95
調さんから連絡があった約束の場所に到着する。
と言っても特別な場所ではなく冒険者ギルドなんだけどね。
私は小さな氷像を抱いてルナの肩の上にいる。
「調さんはどこかな-」
そんな事を言ってルナは視線を彷徨わせていた。
私も探してはいるけど見つからない。
「居ないね」
「だね~。どうしよっか」
「とりあえずルガードさんに聞いてみよう」
「りょーかい」
ルナは私に返事をすると買い取りカウンターの方へ足を向ける。
相変わらずルガードさんは奥で指示するのではなくてカウンターにいるみたいだ。
しかし、普段と違って書類を確認して顔を顰めているから忙しいのだろう。
私のイメージは寝てたり、サボってるのがルガードさんなんだよ。
「おい、嬢ちゃん今俺に喧嘩売らなかったか?」
「あはは、そんな事する訳ないじゃないですか。こんにちは」
「こんちゃー」
まさか私の考えを読んだのかな?
私と一緒にルナも挨拶をする。
「おう。そうか…、嬢ちゃんがこっち見たとき驚いた顔してたからな。失礼な事でも考えてるんじゃねぇかと思ったんだよ。変な事言って悪かったな」
なるほど…。
表情に出てたのかぁ。
というかこっち見てたんだね。
ルガードさんの予想通り失礼なことを考えてたなんて言えないから笑って誤魔化した。
「一見いい加減な態度が多いけどルガードさんって仕事はちゃんとやってるもんねー」
「おい。言い方ってのがあるだろう!」
ルナがフォローのつもりなのか言った言葉はルガードさんの怒りをかっていた。
しかし、すぐに勢いがなくなり書類に視線を戻す。
「はあ…。まあいい、こっちも暇じゃねえんだ。用があるならさっさとしな」
「あ、うん。調って異人と約束してるんだけど」
ルナが言うと一瞬顔を顰めた。
ルガードさんは以前調さんの勢いに圧倒されてたから良いイメージはないのかも。
「アイツのとこか…。おい、誰かこの2人を第一会議室に案内してやってくれ」
ルガードさんがそう言うと女性の職員がこっちに来て案内をしてくれる。
職員の方を呼んでくれたルガードさんはと言うと、私達に追い払うように手を振りながら書類とにらめっこをしていた。
案内されて通されたのはギルドにある一室だ。
第一会議室と言ってた部屋は普段使う部屋よりも広めの部屋だった。
ロの字にテーブルが組んでありホワイトボードみたいなモノが壁に掛かっている部屋だ。
うん、会議室っぽい。
案内してくれた職員の方にお礼を言うと中に入り扉を閉めた。
私とルナは中にいる人達に挨拶をする。
「おはようございます」「おはー」
「「おはよう」」「おはようございます!」「おはようございます~」「おっはよー!」
中にいたのは調さんを含めて5人と1匹だった。
全員が椅子から立ち上がって挨拶を返してきたのでちょっとびっくりした。
「今日は来てくれて助かる。さて、予定より人は多いが自己紹介をしていくか。俺は…、全員知ってるだろうがネルアジャーナルのマスターで調だ。俺の右にいる男が風魔法を使うアトミスで、その隣にいる女性が光魔法を使うコーラルだ」
てっきりもうちょっと人がいるかと思ってたから、予定よりも多いと言われて拍子抜けしてしまった。
調さんが紹介してくれた2人を見る。
男性のアトミスさんは緑髪で背はルナより頭1つ分は高い。
魔法使いらしいけど革鎧を着けていて剣帯を付けているから武器は剣なのかな?
紹介されると90度のお辞儀をして挨拶された。
「あの有名な雪妖精さんとも御一緒できるなんて感激です!よろしくお願いします!」
私だけじゃなくて他の人もいるんだけど!って思い周りを見るが他の人もこっちを伺ってるような感じだった。
そもそも有名と言われても全く自覚がないんだけど…。
コーラルさんは茶髪で装備が白を基調としたゆったりとしたローブ姿の女性だ。
「紹介にありました~、コーラルです~。本日はよろしくお願いしますね~」
ずっと微笑んでいて印象としては優しそうな感じで私達に手を振って挨拶をしてくれた。
2人が挨拶をすると、何となくこの島では浮いてそうな格好の男性がかぶっていた帽子を手に持ちお辞儀をする。
帽子を持った方の手を身体の前、逆の手を背中の方に足も片足を少し下げてのお辞儀だ。
なんというか芝居がかかってる。
確か手品師とか奇術師がこんな感じだったかな?
「幻魔法をメインに使っている魔法使いの凪だ。よろしく頼む」
私の予想と違い、魔法使いと言われたその格好をもう一度見る。
凪さんは黒のシルクハットに黒いタキシード、ズボンや靴も黒と全身真っ黒の格好をしていた。
言われて見ても魔法使いっぽいと思えなかった。
魔法使いってローブを着てるイメージなんだよね。
最後の1人は片手を上げぴょんぴょんと跳ねて自己主張をした。
「はいはーい。私は幻魔法を使うプレイヤーでリンカだよー。こっちは私の相棒でフェンリルのモッフル。よろしくねー」
リンカさんは半袖のヘソ出しTシャツにハーフパンツとかなり軽装な格好で茶髪ショートヘアの女性だ。
挨拶も一番元気よく声が大きかった。
その隣には綺麗な白い毛の狼がいる。
この子がフェンリルのモッフルなのだろう。
大きさは頭の位置がリンカさんの胸ぐらいにあって、体長は2メートル以上ありそう。
「フェンリルなんて凄いですね!このゲームにいるなんて思わなかったよー!あ、触っても良いですか?」
ルナはテンションが上がったみたいで楽しそうにリンカさんに聞いている。
他の人は…。
あれ?
凪さんは溜息をつき呆れた様子で調さん達は顔を逸らしたり何か言い辛そうにしている。
その様子がちょっと気になって失礼ながらモッフルを鑑定してみる。
じー。
あれ、見つめているけど鑑定結果が表示されない?
ルナはモッフルの前にかがみ込んでそっと手を伸ばす。
触れようとしたところでその手が空を切った。
「えっ!?」
ルナは驚いてリンカさんを見上げる。
「ぁ、あはは…」
リンカさんは言い辛そうに視線を逸らしていた。
「ルナさん鑑定してみてくれ」
調さんにそう言われてルナは鑑定しようとモッフルを見る。
「え?あれ、鑑定できない?」
私と同じようにルナも鑑定できないみたいだ。
熟練度が足りてないとかあるのかな、なんて思っていると。
調さんが言い辛そうに口を開く。
「モッフルは生物じゃなくて…、なんて言うか現象なんだよ」
調さんが言ったことが気になって聞き返す。
「現象ですか?」
「あぁ。現状島でフェンリルなんて確認されていない。と言うか居たら倒せる奴なんているのかわからないけどな。まぁ、生物ではないし物でもないから鑑定できないみたいだ」
そう調さんに言われて、モッフルに視線を向ける。
現象と言われたモッフルはルナから離れてリンカさんの後ろに回り背を右手で撫でられている。
「何でリンカさんは撫でれるの?それに現象ってどう言う事?」
撫でられてるモッフルを見てルナが驚き疑問を口にした。
その疑問に答えるべく凪さんが口を開く。
「何故撫でれるのかはアレの気分だろう。私達はそう言うモノだと諦めてる。現象といった理由だが、アレは幻魔法なんだよ」
幻魔法だと言われてルナは信じられないようで疑いの目を向ける。
「納得できないのはわかる。実際アレを見てすぐになるほどとか魔法なんですね、なんて納得できる奴がいるとは思えない。何せアレは自立しているからな」
「もう!さっきからアレアレって、モッフルは物じゃないんですー!」
「お前は黙っていてくれ。アレは魔法が実体を持って発現しているんだ。しかも幻に変わる事もできるようでな。アイツが触れてキミが触れなかったのはそのせいだ」
凪さんはリンカさんの抗議を問答無用で切り捨てる。
リンカさんはそれを不満そうに口を尖らせてブーイングしている。
アレと言われているモッフルは気にしてないようで今は床に伏せていた。
「ぇ、じゃあホントにアレがリンカさんの魔法?」
「そうなる」
「はー、普通の魔法でも人によって全然違うけど幻魔法はもう別物みたいだね」
ルナは感心した様子でモッフルに視線を向けていた。
調さんは溜息をつきながら椅子を引いて腰掛けた。
「モッフルみたいなのは他に例がないんだけどな。まぁ、気になるだろうけど今は自己紹介の続きを良いか?」
「あ、うん。後は私とお姉ちゃんか。私はお姉ちゃんの護衛として来ました。雪月風花のルナです」
ルナは調さんに言われて先に自己紹介をする。
護衛と言ったけどここに居る間は戦闘になるような事はないだろうけどね。
ルナの自己紹介が終わるとみんなの視線が私に向く。
「雪月風花のマスターをしています。スノーフェアリーのユキです。よろしくお願いします」
自己紹介をしてお辞儀をするとルナ以外の人はお辞儀を返してくれた。
先に座っている調さんが他の人にも着席を勧める。
私はみんなから見やすいようにルナの肩に座る。
自己紹介が済み着席すると、集まった全員を見てルナが口を開く。
「それにしても調さんが人を集めたわりには少ないね?」
気になったのかそんな事を言う。
内容は私も思っていたことだから調さんに視線が行く。
「まぁな…。今回の祭りは俺達プレイヤーから見ればイベントだ。前回の掃除と違ってやれる事の幅が広くてな。戦闘職は素材集めによる金策や屋台を出す奴もいるみたいだ。生産職は店をやる為の準備と生産に追われてるようだな」
「早い話~、多くの人に声をかけたけど断られたんですよね~。リンカさんもルナさんと同じで付き添いですしね~」
調さんが理由を話してくれたけど、コーラルさんがわかりやすく教えてくれた。
どうやらリンカさんもルナと同じ呼ばれて来たのではないようだ。
予定より多いというのはルナとリンカさんの事だろう。
リンカさんは立ち位置から凪さんに付いて来た感じかな。
花火については戦闘職よりは生産職の方に話を持ちかけたんだろうと思うけど…。
生産職は祭りまでの期間が短いから、準備に追われていて参加する余裕がなかったのかな?
「まぁ、報酬も不明な依頼よりは準備してきちんと経営できれば儲けが見込める屋台を優先するよな…」
がっくりと肩を落としながら調さんはそんな風に言う。
「報酬は不明なんですか?」
「あぁ、俺のとこにはクエストがきてるんだけど報酬は???となってる。頼む上で隠し事はなるべくしたくなかったからそれを伝えたんだよ…。多分お金だとは思うんだけどな。予想通りお金だったらメンバーで割る予定だ」
気になって聞くとどうやら花火の依頼はクエストとして扱われているみたい。
調さんが受けた事になっていて報酬は多分まとめて貰えるのではないかとの事。
確定されていないから成果によって報酬も変わるというのが調さん達の予想だ。
それを伝えた結果断られてしまったようだ。
「私は説明されてないですよ?」
「イヤイヤ、最初のメールで送ったはずだぞ!?」
言われて確認してみる。
ぁ、ホントだ。
メールは表示された部分だけでなく続きがあってスライドするとそこに書いてあった。
あの時は話ながらだったから要件だけを確認してきちんと見てなかったみたいだ。
「ごめんなさい。きちんと見てなかったみたいです」
「良かった。連絡ミスとか笑えないからな…。それより荒地の事もあって忙しいんだろう?報酬不明な依頼への参加になるけど大丈夫か?」
「はい、それは大丈夫です。手伝ってくれる人来たおかげで予定より早くできてるみたいですし。私は魔道具の設置がメインになるので建物が出来てからかな?」
私がそう言うと調さんはホッとした様子で。
「すまない、助かるよ。とりあえずはここに居る7人を中心に進めていこうと思う。よろしく頼む」
-よろしくお願いします-
調さんに返事をするとウインドウが開いてクエストの参加を求められる。
YesとNoが選べるけど迷わずYesを選択する。
コーラルさんが全員の分の飲み物とちょっとしたお茶請けを用意してくれた。
「さて、まずはアトミスとコーラルに色々と試して貰った内容になるんだが…」
「あれ、事前に2人には試して貰ってるんだ?」
ルナがそう口にすると調さんはがっくりと項垂れながら答える。
「チームのメンバーなんだよ…。何人かに断られて嫌な予感がしたからすぐに協力して貰ったんだ」
「あはは…。僕達は丁度検証してた事にキリが付いたところだったんです」
「幻魔法を取ってる子はまだ忙しくてお願いできなかったんですよ~」
思っていたより人が集まらない事の対応は早くしたみたいだ。
「話を続けるが、風と光の魔法が使える2人に試して貰ったのは生成魔法の風で音を光で見た目の再現ができるかだな。結果だけで言うと可能は可能だった。ただ組み合わせる事はできなかったが」
調さんはそう言ったけど気になった事があるので手を上げて質問をする。
「組み合わせの基本2つができないからですか?」
「いや、それは妖精と契約したプレイヤーが教えて貰えたという話があって検証してたからできるんだ。ただ、それは組み合わせになるから生成で作った花火は合わせられなかったんだ。まぁ、作ったのが別の人間だったのも原因だが」
そういえば私達が教えて貰って練習してた探知用の組み合わせは強化になってたっけ。
これは感覚が少しの間だけ強化されて音や地面の振動で探知するんだったかな?
練習だけして今まで使ってなかったな…。
「組み合わせではできないから幻魔法で再現できれば良いんだけどな」
「あれ、でも私は幻魔法で音は出せませんよ?」
調さんは幻魔法でと言ったけど、私は何度か試してみたけど一度もできてないんだよね。
「それはユキさんが幻視に特化させたからだな」
音を出せない理由が特化した事だという。
「どういう事ですか?」
詳しくわからなかったので詳細を聞こうと質問をすると、勢いよく椅子から立ち上がった人物が居た。
凪さんだ。
「それは私から説明しよう!幻魔法は最初に使った魔法のイメージで方向性が決まるようだ。幻覚を起こす魔法だと現状は認識されており視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のどれかあるいは複数に効果を及ぼすようだ」
「私の場合は視覚って事ですか?」
「あぁ、ちなみに私は視覚と聴覚の2つだがユキさんの様に偽装することはできない。幻痛を起こせる奴もいるが詳細は不明だな。ちなみにアレは全部だと思われる」
凪さんはアレと言いながらモッフルを指差した。
幻痛やモッフルのことは色々気になるところがあるけど今は自分の能力について知っておきたい。
「偽装って言うのは?」
「お姉ちゃんが前にやった名前までファエリに変わってた魔法のことじゃないかな」
ルナに言われて思いだした。
そういえば幻魔法を初めて使ったのはあの時だっけ。
アレが切っ掛けで私の幻魔法は視覚特化になったって事かな?
「凪さんは2つができるって事ですけど、花火の再現ができたんですか?」
「あぁ、もちろんだ」
自信満々に頷くと魔法陣を展開する。
詠唱が済むとシルクハットのつばを持って脱ぐと、上下逆さまで机に置いた。
「《fireworks》」
凪さんがトリガーになるキーを言うとシルクハットから花火が打ち上がる。
室内なので実際に見る花火よりもかなり規模は小さい。
シルクハットから30㎝ぐらい上に上がって10㎝ぐらいの光の花が咲く。
音も花火と言われて想像するヒューと言う音で上っていきドンという音で花が咲いた。
「「「おぉー」」」
私とルナ、それとアトミスさんが声を上げた。
コーラルさんも「綺麗ですね~」と言って見ていた。
次々と花火がシルクハットから打ち上がっている。
しかし、その花火に変化はなく何度も同じ花火が上がってるのを見て誰もそれに突っこまない。
何となく気まずい空気に思えてきたところで調さんが口を開いた。
「あー…、他にパターンはないのか?」
調さんがそう言うと、リンカさんが凪さんに対して責めるように言う。
「ほらー、言ったじゃないですか!他のパターンも組み込もうって」
「仕方ないだろう!1つずつ別に考えるならともかく1つの魔法で違う種類なんて私には無理だ!!」
原因は凪さんのイメージというか調べた花火が多分さっきのだったんじゃないかな。
だから打ち上げ花火をイメージして魔法にした結果、今凪さんが使った花火の魔法になったんだと思う。
「えっと、どんな組み合わせでどんな効果があるんですか?」
私は2人が言い争いをしそうな様子だったので、とっさにそう質問した。
「良く聞いてくれた。形状は試しているうちに花火と言うモノが新たにできた。種類は回復になる」
「花火を見たら回復するの?凄い!」
「ちなみに回復って色々あると思うが、何に効果があるんだ?」
凄いと褒めるルナに対して調さんが真面目な顔で聞いている。
見るだけで回復できる魔法なんてすごいもんね。
「効果はちょっとテンションが上がる。……多分」
凪さんは少し考えて顔を逸らしながらそう言う。
調さん達やルナは不思議そうな表情をする。
「それはどういう状態の回復なんだ…?」
「ちょっと落ち込んでても上を向き花火を見れば頑張ろうって気持ちになれるかもしれない」
みんなの疑問を代弁した調さんに返ってきた返事は曖昧なモノだった。
当然皆が微妙な顔をすると凪さんは焦って説明するように話し出す。
「聞いてくれ。最初は花火を調べていたら鎮魂の思いも込められていると記事にあったから回復で組んだんだ」
「鎮魂か…」
「しかし、回復とは言え鎮魂のイメージを持って花火を打ち上げた場合、一部のプレイヤーや種族に影響があるんじゃないかと思ったんだ」
そう言われて私は首を傾げる。
一部のプレイヤーや種族に影響ってどういう事だろう。
私が疑問に思ってると調さんが察してくれたのか説明してくれる。
「プレイヤーの中には魔族を選択しているモノも居るが、特殊なのだとアンデッドと言う分類に分けられる種族を選んだプレイヤーも居るんだ」
「アンデッドですか?」
「わかりやすく言うと。スケルトンのような骨やゴースト等の幽霊だな。確認されてないゾンビは見た目や匂い等問題があって実装されなかったんじゃないかって予想だな」
ゾンビは存在しないんだね。
私ゾンビ映画とかあまり好きじゃないからそれはちょっと嬉しいかも。
調さんの説明が終わったのを見計らって凪さんが再び口を開く。
「考えると気になってしまってな。それなら効果は考えず組んでみた方が良いんじゃないかと思って作った結果だ。一応HPで言うと1回復した」
「1…」
アトミスさんが1と聞いて呆然として開いた口が塞がらないでいる。
「しょぼい」
ルナは思ったことをそのまま口にしてるね。
私も否定できないから注意できないけど…。
「メリットはないがデメリットもなさそうか…」
調さんは用途を考えながらなのかそう言って頷いていた。
「あらあら…」
コーラルさんは頬に手を当てて困った様子でもなく言っていた。
リンカさんは事前に知っていたようで特に何も言わずにシルクハットを傾けたりして遊んでいる。
面白いと思ったのはシルクハットが傾けられると花火も傾いて打ち上がることだった。
打ち上げる筒の代わりがシルクハットみたいなイメージなのかな?
ぁ、でもシルクハットから出すってところは手品師っぽいよね。
「まぁ…、広域に影響しそうだから効果がないという意味では良いんじゃないか?仮にダメージがあったりデバフだと見たモンスターが一斉に襲ってくる、何て事になったら洒落にならないしな」
調さんがそう言うとみんな納得したのか頷いた。
「効果についての予想だが、私が組むのは基本的に多くの人が見ることが前提のモノが多いんだ。そのせいか方向性を考えず組むと効果が薄くなるようだ。まぁ、私としては幻を見て傷が回復するなんて考えられないんだがな」
凪さんは自分の魔法についてある程度試してるようでそう言った。
最後に言った事が原因で回復量が低いのではとも思うけど、確かに幻を見て回復するとすれば精神的にかもって私も思う。
凪さんが言った事を聞いたルナが質問をする。
「じゃあ、普段戦闘はどうしてるの?」
「もちろん逃げている。幻魔法で目眩ましや大きな音で気を逸らして、だがね」
「凪は私と一緒で弱いもんね!」
凪さんの言葉に頷き笑いながらリンカさんが弱いと言い切った。
「凪は普段貴族相手にカードやコインを使ったマジックを行ったりもしているんだ。戦闘は…、殆どしてなかったよな?」
調さんが確認するように凪さんに聞く。
それに同意するように頷いて答える。
やっぱり魔法使いと言うより手品師か奇術師だよね…。
「あぁ、幻魔法はその関係で使えるんじゃないかと思って取ったんだ。ただ魔法を使ってしまっては奇術と言って良いかわからないからあまり使わないがね。私は戦闘よりも人を楽しませられたらと言う思いの方が強い。戦闘というか街の外に出るのはギルドの採取依頼で行くことがあるぐらいだ」
「ふーん。調さんと凪さんってどういう知り合いなの?」
ルナは2人がどういう知り合いか気になったのか質問した。
「情報をやり取りしてるのがメインか」
「そうだな。凪は貴族と交流のある珍しいプレイヤーだからな」
なるほど。
貴族にマジックを見せて世間話したり噂話を聞く事があるのかな。
調さんはその情報を貰ってるんだね。
「リンカさんのモッフルはどんな魔法なんですか?」
凪さんのことはちょっとわかったからリンカさんのことも気になったので聞いてみる。
「もちろん組み合わせは攻撃だよ!」
「そういえばリンカさんって初期装備?」
ルナが気になったのかそう聞くとあからさまに視線を逸らす。
「色々あったんだよ…」
「こいつ、アレが喜ぶからって食事与えてるんだぞ。装備買うのに溜めてた金も殆ど食費で消えたんだ…」
リンカさんが濁した内容を凪さんが詳しく教えてくれた。
「しかも最近はこいつと居るとドロップが出なくなったんだ」
「良いじゃん。元々戦闘はモッフル頼りだったんだから!」
「ドロップがなくなる何て事あるんですか?」
私が聞くとリンカさんは顔を逸らすが凪さんの視線に耐えられなくなったのか口を開く。
「狩猟スキルとりました」
「お前ー!」
きっとモッフルが倒したら死体が残るようになっただろう。
しかし、それはモッフルが食べてしまうと。
そうなると素材はドロップしないので手に入らなくなる。
凪さんに説教されてるリンカさんは申し訳なさそうにしてるが嫌そうではない。
怒ってる内容もPTを組むんだからそういう事は事前に教えてくれという感じだ。
なんだかんだ2人は仲が良いのだろう。
「仲が良いのはわかるがそれくらいにしてくれ。魔法談義はやめてとりあえず花火の話に戻したいんだが良いかー?」
調さんが呆れたように言うと説教は終わって2人は頷いた。
私とルナも異論はないので頷く。
「とりあえず花火ができそうなのはわかったけど幻魔法じゃ無いといけないのはキツいな」
「魔道具にしたらダメなんですか?」
調さんが言ったことに疑問があったので聞いた見た。
「現状魔道具を作れるプレイヤーは片手で数えれる程度で、ユキさんのように作れるプレイヤーは居ないんだよ。ユキさんはどうやって作れるようになったんだ?」
「調さん!」
魔道具を作れる様になった切っ掛けを聞かれてルナが反応する。
私は隠してるつもりはなかったんだけどね。
スキルが取れた切っ掛けは結構初めの方に買った本だ。
街にあまり行ってなかったのもあるけどあれ以来お店が開いてるのを見たことはない。
店主をしてた人が領主様のお屋敷の執事さんで資金繰りの為だったみたいだもんね。
チームのメンバーで気になる人は買った本を一通り読んでるから本は手放しても良いと思ったんだけど。
みんなはこれは手元にあった方が良いって言ってた。
その為存在を明かしてない。
「誰にでも言えない情報があるってのはわかってるんだがな…」
言っていないのは単純に利益のことがあった。
地味に魔道具のお値段が良いのだ。
しかし独占し続けている現状は恨まれてそうだし実際狙われてるなんて話しもある。
んー。
「スキル入手に関しては本ですよ。魔道具を作るのに必要なスキルは2つだと思います。魔具工と魔法陣製作」
「お姉ちゃん!?」
「ルナ、あのね。考えたんだけど多分教えてもなかなか私の真似はできないと思うんだよね」
私がそう言うとルナだけじゃなくて調さんもわかってない様子。
他の人達は興味はあるようでこちらを見ている。
「だってメーア…、メギーアー女王が私は魔力量で強引にやってるって言ってたよね。消費魔力考えると同じ事は難しいかなって」
私がメーアが言ってたことを口にするとルナと調さんは思い出したのか頷いていた。
ルナは思いだしたことがあったようで口を開く。
「あー、確かに真似するのは無理かも」
「そうなのか?」
ルナが無理だと同意したので調さんが説明して欲しそうに聞く。
「私もやってみた事あるんだけど魔力操作の熟練度、魔法スキルの熟練度、魔具工の熟練度どれが低くてもなかなか上手くいかないんだよね。その上低いと消費MPが増えるみたいなんだよ…」
「ステータスは関係ないのか?」
「どうだろ、あるのかな?難しすぎて途中で飽きちゃったし…、そこまでは確認してなかったなぁ」
ルナの話、私初めて聞いたんだけど…。
「ん?お姉ちゃんどうしたの?」
「その話私は聞いたことないなぁって」
「だってお姉ちゃん消費MP多くても気にしてないじゃん…。と言うかお姉ちゃんの熟練度ってかなり高いよね?」
そう言われて熟練度を確認する。
使用頻度の高いスキルは熟練度が400を越えてもうすぐ500になりそうなのもある。
300を越えると上昇量が極端に減った気がするんだよね。
熟練度のことは今は良いとして。
「ルナが言ったのは結構高いかも」
「熟練度が高くてMPお化けのお姉ちゃんの真似ってできないんだよね」
「MPお化け…」
ルナの言葉にショックを受けるが、調さんは気になったことがあるようで口を開いた。
「理由はわかった。まぁ、異人が大量に魔道具を作れないようにする為かもな」
「やっぱり街の人がなかなか作れない物を大量に作って過剰供給にならないようにかな?」
「理由はわからないけど、過剰供給もだが値段が落ちることで住人の不利益が出るのを防ぐ目的もあるのかもな。案外、住人にその本を見せたら魔道具の製造量が増えたりしてな」
魔道具の話で調さんとルナが話して他の人も興味がある人は聞いている。
しかし、さっきは気づかなかったけど1人つまらなさそうにしている人がいた。
「はいはいはーい!難しい話も大事かもしれませんけどー。花火のことでやれる事とか決められる事進めた方が良いと思いまーす」
退屈そうなリンカさんの我慢が限界を迎えたようで手を上げてそう言った。
思わぬ人から出た正論に全員の視線がリンカさんに向く。
「そんなに見つめられると照れ…」
「よし、役割分担するか。ユキさん魔道具って言うのは人の魔法からでも作れるのか?」
リンカさんの言いかけたことをスルーして調さんが聞いてきた。
スルーされた本人は気にしてないのか苦笑しながらモッフルを撫でていた。
「できるとは思います。ただやったことはないから、すぐに上手くはいかないかもしれません」
本に書かれているのと人の魔法の違いがわからないから確信が持てなかった。
なので少し考えてそう言うと調さんは頷いて。
「とりあえず凪とコーラル、リンカさんでどんな花火を打ち上げるかデザインしてくれ」
「そういうのは苦手なんだが…」「はい~。お任せください~」「わっかりましたー!」
「残りの俺、アトミス、ユキさんとルナさんで打ち上げる場所を考えよう」
「はい!」「わかりました」「りょーかい」
デザイン組は早速コーラルさんが取りだした紙にリンカさんとコーラルさんが書いている。
それをコーラルさんが光属性魔法で再現して凪さんに見せている。
凪さんは苦手と言ってたけど2人の意見を聞いたり、意見を言って話し合ってから幻魔法を使っているようだ。
「向こうも始めてるし俺達も進めようか。さっき見た感じある程度はどこから見ても同じように見えそうだったな」
調さんがそう言ったのに頷いて私も意見を言う。
「実際の花火と違って花火が広がった後、下に落ちると言うことも無さそうな感じでしたね」
「だな。綺麗に広がって薄くなって消えていっていた」
「打ち上げはどこからでも良さそうな感じですかね」
「実際の花火と違って危険はないみたいだけど、見やすい高さってやっぱりあるのかな?」
そんな事を話し合っていると時間は過ぎていった。
・
・・
・・・
「どうだ?」
「ダメですね…」
場所決めの方は色々意見は出たものの実際に打ち上げて試したいという調さんの意見も合って中断していた。
公園や海上の船からという案も出たがそれらはなしになった。
理由として公園は休む人が多いんじゃないかという予想が上がった。
もし休む人が多い場合そこで打ち上げると休んでいた人は見辛く、音の大きさによっては驚かせてしまうんじゃないかということ。
海上で船の上は夜で花火が打ち上がったことが原因でモンスターに襲撃される可能性が否定できなかったからだ。
この世界の建物は背が高くても3階建てなのでビルのような高さはない。
けど建物の影で見えなくなる可能性は高いから試してからにしようと決定は先送りになっている。
花火の大きさや広がる高さでもまた変わるだろうからその辺も踏まえて決めるのだそう。
場所以外で試せる事と言う事で私は魔道具を作っていた。
実験の為コーラルさんとアトミスさんの作った魔法を見せて貰って《刻印》して色々試していた。
その間に調さんには魔具工と魔法陣製作の本を貸し出した。
ルナは反対したけど真似が難しくても私以外に魔道具製作できる人が増えて欲しいという思いがあった。
そうすれば私が魔道具関連で狙われてる理由が解消されると思ったからだ。
それを伝えると渋々だけど納得してくれた、
調さんの習得しているアーツに《写本》というモノがあるそうで、それを使って本をコピーしていた。
見てると凄い速度で書き写してるだけだから大変そう、と言うか見ててちょっと怖い。
さて、色々刻印はしていたけどその結果は微妙なモノばかりだ。
まず失敗が思ったよりも多い。
これは私が作った魔法陣ではないのも理由ではないかと思う。
改善するにしても以前魔術研究室で話をしてた内容が関係してると思うけど詳しい話は知らない。
いきなり行っても相手にされないだろうからこれは誰かに相談しないとダメかな。
次に2つの魔法陣を同時に起動させるやり方を知らない。
その為音と映像を同時に再生することができなかったのだ。
一応暇を見てサロユさんに聞きにいこうと思うけど現状ではこれも無理だと判断した。
2つの問題の結果、先ほどのダメだという結論になった。
「まぁ、向こうのデザイン組は順調みたいだし焦る必要はないだろ。そろそろ休憩にしよう」
調さんに言われて頷きルナのところに行く。
丁度食事の時間が近くなっていたのか私が近付くとルナが食事を用意し始める。
作業してる間にみんなの分も買いに行ってくれていたのだ。
「ルナありがとね」
「ううん、このメンバーだと私が一番移動が速いからね。それにお金は調さん持ちだったから普段はちょっと高くて迷うところでも平気で買って来られたよ」
「ちゃっかりしてるな…。そういうところシュティナに似てきたんじゃないか?」
笑いながら調さんが言ってるところをみると、高い物を買ってきたことを怒ってはいないようだ。
ルナはそう言われて軽口を返している。
調さんは話ながらも買ってきたモノを確認しているようだ。
「お、ここのパンはなかなか買えないんだが良く買えたな」
「ぁ、待てば安売りする時間だったけど、その前に買ったから周りの人の目付きが怖かったよね」
「なるほどなぁ…。住人に恨まれるんじゃないか?」
「住人の人ってあそこで買う人は安売りの前に買いに来ないから大丈夫、大丈夫。住人の人と奪い合いになるのは焼きたてのときだよ…」
実際に経験があったのかルナの表情が虚ろになっているように見えた。
ルナが買ってきた物を広げ終えると、各々食べたいパンや惣菜を持って行く。
私はルナに少しずつ分けて貰ってそれを口にする。
時計を見ると食事の時間は結構前に過ぎていた。
「もうこんな時間なんですね」
「こうやって準備してるのって文化祭みたいで楽しいよね!」
リンカさんがそう言うと調さんは苦笑しながら肯定している。
凪さんは文化祭に良い思い出がないのか渋い顔だけど、アトミスさんとコーラルさんは楽しそうだ。
「デザインについてはどうだ?」
調さんが聞くとリンカさんが答える。
リンカさんが答えたのはデザイン組で一番声を出して引っ張ってたからかな?
「実際にある花火は幾つか試してみたけど良い感じだと思う!でもせっかくだから普通じゃできない花火があったら良いよねって話をしてたの」
「せっかく魔法でやるんだし良いんじゃないか?」
「だよね、だよね!」
花火の音も合わせて考えた方が良いんじゃないかということで、アトミスさんもデザインの方に参加することに。
「ルナもデザインの方参加してくる?」
「うーん。私はデザインとか思いつかないからなぁ…。あ-、デザインと言えばチームフラッグも決まってないことを思い出しちゃったよ」
そう言ってルナがテーブルに突っ伏す。
そんな様子を微笑ましく思いながら周りを見るとみんなの視線が私達に向いていた。
「ふむ、チームフラッグを花火にするか?」
「いや、デザインができなくてフラッグを設定してないところの方が多いよな」
「じゃあさ、じゃあさ。貴族様の紋章とかどうかな?」
リンカさんが貴族の紋章というとみんなが頷いた。
「いいな」
「良いと思います」
「賛成です~」
「ふむ、確かこんな感じだったか…?」
「わー、凪へったくそー。仕方ないから私が描いてあげるよ」
凪さんが描いてるのはわかりづらかったけど、リンカさんが修正を加えていくとみたことある紋章になっていく。
多分私が描いても凪さんと同じ事になる気がするから何も言わないけどね。
「あれ、何か盛り上がってるね」
ルナが顔だけ上げて欠伸をしながら周りを見ている。
話は聞いてなかったのか不思議そうにしている。
「ルナのお手柄でデザインの意見が多くなったみたいだよ?」
「ぇ、私が突っ伏してウトウトしてる間に何が!?」
「眠いの?」
「突っ伏してると眠くならない?」
「そんな体勢するからだよ…」
話の内容を確認したルナも賛成したことで使っていいか調さんが領主様に確認するという。
返事が来るまでは他のデザインを、と言うことで話し合う。
みんなが食事を終えると調さんが口を開いた。
「今日の所はこれで解散にしよう。問題ないようなら明日また集まって続きをと思うんだがどうだろう?」
調さんの確認にみんなが頷き同意した。
「ありがとう。時間については今日と同じで、参加できないなら連絡をくれると助かる。では解散としよう」
そう言うと調さんは立ち上がって部屋を出て行った。
領主様には簡単に会えないと思われるので手紙を送る必要があるのだろう。
凪さんはコーラルさんやアトミスさんとデザインについて相談していた。
リンカさんに聞いてみたい事があったので、いつも行っているケーキ屋さんに誘った。
私とルナ、それにリンカさんとモッフルが個室に入るとそれぞれ食べたい物を注文する。
ルナは注文を終えるとしゃがみ込んでモッフルに話しかけている。
「お肉あげるから触らせて」
触ることを諦めてなかったみたいだ。
モッフルと交渉してる様子が面白く可愛かったので動画で保存する。
お肉一塊で何秒という交渉だった。
気になったのは同じ大きさでもお肉の種類で断られたりしていることかな。
「ホントに奢って貰っちゃって良かったの?」
「いいよ。もしリンカさんが良ければ教えて欲しいことがあるし」
ルナの方を見ているとリンカさんが申し訳なさそうに声をかけてくる。
私が教えて欲しいことがあると言うとモッフルの方を見て納得したのか頷いた。
「モッフルはさっきも言ったけど組み合わせは攻撃だよ。イメージしたのは好きだったゲームのキャラクターなんだ。もうサービス終了しちゃったんだけどね」
「そうなんですね。ぁ、フェンリルって元になったそのゲームのキャラクターですか?」
「うん。一番最初に手に入ったキャラでね、あまり強くはなかったけど3Dモデルが格好良くてずっと使ってたんだよ。サービス終了は凄くショックだったなー、もう動いてる3Dモデルがみれなくなるんだもん」
そう言って寂しそうな表情をして俯いた。
しかし、すぐに顔を上げて。
「たまたま見たこのゲームの情報で魔法の説明にイメージが形になるって書いてあったのを見つけてさ。調べてたら幻魔法なら再現できるんじゃないかって思ったんだ。ダメ元でやったら偶然生まれたのがあの子なんだよ」
そう言ってモッフルの方を見たリンカさんの表情は微笑んでいた。
私も釣られてモッフルの方を見る。
そこにはルナの出したお肉を食べるモッフルとモッフルの背を撫でているルナが居た。
交渉は成立したみたいだ。
触り心地が良いのかルナの表情は恍惚とした表情だ。
ちょっと気になったことがあった。
「ルナ、モッフルに魔石見せてみて」
「ぇ、魔石なんて食べないでしょ?」
ルナだけじゃなくてリンカさんも私が言ったことに疑問がある様子。
しかし、ルナが魔石を取り出すとモッフルはお肉そっちのけで、魔石を欲しがっておねだりしていた。
「これあげたら沢山撫でて良い?」
ルナが聞くとモッフルは頷き早く欲しいのか持っているルナの手を舐め催促した。
差し出すとすぐさまパクリと口にした。
モッフルの尻尾はブンブンと振られておりご機嫌に見えた。
「ゆ、ユキさん魔石。何で!?」
それを見たリンカさんは驚いたようで何でか私に聞いてくる。
ルナも気になるようで私の方に顔を向けているけど、その手はモッフルを抱きしめて撫でている。
「えっと…。モッフルが生物じゃなくて魔法だって言うなら、食事する目的を考えたら魔力の補充なのかなって…」
「なるほど…?」
「そんな事考えたことなかったよ…」
2人は私の言ったことを聞くと違う反応をした。
ルナは疑問そうにしてたけど宙に向かって指を振る。
リンカさんは予想外だったみたいで驚いていた。
「そうなると高い食材を好んだのは何で?」
高いと言われてルナは首を捻って確認をした。
ちなみに私は肉のお値段なんて覚えてない。
「んー。高いのって…、メープルベアとか?」
「うんうん」
ルナが熊の名前をあげるとリンカさんが頷いた。
「多分だけど…、ボスの方が素材の魔力量が多いんじゃないかな?ぁ、そういえばバフ料理の効果が高いのも牛や豚より熊だったような…」
ルナは自分の予想を口にしてて何かに気づいたようで宙を操作する。
もしルナの言ったように食材にも魔力が残ってるならそれを見る方法があれば良いのにね。
そんな事を考えていると真面目な顔でリンカさんが質問してきた。
「魔石ってそんなに高くないよね?」
「魔道具のお店でも売ってたと思うよ。作れるプレイヤーもそこそこ居るんじゃないかな」
「そっか。んー、凪に相談してみなきゃ」
そう言うとリンカさんは宙を操作し始める。
2人が連絡取ってるのか調べ物をしてるのかわからないけど宙を操作して数分。
店員さんがケーキを運んできてくれた。
それを見て2人も手を止めケーキに向き合う。
「「「いただきます」」」
「これ、おいしー!お値段見て諦めてたんだー」
「美味しいよね!種類も多いし見た目も綺麗なんだよね」
話ながら2人はパクパクと口にしてるから見た目はすぐにわからなくなる。
私としては分けて貰った時点で見た目は崩れてたりするから買うとき以外は気にしてなかったりする。
ルナがゲテモノゾーンと呼ぶ棚のお菓子もいつかは手を出してみたい。
「そういえば、モッフルの事で聞きたいことがあるんだよね。食費が改善されそうだから何でも聞いてよ」
リンカさんに言われて頷き質問をする。
「種類が攻撃なのは聞いたけど…、形状は?」
私がそう言うとルナも食べるのを止めてリンカさんを見る。
すると少し迷った様子だったけど。
「これとの出会いがモッフルが生まれる切っ掛けだよ。見つけたときは運命じゃないかって思たよね!」
そう言ってリンカさんは一冊の本を取り出してテーブルに置いた。
「えっと…、【生物魔法の研究記録】?生物魔法って何?」
ルナが本のタイトルを読んでわからなかったのかリンカさんに質問をした。
「この本を書いた人は魔法で生物を再現してたみたいでね。これ読んでから形状に生物って言うのが選べるようになったの」
「おー、それでモッフルが生み出せるようになったんだ!」
「読んでみると理由がわかるんだけど、世間の評価は低いみたいなんだよね。最後の方はほぼ愚痴が書いてあったよ」
「そうなの?自立型の魔法が組めるなら有用そうだけど…」
ルナがモッフルを見ながら評価が低いと言われて首を傾げる。
私もリンカさんのモッフルを見てると凄いと思えるから評価が低いと言われたのは理解ができなかった。
「デメリットが多すぎるんだよね。はむっ……。私はなんとか維持出来るだけの対策は立てれたから、なんとか使えるようになったんだけどね」
私は自分の分を食べ終わったので本を見せて貰って良いか聞いてみる。
すぐに「どうぞ」と返ってきたので読み始める。
ルナも残ってたのをすぐに食べきって私と一緒に読んでいる。
「あのー…。お代わりしても良いですか?」
リンカさんは遠慮がちにそんな事を聞いてきた。
苦笑しながらどうぞと言うと、顔をほころばせ早速ベルを鳴らしお代わりを注文していた。
読んでいくとデメリットが幾つかわかってきた。
まず一つ目が魔力が一気に減るのだそうだ。
これは消費ではなく最大量が減っているのではないかと書かれている。
何故そう思ったかというと魔力が普段より貯めることができなくなったようだ。
気づいた切っ掛けは普段使っている魔法が使えなくなった事みたい。
二つ目が魔法で生みだした生物が顕在の間、常に魔力を消費するのだという。
これは魔法がどんな動きをしても変わらずに一定の量消費するのだそうだ。
三つ目が魔法を解除した場合はなんともなかったが、戦闘中相手に魔法が消されてしまったときの事が書かれていた。
魔力欠乏で倒れたそうだ。
幸い護衛がいたから大事には至らなかったようだった。
調べてみると解除した場合も魔力が消費されてはいたみたい。
何故、何らかの手段で魔法が消された場合のみ魔力欠乏が起きたのか色々試すうちに色々とわかってきたようだ。
最初に魔力の最大値が減るのは魔法で生物を生み出す為の発動コストで消費し続けるのは維持コスト。
発動コストは魔力を失うのではなく生み出す魔法の核として預けるようなイメージなのだそう。
核となった魔力は生み出した魔法が行動を起こす度に消費されていく。
魔法が顕在の間は魔力は消費されていないと身体は認識しているようで、激しく行動して消耗し消えた場合も魔力欠乏になるみたい。
魔法が消える前に解除する場合は消耗具合によって魔力が消費される。
消滅したときは発動コストとなった魔力が一度に失われてしまうから急性魔力欠乏になると著者は予想していた。
とは言え発動コストとなる魔力量はある程度変えることもできたのか、後の方になると魔力欠乏になった事は書かれなくなっていた。
「うあ…。発動するとMPの最大値が減って、発動中MPを常に消費し続けるのかぁ。消費し続けるMPにもよるけど最大MPが多くない私じゃかなりキツそう」
書かれているデメリットを見てルナが声を上げた。
読み進めていくとやっぱり発動コストは変えれたようで、それにより能力が変わって属性によって効果が違うようだ。
まず火属性の場合だけど、種類が攻撃でも補助でも周りに熱を放出し続けるそうだ。
それは魔法を使った本人にも影響があるようで試しに触ったら火傷したそうだ。
水属性は霧を発生させて視界が悪くなり触れれば濡れた。
風属性で試したら近付くだけでローブが切れたなんて事もあったみたい。
土属性の場合は周りに影響はなかったが、遠距離攻撃は難しかったようで接近する為返り討ちに遭って消されてしまうことが多かったという。
著者が試したのは4つの属性だけだったみたいで他は書かれていなかった。
魔法の維持にポーションを飲み続けていたようで中毒症状になったことも書かれていた。
最後の方に書かれていた内容は愚痴だけでなく著者の苦悩が綴られていた。
魔法の改良にあれこれやっていたみたいだけど、悉く上手くいかず馬鹿にされ続けたみたいだ。
悔しいとか腹立たしいと言う思いや、誰もが使える魔法にしたかったという強い思いなどが綴られていた。
それでもいつかこの研究が役に立てばと本にしたようだ。
それにしても…。
メリットと言えるものが全くと言って良いほど書かれていないのは何でだろうか?
普通は何かしら実用性があったり見込めたからより使いやすくする為に研究するんだと思うんだけど…。
私達が読み終わるのを見計らってリンカさんが声をかけてきた。
「後で調さんに見せてた本、私も見せて貰って良いかな?」
「うん、見せてくれてありがとね。私の本も一緒にこっち置いておくよ」
「わぁ、ありがとー。早く読みたいけど味わって食べないと。次いつ食べれるかわからないし…」
リンカさんはそう言いながらケーキを口にして幸せそうな表情で食べている。
私は魔法の組み合わせを開いて確認してみる。
リンカさんの言っていた通り生物という項目が増えていた。
しかし生物と書かれているだけなので完全にイメージで形が決まるのかもしれない。
「モッフル見てると私も!って思うけど…。デメリットが厳しいよぉ」
ルナはモッフルの方を見ながらテーブルに突っ伏す。
私も使えるようになったは良いけど、現状使い道が思い浮かばなかった。
ケーキを食べ終わったリンカさんは早速本を2冊とも読んでスキルを習得できるようにしていた。
「あ!凪に呼び出しくらった…。2人はこの後どうする?」
どうするか聞かれたタイミングで私の方にもメールが届いた。
確認するとシキ姉さんだ。
[話したいことがあるのでホームで待ってます]
要件が書かれてないけど何だろう?
そういえばログインする前に私の事で思いついたことがあるって言ってたからその事かな?
真面目な話かもしれないから急いだ方が良いのかも。
「ホームでチームメンバーが待ってるみたいだから今日は戻るよ」
「そうなの?」
「うん、今メールがきてね」
私達はフレンド登録をしてから会計を済ませて店を出る。
「じゃあ、また明日!ケーキご馳走様でした!」
リンカさんは私達にそう言って手を振るとモッフルに跨がった。
モッフルは人で賑わう通りを避けるように路地裏へ移動すると、あっという間に家の屋根まで上がって屋根伝いに遠ざかっていった。
「あの移動方法は大丈夫なのかな…?」
「普通に考えたらダメだと思うけど…。でも凄いスムーズだったから初めてじゃ無さそうだよね」
私の疑問にルナが答えてくれる。
ルナの言う通り迷いなく家の壁を蹴って屋根に上っていったように見えたんだよね。
ただモッフルの上り方や屋根の上での移動にちょっと違和感があったから普通ではないのかも?
お店の中にいたときは外を気にしていなかったけど思っていたより時間が過ぎていたようだ。
日が沈み始めていたので私達はホームに帰る為に噴水まで戻り転移装置を起動させた。




