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「ただいまー!」


 大きな声で帰宅を告げた那月が私の名前を呼んでいる。

 そしてバタンと扉を閉じる音が聞こえた。

 私の部屋でも見に行ったのかな。

 部屋にいなかったからか、リビングの扉を開けた。


「お姉ちゃーん!」


「その前に手を洗ってらっしゃい」


「はーい」


 母さんに注意されると素直に従った。

 扉を閉めてパタパタと洗面所へ行ったみたい。

 私は調べ物をしてた端末から目を離し伸びをする。

 手洗いうがいだけだろうから、すぐ戻ってくるかと思ったけど予想よりも遅い。

 何でかと思っていると那月が戻ってきた。


「お風呂洗ってきた!お湯貯まるまで休憩ー」


「忘れてたわ。ごめんね」


 母さんはログアウトしてから夕食の準備をしてたはず。


「ううん。そういえば母さんもパーティー行ってきたんだよね?」


「そうね」


「どうだったの?」


「普通だったわね」


 母さんが私に振ってきたので頷く。


「普通だったね」


「え、普通ってどんなの?貴族に絡まれたり飲み物かけられたりとか何かなかったの?」


「そんな事あるわけないでしょう…。まして初対面の相手に飲み物かける令嬢なんていないわよ…」


「えー」


 母さんは料理しながら冷蔵庫からお茶を出して飲んでる那月に説明している。

 パーティーの話を聞いて言ったのは。


「世界観が台無しだねー」


「そうよねー。挨拶に行くのとか雪菜の反応が楽しみだったのに…」


「そんなの楽しみにしないでよ」


 母さんの言葉に抗議の声を上げたら2人が笑っていた。

 パーティーが終わってからソフィア様に会った話をしていく母さん。

 楽しそうに話を聞いていた那月がある話題で固まる。

 欲しいもの聞かれたときの話だね。


「なんで2人してそんなモノ欲しがってるの!?それにお母さんも賛同してないで止めてよ!不敬罪とかにならないよね?」


「美味しかったから仕方がなかったのよ。不敬罪は大丈夫じゃないかしら」


 そう言って顔を背ける母さん。


「お姉ちゃんも!」


「メギーアー女王様が喜ぶと思ってつい…」


「それがどうして残り物になるの!?」


 それから散々那月にお小言を貰った。

 そういえば那月に怒られた事なかった気がするな。

 そう思うとちょっと頬が緩む。


「お姉ちゃんなんで笑ってるの?ちゃんと聞いてるの?」


 その様子が油を注いでしまったのか、那月はまた目を細める。


「それくらいにしてあげなさい」


「お母さんもなんだよ?わかってる?」


「わかってるわよ」


 手をひらひらとして返事をする母さんの様子に、毒気を抜かれたのか溜息をついてイスに座る。


「でも貴族様のパーティーは残り物はメイドさん達が食べるのかな?」


 那月も気になったのかそんな事を言う。


「そうじゃないの?捨てるのは勿体ないと思うし…。そういえばお酒がなかったわね」


「お昼だからじゃない?」


「そうなのかな?貴族の食事はワインのイメージがあったんだけどなー」


 那月はその後の話をまた母さんに話して貰っている。

 写真も何枚かとってたそうで後で見せてあげると言われて喜んでいる。

 何だかんだ遅くまでお邪魔してしまった私と母さんは、帰ってすぐメギーアー女王様呼んだ。

 頂いた料理とシキ姉さんが夕食として作ったのを、女王様やチームのみんなと一緒に食べた。

 インしてたメンバーがそれぞれ街で買ってきた料理も並んでたから結構豪華だった。

 途中から大人組はお酒が入って騒がしくなっていた。

 メギーアー女王様が持ってきていた蜂蜜酒を私も飲んだ。

 想像してたより甘くはなかったけど美味しかった。

 ガイさん達は温めたり、割ったり色々試してたから今度おすすめ聞こうかな。

 蓮花ちゃんは飲もうとしてたから止めたけど、他のメンバーが飲んで良いのかが判断つかないんだよね。

 ラギさんはガイさんが大丈夫だって言ってたけど学生ではあるみたい。

 光葉さんと闇菜さんは飲んでたけどわからないんだよね。

 スノウさんはリグさんに止められてたから未成年なんだろうと思う。

 頂いてきた料理は食材が良いのもあるんだろうけど美味しかった。

 パーティーで出てた料理もあってついつい箸をのばす。

 他にも現実で食べてる料理と似たものもあった。

 同じではなかったから再現とかアレンジなのかも?

 レシピとかはネルア聖騎士団の人に聞いてるんだろう。

 パーティー料理にはそういうのはなかったんだよね。

 せっかく美味しいんだから出せば良いのにと思った。


「羨ましい!私も食べたかったー」


「穂風ちゃんと那月の分は取り分けてアイテムボックスに入れてあるからインした時に渡すよ」


「ほんと?やったー」


 料理が食べれるとわかって嬉しそうだ。

 やっぱり気になっていたみたいだ。

 2人だけインしてなくて食べれなかった、って言うのは仲間はずれみたいだからね。

 一緒に食べれなかったのは申し訳ないと思うけど許して欲しいかな。

 それを伝えると。


「確かに一緒に食べれなかったのは残念だけど、毎回みんな揃ってなんて難しいから気にしなくていいよ。その場のノリで楽しむのもネットゲームの醍醐味なんじゃないかなって思うしね」


 そう言ってくれた那月にお礼を言う。

 しかしお礼を言う事じゃないと言われてしまった。

 母さんはある程度支度を終えた所で、足りない物があったみたいで買い物に出掛けた。

 私は那月に手伝って貰って身体を動かす事にした。

 マットを敷いてストレッチを始めていく。

 身体を動かすならあった方が良いんじゃないか、とちょっと前に母さんがマットを買ってきてくれた。


「そういえば」


「なに?」


「那月の方は…、練習どうだったの?」


「最近ゲームばっかりで久しぶりだったからちょっと動きが悪くなってたよ。やっぱりサボるとダメだねー」


 私のせいでもあるのかな、なんて思ってると私の顔を見た那月が。


「βテストの時はもっとヤバかったけどね…。あの時はさ、ずっとゲームやっては食っちゃ寝してたから体重も増えててね…」


 そう言って顔を背ける那月。

 一瞬見えた表情は当時を思い出したのか表情が消えていた。

 そんなに酷かったのかな。

 今度母さんに…。


「お姉ちゃん、間違ってもお母さんに詳しく聞いたりしちゃダメだからね?」


 普段より低い声でそう言うと私の顔を覗き込んで確認してきたのでコクコクと頷いた。

 表情がちょっと怖かった。

 母さんが帰ってくるまで運動して過ごした。

 私と那月は母さんが料理の仕上げをしてる間にお風呂に入る。

 ストレッチをやって汗をかいたからね。

 那月は練習してきてお風呂待ちだったところで頼んじゃったからようやく入れる。

 文句も言わずに付き合ってくれてるのは感謝だね。

 お風呂を済ませたら教えて貰ったスキンケアを2人でする。

 すぐに食事は取らないで休憩してから夕食になった。


「「「いただきます」」」


 今日は鍋のようで3人でつつく。

 2人は競うようにお肉を取っていく。

 私はその様子に苦笑しながら野菜を取っていく。


「そういえばお姉ちゃん夜はどうするの?」


「サロユさんの所行ってこようと思うけど那月は?」


「今日は運動したからのんびりしたい気がするし…、お姉ちゃんについて行くー」


「那月、アンタ明日の準備はしてあるの?」


「もちろん」


 ニヤッとして自信満々にそう言う那月。

 明日から学校だもんね。

 制服や持っていく物の用意はしてあるんだろう。

 そう感心していると。


「まだ!」


 そう言ったので呆けて箸で掴んでた白菜を落としてしまう。

 テーブルの上だったからサッと口に入れる。

 3秒ルール、3秒ルール。

 母さんも呆れた顔で那月を見ていた。


「アンタ遊ぶ前に準備はしておきなさいよ?」


「はい…」


 そう言われて那月はパクパクと具を食べていく。

 私達は〆の雑炊を食べ終え箸を置く。


「「「ごちそうさま」」」


 那月は急いで部屋に戻っていった。

 今から準備するんだろう。


「そういえば母さんは何買いに行ったの?」


 買いに行く前にほとんど準備できてたと思ったんだけど…。


「追加のお肉ね。後は明日の朝食のおかずよ。お昼は那月に買って来て貰ってね」


 そう言われて納得した。

 お昼についても頷いてわかったと答えて、明日の話をしていると那月が戻ってきた。


「準備できたー」


「言われなくても準備しておきなさい」


「気をつけまーす」


 私の時はどうだったかな、って考えたけど自分でやった覚えがない。

 なので私は何も言わずに黙っておく。


「それよりお母さんもログインするの?」


「一応ね。仕事があるし早めにはやめるつもりよ。ギルドに言付けがあるかの確認と、対応できるところは対応ってとこかしら。貴族相手だからすぐ来いって事はないでしょう…。多分……」


「フラグですね」


「アンタ達はどうするの?」


 聞かれたので予定を話す。

 ハゲヅラ魔道具を一度見ていた母さんはちょっと気になったみたいで、サロユさんの所に今度連れて行く事になった。

 那月が急かすのでログインする事にして部屋に戻る。

 今日は落ちてすぐ寝るそうで自分の部屋でログインするそうだ。

 目覚ましをセットするから、私を起こさないように気を遣ってくれているんだろう。

 気にしなくて良いんだけどね。

 機器をセットしてゲームを立ち上げた。




 ログインするとルナも丁度起き上がる所だった。

 話ながら広間のテーブルに着く。

 ルナに頂いてきた料理を出すと美味しそうに食べていく。

 私も妖精達が用意してくれた食事を食べる。

 現実で食べてゲームで食べて、と食べてばかりなのに違和感を覚えなくなってきたなぁ。

 ログインしたのが朝食には遅く、お昼には早い時間だった。

 なので広間には誰もいなかったから戦闘に行ってたりだろう。

 のんびりと食事をしていると外からこちらへ来る人影があった。


「ユキさん、ルナ!」


「アエローちゃん、どうしたの?」


「私の分の料理ください!」


「あ、うん。えっとこれだね」


 アエローちゃんはちょっと前にログインして、ガイさん達から話を聞いてたみたい。

 料理を私が分けて持っている事を知って、ログインを待ってたのだそうだ。

 受け取ったアエローちゃんは嬉しそうにしていた。

 お昼に食べるみたいで待ち遠しそうにしているけど、ルナの食べてるのを見て食べたそうにしていた。


「んぐっ…、アエローはどうするの?」


「うーん。のんびり海でも見に行ってこようかな」


「何かあるの?」


「ないんじゃない?灯台の方も行ってみたいんだよねー」


 灯台って言うとプレイヤー拠点の1つだったっけ。

 いつか行ってみたいけど、その前に草原の牧場に行きたいんだよね。

 アエローちゃんはしばらく一緒に話をしていたけど、街に行く前にワツシワの所へ行くと外へ出ていった、

 なんでも餌付けしてたら愛着がわいたのだとか。

 妖精用にクッキーも用意してあるそうで、どちらも食べてる様子が可愛いのだそうだ。

 アエローちゃんとわかれた私達は、食事が済んだ所で街へ移動してみる事にした。

 のんびりと人通りの少ない道を進んでいきお店の裏口に到着する。

 ルナは私の代わりに扉をノックしてくれた。


「はーい、どちら様ですか…ってユキ様?」


 扉を開けて顔を出したサロユさんに挨拶をする。


「「こんにちは」」


「こんにちは。ささっ、どうぞ中へ」


 言われて中に入る私達。

 裏口から入ると店頭部分ではなくて工房部分に入る事になる。

 ルナは中が珍しいようでキョロキョロと辺りを見回してる。

 私はサロユさんの使ってる作業台に降りる。


「ユキ様、今日はどうされたんですか?」


「この前騎士団所属の魔術師さん達と話す機会があって、色々教えて貰えたからサロユさんにも相談しておこうかなと思って」


「良いのですか?」


「うん、考えてた魔道具を作るのに協力して貰いたいんだけど良いですか?」


「それはもちろんですよ。むしろ関わらせて貰えるなんて光栄です」


 私の言葉を聞いて嬉しそうに返事をして口角を上げる。

 教えて貰ってるの私なんだけどなぁ…。


「そういえば…」


「どうしました?」


「私も職人ギルドに登録しておいた方が良いのかな?」


「え、登録してなかったのですか?それなら、私の弟子という事にして登録しておきますか?」


「はい、お願いします」


「ではもう少ししたら昼食を買いに行くつもりだったので、その時に行きましょうか」


 サロユさんに言われて私達は頷く。

 それまで許可を貰いルナと一緒に工房を見て回る。

 置いてある魔道具や素材がきちんと整理して置いてある。

 その一角に銀の小物が置いてあった。


「おー、お姉ちゃんこれ可愛いね」


「そうだね。花のデザインに魔石が付けてあるのかな?」


「こういうアクセサリーなら作ってみたいかも」


 私達がアクセサリーを見て話をしているとサロユさんが近くに来た。


「やってみますか?」


「良いの?」


 ルナが聞き返すと、笑いながら頷くサロユさん。


「やるー!」


「その前に昼食を買いに行ってギルドに登録をしてきましょう」


 そう言われて私達は頷くとサロユさんに続いてお店から出る。

 職人ギルドは工房の多い街の北東にあった。

 建物は冒険者ギルドよりも小さいけど、細かい装飾が彼方此方にあって手が込んでるように思える。

 中に入るとその思いは余計に強くなった。

 壺や絵画等の装飾品が飾られており、実際に販売しているカウンターもあるようだった。

 他にも武具や衣類、装身具等も販売されているので、それを目当てにか冒険者も来ているようだ。

 私達はそれらを脇目に受付の1つへ並ぶ。

 冒険者ギルドと違いそれほど混んでいないのは毎日来る職人がいないからだろう。

 毎日来てどうするんだって話にもなるだろうしね。

 サロユさんに紹介して貰い登録を済ませる。

 ギルドカードを確認すると裏に職人ギルドにも登録してある事が刻まれていた。

 ルナも迷ってたみたいだけど登録だけはしておくみたいだ。

 登録が済んだ私達はギルドを後にして商店街に足を向ける。

 適当な飲食店で食べたい物を買っていく。

 移動しながら食べれるものを選んでいるので2人ともすでに口にしていた。

 私はその様子に苦笑しつつもアイテムボックスから妖精達が作ってくれた物を取りだして食べる。

 サロユさんはアクセサリーの作り方を話してくれていた。

 銀粘土のようなモノはないようで彫金で作っていく事になるみたい。

 ルナは説明を熱心に聞いている。


「ねね、早く戻ろうよ」


 聞いてるうちにやりたくなってきたのか早くお店に戻ろうという。

 急がなくてももうちょっとで着くんだけどね。

 お店の工房に戻るとルナはサロユさんに詳しい説明を受けている。

 材料の取り扱いや道具の使い方などだ。

 一通り説明が終わったからか、サロユさんが待ってた私の所へ来る。

 楽しそうにしているルナから視線を逸らしてサロユさんの方を見る。

 今回来たのは教えて貰った魔法陣を魔道具に利用できるかどうかの確認。

 だけどその前に1つお願いがあったので伝える。


「今回弟子と言う事で登録させて貰ったじゃ無いですか。なので呼び方も様では無くて他のに変えて貰えないでしょうか」


 気にはなってたけどお願いするには良い機会だと思った。


「そうですね…。確かに弟子という扱いなのに様付けというのはおかしい。では、これからはユキさんと呼ばせて頂きます」


「はい。これからもよろしくお願いします」


 様付けをやめて貰えた事で心の中でガッツポーズをする。

 ルナも話は聞いてたみたいで視線がこちらを向いていたのはわかってたけど何も言わなかった。

 ルナからするとそこまで気にする事じゃなかったのかも。

 気を取り直して教えて貰った魔法陣の確認だね。

 他にも1つの魔石に複数刻印する方法や複数の魔石を組み込んだ魔道具の製作とやりたい事を上げていけば色々出てくるので1つずつ進めていかないとね。

 私とサロユさんは2時間ほど話し合ったり実験を繰り返していた。


「できた!」


 そこへルナの声がしてそちらを見る。

 嬉しそうに完成した物を見せるように持っている。

 直径3㎝ぐらいの硬貨の様な感じだ。

 幾つか作ったみたいで広げて見せている。

 よく見ると表面はでこぼこだし、円も歪にみえる。

 でもそれが手作り感があって良い気がする。

 デザインは円の中がくり抜かれていて、月の満ち欠けを表現してるみたい。

 種類を複数枚のコインで作ったようだ。

 ルナが好きそうなデザインだね。

 アクセサリーとして使えるようにサロユさんが枠になってる部分に小さな穴を開けて紐を通せるようにしてくれていた。

 私としてはそれよりも…。


「くり抜いてあるところに魔石入れれると良さそうだよね」


「お姉ちゃんそんな事できるの?」


「ユキさん流石にそれは調整が大変なのでは?」


 そう言われて考える。

 思いついた事があるので試してみる事にした。

 私はアイテムボックスに入れたままだったホームの拡張してたときに出た土を取り出して必要分を取って残りはしまう。

 その土をルナが作ったアクセサリーのくり抜き部分に付けていく。

 それを茶髪の妖精がやっていたみたいに石に変えれれば…。


「《石化》」


 土の部分は石に変わっていく。

 それを見たサロユさんは感心しながら手に取り、石の部分をヤスリのような物で整えていく。

 終えると私の方へ差し出してくれる。

 これに魔力を込めて魔石化させれれば…。


「できた…かな?」


「こんな方法は考えつきませんでしたね」


「この方法だと簡単に沢山の魔石付いたアクセ作れそうだねー」


 ルナに言われてサロユさんの方を見る。

 同じ事を思ったのか私の方を見ていた。


「これは色々使えるかもしれませんよ!」


「ですね!ルナのおかげだよ。ありがとう!」


「え、うん。どういたしまして?」


 それからはサロユさんとまた話し合いをして実用できるか考えていく。

 思いつく事はあるけど今は難しそうだった。

 視線を感じて見るとルナがジト目でこっちを見ていた。


「1個じゃなくて全部やって欲しいなー」


「「あっ」」


 私達はルナに謝って残りのアクセサリーにも同じように魔石を付けていく。

 終わるとルナは手に取って嬉しそうに眺めていた。

 遅くまでお邪魔してしまったのでサロユさんに謝罪する。


「あぁ、お店に人が来たら工房にいてもわかるようになってるので大丈夫ですよ」


 と言われた。

 もしかして…、お店にあまり人が来ないのかな…。

 思ったけど口にするのはやめておく事にした。

 ご機嫌なルナと一緒にホームに戻ると、私は魔石の加工をする為に素材部屋へ行く。

 ルナは広間にいたガイさん達にアクセサリーを見せに行った。

 とりあえずやりたい事と依頼に必要な物を考えて絡ませ気を付くって刻印していった。

 ルナが食事だと呼びに来るまで集中してたから結構な量を作る事ができた。

 優先で作ったのは依頼であった方が良いかと思った物だ。

 広間の方に到着するとぐったりと机に突っ伏したシキ姉さんがいた。

 スノウさんも同じように疲れた様子だ。


「おまたせ。2人は何かあったの…?」


「あちこちの貴族からお呼びがかかったみたいよ」


「あぁ…」


 あれ、でもすぐに行くわけじゃないよね。


「島を出る日が近いからって、すぐ欲しいって言う貴族様もいたみたいでねー」


 そう思ってたけど、すぐ呼ばれたみたいだね…。

 見た感じ対応したんだろうね。


「ドレスを仕立てるのは流石に無理だから生地を売って何とかしたわ…」


 ぐったりしていたシキ姉さんが顔だけ上げてそう言った。


「メギーアー女王様に生糸の追加をお願いしてきたし、他は急ぎの注文はなかったから大丈夫だと思うわ…」


「しばらくは貴族様の対応で皆様の服が作れそうにないですわ…」


 シキ姉さんとスノウさんは大変だったみたいだね。

 まだしばらくはそんな日が続きそうだけど頑張って欲しいかな…。

 手伝えれば手伝うけど私の場合は大きさもあるからね。


「ユキさん料理美味しかったよ!取っておいてくれてありがとね」


「ううん。みんな美味しかったって言ってたって伝えるつもり。ガイさん達はどうしてたんですか?」


 アエローちゃんは頂いた料理をお昼に食べたみたい。

 喜んでくれてるけど私がなにかしたわけじゃないし、私達だけ先に食べてるのが気になって話題を逸らす。

 チラッとアエローちゃんの方を見ると気にしてないみたいだけど。


「俺達は荒地だな。巨大ミミズの行動範囲調べたり、素材になりそうなのがないか探してるところだ」


「拠点やっぱり欲しいです?」


「依頼だったか?あれば便利だとは思うがな…。作るとしたら森の近くだったか」


「その予定です。そうだ、荒地で生活するのに必要そうな物が思い浮かんだら教えて貰えますか?」


「わかった。まぁ結界内なら砂塵は気にしなくて良さそうなのが一番の利点かもな」


 話をしているといなかったメンバーが戻ってきた。

 買い出しに行ってくれてたみたい。


「真面目に料理作ってくれるヤツが欲しいよな」


「確かに…。買い食いばっかりだと地味に出費になるんだよねー」


 ラギさんのこぼした言葉にルナが同意する。


「できれば住人の人の方が良いよね」


「難しいだろうがなぁ…」


「私達のホームは秘密が多すぎますね」


 住人の方にお願いできれば異人と違って起きない日はないと思うから、いつでも料理頼めるんだけどシュティの言う通りなんだよね。

 一番問題になってるのが私達のホームは隠さないとダメな事が多いんだよね…。

 契約書は冒険者ギルドのマスターフリハウヤさんに言われて強制力のある物に変えた。

 これで契約すれば素材を勝手に持ち出したり情報を話す事がなくなるだろうけど…。

 代わりに自由が制限されるから誘いにくくもなった。

 チームメンバーの意見を聞いて、全員で決めた事だから後悔はしてないんだけどね。

 他のメンバーもわかってるからか難しい顔をしている。


「とりあえず難しい話は置いておいてご飯食べよう」


 私がそう言うと話題を変えて話ながら食事を始める。

 正直なところ料理以外にも私達がログインできない間の事を考えると住人にいて貰いたいと思うんだよね。

 今度お邪魔したときに領主のクリストファー様に相談してみようかな。

 食事を終えたところで、みんな明日は朝早いと言う事で解散した。

 私もルナと一緒にログアウトする事にした。

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