別れのためのカルミア
エデュアルトは、正直なところ、ラウレンスの失敗にそれほど驚いてはいなかった。
ラウレンスが、ディアナに本気であることを知っていたからだ。
だから、すぐにディアナを回収した。
「いつまで、私はここに?」
街のはずれの小さな家に住まわせて、監視させた。何度か様子を見に行くことはあったが、全て短時間で済ませた。どこからか話が漏れて、ユリアナを不安にさせたくないからだ。
「計画が、進むまでだ。」
ディアナの期待に満ちた目に、エデュアルトは、気づいていた。それが、何を意味していて、何を期待されているかも理解した。今まで、気づいていなかった己が馬鹿だと思った。
きっと、ラウレンスは気づいていたのだ。ディアナをずっと見つめ続けてきたラウレンスが、その瞳の意味を知らないはずがなかった。
だから、失敗したと思った。ディアナを回収するのに、自分が動いたことは、失敗だった。
「計画って、なんですか?私は、お役に立てますか?」
「ああ、役に立つ。お前を、ラウレンスの妻にする。」
「……え」
ラウレンスはディアナを必要としていた。それは、傷をなめ合って傷つけあう人間を必要としていたからだ。でも、ディアナは違うようだった。
ディアナに必要なのは、傷のなめ合いではなく、傷をなかったことにする無頓着さだった。
「お前は、欲をかきすぎた。」
「私は、ただ、」
「お前は影だ。拾われたにすぎない。過ぎた栄光を与えられていることに気づかない傲慢さは、愚かだ。改めなければ、殺されるぞ。」
ディアナは、おそらく、エーディットを見習うべきなのだろう。自分の傲慢さも愚かさも理解して、それでも望みのために、犠牲にできるエーディットを。
エデュアルトは、縋り付くディアナを払いのけて、城に向かった。これから、エーディットとの約束を果たすために、ラウレンスを引き留めなければならない。
とても気の重い仕事だ。エデュアルトは、知らずため息をついた。




