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 ログアウトした私は寝転んだまま伸びをして身体を起こす。

 普段よりも遅くなったかなと思ってもまだ12時にはなっていない。

 少しボーッとしてから、刺繍の練習をこっちでもしたいと思った。

 私が小学生だったか中学生の頃に、学校で使っていた裁縫箱があったような…。

 車椅子に移動して記憶を頼りに押し入れを開ける。

 どこやったかなぁ…。

 下手に出したりすると片付けるのが大変そうだから目視で探す。

 視線を彷徨わせていると見覚えのあるケースがあった。

 見つけた。

 けれど車椅子に座っていると届かない高さに合った。

 年末に無理に取ろうとして車椅子から落ちたことを思い出す。

 あの時は怪我は無かったけど、母さんと那月にかなり心配をかけてしまった。

 無理して取るよりは那月が帰ってきたときに頼む方が良いだろう。

 それに刺繍用の道具が揃っているかと言われると多分無い。

 だって学校で刺繍をした記憶が無いからね。

 忘れてるだけかもしれないけど、覚えてるのってエプロンと巾着袋かな?

 一応道具については母さんにメールしておこうっと。

 押し入れの扉を閉めて部屋を出る。

 お昼が近いし昼食でも考えよう。

 とりあえず冷凍庫を開けてみる。

 色々入ってる冷食を物色しているとドリアが目に付いた。

 一袋で3食分入ってるえびドリアだね。

 目に付いたら食べたいと思ってしまい他の物は惹かれなかったので1食分取り出す。

 サラダは母さんが用意してくれており、冷蔵庫の届く位置に置いてくれているのでそれを出すだけだ。

 一人暮らしの時にもサラダはコンビニで買うようにしてたけど一つだけ変わったことがある。

 当時はドレッシングの付いてるヤツを買ってたから何をかけるか考えたことがなかった。

 しかし、今は選ぶことができるのだ。

 母さんが気分でかけるの変えるから色々あるだけなんだけどね。

 那月はわりとごまドレッシングが多いかな?

 今日はシーザードレッシングにしよう。

 それと母さんが試しに作ったというキノコの漬け物も出す。

 栄養のことを考えてネットで色々調べてくれてるようだ。

 一人だと面倒くさくて弁当や外食で済ましてしまっていたから気にして作ってくれるのは嬉しいし感謝だね。

 私は味付け嫌いじゃなかったけど那月にはいまいちだったみたいで思ったより残っていた。

 適当に取り出したインスタントの味噌汁を作ってテーブルに並べていく。

 何というかドリアに味噌汁って組み合わせとして微妙そうな気がするけど気にしないことにする。

 温め終わったドリアをレンジから取り出して手を合わせる。


「いただきます」


 よく考えると主菜がないかな?って思ったけどこれ以上量が増えると食べきれない気がした。

 そういえば気が早い気はするけど夜ご飯の返事きてるかな。

 朝ご飯やお昼ご飯をしっかり食べた方が良いとは思うんだけど、夜ご飯が1番豪華なイメージがある。

 高校や仕事をしてた頃は朝やお昼ご飯に早く食べれるものを選んでたからだと思うけどね。

 そんな事を思いながら行儀は悪いけど携帯を机の上に置いてメールを確認する。

 すると携帯が振動し音楽が鳴り始める。

 ちょっと前に社長から電話があった事を那月に言ったら着メロを変えれば良いと言われた。

 頻繁に人と連絡を取ることがなかったし、仕事での連絡に使っていたので初期から変えたことがなかった。

 変える必要も無かったというか、変えようとも思わなかった。

 その為やり方がわからなかったから那月に手伝って貰った。

 今流れているのは那月が好きだというアニメの主題歌で母さんも知っていると言っていた有名な曲らしい。

 私としては聞いた事があるかな?とは思うけど、どこで聞いたとかはわからない。

 多分ラジオとかテレビで流れてたんだとは思うけどね。

 それよりも着信が着ているのに無視するわけにはいかないし電話に出る。


「もしもし」


「あ、お姉ちゃん。今何かやってた?」


 視線で時計を見ると12時を過ぎているからお昼休みなのだとわかる。


「ううん、お昼ご飯を食べてるところだから大丈夫だよ」


 実際私は仕事してたりするわけじゃないから電話に出れないって事は無いんだけどね。

 この時間だと普段からゲームはログアウトしてるのは那月も知ってるはずだし。


「食べてるとこ…、邪魔しちゃったかな?」


「ううん、大丈夫。連絡取ろうと思ってたから丁度良かったよ」


「え!そうなの?」


 私の返事に嬉しそうに反応する。

 私にべったりなのは普段からわかってはいるけど、こうして反応してくれるのは嬉しかったりする。

 それを伝えたりはしないんだけどね。


「朝メールしたと思うんだけど返事がまだだったからね」


「あ…。メール自体は確認してたけど返事するの忘れてました…」


 ションボリしたようにそう言った那月の表情が何となく浮かんだ。


「大丈夫だよ。メールより直接話した方が決めやすいよね」


「うん、ありがと!夕食か~、お姉ちゃんは食べたい物ある?」


「ん~。何が良いかな?」


「うーん。特にない感じ?」


「そだねー。すぐには浮かばない…。ぁ、クレープが食べたいかも」


「お姉ちゃん。それ、ご飯じゃなくてデザートだよ…。んー…、コンビニのでも良い?」


「買ってきてくれるの?」


「売ってたらだけどね。ご飯特に食べたいの無いなら魚とかどうかな?」


 魚か。

 母さんが作ってくれる料理だと焼き魚が多い。

 後は煮付けかな。


「魚だとお刺身とか生のが食べたい気がする」


「海鮮丼みたいなのでもいい?」


「うん、そういえばゲームでも生では食べないよね」


「あー…。それは生食の習慣がないからって事みたいだよ」


 ゲームの食べ物の話で盛り上がったので少しの間話をした後通話を切る。

 話をしていたから冷めてしまった昼食を食べる。

 年末年始の間は母さんと那月が休みだったから、1人で食事を取ることがなかったので少し静かに思える。

 昨日は社長からかかってきた電話で、それどころじゃなかったから余計にそう思うのかもしれない。

 溜息をついてそこまで多くないドリアを食べ進める。

 長くない冬休みだったけどゲームのこともあって短かったとは思えないくらい濃密な時間だった。

 だから静かな部屋で1人昼食を取るのが寂しいと思ってしまった。

 ゲームを始める前は1人で食べる食事に何とも思わなかったんだけどな。

 会社に勤めてたときは朝晩1人で食べることの方が多かったし。

 そんな事を考えながら食べ終わって出た容器などゴミ箱に入れ、使った食器類をシンクに置いてテーブルに戻る。

 テレビをつけてぼーっと眺める。

 時折携帯で時間を確認する。

 普段ログインしてる時間まではまだあるし、食べてすぐに寝転がるのはあまり良いとは思えない。

 だけど広いリビングに1人でいると心細く思えて落ち着かない。

 つけたテレビを消して自分の部屋に移動する。

 身体を動かさないと、そう思いつつもベッドに移り寝転がる。

 少し横になって軽く身体を動かそうと思うけど無性に誰かと話したい。

 そう思った私はVR機器を身につけていく。

 続けてゲームを立ち上げた。


 薄暗い洞の中で目を覚ます。

 いつもの寝床だ。


「サクヤ、おはよう。…って言うには早すぎるかな」


 サクヤに声をかけるといつもより明るく周りを照らしてくれる。

 もしかしたらサクヤは普段より早く起きた私に喜んでいるのかな?

 そんな事を思いながらもサクヤの伸ばす蔦を手に取って眺める。

 これ素材になるのかな?

 そういえばサクヤと契約したとき、私に巻き付けた蔦は指輪として今も指にある。

 思えばこの指輪の鑑定したことなかったなぁ。


 ・契約の蔦指輪

 レアリティー:ユニーク

 サクヤと契約した仮の証である蔦指輪。

 まだサクヤの魔力が安定していない為に正式な契約の証は作られていない。


 アレ?

 契約の証って言うと…。

 シュティがファエリと契約したときにできた宝石みたいなのだっけ。

 今にして思うと確かにないなぁ…。

 でも、カエンサイ達妖精と契約したときは作られてたはず。

 あの時はサクヤと妖精達じゃなくて、サクヤと私が一緒だったから?

 まだサクヤだけだときちんと契約できないけど、私と一緒だと今でもできるのかな。

 きっと繭の中から出てくれば普通に契約できるようになるんだと思うけどね。

 それはそれとして。

 鑑定したら装備になってるって事はきっと素材になるのだろう。

 手にした蔦を握ったり振ったりしてサクヤと遊ぶ。

 こうしてゆっくりサクヤとすごしたことはなかったかも。

 そう思って繭に背中を預ける様にして座る。


「私ね、今裁縫を習ってるんだよ。今はこういう刺繍の練習してるんだ」


 そう言って練習で使っている布を蔦に渡す。

 器用に2本の蔦が布を広げて、3本目の蔦が布の表面を撫でている。

 目が見えているかはわからないけど感触でわかるのかな?

 実際目が見えてないのかはわからない。

 けど、視界の共有みたいな事ができたら見せてあげれるのにと思った。


「そのうち編み物教えて貰ったらサクヤにも教えてあげるね」


 私がそう言うと蔦の1本が私の手を取り振った。

 嬉しいのかな。

 喜んでくれているのなら私も嬉しい。

 しばらくサクヤに最近あった事とかを話をしてすごした。


 ・

 ・・

 ・・・


「じゃ、ちょっと外行ってくるね」


 そう声をかけると蔦を振って見送られる。

 外に出ると可愛らしい欠伸をしているエミリーと目が合った。


「お嬢様おはようございます。見苦しいところをお見せしました」


「おはようでいいのかな…。エミリーの可愛いところが見れて眼福だったよ」


「忘れて下さい。普段は横になっている時間だったので油断してたんです…」


 話をしながら私達は食事をしてる地下のテーブルを目指す。

 わかってはいたけどまだ外は暗かった。

 暗いと言っても光る花々もあり日が沈んでも真っ暗というわけではない。

 日が出ているときよりも幻想的な感じがして綺麗に思える。


「エミリーはいつもあそこにいるわけじゃないよね?」


「はい。先ほどはサクヤ様の嬉しそうな感情で目が覚めました。楽しそうな感情が来ていたのでその間に来ました」


「そっか、寝てる所起こしちゃってごめんね。いつもありがとね」


「いえ、お嬢様のお世話は私の特権なので」


 そう言ったエミリーは少し嬉しそうだった。

 実際のところサクヤの様子がわかる妖精の方が良いのだろう。

 カエンサイやスイセン達は自分でやる事を決めて色々やってるようで、私からお願いするときは手伝ってくれている。

 レーテやアスピス達は交代で森の警備をしているみたいだけどやり過ぎてないかちょっと不安だ。

 何せ迷いの森になってる部分にトラップ類を設置してるのはルナやシュティが監督していたはずだからね。

 地下のテーブルにつくとエミリーが軽食を取りに行ってくれた。

 その間にログインしてる人がいるかフレンド欄を確認するとキバさん達だけだった。

 後で行くつもりだからその時に会うかな、そう思ってフレンド欄を閉じた。

 エミリーが食事を持ってきてくれたけど1人で食べたくはなかったのでエミリーも食べるように言う。

 2人で話をしながら食べていると数名の妖精が食事に来たようでその子達も誘う。

 前日の、午前中のログアウトする前の話を聞いていて参加できなかった子達が私がいるという話を聞いて集まってきたみたい。

 気づけばまたも多くの妖精達に囲まれていた。

 話したい子達が次々に声をかけてくるので、どの子が何を言ったかなど把握できない。

 みんな楽しそうにしているから、それでも良いのかなって思ってしまう。

 食事を終えてしばらくするとエミリーが集まってきてる子達にやる事がないのか確認する。

 すると、やっぱり休憩で来てる子達もいたみたいで作業に戻ると私に挨拶していく。

 敬礼をして行く子。

 お辞儀をしていく子。

 五体投地していく子。

 拝んでいく子。

 ボディービルダーの様なポーズをして行く子。

 うん。

 一部の子達の行動を頭からたたき出して、個性があって良いと思いました。

 残った子達はおやすみだそうでゆっくり寝てても大丈夫だからもうちょっと一緒にいるそうだ。

 私はサクヤにも見せた刺繍した布を妖精達にも見せてみた。

 中には裁縫を習ってる子がいて刺繍にも興味があるようだった。

 裁縫を教えているのはシキ姉さんやスノウさんだそうだ。

 エミリーも習っているそうで私が渡された一部の服を縫ってくれていたのを聞いて嬉しくなった。

 元々は破れたときに補修できるようにと教わったみたい。

 デザインや裁断等は全部2人がやってくれたから縫い合わせただけとエミリーは言う。

 けどね。

 縫うのって難しいと思うんだよ。

 妖精用のミシンは聞いてみるとやっぱりまだ無いらしいから手縫いと言う事になる。

 もし私がやるとなれば縫い目を気にしてしまうだろう。

 何よりも縫い合わせた部分がズレそうな気がするんだよね。

 そう考えるとエミリーは凄いと思う。

 それを伝えると真っ赤になりながらも私に頭を下げて礼をしてきた。

 照れてるのがわかるから可愛く見える。

 その後周りの妖精達にからかわれて怒って他の妖精達を追い返してしまった。

 賑やかだったのが静かになる。


「急に静かになったね」


「お嬢様、普段なら寝ている子達ばかりです。そろそろ解散しておかないと後が辛くなります」


 まだちょっとご機嫌斜めなエミリーに苦笑して相づちを打つ。


「そうなんだね」


「気にしてくださるなら、また集まって話せる機会を作ってくださると他の子達も喜びます」


「普段ローテーションしてる子達が集まるのは難しいよね?そうすると何日か分けて考えた方が良いかな」


 私がそう言うとエミリーは嬉しそうにほころばせて頭を下げた。


「私に出来る事でしたらお手伝いしますので仰ってください」


「うん、その時はよろしくね」


 妖精達に見せていた布をしまっていく。

 テーブルに残っているお皿をどうしようかと思っていると風が吹く。

 換気はしているとはいえ地下であるここに自然な風が吹くことはない。


「ぴゅ~」


 マントを着けた緑髪の妖精が片手を伸ばしもう片手を胸の辺りに当て、口で気の抜ける擬音を発しながら飛んでいく。

 フウランだ。

 どこかのヒーローのような飛び方をしていた。

 以前は飛ぶときにあんなポーズはしてなかった気がするけど、また誰かに教わったのだろうか。

 私とエミリーには目もくれず調理場の方へ飛んでいく。

 フウランが通った後を机にあったお皿やコップが風で運ばれ飛んでいく。


「はっ、フウラン!お嬢様に挨拶の一つでもして行きなさい!!」


「エミリー、良いよ。気にしてないから。そういえばフウランって普段何してるの?」


「あの子は今みたいに片付けもしてくれるのですが、それだけじゃなくて荷物や迷いの森で仕留めた獲物などを運んでくれています。普段どこにいるかは…、私達もあまり詳しくないんです。あの子は気分屋なので…」


 思えば話をしたことはなかったし、名付けをして契約はしたけどあまり関わってなかったんだよね。

 気にはなったけどエミリーも詳しくは知らないようで曖昧な返事だった。

 けど他の妖精達と関係が悪いわけじゃなく手伝いはするけど気づいたら居ないとかフラフラとどっかへ言ってしまうようだ。

 ただ、運んだりする物があるといつの間にか現れて運び始めてたって事もあるみたい。

 自由にさせていても困らないからエミリーも何も言わないみたいだ。

 契約したときの花吹雪はファエリに怒られてたけど、あの子なりの喜びの表現だったのかなと思う。

 そのうち一緒に話せる機会でも持てれば仲良くなれるかな?

 フウランのおかげで片付けも終わったので、次はどうしようかと思ってメニューを開く。

 まだゲーム内時間は朝の5時過ぎだから外は暗いはず。

 予定には早すぎると思ったのでエミリーに用意して貰っていたアイテムをしまう。

 主なモノは魔道具に使えそうな素材と裁縫素材、それから空腹対策の果物だ。

 手持ちが全部なくなったわけじゃないけど減ってはいたので念のためだね。

 素材庫の方へ行ったついでに調理場にも顔を出してカエンサイやスイセンとも少し話をした。

 荒地に行く前にツクシを連れて行くつもりだったので2人も誘ってみると行くと即答された。


「そういえばみんなの部屋の掃除も妖精達がしてるの?」


 エミリーと同じシルキーになった妖精が掃除の手を止めて私に挨拶をしてくれた。

 少し離れてから気になった事を一緒にいるエミリーに聞いてみた。


「人にもよりますね。触られて困る物がある方達は扉が開かないようにしています」


「へー、そうなんだ。鍵なんてあるんだね?」


「いえ、鍵の取り付けは行われていません。スライドドアを中からつっかえ棒で開かないようにしている、との事です」


「なんて言うか扉を変えて鍵を取り付けるの真面目に考えた方が良い気がするね」


 そんな事を話しながら移動してやってきたのは1つの部屋の前。

 今の部屋割りは2人部屋になってるのは光葉さんと闇菜さんだけで他は1人部屋になってる。

 男性陣は談話室を区切って使っていた状態から1人部屋を用意して貰っている。

 けど、時々談話室で転がってたりする。

 宴会やって寝落ちとか楽しみすぎだと思う。

 羨ましい。

 さてそんな事より部屋に入るわけです。

 が、つっかえ棒なのは知らなかったけど開かないようにしてあるのは知ってた。


「戸締まりはされてるはずですが、どうするんですか?」


 エミリーに聞かれたので答える。


「マスターキーを使うんだよ…。サクヤお願い」


 私がそう言うと中から音がして扉がスライドする。

 いや、本気で開けてくれると思わなかったんだけど…、開いちゃったよ。


「ちょっと待ってて中に入ってくる」


「わかりました」


 エミリーを待たせて部屋に入る。

 部屋の中に入ると壁だけでなく天井まで黒い壁紙の部屋だ。

 天井には月が光って部屋を照らしている。

 明かり代わりの魔水晶に素材はわからないけど黄色いカバーを付けて月に見立てているようだ。

 壁や天井にも星がちりばめられていた。

 星も光ってるから魔水晶が付いてるのかな。

 家具はそこまで多くはなくてベッド、テーブル、イス、タンスぐらいだ。

 それだけあれば十分なのかもしれないけどね。

 私はベッドで眠る人物の顔の近くへ飛んでいく。

 システム的に触れることはできないから近くで寝ているルナを見る。

 うん、贔屓目かもしれないけど可愛い。

 ログインする前は寂しかったけど妖精達と話したり、会話はできなくてもサクヤだっている。

 それにこうやってルナの寝顔を見てたら、この子の為に頑張ろうって思ったあの時のことを思い出した。

 あ、せっかく寝顔が堪能できるんだから写真撮っておこう。

 角度を変えて何枚か取ったし満足満足。

 そろそろ部屋を出ておこうかな。


「ぁ、サクヤ。私が出たら戸締まりお願いね」


 一応そう言ってから部屋を出る。

 部屋を出て扉を閉めたところで部屋の中で音がした。

 少し待ってから扉を開けようとしてみるけど固く閉ざされていた。

 多分サクヤがつっかえ棒を操作してくれたんだろう。

 どうやったかはいまいちわからないけど、内鍵を取り付けても頼めば簡単に開けてくれる気がする。

 ルナは許してくれると思うけど、帰ってきてから説明して謝っておこう。

 サクヤというマスターキーはホントに緊急時以外は使わないよう心に決めてテーブルのある広場に戻る。

 戻ってきたものの妖精達は解散してもういないし特にやる事は無い。

 時間を見るとまだ6時過ぎとサロユさんの所へ行くには早すぎる。

 用事は無いけど冒険者ギルドに行こうかな。


「出掛けてくるね」


「はい、お嬢様。行ってらっしゃいませ」


 氷像を作って浮かせ、エミリーに声をかけてから転移装置を起動する。

 視界が切り替わり街に出る。

 丁度明るくなり始める時間帯だったようだ。

 人は少ないかなって思っていたけど屋台も出てるし人通りはそこそこあった。

 よく見ると容器に入った魚を手に港の方からこちらへ来る人達がちらほら見える。

 なるほど、朝市みたいなのがあるのかも。

 今度ルナを誘って行ってみようかな。

 気にはなるけど今度の楽しみにして今は冒険者ギルドに向かう。

 納品依頼ぐらいなら手持ちで何とかなるのもあるからね。

 入り口から入って真っ直ぐクエストボードに行く。

 最初の頃と違うのはコッコの卵のクエストはもう無くなっている事だろうか。

 もちろん私はよく知らないけど以前あった物が無くなったり増えた依頼も多いと聞く。

 コッコの卵のクエストがなくなったのは養鶏…、養コッコ?に成功して卵は商人ギルドに卸されるようになったからだ。

 変化する依頼の中、常設として残っているモノもある。

 薬草採取だね。

 ルナやシュティ曰くやっぱりこれは冒険者の定番なのだそうだ。

 ちなみに私が納品するつもりの薬草はホームで栽培されている薬草の中で品質が悪かったものだ。

 品質が悪いと言っても森で採取できる薬草と比べると品質は良い。

 あくまでホームで取れるモノとしては品質が悪いだけであって十分良いモノだ。

 持ち出しに関しては細かくルールは決まってはいないけどある程度基準はできてきている。

 シュティとラギさんが確認して問題無さそうなら私が許可している。

 と言っても私はルナに説明して貰いながらだけどね。

 2人からも話は聞くけどゲーム内でメジャーな事でも私は知らなかったりする事があるからルナがフォローしてくれて助かってる。

 制作物に関してはスノウさんや光葉さんの作ったモノはプレイヤー間で取引している。

 スノウさんはシキ姉さんがパーティーで知り合ったプレイヤーさんのお店で委託販売をして貰っているとか。

 製品に関しては街で取引されている素材だけを使った物でシルクワームの生地も使ってはいないみたい。

 光葉さんの方は取引してる相手はフレンドだけで、販売しているモノはポーション類で品質は一定にしてるらしい。

 素材のおかげで良い品質になっても薄めたりしているそうで、他のプレイヤーメイドに近くてちょっと上ぐらいの効果に調整しているって言ってた。

 ちなみに私の作ったモノは完成品とかは確認して貰っているけど魔石に刻印したモノに関して最近は何も言われていない。

 理由の1つとして有名になりすぎたと言うことがあげられるけど、あくまで私ができるのは刻印までなのだ。

 魔道具にするのはサロユさんにお願いしていたりする。

 私が作ったって有名になったハゲヅラの魔道具も調整とかはサロユさんにお願いしていたはず。

 私はプリメラさんに刻印した魔石を渡しただけだから、実際のところそこまで詳しくないけどね。

 全部作った魔道具って手持ち花火が始めてかもしれない。

 そんな事を考えながら手持ちにある薬草の種類を確認して依頼を受ける。

 貼られている常設の札を2つほど触れてクエストを受注した後、人も疎らで並んでいないカウンターに行く。


「おはようございます、クエストの報告でしょうか?」


「おはようございます。納品依頼をお願いします」


 挨拶をしてギルドカードを提示して手持ちの薬草を納品する。


「確認しますので少々お待ちください」


 職員さんはギルドカードを読み取り機のようなモノにかざして返してくれる。

 始めた頃と違い採取依頼は量が多かったり品質が良ければそれに合わせて報酬も色を付けて貰えたりする。

 今回の場合量は多くないけど品質はちょっと高めなのでクエスト札に書かれていた金額より少し報酬が良い。

 ボーナスポイントは増えないけどね。


「確認できました、ありがとうございます。またよろしくお願いしますね」


「はい、ありがとうございます」


 私はあまりクエストを受けていないけどボーナスポイントの為に毎日きちんと受けている人もいるらしい。

 この場合の毎日というのはゲーム内で毎日だ。

 同じクエストは連続で受けれないけど、ゲーム内で日付が変われば受けれるようになるのだ。

 しかし、朝昼夜深夜とログインして常設の依頼をこなしている人がいるというのは驚きだ。

 強くなるのにボーナスポイントを増やす為クエストをやるというのは理解できる。

 理解はできるけど真似できそうにないと思う。

 ルナが言うにはネトゲ廃人なんじゃないかと言っていた。

 実際のところはわからないけど、ホントに好きじゃないとなかなかやれないんじゃないかな。

 ネトゲ廃人ってある意味1番ゲームを楽しんでる人のことを言うんじゃないかって思った。

 私が気にすることではないと思うけど、体調には気をつけて楽しんで欲しいとは思うけどね。

 とりあえず思いついた事も済んでしまった。

 実際に薬草取りに行ったわけじゃ無いからあまり時間掛からなかったんだよね。

 受付カウンターを離れた私は掲示板の方へ移動した。

 暇つぶしになればと掲示板を眺めるのだった。

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