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いつも誤字等の修正ありがとうございます。

 領主様の館を後にした私達はのんびりと馬車で移動をしている。

 目的地は職人ギルドだ。


「ユキよ。妾は馬車の移動ではなくてだな…」


「ダメです」


「せっかく街に来て許可も…」


「却下です」


「何故じゃ!」


 不満そうに言うメーアに溜息をついて説明する。


「私達は今職人ギルドに今後の事を話し合う為に向かってるんです。出来るだけ早く生産を移行したいって言うのは伝えましたよね」


「もちろんそれは理解しておる。じゃがな…」


 私は言いかけたメーアの言葉を遮って馬車での移動になった理由を口にする。


「メーアは美味しそうな匂いの屋台があっても素通りできる?」


「むっ、それは…」


「関係者のメーアがいてくれないと話が進まないのもわかってくれてるよね?」


 そう言うと不満そうにしながらも納得してくれたのか、顔を逸らし外の景色を見る。

 今は会議で前に立っていた時の存在感の様なモノはない。

 けど外の風景を見ているメーアの横顔は絵になると思った。


「ふふっ、女王様もユキが相手だと形無しね」


「ユキは友じゃからな。それに妾とて女王になって日が浅いのでな。どうにも慣れぬ部分はある」


 てっきり女王として長いのかと思ったらそうでもないのかな。

 シキ姉さんの言葉を否定しないのは自分でもそう思っているところがあるのかも。

 私としては仲が良いと思えるから嬉しい。


「会議で前に出ていった時も普段みたいに緩くなってたところがあったもんね」


「仕方あるまい、ずっと気を張っていては疲れる。それに威圧しすぎて貴族共に警戒されてはかなわぬからな」


 ルナがからかったのに、溜息交じりで答えたメーアの言葉は本心に思える。


「人との共存か…。叶わぬ夢だと思っておったがな…」


「第1歩どころか2歩か3歩ぐらい進んだんじゃない?」


「かもしれぬな。しかし、大切なのはこれからじゃな」


 ルナと話してる時のメーアはやっぱり楽しそうに見える。


「そういえば」


「何じゃ?」


「龍ってどんな感じだったの?」


「ふむ、逃げておったから観察する余裕はなかったが 赤龍じゃったな。ブレスを吐かれなかったのは島の自然を破壊したくなかったのかもしれぬな」


 やっぱり赤い龍は火属性になるのかな?


「ちなみにブレスは龍種が魔力を圧縮して放射するものじゃから属性はないぞ?とは言え魔法も使われておらぬから属性はわからぬ。だが、まぁ火じゃろうな」


「へー、無属性魔法攻撃!ぁ、メギーアーはブレスみたいな事できないの?」


「妾も魔族ゆえ魔力は生み出せるが桁が違いすぎる。龍種はブレスを一度撃っても回復が早く余裕があるだろうが…。妾なら倒れるレベルの魔力量を消費しておるから無理じゃな」


「そんなに凄いの?」


「魔族でも強さは種族で違うのでな。肉体的に強い者もいれば魔力が強いモノもおる。しかし龍種はそのどちらも別格じゃな」


 強さについて話をする2人。

 正直私は話についていけないかなー。

 それよりも気になるのは。


「その龍は何を守ってたんだろうね」


「定番だと金銀財宝よね」


「お酒と交換してくれないかな」


 私の疑問にシキ姉さんとルナが口を開く。

 それを聞いてメーアは呆れたような表情をしている。


「お主等の龍の認識はどうなっておるのじゃ…」


「メーアは何だと思う?」


「わからぬ」


 わからないと答えたメーアは難しい顔をしていた。

 自分より強く情報の無い相手の事を恐れているのかな。

 私が少し俯き考え事をしていると。


「ユキよ」


 名前を呼ばれて視線をメーアに向ける。


「小腹が空いたんじゃが何とかならぬか?」


 メーアも真面目な事を考えてるのかと思っていたから、声をかけられて緊張したのに気が抜けてしまった。

 そんなメーアに苦笑しながらシキ姉さんがアイテムボックスからおしぼりを取り出す。

 メーアはちょくちょく食事に来ているから慣れたモノで、顔を拭いてから手を拭いた。

 うん、まあ私は何も言わないよ。

 その後は手で摘まんで食べれる軽食をシキ姉さんが取り出したのでパクついている。

 ルナも焼き鳥のようなモノを取り出しメーアと交換して食べている。


「むぐむぐ…。んっ、そういえば狼の魔族って種族とかわからないの?」


「……んっ。…何であったか」


「やっぱり有名なとこだと…、フェンリルとか?」


「そのような強大な存在がおったら問題であろうに。うーむ…、彼奴は妾とおる時は人化しておった方が長いからの…」


 おー、人型になれたりするんだ!

 妖精も大きくなったりできるのかな…。


「人化できるって事は会話できるんだねー」


「人化せずとも会話はできたはずじゃがな。試しに人間を連れて行ってみれば良いんではないか?」


「それで何かあった時、問題になると思うんだよねー」


「人間は面倒くさいのう」


 2人はまた食事を再開してモグモグと口を動かす。


「メーアはその狼の魔族の事を何て呼んでたの?」


 気になって聞いてみると咀嚼しながら考えているのか視線を窓の外へ向ける。

 口の中のモノを飲み込んだメーアは私の方を向き答えた。


「おいとかお主と呼んでおったな。言い合いになった時は犬ころと言った事もあったか…。うむ、そんな感じじゃったな」


「「「「…」」」」


 元々スノウさんは静かだったけど、私達は流石に言葉を失う。

 ルナに至っては口を開いたまま固まっている。


「ま、待て。理由がないわけではない。言い訳ぐらいさせよ」


 メーアの発言を受けてシキ姉さんとルナが私の方を見る。


「弁解をどうぞ」


 私が促すとメーアは頷き口を開いた。


「うむ…。基本魔族というのは己の種族は名乗らぬのだ。故に覚えておらぬのではなく聞いておらぬのだろう」


「え、なんで?メーアは名乗ってるよね」


「理由は種族から能力がわかる場合があるからじゃな。妾の場合は種族からじゃ能力はわからぬ。しかし見た目である程度わかるから、どうしようも無いがな」


 なるほど。

 私もスノーって種族名に付いてるから熱に弱いのかな?

 そう考えると人やエルフにドワーフ、獣人のような亜人は弱点がわかりにくいのかな。


「有名な種族になるほど考察しやすくなるのかな。それなら名前で呼んであげれば良いじゃない」


 ルナがメーアの答えを聞いてそう言う。


「彼奴にあったのはかなり昔なのじゃが、当時から名前を持っておらなんだのを思い出したわ」


「そんな事あるんだ?」


「妾が知る魔族は、親が付けるわけではなくて自分が認めた相手に請うのだ。だから妾も娘等に名前を付けておらぬし理由は伝えてある」


 そう言われて見ると種族名は聞いたけど名前を名乗ってなかった。

 長女さんは種族名を言わない方が良かったんじゃと今になって思えてくる。

 もしかしたら言っても変わらない自信があるのかな。


「あれ、って事はメギーアーは認めた相手がいたんだ?」


「うむ、手も足も出ない程強い男であった。妾は迷い無く名を請うて、理由なく人を襲わぬと約束したんじゃ」


「「えっ!?」」「その話、気になるわね!」


 シキ姉さんは気になってメーアに話を聞こうと詰め寄る。

 しかし、今はそれ以上話すつもりがない様子。

 私はシキ姉さんとは別の事が気になったので質問してみる。


「プリンセスハニービー達はその人の子供達なの?」


「うむ、しかし妾があの男に会ったのはその一度だけじゃがな」


「好きだったんじゃないの?」


「強い存在の子が欲しいというのは普通ではないか?」


 ルナが好意があったか聞いたけど、どうやら考え方が違ったようだ。

 好きだから子供を作ったのでは無く、より強い子孫を残そうという感じだろうか。

 生物的には正しいのかな?

 スノウさんはこちらをチラチラと見てはいるようだけど普段より顔が赤いように思える。

 子供ができたと言う事はそういう事をしてるわけで…。

 一度考えてしまうと次々と考えてしまい火照ってくる。


「シキよ。気になるなら今度話してやる故、この話は今は終いじゃ」


 シキ姉さんはメーアの視線を追って私とスノウさんを見て頷いた。


「そうねー。その時はお酒でも飲みながら話しましょう」


「良いな!楽しみにしておるぞ」


「えー、私も!」


「ルナは酒を飲めるようになってからじゃな」


 流石に気まずくなって、氷像を抱きしめて外を見る。

 スノウさんは俯いているようだった。

 渡した魔道具がなかったら解けてた可能性もあるのかな。

 3人が楽しそうに話をする中、馬車が進んでいく。

 早く着かないかなと思っていると着信音が鳴る。


「あ、メール」


 確認すると送り主は調さんだった。


「お姉ちゃん、誰から?」


「調さんだったよー」


 ルナの質問に返事をして内容を読む。

 花火の件で手伝って欲しいという事だった。

 知り合いに声をかけている所でリアルの時間で明日の夜に空いていたらと言う事だった。


「何の用だろ?」


「花火の件じゃろ」


 疑問を口にしたルナに対し、私が答える前にメーアが予想を立てて答えていた。

 それが当たってたからちょっと驚いた。


「どうしてわかったの?」


 疑問に思って理由を聞いてみると。


「魔法で再現すると言うておったではないか。ならば魔力の高いユキにも声をかけるのは当然であろう?」


 言われて見ると確かにと思える。

 調さんから伝えられた日時を伝えて反応したのはルナだけだった。

 スノウさんとシキ姉さんはまだシルク関連の事があるしそうでなくてもやりたい事をやるのだろう。

 メーアはというと…。

 そんな簡単には巣を空ける事ができないんじゃないかな。


「お姉ちゃんと遊ぶ時間が減っちゃう!」


 一緒にいられれば文句は言われるかもしれないけど納得はしてくれそうだった。

 調さんへの返事は参加できる事と、ルナを護衛として連れて行きたいと言う事を送った。

 返事はすぐに帰ってきてルナが来るのは問題ないそうで、参加してくれる事に感謝するという内容だった。

 それからしばらく馬車に揺られた私達は職人ギルドへ到着した。

 ギルドの中に入ると職員に案内されて防音の魔道具がある部屋に通された。

 シキ姉さんとスノウさんが製糸方法を伝えてそれを職員がメモをしていく。

 その後、職員が実際にやってみて誰でもできる事を確認する。

 私は聞いてても詳しくはわからなかったけど、製糸するのに使う薬品に魔力回復薬を混ぜる事で加工ができたみたいだ。

 分量の割合も決まってるみたいでレシピも資料として残していく。

 そんな感じで技術登録は問題なく進んだ。

 問題になったのはどこで加工するかという点だった。

 まず、現状で生糸の生産をしているのがメーアの所だけ。

 その為、巣で加工するのか素材を街へ輸送してから加工するかで意見が分かれていた。

 ギルド側としては完全にメーアが信じられるか疑問がある為、巣へいく事と巣で作業するのは避けたかったようだ。

 しかし巣で加工したというシキ姉さんが持ってきたモノの方が質が良かった。

 僅かな差でも良い物を作りたいという気持ちがギルドの職員にもあったみたい。

 今はギルド職員をしているが、以前は職人だったそうだ。

 なので決めきることができていない状態が続いていた。


「とりあえず妾の方から虫共の扱いは伝えておいた。妾の所でなくとも飼育すれば作れるじゃろ」


 虫と言っているのはシルクワームの事だ。

 もう用は無くなったとばかりに席を立つメーア。


「そろそろ帰るぞ。妾も街で買い食いというモノがしたいのでな」


 扉の方へ歩いて行こうとするメーアに職員の方も立ち上がり声をかける。


「あの!ギルドマスターや領主様の許可が取れましたら女王様の巣に、職人やその家族が生活出来る環境を作らせて頂いてもよろしいでしょうか!?」


 そう言われて立ち止まると。


「転移装置とやらも用意しておくが良い。ただし、魔法陣同士を行き来するタイプのモノじゃ。ユキの所のように行き先を選べるタイプはダメだからな」


 それだけ言うと壁の魔道具を勝手に停止させて扉を開けてしまう。

 ルナはハッとしてすぐに追いかけてくれた。


「ありがとうございます!」


 そんなメーアにお辞儀をする職員の方。

 ギルドマスターとサブマスターが不在だったそうで、勝手な判断で決定ができない中での精一杯だったのだろう。

 2人が出て行った扉を見て安堵したように息を吐いてイスに座る。

 スノウさんが扉を閉めて魔道具を付けてくれた。


「ぁ、すみません…」


「職人の方はお願いしても大丈夫ですか?」


「ギルドマスターの判断にもよりますが違いがあるか比べる為にも職員を派遣するのは確実だと思います。生活環境を整えてからになるのですぐには無理かと思いましたが転移装置を許して頂けたのですぐにでも準備を始めると思います」


 緊張が解けたからかボーッとしていた職員の方は、シキ姉さんが確認すると真面目な顔で頷いて答えてくれた。

 メーアも完全には人間を信用してはいないと思う。

 けど転移装置の設置許可を出したのは精一杯の誠意なんじゃないかと思う。

 お互い警戒してばかりでは歩み寄りにくい。

 共存という叶わないと思っていた夢を実現させる為にメーアは行動を起こしたと言う感じだろうか。


「それでは、引き継ぎに関して何か進展がありましたらギルドを通して連絡させて頂きます」


「「「お願いします」」」


 職員の方は提出する報告書などがあるようで急いで部屋を出て行った。

 私達も部屋を出てメーアとルナを探す。

 ギルドの中に見当たらなかったので外に出ると向かいにあるお店で買い食いをしていた。


「遅かったではないか」


「メーアが勝手に話し終わらせて出て行っちゃったんでしょ」


「そうは言うがあのままでは進まなかったであろう?しかし妾の機転のおかげで良い方向に進んだではないか」


 そう胸を張って答えると、手に持った食べ物を口にする。


「そういう事にしておくよ。それより転移装置の事だけど…、良かったの?」


 私が聞くと手に残った串をゴミ箱に捨てて答えてくれる。


「わからぬな。念のためガードを1体警備として配置する必要はあろうな。職人が住む事になればいずれ飲食店もできるやもしれぬ。そうなれば妾達も人の食事にありつけるであろう?」


 目的が食というのはメーアらしいと思う。

 それに先の事まで考えてたんだと感心してしまったけど、交渉事はメーアは得意そうだと思った。

 そう考えるとホントに出て行ったのは考えての行動だったのかも?

 警備はガード1体と言うけど現状の異人相手には十分な戦力と言える。


「それよりも、ケーキも買わねばならぬのだから早く行くぞ」


 急かすメーアに苦笑して私達は歩き出す。

 まだゲーム内の時間で16時前だったので夕食には早い時間だ。

 小腹が空いたのかルナとメーアは色んなお店で買っていていた。

 シキ姉さんはそんな2人に夕食が食べれなくなると注意している。

 私とスノウさんはのんびりと3人の後を付いていく。

 食べ歩きを満喫してお土産にと沢山の料理を買い込んだメーアはほくほく顔で、ケーキも大量購入していた。

 しかし、メーアと長女のプリンセスアサシンホーネットはケーキよりお肉を好む。

 スレイブワスプ達もお肉の方を好んでると言っていたから大量のケーキは次女のプリンセスハニービーにあげるのだろう。

 普段からはちみつを貰っているお礼を兼ねているのかもね。

 ホームに戻るとメーアはすぐに巣に帰ってしまった。

 ガードに任せっきりになっていた事もあるし、今後の事を伝える為でもあるのだろう。

 私達はシキ姉さんを中心に食事の支度をしていく。

 私も妖精サイズの料理を作っていく。

 チームには新しく入ったミナちゃんとベル先輩、2人の歓迎会の為だ。

 ログインして狩りや採取に行っていたメンバーが帰ってくると広間のテーブルに集まってくる。

 新たにイスが1つ増えたけどまだ余裕があった。

 ベル先輩は普段の私と同じようにテーブルの上に座っている。

 気づけば示し合わせてはいないのに全員がログインして揃っていた。

 シキ姉さんや妖精達、男性陣が料理をテーブルへ運んでくる。

 乾杯して始まった歓迎会は楽しくあっという間に時間が過ぎていった。

 それぞれ時間を見て切り上げていき解散となった。

 片付けに関しては妖精達が請け負ってくれるので助かる。

 私はルナと一緒に切り上げてログアウトした。

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