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 落ちる前に那月が寝る場所の事でぶーたれていた。

 だけど私がサクヤの所で落ちるようになってから毎度の事だったので適当に流してる。

 ログアウトした私は那月とリビングに移動していた。


「お母さんいつ帰ってくるってー?」


「まだ返事来てないけど…、6時は過ぎると思うよ」


 那月に聞かれて普段早いときの帰宅時間を伝える。

 まだ5時前だったけど食事の準備をするなら丁度良い時間だろうか。

 いつもはインスタントや冷凍食品で済ませたりするんだけど、どうしようかな。


「あ、とりあえずお風呂の準備してくるね」


「うん、よろしく」


 那月がパタパタとお風呂場の方へ行った。

 その間に私は端末で調べ物をする。

 この前お好み焼きをやったときに思ったんだけどホットプレートなら私でも料理ができるんじゃないかな。

 そう思って調べてみると、ホットプレートで作れる料理って色々あるんだね。

 母さんが買ってきた食材を思い出しながら作れそうなのを探していく。

 簡単そうなのだと焼きそばかな…?

 ご飯物の方が良いのかな。

 うーん。

 悩んでると那月が戻ってきた。

 そのままキッチンに行くと棚の1つを開けて物色し始める。


「お風呂セットしてきたよ。今日は何ラーメンにしようかなー」


「那月、あのね」


「んー、どうしたの?」


 カップ麺や袋麺がしまってある棚を漁っていた那月が顔をこちらに向けるように振り返る。


「この前ホットプレート使ったよね」


「お好み焼きの時だよね。美味しかった!」


「うん、それでホットプレートなら私も料理ができるかなって思って」


「じゃあ、私はホットケーキが食べたい!」


 予想してなかった言葉に一瞬固まってしまう。


「えっと、焼きそばとかご飯物を考えてたんだけど…。ホットケーキ?」


「うん!お母さんが作ってくれた事あるよね。私好きだったんだー」


 私の記憶では母さんが作ってくれたホットケーキを食べたのはいつだっただろう。

 覚えてないけど高校に入ってからは食べてなかったような気はする。

 一人暮らしをしてたときには食べてたんだけどね。


「えっと…、ならホットケーキにしようか?」


「ほんと!?やったぁ」


 嬉しそうにバンザイをして返事をすると両手に持っていたカップ麺を戻して私の方へ来る。


「どうすれば良いかな?」


「えーっと、そういえばアパートの部屋にあった物ってどうなったのかな?」


「ん、調理器具?」


「そうそう、確かハンドミキサーとか色々合ったと思うんだけど…」


 私がそう言うとキッチンの棚を開けて探し始める。


「あ、これかな。何がいるのー?」


 しまってあったみたいで場所を覚えてた那月がハンドミキサー片手に何がいるか聞いてくる。

 ホットケーキミックスは流石になかったからネットで調べた材料の小麦粉、砂糖、塩、ベーキングパウダーを用意していく。

 ベーキングパウダーは私が買った物を持ってきてたみたいで見覚えがあった。

 那月と母さんは普段思ってたより食べてるし、ちょっと多いかなって思う量で作っていく事にする。

 手伝って貰いながら準備をしていく。

 探して貰った道具を使って生地の材料を用意していく。

 一方の那月はサラダと野菜スープを用意できた所で何かを思いついたみたい。


「そうだ!お姉ちゃん、ちょっと出掛けてくるね!」


 そう言って急いで出掛ける準備をすると那月は外へ行ってしまった。

 行っちゃったのを今更どうこう言っても仕方ないので、できる事をしておこう。

 幸いホットケーキは生地ができてるし後は焼くだけになってたからね。

 ネットで調べてて豆乳を入れた物と野菜ジュースを入れた物が気にはなった。

 けど、急に決めたから今回はやめておいた。

 焼きたての方が美味しいと思うけど、もし冷めちゃったら私用にすれば良いかな。

 そんな事を考えて1枚ずつ焼いていく。

 3枚目を焼くかどうか迷っているとバタンと扉が閉まる音がした。

 出掛けてから10分ちょっとしか経ってないと思うけど那月が帰ってきたのかな?


「ただいま…」


 そう言って洗面所で手洗い等を済ませて戻ってきた那月はちょっと息を切らしていた。

 かなり急いで行ってきたみたいだ。

 帰ってきた那月が手に持っている袋は見覚えがあった。

 と言うかお昼見てる。


「那月それは?」


「フフッ、野菜とハンバーグ挟んでも美味しいんじゃないかと思ってね!」


 どうやら言い方からしてハンバーグを買ってきたみたいだ。


「ん~、それにしても良い匂い!久しぶりだし楽しみだなぁ」


 そう言いながら那月はフライパンを取り出して熱し始める。


「お姉ちゃんハンバーグ大きいのがいい?」


「私は小さいので良いよ」


「りょーかい。……大を3つ買って来ちゃった。半分にすれば良いかな…」


 私の返事を聞いた那月が何か小声で言ってたけど良く聞こえなかった。

 形成してるのかペチペチと叩く音がする。

 そういえば那月も料理してたんだよね。

 私はハンバーグの大きさを確認して挟めるぐらいの大きさで焼いていく。

 那月の分を焼き終えて皿にのせて渡すと、早速野菜やハンバーグを挟んでいた。

 私はお昼にハンバーガーを食べてるし挟まなくても良いかな。

 ソースも貰ってきていたみたいで容器を取りだしかけていた。

 私の方は母さんの分を焼くか迷っていると玄関の扉が閉まる音がした。

 続いて開いているリビングの扉から声が聞こえてくる。


「ただいま。あら、良い匂いがするわね」


「おかえり」「お母さんおかー」


 連休明けだからか早く帰ってきた母さんは、洗面所で手洗いうがいを済ませるとリビングの方へ来た。


「那月が作ってたんじゃないの?」


「2人で作ってたんだよ!」


「ふーん、とりあえず着替えてくるわ」


 そう言って部屋に着替えに行ったので母さんの分も焼いていく。

 那月の方もハンバーグを焼く準備をしている。


「それにしてもホットケーキミックスなんて無かったでしょう。買ってきたの?」


「ううん、小麦粉とか使って作ったんだよ」


「へぇ、面倒くさそうね…」


 粉から作ったというと顔をしかめる。


「計って混ぜるだけだからそんなことないよ」


「その計るのが面倒なのよ」


 そんなやり取りをしながらも席に着いた母さん。

 那月の方は焼き上がったみたいで皿に盛ってテーブルへ運んできた。


「雪菜、お腹が空いたから焼けてるそれ貰って良いかしら?」


「ちょっと冷めちゃってるけど良いの?」


「いいわよ。アンタも焼きたて食べたいでしょ?」


 私の事も気にしてくれてるのは嬉しいな。

 断る理由もないので1枚皿に移し替えて渡す。


「那月、バターをレンチンして溶かしてきて」


「えー。私も早く食べたいのに…」


 文句を言いながらも那月はキッチンへ行き、冷蔵庫からバターを容器に出してレンジに入れる。

 溶かしたバターと一緒にはちみつを出してテーブルに置いた。


「ありがとう」


「どういたしましてー。さて、いただきまーす」


 那月がそう言うと私と母さんは顔を見合わせる。

 そういえば言ってなかったな。


「「いただきます」」


 遅れて私と母さんは挨拶をして食べ始める。


「久しぶりに食べると美味しいわね」


「那月のリクエストなんだよ。本人は違う食べ方してるけど…」


 そう言われた那月は両手で持ったホットケーキサンドをかぶりつく。


「ふぉいふぃいひょ?」


「口に入れたまま話さない!まったく、行儀が悪いわよ」


 母さんに言われてコクコクと頷き食べるのを優先したみたい。


「このハンバーグ美味しいけど、これも作ったの?」


「んっ…、それは買ってきたんだよ。商店街のお肉屋さん」


「あぁー、あそこのね。それは美味しいわけだわ」


 食事を進めながら気になった事を聞いてみる。


「母さんはこういう晩ご飯イヤじゃなかった?」


「ん?作って貰って文句言わないわよ。美味しいしね。それよりまだあるなら焼きましょ」


 そう言ってホットケーキを焼いていく母さん。

 惣菜パンを買ってきただけの父さんが怒られてたのはやっぱり栄養の事を気にしてだったんだろうか。


「それより雪菜は今日どうしてたの?」


「私は…、ゲームやってました…」


「ふーん、何か面白い事あった?」


 特に咎められる様子はないけど声が小さくなってしまう。

 聞きながらも母さんは早く焼く為か小さめでいくつも焼いている。


「ぁ、領主様からまたお呼ばれしてるよ。ソフィア様が私達に会いたいって」


「いつ?」


「今日の夜だからこの後かな」


「それはタイミング悪いわね。スノウちゃんと貴族様のお屋敷に行く用事があるのよね…」


 そう言って焼いていた小さいのをどんどん自分の皿に積んでいく母さん。


「あー、私にも頂戴よ!」


「自分で焼きなさい」


 そう言って生地の入ったボールを那月に渡す。

 受け取った那月は楽しそうに形成しながら焼いている。


「ログインしたらファーボール作って渡すからそれでご機嫌取っておいて」


「そんなんで喜ぶの?」


「前回凄いはまってたから大丈夫じゃないかしら」


 母さんの言う事に那月は首を捻ってるけど前回の事を思うと…。

 うん、喜んでくれる気がする。

 それにしても母さんが行けないのは予想してなかったなぁ…。

 1人で行っても良いけど女王様が一緒だから誰か付いて来て欲しい。

 何かあった時止めれる自信が無いんだよね…。


「ぁ、お姉ちゃん。今度は私がついて行くよー」


「ほんと?1人じゃ不安だったから助かるよ。お願いね」


 那月が行くって言ってくれたので、これ幸いとお願いしておく。

 午前中とお昼からやってた事を那月と一緒に話していく。


「へー、名付けね。どんな名前を付けたの?」


「聞いてよ!私が格好いい名前が良いと思って武器の名前から提案したのに、お姉ちゃんってば略してレーテ、アスピス、ミルル、ディーバなんて付けちゃうんだよ」


「良いじゃない。物騒な名前じゃなくて」


 那月はまだ気にしてたみたいで、口をとがらせぶーぶーと不満そうに伝える。

 しかし、苦笑する母さんに宥められてホットケーキに齧り付いた。


「他は属性魔法が得意なスイセン、ツクシ、フウラン、カエンサイと、何でかメイドさんみたいなシルキーのエミリーだよ」


「ふーん。シルキーの子がメイドみたいになったのは、誰かの影響があるんじゃないかしら。それよりエミリーは何か由来はあるの?」


 誰かの影響って言われると那月かプリメラさんが真っ先に浮かぶのは日頃の行いかな。

 那月も由来は気になったのかモグモグしながらこちらへ視線を向ける。

 そういえばシュティと一緒の時でもエミリーの事は話してなかったかな?


「メイドさんの名前で定番って調べて出た候補の1つかな」


「…アンタ、属性が得意な子の名前考えるのに時間使いすぎたわね?」


 母さんに言われて私はそっと視線を逸らす。

 言われた通り属性が得意な4人に時間かけてて、他は那月に相談してたんだよね。

 那月は那月で冒険者風の格好の子達の名前ばかりあげてたから、エミリーの名前を急いで決めたのは否定できない。


「それにしてもカエンサイって変わった名前ね」


「野菜なんだよ!ビーツって言えばわかるかな」


「アンタも聞いて知ったんでしょ?」


 那月が答えてるけど名付けたのが私だから、詳しくは知らないと思ったようで突っこんでいる。

 突っこまれた方は笑って誤魔化していた。


「それにしても野菜に山菜、観賞用に有毒植物ね…。どんな理由で付けたの?」


「季語だって-。ツクシが春で夏がフウランでしょ、カエンサイは秋で冬がスイセンだったはず。それより有毒って…、スイセンだっけ?妖精達でお姉ちゃんの事一番気にしてる子だよね」


「え、そうなの?」


「そうだよー。一緒にいるときお姉ちゃんの事いつもチラチラ見てるじゃん」


 気づかなかった…。

 一時期は嫌われてるのかとも思ったけど、そんな事は無いみたいだったし実際はかなり好かれてたのかな?

 脱線し始めた所で母さんが話を戻す為に再度聞いてきた。


「それより何で毒のあるスイセンにしたの?」


「見た目が綺麗だったからね。後は別名に雪中花ってあったから…」


「あー、はいはい。見た目は1割あるかないかで別名が間違いなく理由ね」


 理由を聞いて納得したように母さんが言うと那月もうんうんと首を縦に振っていた。

 何となく見透かされた気がして食べる方に集中する事にした。

 2人は話題を変えてゲームの話を始める。

 私が食べ終わっても2人は生地がなくなるまでホットケーキを楽しんでいた。


「こういうのもたまには悪くないわね」


「私はホットプレートで焼きそばとかご飯物を考えてたんだけどね」


 私がそう言って苦笑いすると。


「それも面白そうね。今度調べてやってみようかしら」


「その時は手伝うよ」


「私も手伝う!」


「はいはい、その時はお願いね。片付けはしておくから、アンタ達は先にお風呂済ませてきなさい」


 そう言われたので頷いて私達はお風呂へ向かう。

 お風呂を済ませると入れ替わりで洗い物を終えた母さんがお風呂に入った。

 リビングで休憩をしていると母さんもお風呂を済ませてパジャマに着替えてきた。


「それでアンタ達はいつ頃領主様の所へ行くの?」


「んー、10時ぐらいに冒険者ギルドに行くつもりだよ。今回は女王様も行くから馬車を用意して貰ってるし」


「予定がなければ私も行きたかったわ…。10時って言うと…、こっちで20時半ね。だからゆっくりしてるのね」


「うん。ぁ、女王様にはアクセサリーとかは良いかな?」


「パーティーでもないんでしょ?なら、そこまで華美にしなくて良いわよ」


 そう言われて頷く。

 休憩して20時頃になった所で私達は部屋に戻ってログインする事にした。

 今ログインすれば朝の8時過ぎぐらいで10時まで1時間以上はあるはずだからだ。

 今日は那月も部屋でやるようで、いつものログインするときの台詞を言って部屋に戻っていった。

 私は機器を付けてゲームを立ち上げる。

 そしてログインするのだった。




 ログインして目が覚めると暗い部屋に光が灯る。

 淡い光。

 それは部屋の中央にある繭の光だ。

 私が目を覚ました事に気づいたのかな?


「おはよう、サクヤ」


 そう声をかけると明滅して反応してくれる。

 それが嬉しくてちょっと口元が緩む。

 そうそう、ログインまでの間にサクヤの様子を撮った動画を見せてあげたらルナは嬉しそうにしていた。

 シュティにはファエリが、私にはサクヤがいるから羨ましいと思う気持ちもあるのかもしれない。

 そんな事を考えながら気分で服を着替えていく。

 シキ姉さんがチームに入ってからスノウさんは練習で妖精用のドレスなんかも作ってる。

 言われてやってみた事みたいだけど、1着作る素材の量は少なく小さいから細かい作業にはなるけどその分練習になって良いのだとか。

 そのうちの何着かを貰ったので気分で変えて楽しんでいる。

 デザインはドレスばかりで普段着る事がないので嬉しかったりする。

 今日は手持ちには少ない袖付きで白のドレスにした。

 持ってるドレスはどれもロングドレスで背中が開いている。

 その中で袖が手首まであるのはこれ1着のみだ。

 袖の無いデザインが多いんだよね。

 胸を強調するデザインが混じってるのはきっとルナのせいだろう。

 袖が無いデザイン用なのか、レースの付け袖も渡されているので組み合わせたりもしている。

 繭のある洞には私用のベッドがあるだけで今のところモノはほとんどない。

 服を全部アイテムボックスに入れていると手持ちが埋まっちゃうし衣装ダンス用意しようかな。

 着替えが済んだらサクヤに声をかけて外へ出る。


「おはようございます」


 外へ出るとエミリーが挨拶をしてくれた。


「うん、おはよう」


 予想してなかったからびっくりしたけど、表に出さないように挨拶を返した。


「お嬢様、お客様がいらしてますがいかがしましょう?」


 ここに来る客は限られてるというか1人だけだろう。

 なので会いに行く事にする。

 外にあるテーブルに向かうとそこには予想通りというか見慣れた方が飲み物を飲んでいた。

 中身はわからないがティーカップを優雅に傾けている。

 凄い様になってるから遠目だとどこかの令嬢のようだ。

 近付くと私に気づいて声を上げる。


「ユキよ遅いぞ?朝と言ったではないか」


「おはようございます。朝とは言いましたけど早すぎますよ。出るのは後1時間以上先の予定です」


「それでは朝食の時間が過ぎてしまうであろう」


「え、食べてから出るつもりだったんですけど…」


 そう言うと4本の腕で×を2つ作った。


「ダメじゃ。朝にしかやっておらぬ店があるのだろう?妾はそれを食べてみたい」


「えっと、じゃあ買って来て貰うのでここで食べますか…」


「ユキよ、冒険者ギルドへ行くのであろう?」


「馬車の手配をお願いしたので後で行きますね」


「ルナが言っておったが飲食できるスペースとやらがあるのであろう?そこで食べるぞ」


 ルナ-!

 なんて情報を与えてしまったのか…。

 というか。


「エミリー、メギーアー女王様いつからいたの?」


「今が8時過ぎなので…、いらっしゃってから3時間ほど経つと記憶しています」


 …。

 早すぎるよね。

 遠足が楽しみで早起きしすぎた子供みたいだ。


「ほんとに来るの早すぎです」


「楽しみだったのだから仕方がなかろう…」


 私が非難の視線を向けると、顔を逸らしてそんな事を言った。

 流石に失礼だけど溜息をついてしまう。


「とりあえずみんなのところに行きますか…」


「うむ!」


 女王様を連れて広間へ移動する。

 そこにはすでに人が集まっていた。

 事前にメールしてあったからか何人かの表情は険しかった。


「おはようございます。遅くなりました」


 -おはよう-


「お姉ちゃん、何で女王様がもういるの?」


「3時間前から待ってたんだって」


「ユキよ、それは言わなくても良かろう?」


 不満そうにメギーアー女王様が言ってくるけどスルーだよ。

 私が机に座ると女王様も空いてる椅子に着いた。


「メギーアー女王様すみません。先に話し合う事があるので」


「むっ、そうか。聞かれて困る事ならば妾は席を外すが?」


「そこまでじゃないので大丈夫です」


 一応女王様に断りを入れてからみんなに向き直る。

 すると女王様が早く来てた事を聞いて呆れてたり笑ったりとそれぞれ違った反応をしていたけど表情を引き締めた。


「いないのはラギさんとガイさんだね」


「ガイは残業だそうよ。ラギは彼女さんと一緒に出掛けてるって連絡が来たわ」


 プリメラさんが二人がログインできなかった理由を教えてくれる。

 重要な話題ではあるけど内容自体はメールで伝えてあるし来れなくても問題はないかな。


「じゃあ朝食を街でとりたいって言ってる方がいるからパパッと連絡だけしちゃうね」


 そう言うと何人かがメギーアー女王様を見る。

 見られた方は腕を組んでうんうんと頷いていた。


「メールで一応連絡はしたけど、私とスノウさんシキ姉さんが狙われてるって情報を頂きました。情報源はレオンさん。あった事無い人もいると思うけど信用はできる人だと私は思う」


「そうですね。レオンは戦闘特化のプレイヤーですが、チームメンバーは情報収集が得意なプレイヤーも多くいたはずなので信用しても良いと思います」


「ネルア聖騎士団とやり方は違うけど、島の治安に関わってるって情報もあるわね。だから信用しても良いと思うわ」


 情報源を聞いてシュティは肯定してくれた。

 プリメラさんはも続いて同意してくれた。


「原因はわかっておるのか?」


 静かに聞いていた女王様が質問をしてくる。

 私は頷いて続きを話す。


「今回の原因は私と2人で原因が違うみたい。私の方は魔道具の件が広まったのが原因だね」


「それってハゲヅラの…?」


「そうみたい」


 プリメラさんが恐る恐る聞いてくるので肯定する。

 すると肘を机について頭を抱えてしまった。


「スノウとシキさんは違うのか?」


「うん、2人はシルクの服や小物が切っ掛けだったみたい。スノウさんは制作者の表示で関わってるのが知られたみたいだね」


「なるほどな。それで犯人の方は特定できているのか?」


「それはまだみたい。2人はできる限り1人では出歩かず複数で行動して欲しい」


 リグさんに聞かれて答えていく。

 2人も危険がある可能性を理解して頷いてくれる。


「お姉ちゃんもだよ?」


「わかってるよ」


 わかってはいる。

 けどレオンさんに頼まれてるから囮になる事も考えてる。

 ただ2人の視線がキツいから、何かしら対策立ててからじゃないと囮は反対されそうだ。


「異人だけじゃなくて住人にも気をつけた方が良いかしら…?」


「えっ。それはなんでですか?」


 プリメラさんは魔道具の事で考えるのはやめたようで口に手を当ててボソリと言った。

 それが私には聞こえたので聞き返す。


「だって、異人…2人の扱う品の場合プレイヤーよりも住人の方が欲しがるんじゃないかと思ったのよ」


 それを聞いて反応したのはずっと作業をしていたシキ姉さんだ。


「確かにそうかもね。ドレスやハンカチみたいな小物を欲しがるのは、特に貴族の令嬢や婦人よね。ただ見せた事あるプレイヤーってなると特定できるわよ?」


 そう言って作っていたファーポンポンを指で摘まんで振っている。

 お土産用にって言ってたヤツかな。


「特定できるというのは?」


「私がプレイヤーに見せたのはパーティーの時だけよ。主催者に確認取ればわかるでしょ?」


 シキ姉さんがそう言うとシュティが首を横に振った。


「掲示板を確認したら商品の幾つかの写真が鑑定結果と一緒に上がってたので、パーティー会場にいた人とは限らないです」


「それはお手上げね…」


 シキ姉さんはシュティの言葉を聞いて肩をすくめると作業に戻ってしまう。


「そういえば、シキ様は商業ギルドに登録してあるのですか?」


「へっ?してないわよ」


 気になった事があったのかスノウさんがシキ姉さんに質問をして否定されている。


「もしかしたら、それも関係あるのかな?」


 ルナが首を傾げつつ口にするがそれに答えれる人は誰もいない。

 念のため今度確認した方が良いかな。


「確か商業ギルドはお店を持ったり露店を開くときに関わってきて、売り上げに応じて税を納めるとかだった気がするわよ。記載されてないルールの裏と言えばそうだけど、職人が売り込みに行くのは規制されてないはずだけど?」


 シキ姉さんはあらかじめ確認していたようだ。

 でも、儲けになる事で登録していない人がいたら商業ギルドから目をつけられるかな?


「商業ギルドは他に土地を借りたり買う時にも利用するはずだ。ただ、噂だと商業ギルドのマスターは金にうるさいらしい」


 補足するようにリグさんが言った。


「まぁ、貴族様の食い付き凄いし、どっかで恨みは買ってる可能性あるよね」


「ですねー。自分の作品を売り込みに行くのと比べるとー、目立ちすぎてる気がしますー」


 ルナに続いて光葉さんも商業ギルドから恨まれてるんではないかと思ってるみたいだ。


「現状だと推測でしか話せないけど、異人だけを警戒するのは危険かもね。何にしてもシキ姉さんとスノウさんは気をつけてね」


 私がそう言うと各々反応は違うけれど否定の意見は無さそうだ。

 話題を変えるので手をパンッと叩いて明るい雰囲気で声を上げる。


「続いてメールでも連絡してあったと思うけどまた領主様の所にお呼ばれしてます!」


「でも会議か何かの参加なんですよね?」


「そうだね…」


 シュティに突っこまれてちょっとテンションが下がる。

 会議って何するのかわかんないから余計にだよね。


「会議は…。うん、この際考えない事にする」


「ご飯…期待……」


「この前の美味しかったね」


「うむ、また貰って来ねばな」


 私の悩みなんて関係なく食事を楽しみにしてるのは、闇菜さんとアエローちゃんにメギーアー女王様だ。


「いやいや、毎度毎度貰えるわけじゃないし…。女王様も要求なんてしないでよ!?」


「む、ダメか?」


「タダって事は無いだろうからダメです!」


「ならば金を…」


「やめてー」


 ルナがメギーアー女王様に念押ししていた。

 その様子を見ていると面倒を見るのはルナに任せようと思った。

 話を戻す為にシュティが口を開く。


「予定ですけど、私は予定通りミナちゃんと合流してクエストでもやってます」


「私とスノウちゃんは貴族様のお屋敷だけど…。護衛いるわよね?」


 シキ姉さんの確認にみんなが頷く。


「護衛で私も行くわ。一応2人ぐらいいた方が良いかしら?」


「ならもう1人は俺が行く」


 プリメラさんとリグさんが護衛に手を上げてくれた。

 リグさんはスノウさんが心配なんだと思う。


「素材を取りに森に行ってきますー」


「行ってくる…」


 回復アイテムを作っている光葉さんは足りない素材が出てきたのか素材集めに行くみたいだ。

 闇菜さんはそれについて行くみたい。

 それを聞いて手を上げたのはボルグさん。

 二人に付いて行ってくれるみたいだ。

 戦闘になると盾持ちのボルグさんがいるのは心強いはずだ。


「私も一緒に行って食材探してくる」


 アエローちゃんも一緒に行くみたい。

 飛ぶのは森での戦闘には向かない気がする。

 けど、木の上の方に実っている物を取ったりするのは飛べると楽だ。

 始めてしばらくはサバイバルをしてたというだけあって、アエローちゃんは木の実などを見つけるのが上手い。


「シュティは私達とPT組んでおく?」


「いえ、戦闘に行くとなるとPTチャットを多用すると思いますので」


 シュティに断られた私とルナはシキ姉さん達4人とPTを組んでおく事にした。

 何か相談事があればPTチャットでやり取りできれば便利だからだ。

 この場合、領主様に相談する事になると思う。

 だから、その事を考えるとちょっと頭が痛いけどね。

 シュティはPTに入らずに私達と街へ行く事にしたみたいだ。

 光葉さんの方に入ればって思ったけど、お互い戦闘中でPTチャットで混乱したらまずいからって事みたい。


「どうでも良いが、まだかかるか?」


 PTを分け終わった所でメギーアー女王様が痺れを切らしたようで声をかけてくる。


「早く行かねば、朝限定のメニューが売り切れるであろうが」


 待たせているのは事実だからもう出る事にしよう。


「腹ぺこさんもいるし、それぞれで行動しようか。ルナ、シュティ行こっか」


「うん」「はい」


 2人に声をかけて立ち上がる。

 それを切っ掛けに他の皆もそれぞれ席を立ったりする。


「ユキ、ちょっと待って」


「あ、ミナちゃんからメールが来たので急いで迎えに行ってきます」


「うん、私達は冒険者ギルドに向かうね」


「わかりました。ミナちゃんと合流したら向かいます。女王様買ってきた方が良い物は…」


 シュティは口早にメギーアー女王様に確認する。

 頷くのを確認してからシュティは足早に転移装置で街に移動していった。

 私は呼び止めたシキ姉さんの話を聞く。


「これよろしくね。全部渡しちゃって構わないわ」


 そう言ってシキ姉さんからファーポンポンを受け取っていく。

 倉庫にある色んな種類の素材を使ったみたいだ。

 その為触り心地や色が違って触っていると楽しいかも。


「ほら、お姉ちゃん遊んでないでよ。私が預かっておくね」


 抱きついて触り心地を確かめていたら、ルナがそう言ってしまっていく。


「これ前回のと同じですけどー。喜んで頂けてたみたいなので作っておきましたー」


 光葉さんもハーブティーをまた作ってくれたみたい。

 よく見ると一緒に紙が付いている。


「それはレシピですねー。後は以前ラギさんに聞いたー、避けた方が良いハーブも書いておいたんですよー」


 光葉さんはログインしてたから直接話をして手紙も見せていた。

 なので麦茶以外にもお屋敷で飲めればって思ったのかも。


「これもお願いしますわ」


 スノウさんが差し出したのは畳まれているから物はわからない。

 けど色が変わっていた。

 黄緑、橙、黄、白の4色だ。


「これは?」


「膝掛けですわ。せっかくなので四季をイメージした色合いにしたんですの」


 広げてくれたのを感心して見ていると端の方の一点に目がいった。

 そこには妖精のデザインがあった。


「気づいて頂けましたか。ユキ様をモチーフにしましたわ!」


 いつもよりテンションの高いスノウさんにちょっとたじろぐ。


「そうなんだ」


「おー、可愛い!」


 ルナは受け取って少し眺めてからアイテムボックスにしまっていた。

 渡し終えて満足したからか、スノウさんはシキ姉さんと話を始める。

 スノウさんがPTで写真の共有をしたので私にも見える。

 デザインの話みたいだ。

 それを見てルナが声をかける。


「シキ姉達は一緒に行かないの?」


「私達は昼過ぎだから、今行っても早すぎるのよね」


 言われて時間を確認するとまだ9時前だ。

 朝ご飯にはちょっと遅いけど、約束がお昼からなら確かに早すぎるかな。


「ククッ、楽しみじゃな。ほれ、何をしておる妾達も疾く行くぞ」


 急かしてくる人がいるので私達も転移装置へ向かう。

 ルガードさんの時もだけど、住人の人と転移するときは触れていないといけないようなので私は女王様の肩に座る。

 もしかしたら住人も登録すれば自由に使えるのかな?

 今度確認してみよう。


「そういえばユキよ。そろそろ妾と他人行儀に話すのはやめぬか?呼び方もメギーアーで良い」


「え!?」


 戸惑う私と違ってルナが確認をする。


「じゃあ、私はメーちゃんって呼んで良いかな?」


「ルナよ。お主は絶対に許可せぬ」


「何で!?」


 ルナって女王様に対してかなりフレンドリーな感じだよね…。

 気が合う所でもあるのかなぁ。

 それを許してる女王様が寛大と言うべきかな…。

 そんな事を思いながら返事をする。


「あはは…。考えておきます……」


「うむ」


 出発前に頭の痛くなる発言を聞いてしまった気がした。

 とりあえず問題は先送りにしておく事にする。

 呼び方の事で言い合うルナと女王様から目を背けて転移装置を起動させるのだった。


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