不実なアサガオ
主寝室の扉を閉めて、背中を預ける。動きやすいようにと着ていた簡素なワンピースが、慣性の法則に従って広がる。
一瞬の夢から覚めたのだ。二人で見ることを許された一瞬の夢から覚めて、エーディットは、また一人で見る醒めない夢に閉じ込められる。
ラウレンスの手に触れていられる時は、もう終わった。そう自分に言い聞かせなければならないほどに、大きく硬い手の感触を覚えてしまった。離れた手のひらの感覚は不安定で、世界との境界線があいまいになったようだった。
エーディットは、ラウレンスの意識が戻ったことを、神に感謝した。そして、同時に、悲しくなった。
いや、悲しいという感情は、この濁った感情をあいまいにしか示していない。幼い時に自分の玩具を取られたときの感覚や、自分のものにならないならと祖母のアンティークのティーカップをたたき割りたくなった時の感覚、自分が生まれる前の父と母の幸せな思い出に父が浸っているのを見ている時の感覚、そのすべてをぐちゃぐちゃに混ぜて、煮詰めて、泥にしたような感情だった。
本当はディアナを求めていたのであろうラウレンスの手を、切り落としてしまいたいと思うのは、アンティークカップをたたき割りたくなった時の感情に似ている気がした。
振り払う前に、自分で離した手は、その頃よりも大人になった証のように思った。
カップを割りたくなって、微笑むことができなくなって不貞腐れて、祖母を困らせた幼いころよりも、大人になった。だから、自分から手を離して、微笑むことができたのだ。
一つため息を吐き出す。本当は言葉に声を与えたかったけれど、息だけを吐き出した。冷たい海の中だったら、きっとこの吐息は泡になって消えるのだろう。
こうして、また一つ、言葉は声にならず泡になって消えていった。
泡にとけて、消えてしまう、その前に




