75
広間のテーブルにチームメンバーが全員揃っていた。
この後移動してネルア聖騎士団と島の騎士団の訓練に参加する為だ。
シキ姉さんは昼食などを作るだろうからそっちに参加させて貰えないか聞くそうだ。
無理なら訓練を眺めとくと言っていた。
みんなにちょっと早めに集まって貰ったのには理由があった。
私がゲーム内で二日前、現実では午前中に受け取った物が原因だ。
「それじゃあ、行く前にちょっと時間を貰って領主様のパーティーへ行く人を決めたいと思います」
何故こんな事になってしまったのかというと少し時間を遡る。
ギルドから帰ってきた私とルナは広間のテーブルにいるメンバーと合流して話をしていた。
そして私はギルドで受け取った物を思い出し招待状を取り出して見せた。
緊張しなくて良い、気楽に参加して問題ないと言われたので私は軽い気持ちでじゃーんと取りだした。
するとそれを見たとたんにルナの顔が引き攣った。
その場にいた他のメンバーは怪訝そうな表情になる。
私は開けてそれを取り出した。
かなり豪華に装飾がされている招待状だった。
そこに書かれた名前には公爵とあった。
「公爵ってどれくらい偉いんだっけ」
あまり詳しくなかったのでそう聞いた。
するとシュティが答えてくれる。
「漫画や小説でしか知りませんが爵位持ちの貴族では一番上だったと思います…」
「βと同じなら王国の第2王子で公爵ではなかったはずだが…」
ガイさんは公爵と聞いて記憶を辿るように言う。
え、もしかしたら王族だった可能性があるのかな?
それは気軽にいけないよね。
「確かあの王子って目付き悪いし言葉はきつい、すっごく偉そうな俺様だったわよねぇ…。私苦手だったわ」
ガイさんの言葉で思いだしたのプリメラさんが嫌そうな顔をする。
シュティとルナはピンときてなかったようだがラギさんが同意する。
「あのクソ王子な。依頼受けて言われたモノ持って行ったら、傷があるだの欠けてるだの文句言ったあげく依頼失敗にしやがったからな…」
当時のことを思い出したのかちょっとイラッとしたようにそう言った。
「アイテムに傷とかってあったんですか?」
「クソ王子の関わるイベント限定で品質が設定されてたらしい。ただ鑑定しても見れねえからクソイベって言われてたな」
今だと狩猟スキルで取ったとすると傷まみれだったとか欠けてたなんて事も良くある。
その代わり上手くやればドロップよりはるかに多くの素材がとれるんだよね。
確かに納品する物が傷物だったら言われても仕方ないとは思うけど、傷かあるかの確認ができないのはちょっと酷いね。
「同じ人なんですー?」
「どうなんだろう?クリストファー・ネレイアって書いてあるけど…」
「違うな。確かβの時にいた第2王子はパトリックだったはずだ」
「どんな奴かわからねえな」
確かに招待状だけじゃどんな相手かはわからない。
けど。
「世界樹のことを知っても隠そうとしてくれてる人だから良い人だと思う」
「それは良いけど招待状ユキちゃんの分以外にもう1枚あるわね。誰が行くの?」
「一応チーム内で立場がある人が良いよね」
私がそう言うとルナが反応する。
「そうなるとラギさんかシュティだね」
「私は絶対嫌です。異人が来るなら調も来ると思うので」
「えっと、調さん何かやったの?」
そう言うとシュティは視線を逸らした。
「アレか?イベントコス着てるシュティナさんが掲示板に載ってたことがあったが…」
ガイさんが思い出したようにそんな事を言うと視線がシュティに集まる。
シュティは渋い顔をしながら口を開く。
「イベントコスチュームが可愛くて手に入れたけど親しい人がいなかった私は調の所に自慢に行ってしまったんです」
「それでss撮られて拡散されたと…」
「無許可でやったんです。あの男は!」
そう言ってテーブルをバンバンと叩く。
ちょっと自慢するつもりが多くの人に知れ渡ったんだ。
シュティは良くも悪くも有名になってたみたいだから注目されちゃったんじゃないかな。
「理由を問いただすと自慢に来たって事は見て欲しかったのかと思って~、なんて言ったんです。そのせいで街を歩けば私の方を見てコソコソ話す人が多いし、馬鹿にしてくる輩もいてどれだけ恥ずかしい思いをしたか…!」
シュティ相手に正面から言う人は少なそうだから、裏で言われてたほうが多そうだよね。
直接言った人は無事で済んでない気がするけど突っ込まないでいよう。
「そういうわけでパーティーとなるとドレスを着て行くことになると思うので断固拒否します」
ホントに嫌そうに言うのでお願いしづらい。
そうなるとラギさんに…。
私がラギさんに視線を向けるとあからさまに顔をしかめる。
「言っちゃ悪いが。俺はぜってえ問題起こすぞ」
「ラギってばすぐ言い返すから依頼人相手でも揉めるものね…」
「ましてや貴族だろ?一部ではうちのチームって話題になってるから、絡んでくる可能性がたけえと思うぜ」
となると…。
他のメンバーに視線を向けていくがみんなあからさまに顔を背ける。
「お姉ちゃん…、行く人が誰もいなかったら私が行くよ!」
真っ先に避けてたルナが真剣な表情でそう言ってくれる。
最悪ルナにお願いすれば良いかなと思ってその話題は一旦やめた。
それが午前中の事だった。
その時いなかった人にも伝えて行きたいか聞いておこうと思って集まって貰った。
お昼から夕方までは私がログインしてなかった。
経緯の説明と書かれている日付を伝えて、もし希望者がいなかったらもルナと行くことを伝えた。
しかしその予定はアエローちゃんの一言でいきなり崩れることになる。
「ユキさん…、悪いんですけどルナは無理です」
「「え?」」
「リアルの方で用事があるんです…。ルナは後でメールちゃんと確認してね」
ど、どうしよう!?
ルナはメールを見てなかったようでアエローちゃんに聞いて確認しているようだ。
最悪私一人で行けば良いかな?
妖精だけで入れるかな…。
一度フリハウヤさんに相談してきた方が…。
オロオロと私がテンパってると見かねたのかシキ姉さんが助け船をだしてくれる。
「希望者が誰もいない時は私が行ってあげるわ。それよりもこのまま時間が過ぎると遅れるわよ?」
「あ、そうだね…。合同訓練に遅刻するわけにはいかないから街に行こうか」
私がそう言うとそれぞれ装備を調えて席を立つ。
午前中いなかった人達はパーティーに行くのは避けたいと申し訳なさそうに謝りに来た。
実際の所偉い人の所へ行くのって緊張するしみんなの気持ちもわかる。
なので無理してまで来て欲しいと思わない。
パーティーとなるとマナーのこともあると思うんだよね。
私飛んでても大丈夫なのかな。
うーん、よくわからないなぁ。
やっぱり一度相談に行こうかな?
転移装置で街へ移動すると兵営のある西地区に向かう。
兵営は西寄りではあるけど街の中心から近い位置にある。
これは森に続く北門と草原に出る東門、それに南側は海に面していて西側は海岸がある。
どこへ行くにもできるだけ同じ距離でと言うことらしい。
一応、四方には詰所が存在して交代で守衛もしているそうだ。
北門を通るときに会う兵士の方は北の詰所にいる守衛の方だったのかな。
兵営には広い訓練所があるそうでメンバーの一部はそこで行われている訓練に参加する予定だ。
普段訓練をしているのは主に島に駐留している王国騎士団だそうだ。
そこに領主の近衛騎士と異人のチームであるネルア聖騎士団が参加している形のようだ。
以前アベルさんが言っていた魔術師団と言うのは騎士団付きの魔術師達のことで所属は騎士団になるのだそう。
兵舎に隣接した場所に魔術師の研究室があるそうで、私はそこへ向かうことになっている。
私以外にはアエローちゃん、プリメラさん、闇菜さんが研究室の方へ行く。
ルナ、シュティ、ガイさん、ボルグさん、リグさんは騎士達との訓練に参加する予定だ。
ラギさんと光葉さんはネルア聖騎士団のヒーラーの所にお邪魔するみたいで事前に話はしてあるらしい。
スノウさんとシキ姉さんは兵舎の家事関連を見てきたいと言っていたがまだ未定。
2人の場合一番の目当ては衣類関係じゃないかなと思うけどね。
領主様の所へ出入りする人もいるみたいだし、どんな恰好をするのか気になるって言ってた。
兵営の入り口に到着する。
いざとなったときの避難所も兼ねているそうで高い外壁で囲われている。
門は頑丈そうな金属製の大扉だ。
私達が門の前で見上げていると扉が開いた。
中から出てきたのはアベルさんだ。
「お待ちしてました。と言っても我々のホームではありませんけどね。ご案内します」
そう言われ私達は門をくぐる。
敷地中は思っていた以上に広いがきちんと整備されていて迷うことはないようだ。
兵舎と思われる建物を通り過ぎてかなり大きな建物に入っていく。
中に入ってみると左右に廊下が続き、部屋がいくつもあって階段が見える。
アベルさんにここがどこか聞いてみると訓練所なのだそうだ。
屋上に上がれば訓練をしているところを安全に見れるそうで、立場のある人達が来たときはそこから見るみたい。
他の部屋の扉と違う大きな扉の先は通路になっていて進むと訓練場に出た。
入ってみるとスペースはかなり広く天井がなかった。
メギーアー女王様の所にある闘技場より広いんじゃないかと思う。
中にいた騎士達が一斉にこちらを見た。
その中の1人がこちらに歩いてくる。
「雪月風花の皆様、ようこそいらっしゃいました。王国騎士団ネルア支部の団長です」
そう言ってお辞儀をされたので、私達もお辞儀を返す。
騎士達と訓練をする予定の5人は案内よりも訓練と言う事でここで分かれることに。
シキ姉さんも聞きたいことがあったのか団長さんに話しかけている。
私達が来て一時中断した訓練はすでに再開されている。
武器は剣や槍が多いけど人によってバラバラで、鎖の先に鉄球の付いた物を持ってる人もいる。
防具は所属で違うみたいで騎士団、近衛騎士、ネルア聖騎士団のどこに所属しているかは防具でわかるようになってるみたい。
騎士団の鎧は銀色なのに対し近衛騎士の鎧は僅かに青っぽい感じでちょっとデザインも凝っていて格好いい気がする。
ネルア聖騎士団はと言うとアベルさんと同じ白い鎧でアニメか漫画で見た気がするデザインだ。
異人の人が作ってるのだろうからモチーフにしたのかもね。
シキ姉さんが団長さんと話を終えて戻ってくる。
「ユキ、許可を頂けたから私はスノウちゃんと家事を手伝ってくるわ」
そう言うと2人は騎士に案内されて訓練場を出て行った。
アベルさんに聞くと家事などは兵舎で働くメイドさんがいるそうでその方達に任せているそうだ。
家事をするだけでなく、いざとなったときは衛生兵として戦場に出ることもあるのだとか。
その為、騎士の方達はメイドさんに頭が上がらないらしい。
メインの治療は魔術師の使う魔法だけど魔力は有限なので優先順位をつけて治療する。
その時に薬などで優先順位の低い患者の治療に当たるのがメイド達なのだそうだ。
異人は兵舎では働いていないそうなので許可が下りたのは始めてだそうだ。
と言うより家事をしに来る人がいなかっただけみたいだけどね。
もしいるとすれば…。
戦うメイドやら執事のチームだろうか。
アベルさんに案内されて私達6人は救護室や会議室のような所を見て回る。
基本的に訓練所内部の部屋は同じような作りになっているそうで、訓練場から移動しやすい1階には保管庫や救護室があった。
2階は会議室や休憩所になっているそうで一部屋ずつ見せて貰った。
私達は階段を上がっていき屋上に出ると訓練場を見下ろす。
競技場の観客席をなくしてスペースを広く取り、屋上からのみ見れるようになってる感じかな?
あ、屋上から見るのは工場見学で見下ろすような感じかもしれない。
それはさておき、屋上には落ちないようにか高さ2メートルほどの柱が立てられていてネットが設置されている。
訓練所では訓練をしている人達が声を出してぶつかりあっている。
実戦形式の模擬戦をしているようだ。
その中で仲間の行方を探してみると、丁度ルナが王国騎士を相手に戦っているところだった。
女王様の所と違って刃引きしてあるから大けがにはなりにくい。
しかし当たり所が悪ければ相応の怪我をするだろうし、そもそも打撃武器の衝撃は変わらないんじゃないかと思う。
ルナは動き続けて攻撃を避け反撃をしているけど、相手の方はほとんど動いていない。
その為かしばらくすると息が上がってしまい武器を突き付けられて降参をした。
一瞬悔しそうにしていたけど、すぐに楽しそうな表情で移動していた。
順番待ちをしているみたいだけど、近くにいる騎士の方に話しかけていた。
シュティはまだ模擬戦をする気がないのか訓練場の隅で剣を振っていた。
時折首を傾げたりしつつも動きを修正しているのかな?
見渡して気づいたんだけどチームのメンバーは皆装備が統一されてないから目立っていた。
ガイさんとリグさんは積極的に空いている騎士に話しかけているようだ。
ボルグさんがこれから戦うと言うところでアベルさんから声がかかる。
「そろそろ次の場所へ行きましょうか」
気にはなるけど案内して貰っている途中なので移動する。
一階に戻り通路を進んでいくと違う建物へ行く廊下にでた。
廊下から外を見ていると先ほどいた練習場以外にもスペースがあるようだった。
私が見ているのが気になったのか他の人も外に視線を向ける。
アベルさんもそれに気づいたようで。
「あぁ、遠距離攻撃の訓練場ですね。的を魔法で作っているので動かすことも出来るんですよ」
遠くに的があるから気になってたけど遠距離用の訓練場みたいだ。
的の形は人型で土でできているようだ。
「リグのヤツはこっちも参加したがるだろうな」
ラギさんに言われて確かにそうかもと思った。
「なら後で教えてあげた方が良いですね」
「だな」
プリメラさんと闇菜さんは魔法を撃って人形を攻撃している様子を見ると。
「何か温く感じるわね」
「普段が…異常……」
「温いですか?」
2人の反応を見てアベルさんがそう聞いてくる。
「えぇ、だって動いてないもの」
「動いても…残像でてない……」
そう言いながらも2人の表情は楽しみという感じになってる。
普段やっている的当ては当てれないから鬱憤でも溜まってたのかな?
「2人は普段どんな訓練をしているのですか?」
気になったのかアベルさんが私に確認をしてきた。
「普段の2人はタイラントクイーンワスプのメギーアー女王様に当てる訓練をしてるんです」
「…それって蜂のボスですよね?」
「ですね、人みたいな外見で美人さんですよ」
私がそう言うとちょっとアベルさんの表情が引き攣っていた。
「危険じゃないんですか…?」
「一応2人は当てれてないので挑発されてムキになってバテてるらしいです」
「それは…。では、近接組は?」
「近接組だけではないですけど、タイラントクイーンワスプ・ガードと訓練で戦ってますよ。1PTvsガード一体が相手ですね」
「何というか…、かなりの訓練になりそうですね…」
「まぁ、普通に考えるとそうなんだけどな。技術的なモノが知りたかったんだとよ」
ラギさんがアベルさんに今回の訓練を希望した経緯を話し始めた。
その間も案内は続いて兵舎の空き部屋を見せて貰ったり食堂を回っていく。
「なるほど、タイラントクイーンワスプ・ガードはアーツのような技がない。女王様もそう言う技術は知らないと言われてシュティナさんが不満を持ったと…」
「訓練にはなるんだが技術を盗めないってのが理由みたいだな」
「蜂達は身体能力だけで圧倒できてしまうから技術が必要なかったのでしょうか?」
「あぁー、そんな感じかもな…。けどフェイントとかして来るから俺は人と変わらねえと思うがな」
多分メギーアー女王様の魔法を思い出したのかラギさんは肯定をしたけど付け足すように言った。
ラギさんとアベルさんの会話を聞きながら歩いて回ること数十分。
ようやく私達の目的の所についたみたいだ。
ラギさんと光葉さんは案内が終わってから訓練に参加するそうで一緒に来ていた。
扉に付けられているプレートには魔術研究室とある。
アベルさんがノックをして用件を伝えると鍵の開く音がする。
「失礼します。雪月風花のユキ様達をお連れしました」
「待っておったぞ!」「早く入れ入れ」「新たな技術ですね!」
扉が開くと元気な声が響く。
私達が部屋に入るとローブを着た人達に囲まれる。
「それでは私はこれで失礼します」
そう言ってアベルさんが逃げるようにサッと部屋を出る。
「あー、ユキさん。俺は聖騎士団の所で訓練に参加してくるわ」
「私も行ってきますー。失礼しましたー」
続いてラギさんと光葉さんも部屋を出て行った。
残された私達は自己紹介をする事なく魔法についての話を聞いたり質問をされることになった。
答えれることに答えていくが当然ながらゲームを始めてから2週間経っていない。
こっちの時間で2月経っていないので答えれることは多くない。
それに魔法の知識なんて習ったこともないのだから基礎も知らなかったりする。
「なるほどの、他の異人達と同じで魔法の知識はないのか…」
「知識がないからこそ我々が常識としていたことに囚われない魔法を生み出すのかもしれぬ」
私達の話を聞いて研究所の魔術師達はそんな風に話している。
そんな時ある魔術師の視線があるモノを見ているのに気づいた。
「その氷はどうやって作っているのですか?」
私が近くに浮かせている氷像だった。
「これは普通に氷生成で作りましたけど…」
「ふむ。手に取っても?」
魔術師さんが触れて良いか聞いてきたので頷く。
すると手に持ってマジマジと見ている。
手に乗せて私の方へ返してくれたので念力を使って浮かす。
「かなり高度な氷の魔法ですね」
「そうなんですか?」
私としては普段から周囲の温度を冷やすために使っていただけでそんなに意識していない。
あ、でも最初の時は緊張もあったし周囲を冷やすことを意識していたけどね。
「えぇ、氷生成で作ったと仰っていましたがこの形もですか?」
「はい」
「そうなると。氷を作る、周囲を冷やす、形の指定。それに…、溶けないのも生成時の効果に含まれるのでしょうか?」
「あ、溶けてないのは私の能力です」
「なるほど、では生成時に組み込まれているのはわかるだけでも3つですか」
魔術師さんがそう言うと他の方も氷像に注目していた。
「えっと、何かおかしいんですか…?」
「おかしくはないぞ。ただ凄いだけだ」
「我々が氷生成をしても氷の塊を作り出したことしかありませんので」
「形を変えるにしてもここまで細かくはできないねぇ…」
「普通に生成する氷より周囲を冷やしている。これは氷特化の彼女だからこそできる事で、簡単に真似できませんな」
予想してなかったところで凄く絶賛されてて居心地が悪く感じる。
なので一緒に来たメンバーの様子を見るように視線を動かす。
プリメラさんと闇菜さんは早々に許可を貰って部屋にある本を読んでいた。
PTチャットで2人がどんなのがあったとか盛り上がっている。
ここに来るときにPTは近接組、魔法組、シキ姉さんとスノウさんの3つに別れていた。
2人の会話を聞いたラギさんと光葉さんがこんなのがあったら教えてと伝えてくる。
アエローちゃんは風属性魔法を専門に研究している魔術師さんと話しているようだ。
「ユキさんは魔法陣をご存じですか?」
「はい。魔道具を作ったりしていますので…」
そう言うと詳しく聞かれてしまい話していく。
私が使える魔法の魔法陣を作れると知ると、今浮かせている氷像の魔法陣を教えて欲しいと言われる。
隠すような魔法でもないと思うし頷いて用意された羊皮紙に写していく。
するとそれを見た魔術師の方達はまた盛り上がっている。
話を聞いてみると住人と異人で魔法の使い方が違うのだそうだ。
住人は魔法陣に使われている文字を理解して詠唱しトリガーとなる呪文を唱え発動しているのに対して。
異人は詠唱を無意識に行いイメージしたことをトリガーとなる呪文を唱えて発動しているそうだ。
確かに私も魔法を使う時に詠唱をしているけど、勝手に口が動いてるのを気にした事なかった。
なので今まで異人にどんな魔法か聞いてもよくわからずに真似することができなかったのだとか。
それが魔法陣を教えて貰うことで文字がわかったので、どんな魔法なのか理解できたのだという。
魔法陣がわかる異人がいなかったから詰まっていた異人達の魔法を使う第一歩になったそうだ。
それからは私が使える魔法の魔法陣を教えていった。
そして知りたがっていたという2アクションスペルの魔法陣を見せる。
「なんだこれは…」
「かなりの数使われてる文字がわからないねぇ」
「これは異人達が使う文字なのですか?」
そう聞かれて首を横に振る。
私が教えた魔法陣はこっちの世界の文字を使った魔法陣だ。
なので私はどの文字がどんな意味かわからない。
魔術師達がわからないのを私が教えることはできなかった。
「とりあえずこれは保留だな。教えて貰った魔法陣を見てわかったのは魔法の制作者を示す文字があることだ」
「専用…、と言うわけではないのでしょうが異人の数だけ魔法に種類があると言うことですか」
「ですが、これで傾向がわかりましたね。この制作者の部分を汎用に変更することができれば、我々でも使うことができそうです」
「こっちも聞いたイメージと文字を見比べてある程度の予想も立てれるようになったねぇ」
私には詳しくはわからないけど研究が進みそうなんだろうと言う事はわかる。
私は魔術師さん達に魔法陣や魔法の講義を受けながら午前中は過ごした。
お昼になりご飯を食べに行くという魔術師達と一緒に私達は食堂へ向かうのだった。




