手の中のアコナイト
エーディットは、静かに庭を散歩していた。図書館にばかりこもっていたせいで、美しい庭の季節の移ろいを楽しむことができていなかった。
フランカは、エーディットを追いかけるように、ゆっくり歩いていたが、気配もなく、足音も聞こえない。
「この庭も、冬になったら寂しくなるのね。」
「そうですね。」
フランカは、あまり興味もなさそうに答えた。フランカにとって、庭の季節の移ろいなど、きっとどうでもいいことなのだろう。
「ドロテアは、どうしたの?」
答えを見つけてから、ドロテアを見かけなくなった。その答えは分かっていたけれど、誰もが、口を閉ざしている。
「さあ?存じ上げません。」
フランカは、また興味もなさそうに答えた。心底、どうでもいいと思っているようだった。
「暇を出されたのかしら。」
「まあ、でも、ドロテアは、旦那様にとって、もういらないものですから。」
ひやりと冷たい風が通り抜ける。いらなくなったら、切り捨てられる。ファンデル家では、それが当たり前なのだと思うと、歩みが止まってしまった。
「奥様?」
エーディットは、この家で必要とされる日は、来るのだろうか。来なかったら、どうなるのだろうか。
ドロテアのように、泡になるのだろうか。
ドロテアは、きっと、恋をしていた。美しい色ではなかったけれど、不純物にまみれたドブ色の恋をして、きっと、泡になったのだ。
ドロテアとラウレンスの間に、何があったのか。正確なところを、エーディットは知らない。
でも、それは、甘い香りを纏わせて、エーディットに知らしめた。
その甘い香りは、ライラックに似ていた。チューベローズの香りではなかった。それが、どんな意味を持つか、エーディットには分かっていた。
エーディットを泡にするのは、ライラックではなく、きっと、チューベローズだ。
つくり笑い、私も、あなたも




