奈に対する、俺のそんな評価が固まった瞬間である。



 そんな危ない女が俺に尽くしてくれるのは、俺が宝積寺の本性を、本性だと気付かずに評価したから……であるはずだ。

 だが、宝積寺は、俺が口先だけであいつに同調していたことなどお見通しだった。


 それでも、春華さんがいなくなり、心の支えを失った宝積寺にとっては、俺の言葉が救いになったという。


 確かに、普通の人間であれば、宝積寺の言動に対して「安易に人を殺そうとするなんて間違っている」などと言って窘めただろう。

 それは正論だが、宝積寺にとっては、単に自分の主張を否定されるだけでなく、もっと根本的な部分を否定する言葉なのだ。



 そこまで考えてから、俺は、あの時の自分について分析した。

 俺は……どうして、宝積寺の発言を肯定したのか?


 スタイル抜群な美人と親しくなれる、絶好のチャンスだったから……?

 それは否定できない。

 大河原先生の授業が始まるまでは、俺の妄想の対象は、主に宝積寺だったのである。


 だが、それだけが理由ではなかったのかもしれない。

 つまり……俺は、宝積寺の考えに、本当に共感してしまっていたのではないか?


 今まで考えたことのなかった、自分でも驚くような仮説である。

 だが、そう仮定すると、俺の下心に気付いていたはずの宝積寺が、俺のために尽くしてくれた理由が説明できる。

 つまり、俺の発言について「方便ではない部分がある」と感じたから、宝積寺は俺のことを、恋愛の対象として意識した……?


 当時の俺は、宝積寺玲奈という女について何も知らなかった。

 本当に人を殺すとは思っていなかったし、殺した人間を埋めることができるとも思っていなかったし、異世界人を殺した経験があるなどということを予想することは不可能だったのである。


 とはいえ、「自分が危険だと思った相手は躊躇なく殺す」というあいつの発言に、惹かれるものがあったことは確かだ。

 これは、先日、早見の話を聞いた時から、漠然と感じていたことである。


 早見によれば、この町の連中は、脅威であるはずの異世界人を危険だと認識せず、訓練もしないで暮らしているらしい。

 それは単なるごまかしであり、もし異世界人に襲われたら、能天気な連中は為す術なく殺されてしまうだろう。


 そのことを考えた時に、俺の頭の中に大きな疑問が浮かんだのである。


 この町の住人は、自分達が安全な場所に住んでいるという前提で、宝積寺のことを危険人物扱いしているが、もしも皆の認識が変化したら……?

 例えば、異世界人が大勢の人間を殺したとしたら、宝積寺は、春華さんと同じような立場に祭り上げられてしまうのではないだろうか?


 無論、そうなったとしても、多くの住人が、宝積寺を恐れることに変わりはないだろう。

 だが、自分の命が助かるなら、宝積寺に助けを求めようとする人間だって多いはずだ。


 俺だって、登下校の時には、ずっと宝積寺に守ってもらっていた。

 あいつと一緒にいる際に、戦闘に遭遇しなかったのは、単に運が良かっただけである。

 本当は、いつ命を狙われても、おかしくはなかったのだ。


 命の危険があったとしても、須賀川のような人間であれば、宝積寺を頼ることはしないだろう。

 だが、蓮田なら、宝積寺に助けを求めるのではないだろうか?


 とはいえ、殺傷の必要性を宝積寺の主観で決めさせれば、この町の住人であれ異世界人であれ、誰かが理不尽に殺されるおそれがある。

 そのことが、俺に、宝積寺に頼りきることを躊躇わせていた。

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