表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/103

76

 食堂に入ると人でごった返していた。

 お昼時だし仕方ないかな。

 そう思いながらも周りを見渡しチームのメンバーを探す。

 すると食堂の隅のテーブルに近接組とヒーラーの所へ行った2人がいた。

 シキ姉さんとスノウさんを探すと給仕をしているようだった。

 ルナが手を振ってくれていたので合流することを魔術師達に伝えて分かれる。

 席に着くとガイさんとボルグさんが昼食をとりに行ってくれた。

 料理を配給しているカウンターは騎士さん達で一杯だ。

 きちんと並んでいるが数が多いのでガイさん達はしばらく戻って来れなさそうだ。

 私達より先に来ていた7人はもう食事を終えているか食べている途中だ。

 食べ終えていたルナは聞いて欲しいと言った様子で午前中の出来事を話していく。


「お姉ちゃん、私沢山の騎士の方と戦ったんだよ。戦ってわかったんだけど、全然未熟で手も足も出なかったよ」


 手も足も出なかったと言ったルナの顔は楽しそうだ。

 負けてばっかりだったのだろうけどその中で得るモノはきっとあったんだろう。


「それに魔法なしでやってたから初めてメギーアー女王様の所で訓練してたときのこと思い出しちゃったよ」


 そういえばあの時のルナは楽しそうに戦ってたもんね。

 私が応援したら動きが良くなったって女王様が言ってたっけ。

 そんなに前のことじゃないけど懐かしく感じる。

 でも今日の訓練の時は真剣な表情であまり余裕がなさそうだった気がする。

 私がそれを言うと。


「いやー、本気で余裕がなかったんだよね…。必死に考えてどんな手を打っても対処されちゃってさ。それでも最後の方は攻撃を当てれるようになったんだよ」


 苦笑いしながらそう答えた。

 成果はあったみたいだし良かったのかな。

 私が感心すると嬉しそうに笑っていた。

 一方でラギさんと光葉さんはプリメラさんと闇菜さんにどんな魔法があったかを聞いている。

 書かれていた魔法はそのままでも異人が使うことはできるみたいだったけど詠唱をきちんとしないといけないようだった。

 闇菜さんはそれを嬉しそうに試してたみたいだけどプリメラさんは恥ずかしいと言っていた。


「あー、一度見ればイメージができそうだな。後で見せてくれねえか?」


 ラギさんは闇菜さんに見せて貰ってどんな感じか覚えるつもりみたいだ。

 光葉さんも同じみたいで午後が楽しみと言った様子だ。

 リグさんは先に来ていたラギさんに遠距離の訓練所もあった事を聞いたみたいで午後はそちらに行くのだそうだ。

 一番楽しみにしていたシュティはと言うと昼食のサンドウィッチを手に持ったまま固まっていた。

 しばらくするとハッとして手に持ったサンドウィッチを食べてはまた固まっている。


「シュティ、大丈夫?」


「えぇ、心配するようなことは何もなかったですよ。午前中だけでも参考になる動きが多かったので思い出しているとついつい手が止まってしまって…」


 誤魔化すようにまた食べ進めている。

 何かあったのかと思ったら夢中になってただけみたいだ。


「ふふ、午後からは私も模擬戦に参加します」


「あまり暴れるなよ…?」


 シュティの様子を見てラギさんが不安そうにそんな事を言った。

 それに珍しく笑顔を返すだけでシュティは何も言わなかった。

 その反応に私も不安を覚えたけどシュティなら大丈夫と思うことにする。


「そういえば普段から騎士団の方達は模擬戦ばかりしてるのかな?」


 私が気になってそう口にする。

 返事が返ってきたのは皆からではなく後ろからだった。


「いいえ、違いますよ。普段は体力作りで走り込んだり筋トレなどもしていますから」


 そう言って昼食の乗ったお皿と飲み物を持ったアベルさんが少し離れた席に座った。

 恰好は鎧を付けていないけど白が基調の服を着ていた。


「今回は特別なんですか?」


「そうですね。皆さんのご機嫌取りも兼ねているようで、事前にどういった訓練が良いか聞かれたので模擬戦が喜ばれると伝えておいたんです」


「そうなんですか。ありがとうございます」


「いえ、雪月風花のメンバーと縁を繋げたい騎士団の通りご機嫌取りですからね。今回は上からの指示で模擬戦をしてますが、普段だと模擬戦は何度もできないので張り切っているみたいですね」


 説明を受けているとガイさんとボルグさんが昼食を持っても取ってきた。

 同じようにアベルさんと似た恰好の人達が隣のテーブルに着いていく。

 ガイさんとボルグさんから昼食を受け取ると手を合わせて私達は食べ始める。

 私のサンドウィッチは昨日ホームで食べた薄焼きパンでサラダを挟んだような感じで、お肉ではなく魚を使っているようだった。

 気にせず食べてからハンバーグが入ってるのに気づいたから魚じゃなかったらアウトな事態になってたね。


「ユキちゃんのそれ特別な感じね」


 プリメラさんは私が食べてるのを見て言った。

 確かにみんなのはベーコンのようなお肉と野菜、それに卵焼きが挟んである。

 私のとは中身が違うと思って頷くと。


「ユキのはホームの妖精達が手伝ってくれたのを使ってるのよ」


 そう答えが返ってきたのでそちらを向く。

 シキ姉さんとスノウさんが昼食を取り、私達のいるテーブルに来ていた。


「あ、シキ姉さんとスノウさん。忙しそうだけど良いの?」


「えぇ、チームのみんなと食べてきてくださいってカウンターを追い出されちゃったのよ」


 すでに食べ終わったはずの近接組を見るとアイテムボックスから取り出したのか串焼きなどが乗った皿が並んでいた。

 アレ…、サンドウィッチ食べたんだよね?

 ルナに聞くと物足りなかったみたい。

 他のテーブルでも足りない人は持ってきたお弁当などを食べているようだった。

 やっぱり運動量が多いからか、お腹が空くんだろうね。

 サンドウィッチもそこそこ量があったように見えたんだけど…。


「そういえば午後から貴族がパーティーで着る服がどんな感じか教えて貰えることになったから楽しみにしてなさい」


「どんな感じか楽しみですわ」


 そう言って昼食をパクつくシキ姉さんとスノウさん。

 羽の関係で背中が開いてるタイプの服じゃないと着れないけど任せておけば大丈夫かな。

 それからは午前中の話を聞きたがったシキ姉さんに皆がまた話していく。

 時折関係ない話題になったりしながらも雑談をして過ごした。


 話をしているとお昼休憩の前にも鳴っていた鐘が鳴る。

 これは街全体ではなくて騎士が当番で毎日決められた時間に鳴らしているらしい。

 騎士達が規則正しくする為なのだとか。

 とはいえ守衛や夜勤も交代で行っているので、全員が全員鐘の音で行動してるわけではないのだそう。

 それに夜勤組の睡眠の妨げにならないようにそこまで大きな音ではないのだそうだ。

 その為近くの民家などには聞こえるかもしれないけど離れた地区では聞こえないのだとか。

 私達が以前泊まっていた宿は街の南東にあって離れていたので、聞いた事がなかったみたい。

 午後も頑張ろうと声を掛け合ってまた分かれていく。

 午前中と変わるのはプリメラさんと闇菜さん、リグさんが遠距離の訓練の方に行ってみると言う事だった。

 私はアエローちゃんと一緒に魔術研究室へ向かう。

 午後からは私がやりたいことを手伝って貰ってから実際に遠距離訓練場で2アクションスペルを見せることになっている。

 私がお願いしたのは以前ルガードさんの所で聞いたゴーレムに刻まれていた能力を再現できないかと言う事だ。


「ウッドゥンゴーレム系が出るんだったか…。あれはこの島に来て初めて見たな」


「魔法陣も独特だったねぇ」


「倒したら魔動核は消滅してましたね…。運良く手に入っても魔法陣は残ってないのが残念です」


 うーん、やっぱりダメなのかな。

 確かルガードさんは自動操作って言ってたっけ?


「やっぱり自動操作はわからないですよね」


「そもそも何に使うんだ?」


 そう言われて私は考えていることを説明していく。

 簡単に言ってしまえばこの前作っていた氷人形を操作するのに使えるんじゃないかと考えたのだ。

 ウッドゥンゴーレム系は関節がなかったと思う。

 だから同じように動かせるなら関節などを細かく作らなくても良いと考えたのだ。

 それを伝えると。


「なるほどなぁ…」


「確か完全ではなかったと思いますが資料があったはずなので探してきます」


「ウッドドールの資料も参考になるかねぇ」


 そう言って資料を探しに行く人達が席を立つ。

 残った人達はあれこれ使えそうなんじゃないかとわかる技術を上げていた。


「どうやって前は動かしたんだ?」


「念力を使いました」


「つーと、氷人形を1つの道具として操ってたのか」


 私がやってたことをすぐに理解したのかまた私そっちのけで話し始める。

 聞いてはいるけど専門的な用語が多くてあまり理解ができない。

 資料を探してきた人達が戻ってくると話に熱がこもる。


 ・

 ・・

 ・・・


 話し始めて2時間が経過した。

 調べた結果、ウッドゥンゴーレム系に使われている自動操作の魔法陣は使う事ができた。

 しかし使ってみた事で思ったように動かせない事も同時にわかった。

 私としては念力で操るみたいに私の意思で自由に動かせればと思ったんだけど…。

 自動操作は決められた行動しかできなかったのだ。

 名前からして自動だから仕方がないのかな。

 自動操作の魔法陣はそこまで複雑なモノではなかった。

 最初に構築する魔法陣には操作対象を指定して行動を1つ刻む事ができた。

 問題は行動を多様化して使うには指定する行動を魔法陣内に追加で刻んでいかなければいけなかった。

 行動パターンを追加すればするほど複雑になっていくと言う事だ。

 でも複雑な動きを求めなければ最初のだけでも十分だとは思う。

 魔術師の方達もこれで何かできないかと考えているようだ。

 ウッドゥンゴーレム系に使われている魔法陣は多分凄く複雑なんだろうなぁ…。

 ウッドドールも調べてみたけど魔法陣のようなモノで動いているのでは無さそうだという。

 行動パターンや連携、私達が戦ったときには見せなかった行動だけど状況によっては逃げるのだそうだ。

 この事からトレントなどの植物系みたいに意思があるのでは?と考えられているそうだ。

 はっきりとわかっているわけではないので、調査は継続して行っているのだとか。

 時間のあるときに使えそうな技術や魔法陣等がないか調べてくれるそうでこの話は終了になった。

 それからは約束してあった魔法を見せる事になっていたので、団体で遠距離攻撃用練習的のある訓練場に移動した。

 中に入ると騎士の方達がいた練習場は正方形だったのに対してこちらは奥行きのある長方形になっている。

 周りにいる人達を見渡していると一番多いのはネルア聖騎士団の鎧で次いで多いのは騎士団で、近衛騎士は少ないようだった。

 その中でコスプレのような巫女服を着てるプリメラさんが目立つ。

 私に気づいたみたいで手を振っている。

 人の動くぐらいの早さで左右に移動している的が遠くにある。

 魔法を撃つのは闇菜さんみたい。

 詠唱を始めると空中に黒い棒のようなモノが現れる。

 タイミングを計って発動させるとそれは見事に的に当たった。

 威力も十分のようで黒い棒は的の土人形を貫通して地面に刺さり動きを封じていた。

 攻撃と拘束を同時に行う事が出来る魔法なのかな。


「ふむ、今のは攻撃と拘束か。上から降らせておったのは刺さる地面がないと拘束できないという事かの」


「魔法を待機状態にしてタイミングを計っていた様だけど、あれでは見えているので実戦では使いにくそうねぇ」


「ですが闇の魔法ですので夜なら視認も難しくなるでしょう。使い方次第だと思いますよ」


 後ろからはじっくり見れた分使い勝手などを分析しているようだった。

 私達が眺めていると一人の兵士がこちらに来てやるのか確認される。

 ここまで来てみてるだけのつもりはないし見せる約束もあったので頷く。

 すると優先で私に使わせてくれるようで闇菜さんが立っていた魔法を放つ位置まで道ができる。

 私の後ろを魔術師の方達がぞろぞろと付いて移動する。

 魔法を使う人達は気になる様子で私を見ているみたいだ。


「えっと、的って私が作った方が良いですか?」


 後ろの魔術師の方に確認をすると少し考えてから首を横に振った。

 そして土人形を作り出すとその前方に石壁を何枚も築いていく。

 石壁は10枚ほどになっていた。

 思ったよりも頑丈そうだ。


「最初は私が使っているアイスランスを改造したのを使いますね」


「その前にそのアイスランスを普通に撃ってくれ」


「わかりました」


 私は登録してあるアイスランスを放つ。

 真っ直ぐと石壁に向かって飛び、突き刺さる。

 石壁は1枚目を貫いたぐらいかな?

 私がそう思っていると手前の数枚が横に移動して新しい石壁が現れる。

 何かと思って後ろを見ると。


「比較するのに見た目で違いがわかった方が良いだろ?」


 そう言われると頷くしかない。

 私自身どれくらい違うのかわかっていないから確認できるというのは良い機会だった。

 先ほど撃ったアイスランスは消費MPをできる限り減らしたモノだけど10消費する。

 MPを減らそうと調整すると威力がどんどん落ちてしまうので中々難しい。

 氷属性の魔法は強度にも影響してしまうから消費MPを減らしにくい。

 私が知っているのだと火は熱量が落ちて水は乾きやすく、風は速度が落ちて土は氷と似て硬度が落ちる。

 光と闇は範囲が狭くなっていた気がする。

 とはいえ一桁のMP消費でも知力が高かったりスキルで補助すればそんな事にはならないのだとか。

 私の場合は知力も上げてないしスキルで補助もしてないから、氷以外は弱くなってしまうみたい。

 深呼吸して気持ちを切り替える。


「いきます。《アイスランス》」


 さっきと同じように氷の槍を作り出す。

 すぐには飛ばさずに回転を加える。

 待機状態のアイスランスが回転を始めるとMPが消費されるのがわかる。

 10の消費が2乗の100になったので追加で90消費している。

 勢いよく回転しているアイスランスを飛ばす。

 先ほどと同じように石壁に突き刺さると削るようなガリガリと音がする。

 一応威力があるのは敵に対して使った事もあるし確認はしている。

 けど問題がないわけじゃない。

 硬いモノが相手だと先端が削れていってしまうようで削れなくなっていく。

 元々突き刺すための形状で切削用じゃないからね。

 先ほどと同じように石壁が動いて移動する。

 あれ、見せたから終わりじゃないのかな?

 そう思って後ろにいる魔術師さん達を見てみる。


「今のは2アクションスペル用に考えた魔法じゃないんだろう?専用のがあるだろ?」


「消費MPとか魔法の構造自体が違うんで威力が全然違いますよ?」


「構わん。今は完成している魔法の威力も見ておきたい」


 そう言われてしまうと頷くしかない。

 チラッとプリメラさん達の方を見るとPTを組んでるのを思い出した。


『魔術師達にお願いされてた2アクションスペルを見せたんだけどアイスランス回すだけじゃなくて専用で組んだのが見たいって言われたんだけどどうしよう?』


『あー…。一応ギルドに報告したときにドリルのことは言っちまったな。だけど広まってるのはチェーンソーの方だろ。どっち使うんだ?』


『アイスランスに近い形状だとドリルなんだけど…』


『ネルア聖騎士団の連中に秘密にして貰っておけば…、騎士達は多分言わねえだろ。一応気になるならその場で内緒にして欲しいと伝えておけば良いんじゃねえか?』


『そうしておきます』


 私がラギさんに相談が終わったところでみんなからも一言貰えた。


『ドリルは聞いただけだったからちょっと楽しみ』『ユキちゃんぶち抜いて的も全部粉砕よ!』『がんば…』


 アエローちゃん、プリメラさん、闇菜さんがそう言ってくれる。

 よく見るとプリメラさん、闇菜さん、リグさんの隣にアエローちゃんもいた。

 私達の移動で一緒に付いて来てたみたいだ。


『あ、ラギさん。私も女神様の勇姿見てきますー!』


『何言ってんだダメに決まってるだろうが!』


『そ、そんなぁー』


 光葉さんがちょっと暴走してたみたいだけどラギさんが止めてくれたはず。

 何か呼び方がおかしかったけど突っ込まないよ。

 私は崇められるような事してないもんね。

 してない…はず……。

 そんな事より今はやる事やらないと。


「あの、すみません。今から使う魔法は出来るだけ秘密にして欲しいのですけど」


「ん?聞いた事がある2アクションスペルってヤツはノコギリみたいなヤツだったか」


「それとは別のを使うつもりなので」


 私がそう言うと魔術師の一人が不満ですと言わんばかりの表情で発言する。


「できるなら後でノコギリのも見せて頂けませんか?」


「えっと…。秘密にしてくださるのなら…」


 ちょっと勢いが怖かったのでつい頷いてしまった。


「今から噂の雪妖精さんに2アクションスペルと言われている魔法を使って貰う。今から見る魔法は内密にしろ!」


 代表だと思ってた魔術師がそう言うと騎士達が一斉に敬礼をした。


「良いぞ。やってくれ」


 そして催促された。

 ここまできて否はないので頷いて魔法を撃つ前に準備する。

 1発撃つだけなら良いんだけどこの後チェーンソーもってなると魔力回復の準備はしておいた方が良いと思うんだよね。

 と言うわけでいつものお椀を取り出しまして魔力回復薬をドボドボーっと。

 そしてお椀に入る。

 準備ができたので魔法を選択して詠唱を開始する。

 少し時間がかかって詠唱が終わった。


「《アイスドリル》」


 現れたのは以前遺跡で使った魔法と同じだ。

 形状はステップドリルビットと言われているそうだ。

 私は妹が見せてくれたアニメを参考にしてたから名称までは知らなかったよ。

 筍ドリルビットとも言われるみたいだけど形状を見ると確かにと思う。

 ゆっくりと回転を始めどんどん回転は速くなっていく。

 歯医者で聞くようなギュイーンと言う音が鳴り響く。


「いけ」


 そう言うと回転しているドリルが勢いよく突き進む。

 そして石壁にぶつかると先ほどは途中でこすれているような音に途中から変わっていたがガリガリと鳴り続けどんどん石壁を削っていく。

 ついには石壁を貫き勢いは止まらずに的へ突っ込んでいく。

 的は当たった瞬間に回転に巻き込まれ弾かれて吹き飛んだ。

 脚が地面に固定されていなかったからみたいだ。

 それでも勢いは止まらずに壁に突っ込んでいく。


「あっ!」


 私は見ていてすっかり壁にぶつかる事を考えていなかった。

 それに気づいたときにはもう遅く慌ててしまい解除ができていない。

 もうダメだと思った瞬間ドリルは消えた。


「あれ…」


 そう思って後ろを向くとニヤニヤとしている魔術師達がいた。


「慌てているところも可愛かったな」


 等と言って私の方を見ていたので妖精達にやるお仕置きの氷の粒をぶつける。


「何でドリルが消えたんですか?」


「雪妖精殿は戦ったのだろう?大型ジハンキ型」


 そう言われて振り返り壁を見る。

 確かに言われてみるとあれの装甲と同じ色だ。

 しかし相変わらず名前が酷い。

 採用した人の気が知れないよ…。

 そんな事を考えながら納得したのでちょっと休憩のためにお椀に身を沈める。


「ところで何でそんな状態なんだ?」


「魔力薬飲むのが身体の大きさ的に厳しいかと思って。浴びても効果があるって書いてあったからつかってみても効果があったんです」


「なるほどな…」


 何か考えながらのように見えたので理由を聞いてみる。

 すると。


「実際飲む方が吸収率が良いとされてる。傷口にかけるのは直接そこから吸収させるためだ。傷に関してはその方が治癒が早いからな」


「そうなんですか?あまり気にした事なかったです」


 わかったような、わからないような。

 回復量を見ると差はないと思うんだけどねー。

 ただ回復速度だと足だけとつかって比べても早くならないんだよね。

 ゆっくり少しずつ回復してる。

 飲んだことないからわからないけど飲むとすぐ回復するのかもなぁ。

 そんな事を考えながらMPが回復し終わったので立ち上がりお椀を回収して宙に浮く。


「ところで次の的ってどうしましょう?」


「作り直そう」


「ぁ、いえ。ノコギリで切るような感じなので石壁沢山重ねただけにしますか?」


 そう言うとすぐに頷き遠くに石壁が沢山重なっていく。

 さっきのドリルの倍はありそうだなぁ…。


「ここから見て右から左に切れるか?」


「やってみます」


 確認された事に頷いてから魔法を選択する。


「《アイスチェーンソー》」


 現れた剣状に見える氷。

 ガイドバーに付いたソーチェンが回転を始める。

 柄のようになってる部分は内部で刃を躱しているようで上手くできてると思う。

 細かいところまでは想像してなかったからこうなったのかと思う。

 刃が回転している以外は普通の剣と同じように動かせるのは練習してわかっている。

 動きの方はシュティに相談しながらアイスソードで練習した。

 右から左に横薙ぎ。

 振るわれたアイスチェーンソーは切る事はできないが石壁を凄まじい音をたてて削っていく。

 勢いだとドリルの方があったと思うけどこれはこれでやっぱり凄い。

 チェーンソーで鉄は切れるのか。

 気になって調べた事があるんだけど木材を切るのに使われるチェーンソーでは金属を切ると刃を傷めてしまい、場合によっては一回で使い物にならなくなるみたい。

 でも金属に強いチェーンソー、ソーチェンであれば切る事ができるのだそうだ。

 要は刃が欠けなければ良いんだよね。

 多分…。

 魔法で作ってるから大丈夫だと思ってる。

 切れた石壁から順に倒れて凄い音をたてていたけど全部切り終えたようでアイスチェーンソーは止まり消えていく。

 すると先ほどまで静かだった魔術師達がわっと声を上げて喜んでいる。

 それに続いて他の騎士達も歓声を上げた。

 ネルア聖騎士団の人達はプリメラさん達の所へ行ってるみたいだ。

 注目されすぎて何となく居心地が悪くなってきた。


『私ちょっと居心地が悪くなってきたから逃げるね』


 PTチャットでそう言ってから魔術師の方達に屋上へ行って休憩する事を伝えて、私はその場を逃げるように後にした。


『そんなに騒がれてるのか?』


『何言ってるのか聞き取りづらかったけど凄いとか言ってた気がする…』


『まぁ普通に考えればかなり威力がたけえからな…』


『ユキちゃん、聖騎士団の人達引き取ってよー!』


『プリメラさんごめんなさい!』


 逃げると決めたのに待つ訳ない。

 氷人形に幻影被せて魔術師の方に預かって貰い逃げ出しますよっと。

 私は戻るという魔術師の人に隠して貰って訓練場を後にする。

 アエローちゃんも戻る魔術師と一緒にいた。

 多分言ってた風属性の魔法を研究してる人と話をするんだろう。


『闇菜ちゃん!アエローちゃん!』


『無理…』


『あ、私さっきの見に来ただけなので研究室に戻ってます』


『PTチャット聞いてるといかなくて良かったかもしれませんー』


『ほれ、サボってないで練習しような』


『ラギさんサボってないですー。休憩ですー』


『おう、休憩終了だ』


『スパルタ過ぎますー』


 訓練場を後にし建物に入ると魔術師の方達と分かれて移動する。

 賑やかなPTチャットを聞きながら階段を上がっていく。

 扉を開けて外に出るとさっきいた遠距離用の訓練場も上から見てみる。

 残った魔術師達は石壁を移動させて角の方で確認しているようだった。

 プリメラさんは白い鎧の方達に囲まれている。

 ごめんなさい、今度ネタグッズの製作手伝います。

 そう心の中で思いながら合掌する。

 リグさんは騎士達に混じってるみたい。

 闇菜さんも騎士の所へ行って話をしているようだ。

 しばらく眺めた後近接組がいる訓練場が見える位置に移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ