79
ログアウトして昼食を早めに済ませた。
貴族の社交パーティーと言われて想像ができなくて調べてみたんだけど。
普通は夜に行われて、舞踏会や晩餐会があるみたい?
お昼にそう言う場があるとすればお茶会みたいだ。
さて、そうなると今回のお昼からあるパーティーというのは珍しいと思える。
では何故そうなったか…。
あー、多分だけどあの領主様じゃないかと思うんだよね。
多分日付や時間も異人に相談して決めた結果じゃないかな。
相談相手はネルア聖騎士団の人達かな?
でも貴族の方達も来るのだろうしマナーは覚えて置いて間違いはないよね。
「そういえば母さん」
「んー、どうしたの?」
ソファーで端末を操作してる母さんに声をかける。
「女王様のコートってフードが付いてなかった?」
「あら、気づいちゃった?そう、そうなのよ!」
端末を置いて私の方を見る。
聞いて欲しかったのかその表情は凄く嬉しそうだ。
「アレはね…。お忍び用も兼ねているのよ!」
「お忍び用…?」
「そう!リバーシブルになっていて表は女王様に合わせた色で裏返せばフード付きの黒いロングコートになるのよ!」
「でもそれってファーが邪魔になるんじゃ?」
「取り外しできるようにしたわ。スノウちゃんと聞き込んだ結果、黒のフード付きコートは異人から人気だそうでね。それを着てれば冒険者と思われる事間違いなし!」
「そもそもどこにお忍びで行くの…?」
どこへ行くか私が聞くと母さんは何言ってるのかわからない様子で首を傾げる。
「どこって街に決まってるじゃない」
当たり前の事のようにそう言った。
「領主様に話を通してからにしてね…」
「そうね。何かあってからだとまずいものね」
予想もしてなかった内容に頭を抱える。
何となくだけど女王様が何かやらかすと私にしわ寄せが来る気がするんだよね…。
そう考えたら笑いながら私を巻き込んでくる女王様が浮かぶ。
「服と言えば…、ユキは着て行く服はどうしたの?」
「年始に貰った課金通貨で買ったドレスを着るつもりだよ」
「何それ、私貰ってないわよ?」
「元旦の限定だったみたいだよ」
「ふーん。それでどんなの買ったの」
母さんに端末を借りてサイトを立ち上げる。
プリメラさんに教えて貰ったんだけど課金通貨で買える服等が見れるサイトだ。
課金ショップの様な3Dモデリングに着せる機能もあるからとおすすめと言われた。
そこから着るつもりのドレス等を選択していく。
「こんな感じかな」
「へぇー、便利そうなサイトがあるのね。サイズとかはないの?」
「課金の服は装備するとサイズが調整されるんだよ」
「あぁ、だから雪菜のキャラクターでも着れるのね。それにしても色々あるわねー」
母さんは楽しそうに端末を触っている。
しばらく色々操作してた母さんが私の方を見る。
「ねえ、これってどうやって買うのかしら?」
「課金の仕方が公式にあるんじゃないかな…」
「それもそうね」
慣れた手つきで操作をしていく。
「よし課金できたわ。雪菜ログインしましょう」
「え、そんな簡単にできるんだ」
「ふふん、クレカって便利よね」
「大丈夫なの?」
「買うの決めてあるし1000円だけだから大丈夫よ。パーティー終わったら買ったドレスはリメイクするつもりだし楽しみが増えたわね」
そう言って私の後ろに回ると車椅子を押して部屋に連れて行かれる。
急かすように私をベッドに移動させると、急いで部屋に戻っていった。
こういう所は那月にそっくりだ、なんて思い苦笑し機器を取り出す。
ログインする前に確認のため携帯を見るとメールが来ていた。
穂風ちゃんが那月の様子を教えてくれた。
ゲームばっかりで鈍ってるといけないからと、部活のみんなで練習をしているのだそうだ。
教えてくれた事にお礼の返信をして、那月には応援のメールを送っておく。
メールを送り終わったので機器を付けてログインした。
目を覚ました私は氷像を作り寝床から浮き上がる。
「ユキ、遅かったわね」
「ちょっとメールがきてたからね」
「そう。それよりもどうかしら?」
私を待っていたのだろうシキ姉さんは、早速課金通貨でドレスを購入したようだった。
見せるようにその場でくるりと回る。
着ているのは若草色のスレンダーラインのドレスだ。
「シキ姉さんそのドレス、凄く似合ってるよ」
「今回はエルフをイメージした色のドレスにしたけど…。これは色んな服作って自分で着て自撮りしても良さそうね」
「自撮りとかできるんだ?」
「えぇ、シュティナちゃんに教えて貰ったの。鏡が高価で買えなかったのが痛いのよね」
「鏡なら氷で代わりにならないかな?」
「どうかしらね。もしできたら使わせてね」
いつになるかわからないと伝えてから頷いた。
私も普段着ているドレスから着替える。
買うときにプリンセスラインとAラインで迷ったけどAラインのドレスにした。
迷ったのは色で白か空色のどちらにしようか考えた。
普段のドレスが空色に近いから今回は白地でAラインのドレスに決めた。
それに雪の結晶をモチーフにしたレース編みの飾りが可愛かったのだ。
私達が広間に移動するとシュティだけじゃなくガイさん達にリグさん、光葉さんと闇菜さんがいた。
「「おはよう」」
私とシキ姉さんが挨拶をするとみんなも挨拶を返してくれる。
スノウさんは寝てるとリグさんが教えてくれた。
集まってたのは単純にログインしたんじゃなくて、私達のドレス姿を見に来たとか、パーティーに行くのを気にしてくれてたとかそんな感じみたい。
私自身最初は行きたくないという気持ちがあったけど、今はちょっと楽しみに思えていた。
一度クリストファー様に会えたのが切っ掛けなのは間違いないね。
みんなと話しながら食事を取る。
「そういや御目出度なんだったか?」
「うん、そう言ってたよ」
ラギさんに言われて頷き答える。
ガシガシと頭をかいて何かを考えているようだ。
「なぁ、なんかお祝い用意した方が良いのか?」
そう口にした瞬間全員が固まった。
「でも出産前はマナー違反とかプレッシャーになるって聞いた事があるわよ」
「俺も聞いた事があるがそれは現実の話だろう。こっちの世界ではどうかわからないな」
「そもそも今は安定期に入ってるのかしら。ユキは何か聞いてない?」
「ごめん。そこまでは聞いてなかったよ」
それからはみんな意見を出し合って幾つか用意する事にした。
と言ってもそこまで時間がないので簡単に用意できる物か作ってあった物ぐらいだね。
シキ姉さんはプリメラさんと何か羽織れる物を用意するみたい。
暖かいところだけどあって困る物じゃないから良いのかな?
ラギさん、光葉さん、闇菜さん、リグさんはハーブティーを作るのだそうだ。
ハーブによっては飲まない方が良い物もあるため、その辺は慎重に確認するそうだ。
私はそれよりもシュティに礼儀作法ができてるか確認をして貰う事に。
やってて思うのは浮きながらだと思ったよりも難しい。
地に足が付いてないからだと思うけどね。
シュティも教えるのに困ってるような感じだった。
「ユキさんそろそろ時間じゃないか?」
ガイさんにそう言われて確認すると11時頃だった。
早めに着いておいた方が良いと思うし頷く。
「今ボルグがシキさんを呼びに行ってるから待っててくれ」
ボルグさんがシキ姉さんを呼びに行ってくれたそうなので待つ。
戻ってきたボルグさんは他のみんなも呼んできてくれたみたい。
広間に揃うとワイワイと話を始める。
お互いが用意した物を確認しているようだ。
シキ姉さんは前が閉じてないタイプのケープを用意したそうで綺麗にたたまれていた。
見た目から温かい方が良いかと思って淡い暖色を選んだそうだ。
使った生地は今はいないけどスノウさんと協力して作った物だから共同制作だね。
光葉さんと闇菜さんはハーブティーを作ったそうで入っている小瓶をテーブルに置いた。
見た感じだけどコップ2杯分ぐらいかな?
量が多くないのは早めに飲んだ方が良いからだそうだ。
ちなみにラギさんは作り方は詳しく知らないけど、使っても良い物か判断できるのだとか。
リグさんは材料調達をしていたそうだ。
気づかなかったけど何度か外へ出ていたらしい。
ガイさんはメッセージカードを、ボルグさんは小麦を使った麦茶の作り方を羊皮紙に書いて渡してくれた。
2人とも暇をしてる間に何かできないかと思ってネットで調べて用意したみたい。
私はテーブルに置かれたそれらをアイテムボックスへしまっておく。
PTは一緒に行くシキ姉さんに何かあったときのため一応シュティとPTを組んでおいた。
仲間に見送られ街へ転移するのだった。
領主様の館も騎士団の兵営よりも街の西側にある。
西側は貴族の屋敷や別荘などが多いのだと事前にラギさんが教えてくれた。
何故そんな事を知ってるのかと聞いたら。
「見てみたいからと会いに行って捕まった馬鹿が沢山いたんだよ。俺が間違って遭遇したら危ねえだろ?」
会ったら何か起こしそうだから避けるための情報収集だったようだ。
転移装置になっていた噴水から少し西に移動すると馬車の停留所がある。
そこに行くと慣れない恰好で戸惑ってる様子の人や楽しみだという表情をしている人、見ても緊張してるのがわかる人と色んな人がいた。
領主様の館へは馬車で行く事になっている。
まるで迎えのバスみたいだね。
帰りも同じように送ってくれるのだそうだ。
「領主様の館へ行くヤツはこっちの部屋に入ってくれ!」
人が溢れてきたからか部屋に通される。
そこでは執事に見える方が待っていた。
その方は入ってくる人達を確認しているようだ。
「雪月風花のお二人でお間違いないでしょうか?」
私達の番が回ってきてそう確認される。
他の人達がしていたようにギルドカードを見せて確認をして貰う。
「ありがとうございます。今馬車の準備を整えてますので、申し訳ありませんがもうしばらくお待ちください」
そう言って頭を下げられた。
「いえ、今日はよろしくお願いします」
シキ姉さんがそう言って頭を下げたので咄嗟に私もお辞儀をした。
中に入って空いているソファーに座る。
私はシキ姉さんの肩に座って自分のステータスを確認する。
『結構人が多いのね』
『だね、思ったより多くてびっくりしてるよ』
『そうなのですか?気になってる人がいれば容姿を教えて貰えばわかるかもしれません』
『プレイヤーよりは貴族様に売り込んできたいわねぇ』
『えっ…、なら私は離れてようかな……』
『それはやめておいた方が良いかもしれないですよ。ユキさんの方がこの島では知名度がありますので話をしたい方は多いでしょうし』
『うっ…』
『ぁ、ユキ。ちょっとこれを羽織ってみて』
そう言ってシキ姉さんが取り出したコートに腕を通す。
するとちょっとひんやりとして気持ちが良い。
『これは?』
『スノウちゃんが用意してくれたコートよ。ひんやりするのはそう言う素材なんじゃないかしら?』
シキ姉さんはゲーム内の効果はいまいちわからないようだった。
簡単には作れなかっただろうなとすぐに思った。
『今度お礼言わないとね』
『そうしてあげなさい。ぁ、ユキのその恰好を撮って送ったら喜ぶんじゃないの?』
『それは喜ぶと思いますよ』
『そうかな…?』
『えぇ』『絶対に』
シキ姉さんだけじゃなくてシュティにもそう言われてそうなのかなと思ってしまう。
待ってる間にシキ姉さんが何枚か撮影してスノウさんに送ってくれた。
シュティも送って貰ったみたい。
そんな事をしていると準備もできたようで、今から馬車に乗り移動するみたい。
順番に馬車に乗っていくけど一台で全員は乗れないから複数台の馬車で行く。
私達の番になりシキ姉さんが馬車に乗って座る。
その肩の上で氷像を抱いて座っていると向かいの席から視線を向けられていた。
それに気づいたシキ姉さんが話しかけて馬車の中はプレイヤー同士近況を話して盛り上がった。
と言っても私は話してないんだけどね。
理由は簡単。
『ユキが話すと何か余計な事言いそうな気がしたのよね』
『あぁ、無自覚で妖精さんは爆弾投下するときありますからね』
二人は共通認識を確認しあうと私にPTチャットで静かにしててと言ったのだった。
私としては悲しいお知らせだ。
とはいえ私の方をチラチラ見てるし何かしら話を聞こうと考えてるのは間違ってないだろう。
私は気にしてないけど知られてない内容も多いみたいでシュティからはなるべく話さないでと念押しされている。
「あ、あの!」
痺れを切らしたのか私を見ていた女性の1人が声を上げる。
「雪妖精さんが抱いてる氷像って氷魔法が使えるようになったら作れるんですか!?」
予想外の質問で一瞬固まってしまう。
シキ姉さんの方を見るけど困った様子だ。
「氷じゃなくても作れるよ。土属性とか木属性かな。大事なのはイメージだと思うよ」
「く、組み合わせはどうしてるんですか!?」
「これは生成で作ってるから攻撃魔法じゃないんですよ」
「そうなんですね!」
シュティに聞くと隠す様な内容じゃないという。
置物が作れれば売れるかもしれないけど、普通はそれぐらいじゃないかという話だ。
私みたいに効果が増えてればそうじゃないと言われたけどね。
シュティも試してるみたいだけど生成で効果付与はできてないって言ってた。
予想だと氷雪妖精のスキルのおかげなんじゃないかって話だ。
それからは他の子もどんな形が作れるの、と聞いてきたので色々作って見せてあげた。
しばらくして馬車が止まると扉が開かれ降りていく。
降りると大きな館の前だった。
周りを見ると馬車が停まれるスペースが設けられていたが、今は招待された人達が乗ってきた馬車で一杯になっていた。
眺めていると私達が乗ってきた馬車より装飾などがしてある立派な馬車がいくつも見られた。
招待されている貴族の乗ってきた物なのだろう。
案内されて館の中に入るとすぐ目に入る位置に大きな階段があった。その両脇に扉があり左右の壁にも扉があるから部屋があるのがわかる。
上を見ると照明器具もかなり豪華な作りになっているのがわかる。
私以外の異人達も館の中を見て感嘆の声を上げていた。
「ユキ、メイドさんよ。兵営で見た子達とデザインがちょっと違うわね。来るときから思ってたんだけど執事さんの服はガイさんとか着せたら似合いそうじゃない?」
小声で話しかけてくるシキ姉さんは見てるところが違ったよ。
私は相づちを打ちながら周りを見渡す。
階段脇の扉に先に来ていた人達が入っていく。
入り口で招待状とギルドカードをもう一度確認しているようだった。
扉の前で確認している執事さん以外にも兵士の方が立っている。
恰好は鎧ではなく正装をしているため格好良い。
1つの扉に2人の兵士の方がいるけど着ている服の色が違う。
1人は青でもう1人は白か赤だ。
見ていると赤い服を着ている兵士の方が隠れて小さく手を振ってくる。
よく見ると魔術研究室でお世話になったかた達の1人だった。
私も小さくお辞儀をする。
そういえばとマップの表示を見てみると白い制服の兵士は異人のようだった。
って事はネルア聖騎士団の人達だ。
見ても違和感なく兵士をしてるから気づかないよ。
私達の順番になり確認をして貰い中へ入る。
「広いサロンね。食堂との間の仕切りを取り除ける作りなのかしら?」
見渡しながらシキ姉さんが言う。
言われてみると床は敷物でわからなくなっているが壁や天井を見るとそれっぽい作りになっているような気がする。
ダンスはないと聞いていた通りのようで丸テーブルがあった。
ビュッフェ形式のようで中央に大きなビュッフェテーブルが用意されており料理はまだなかったけど取り皿が置かれていた。
現実にありそうだなぁと思った。
積極的に話しに行ってる人もいれば、端の方で緊張している人まで様々だ。
シキ姉さんは周りを見て話しかける相手を考えてるのかな?
「左の方に見える人達は服装が私達とは違うわ。女性の立ち振る舞いも綺麗だし貴族の方じゃないかしら?」
「マップ表示で見ると異人じゃ無いからそうなんじゃないかな」
「マップってそんな事わかるの?」
「うん、チュートリアルスキップするからだよ…」
「でもわからない方がその世界を現実みたいに楽しめる気がしない?」
そう言われるとそんな気がする。
私も普段はマップ表示は見てないんだよね。
「それは否定しないけどね…」
シキ姉さんとしては貴族に伝手を作って服や小物などを売れればと考えてるみたい。
話題作りに幾つか小物等を用意してきたのだとか。
いつ用意したのか聞いたら昨日私達とログアウトした後にこっそりログインしてたみたい。
スノウさんも一緒にやってたみたいだけど、シキ姉さんより遅くまでやってたから寝てるんじゃないかと言う事だ。
そんな話をしているとクリストファー様が入ってきて挨拶をされた。
「本日は皆様忙しいとは思いますが来て頂き感謝します。私が領主をしているクリストファー・ネレイアと申します。普段交流のない立場の相手もいるとは思いますが、交流する機会として積極的に話をして頂ければと思います。挨拶の方は私から行くのでその時はお相手ください」
『普通は私達が挨拶に行くんだよね?』
『そうね。何か考えがあるんでしょうね』
『主催者が挨拶に回るんですか?確かに変わっていますね。何か目的があるんでしょうけど…』
そうしてる間に飲み物が給仕の方により手渡されていく。
アルコールではないようだ。
「お手元に飲み物が行き届いたようですね。楽しんでいって頂ければ幸いです。この島と街の発展と皆様のご多幸を祈念して乾杯」
-乾杯-
乾杯の音頭で乾杯を唱和する。
うーん、何となく貴族様っぽくないような内容?
『あの挨拶は裏に指導した異人がいるわね』
『そうなると黒幕はネルア聖騎士団でしょうか』
『イヤイヤ、私達が馴染みやすいようにだと思うんだけど』
『『世界観が台無し』』
この場にはいないシュティも話を聞いて駄目出しをしていた。
流石に苦笑してしまう。
その間にどんどん料理が運ばれてきていた。
招待された人達は料理を取りに行く人もいれば会話をする人もいる。
シキ姉さんは事前に目を付けていた御令嬢方の所へ歩いて行く。
接客等で慣れているのか話術巧みに会話をしている。
肩に座りながら感心してしまう。
私を話題にしたりしながらさりげなく着ているコートの話題を振ったり、持ち込んだハンカチやファーポンポンを見せたりしていた。
お店があるわけではないのでギルドにことづけをくだされば伺いますと約束をしていた。
その様子は交流に来たと言うよりは商売に来ているようだ。
伝手を作るという考えで言えば上手くやってるんだと思う。
今回注目されたのはやっぱりハンカチだった。
刺繍などがしてあるわけじゃないシンプルな無地のデザインだったけど素材が良かった。
森に住むシルクワームから得られるシルクを使っているそうだ。
『ワツシワ以外にもいたの?』
『リグさんが捕獲に行って女王様の所で飼ってるのよ』
『あぁ、落ちる前に動く袋を担いだリグさんが拠点に転移してきて森の方に走っていったのはそれですか』
『何それ。拉致事件にしか思えないんだけど!?』
『拉致してきたのは芋虫だけどね』
『ワツシワの素材以外で探した結果ですか?』
『えぇ、女王様に確認したら森にいるって言われたから探して貰ったのよ。ワツシワのはまだできてないけど、こっちは加工できて助かったわ』
その素材を見た御令嬢だけじゃなく夫人方も興味がある様子で、シキ姉さんを質問攻めにしている。
それを丁寧に対応して捌いていくシキ姉さんはやり手の商売人に見えた。
しばらく話をするとシキ姉さんが食事を取るために集団から離れていく。
私は最初に受け取った飲み物を飲んでいただけなので、ようやく解放されたという思いが強かった。
会話のネタにされる事があって笑いかけたけど話はしなかったのだ。
話題について行けなさそうだったからね。
ようやく食べれるとシキ姉さんが取った物を分けて貰い食べる。
食べれないものを把握してくれてるから、肉類は自分の分だけで私からは遠い位置にとってある。
料理は魚を使った物が多くあったので食べる物には困らないかな。
職人ギルドから来てる人もいるようで、さっきのシキ姉さんのようになっている人も見かけた。
それ以外は普通に世間話とか情報交換をしているように見える。
食事をしているとクリストファー様が歩いて来られた。
「ユキ嬢と…シキ嬢だったか、楽しんでくれてるかな?」
「はい、先ほどまで御令嬢やご婦人達と楽しく話をさせて頂きました」
「あぁ、チラッと見たが…。少々目が恐ろしかったな」
「それだけ夢中になってくださっていたなら期待して待てそうですね」
「すぐに予定が一杯になるんじゃないかな。さて、私はまだ挨拶があるので失礼するよ。また後ほど」
そう言ってあっさりと離れて他の人へ挨拶に行ってしまった。
他の方と話しているのを見ると、色々話題を振っているように見える。
話をして相手がどんな人か確かめてるのかな?
それからはシキ姉さんは食事しながらゆっくりと来た方と話をしていた。
私も話しかけられる事はあったけど、魔法の事だったり拠点の事に探りを入れてくるような人達だったため適当に誤魔化していた。
「相変わらず人気者だな」
丁度人が離れていたところで調さんが来た。
「こんにちは。それは囲まれてた調さんも一緒じゃないですか?」
「俺の方は情報を集めてたんだよ。できればユキさんからも何か情報を貰えると有り難いんだけどな」
「私は喋っちゃダメとお達しが出てるので」
「それは残念だ。そういやシュティナは来てないんだな」
調さんは隣に立ってるシキ姉さんを見てそう言った。
「調さんが来るだろうからイヤだ、って言ってましたよ」
「マジかぁ…。原因はβのアレだろうなぁ。似合ってたし自慢に来たから大丈夫だと思ったんだけどな」
「ちゃんと許可取れば良かったのに」
「まぁ、今更だな…。護衛が必要だと思えば俺程度気にせず来るだろう」
調さんはその後シキ姉さんに話しかけてハンカチを見せて貰っていた。
多分アレも情報集めなんだろう。
辺りを見渡すと人も来たときより疎らになってきていた。
「さてと、そろそろ俺もお暇するかな」
「帰るんですか?」
「あぁ、残ってるのは話をした相手だけだしな。ユキさん達はまだいるのか?」
「その予定です」
「そうか。そういやこのイベントは、直接会って人柄とか確認するためだって話だ」
「どこの情報ですか?」
「公爵様だな。こっそり教えてくれたが公開して良い情報かわからなくて困ってる」
情報を広める人に今回のパーティーの目的を伝えたんだね。
なんだか。
「試されてるみたいですね」
「そうなんだよな。それに…、人柄とか確認するだけとは思えないから余計にな。まぁ何にせよ挨拶して途中になってる検証に戻るかね」
「お疲れ様ですー」
調さんを見送ってゆっくりしているとメイドさんが呼びに来たのでついて行く。
客間に案内されるのかと思ったら寝室の一つのようだった。
ソファーに座っている女性が私達に気づいて顔を輝かせた。
「こちらへどうぞ。雪月風花のユキさんとシキさんですよね?」
明るい茶髪の女性が声をかけていた。
ゆったりとした服を着ていてお腹が膨らんでいるのが見てわかる。
「はい、この度はお招き頂きありがとうございます」
私がお辞儀をするとシキ姉さんもお辞儀をした。
「そんな堅苦しい挨拶は良いのです。ぁ、私はソフィア・ネレイア公爵夫人よ」
「私は雪月風花のマスターでユキと言います」
「雪月風花のメンバーでシキです」
自己紹介をしたところで座るのを勧められて対面のソファーにシキ姉さんは着席する。
私は迷ったけどソファーの背もたれなら丁度高さ的に良いかと思い座った。
「もっと楽に話してくれると嬉しいわ。この島は王都とは離れているから権力を気にする者は少ないの。先ほどのパーティーでも普通に話していたのでは?」
言われて見ると確かに漫画で見た事あるような貴族だ、と思える人達はいなかった気がする。
「何故なんでしょうか?」
「それは王国の社交のシーズンが終わって旅行できている貴族達だからでしょう。本土は寒い時期ですがこの島は暖かいので、ゆっくり過ごしたい方達が多いんです。なので寛容になっている部分もあるのではないかと。一番はやはりクリフの影響が強いのだと思いますけどね」
シキ姉さんが気になって聞くと微笑みながら答えてくれた。
「新年の時はクリストファー様も王国へ行ってたのですよね?」
「アレはクリフが元王族だからですよ」
私はそれを聞いて固まってしまった。
どうしよう私無礼な事言ってなかったかな?
不安になってシキ姉さんの方を見る。
「知らなかったのですか。でも大丈夫ですよ。つい先日もネルア聖騎士団の方が面白い物を持ってきてクリフに被せてましたから」
大丈夫だと言われて少し安心する。
会って話した感じ大丈夫だと思うけど不安になってしまった。
「つるつる頭の被り物で魔道具になっていて光るの。アレは面白かったわ。変なポーズもとるから可笑しくて笑ってしまったわ」
そう言われてシキ姉さんが私の作った物だと思ったみたいでこちらを見る。
私はプリメラさんにあげた後どうなってるかなんて知らない。
最後に見たのは女王様との模擬戦の時だし。
なのでブンブンと首を横に振る。
「どうかしたのですか?」
「私が製作に関わった物と同じに思えて…」
「まぁ、ユキさんは魔道具を作れるのですね。どんな物があるのですか?」
聞かれて作った物を伝えると嬉しそうに聞いてくれる。
その時、扉が開いてクリストファー様が入ってきた。
「クリフ、凄いんですよ。ユキさんは魔道具を作れるのだそうです」
「そういえば、あのハゲヅラという魔道具も雪月風花の異人から貰った物だとは聞いていたが…。ユキ嬢が製作に関わったのか。アレは皆の受けが良くて年甲斐もなくついはしゃいでしまった」
名前がハゲヅラで覚えられてるけど良いのだろうか…。
思った通り出所はプリメラさんだったみたい…。
流石のプリメラさんも領主がかぶってはしゃぐなんて予想できなかっただろうね…。
クリストファー様はソフィア様の隣に座った。
「つわりや吐き気などは大丈夫ですか?」
「えぇ、落ち着いているのでこうして会えるようになったのです」
「それは安心しました。今回雪月風花の皆からソフィア様へプレゼントを用意したんです」
「急いで用意したので大した物ではないですけど喜んで頂けたら幸いです」
私はテーブルの上に預かった物を並べていく。
ハーブティー、ケープ、レシピ、メッセージカード。
それにプリンセスハニービーに貰ったはちみつ。
「嬉しいけれどこんなに良いのかしら?」
「もちろんです。安定期に入って落ち着いたとは言え大変だと思うので、ちょっとでも気分転換になれば、と皆で用意したのです」
シキ姉さんが私の代わりに言ってくれる。
出産経験のある母さんの方が詳しいだろうし気持ちもわかるんじゃないかな。
「妊婦は食べ物や飲み物も抑えた方が良い物が増えます。お茶も多く取らない方が良い物が増えるんです」
「そうなのですか?」
「えぇ、アルコール…お酒はまず避けた方が良いです。他にも…」
シキ姉さんが説明をするとソフィア様は真剣に聞き、クリストファー様はメモを取っていた。
「あぁ、これか?異人の知識は参考になるからな。違うところもあるのかもしれないが、間違っている事はないと思っている」
私の視線に気づいてクリストファー様は答えてくれた。
シキ姉さんは飲食物の話が終わると持ってきたハーブティーは制限を考慮して作ってくれた事を伝える。
「飲んでも良いでしょうか?」
私達が頷くとコップに注いで口にする。
「美味しいですね。私の為に用意してくださったと思うと嬉しいです。こちらは?」
ソフィア様はカップを置きケープを手に取った。
「首に巻いて暖めたり膝掛けとして使う事もできると思います。空調があるところや風に当たっていると、寒く感じたりする事もあると思いますのでその時に使って頂けたらと」
「これも私の為なのですね。こちらのレシピは…」
「それは妊婦でも安心して飲めるお茶のレシピですね。普段から飲んでも美味しいと思いますよ。はちみつも妊婦が食べて問題ない物なのですが取り過ぎに注意はしてください」
そう言われてソフィア様はメッセージカードを手に取る。
すると目に涙を浮かべてクリストファー様に抱きつく。
「どうした?」
「初めてお会いするのに、私の為に色々用意して頂けたのが嬉しくて…」
「そうだな…。ユキ嬢、シキ嬢ありがとう。他の雪月風花のメンバーにも私達が感謝していたと伝えて欲しい」
クリストファー様はソフィア様を抱きしめてそう言うと、髪をとかすように優しく撫でていた。
2人が愛し合っているのが伝わってきてこっちまで笑顔になってくる。
シキ姉さんはあまり普段と変わった様子もなく頂いたお茶を飲んでいた。
『ちょっとプレゼントやり過ぎたかもしれないわね』
『喜んでくれたので良いんじゃないかな…』
『パーティーの方は無事に終わったのですか?』
『うん、特に問題はなかったと思うよ』
『ユキが誤魔化すのが下手だというのが良くわかったわ』
『素直なのは妖精さんの良いところだと思いますよ』
『場合によるわねー』
私もシキ姉さんに倣ってお茶を飲みながらのんびりとPTチャットで話をする。
ちょっとして落ち着いたようで顔を赤くしたソフィア様が口を開く。
「恥ずかしいところを見せてしまいましたわ…」
「可愛らしいお姿を見せて頂き目の保養になりました」
「もう!忘れてください」
「そういえば令嬢達に見せていたハンカチは見せて貰えないのか?」
そう言われてシキ姉さんが令嬢達に見せていた物を取り出しソフィア様に見せていく。
シルク生地はやっぱり気になったみたいだけど、ファーポンポンの方が気に入ったみたいで楽しそうに触っている。
他にも持ってきたのを見て楽しそうにしていた。
どんな物が良かったかなど細かく聞いていた。
「ユキ嬢、何か礼がしたいのだが欲しいものとかはないか?」
「そんな…。ぁ、でもうーん…」
「何かあるなら言ってみてくれ。可能な限りは用意する」
「パーティー料理の残りとか…?」
私がそう言うとクリストファー様は頭を抱えてしまった。
「一応聞くが貰ってどうするんだ?」
「メギーアー女王様が喜びそうだなぁと…」
「手を加えて今日の夕食のおかずにしても良いわね。妖精達にも食べさせてあげたいから頂けるなら持って帰るわ」
「待て待て。メギーアー女王様というのは森に棲む蜂の女王なのだろう?残り物を持って行こうとするな!シキ嬢も乗っからないでくれ…」
私達のやり取りを見ていたソフィア様は笑っていた。
「ふふ、普通は金品などを言うところだと思いますよ」
「残ってたの勿体ないなっと思っちゃったんです…」
「はぁ…、もう良い。今から幾つか頼んでこよう」
「ぁ、それならこれも良かったらどうぞ」
手持ちに残ってたお肉をアイテムボックスから取り出す。
豚と鶏はあまり残ってないけど牛は多めにあった。
「…わかった。とりあえず料理ができるまで話し相手になってくれ」
そう言うとクリストファー様は席を立ち、お肉をメイドに渡し指示を出している。
疲れたような表情でソファーに座る。
「あ、クリストファー様」
「今度はなんだ…?」
伝えておこうと思った事があったので声をかけたら警戒されてしまった。
今思えば流石に残り物くださいは無いと思うから反省だね。
美味しかったからつい思っちゃったんだよね…。
「メギーアー女王様ですけど今日来たがったので止めたんですけど…。都合の良いとき挨拶に伺いたいそうです。後ついでに街を散策したいんじゃないかと」
「ふむ。挨拶に伺いたいと思っていたが、まだやる事が多くて動けなかったんだ。来て下さるというのなら助かるな…。都合の良い日付などをギルド経由で連絡を入れる」
「わかりました」
「それよりも街を散策って言うのはどういう事だ…?」
「そのままだと思いますよ。先日コートを新調して冒険者っぽい恰好ができるようになったので、お忍びで来たがると思うんです」
「街に危険は及ぶと思うか?」
「私が知ってる女王様は何か起こすとは考えにくいですが…」
「周り次第か…」
私とクリストファー様が話していると、ソフィア様がこちらを伺っているようだった。
「女王様に私も会えますか?」
そう聞かれてクリストファー様を見る。
ソフィア様も同じように視線を向ける。
クリストファー様は少し考えてたけど頷くとソフィア様は嬉しそうに顔をほころばせた。
「そういえばユキって写真あれば人に見せれるのよね?」
思い出したようにシキ姉さんがそんな事を言う。
そして共有ウインドウで昨日のドレスの写真、コートを着ている写真、コートを裏返して冒険者に見える状態の写真を見せてくれた。
私は2人に魔法の事を説明してメギーアー女王様の特徴を伝えて絵姿のような物を写す事を伝える。
許可を貰ってから魔法を使う。
「《イリュージョンベール》」
テーブルにドレス姿の女王様を写す。
「綺麗な方ですね」
「これだけでは魔族かどうかはわからないが…、立ち姿はやはり様になっているな」
「見た目は大丈夫ですか…?」
「獣人の方がよっぽど威圧感がある見た目をしてるヤツもいるからな…」
言われてみると確かに獣人が受け入れられてるから大丈夫なのかな。
「他にも見た目ですと半魚人の方も怖い方がいますしね」
「あぁ、人魚ではなく顔が魚の水棲人達か…。確かに初めてだとちょっと気後れするな」
海の方はあまり行かないから会った事がないなぁ。
そう思いつつ他の写真も見せていく。
女王様に関しては最初は驚かれるかもしれないが、街を散策しても多分大丈夫なんじゃ無いかと言われた。
「来るのは問題無さそうだが、何をするんだ?」
「多分食べ歩きになると思いますよ。人の作る料理とか食べたがるので」
「なるほどな…。こっそり来られて何かあっても困るから、来るときは連絡が欲しいのと護衛を連れて行って貰いたい」
「一応伝えておきますけど…、実際にクリストファー様が会ったとき直接伝えて貰えると助かります」
「わかった」
私が言っても聞いてくれるかもしれないけど、クリストファー様が言った方が効果がある気がする。
それからはシキ姉さんがソフィア様にアドバイスをしていたり、クリストファー様がハゲヅラ魔道具のような面白いモノはないかと聞かれたりした。
お茶も美味しく楽しい時間を過ごさせて貰った。
途中でやる事があるとクリストファー様は席を立たれたけどね。
忙しい中、話に付き合って頂けたのに感謝したら逆にお礼を言われてしまった。
ソフィア様はファーポンポンがかなりお気に召したようだったので、内緒ですよと言ってシキ姉さんはプレゼントしていた。
お土産の料理ができるまでのんびり過ごさせて貰った。
ソフィア様にまた来て欲しいと言われて頷いた私達はできた料理を受け取ってホームに帰るのだった。




