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ログアウトして寝る前にやる事をやって寝た翌日。
朝食のために家族3人揃っていた。
挨拶をしてテーブルにあるそれを見る。
「昨日は久しぶりで目移りして3枚も頼んじゃったけどやっぱり多すぎたわね」
「だね~。私は朝からピザでも嬉しいけど」
母さんと那月がそう言うが皿に移されたピザの残りは1枚分あった。
それといつもの様にサラダとインスタントのクラムチャウダーだ。
朝からピザはちょっと重い気がしたけど私も手を伸ばした。
朝食を食べ終えて少し休んでいると。
「あら、那月アンタ昼からちょっと付き合いなさい」
「えー、どっか行くの?」
「ふふん、秘密よ」
楽しそうに母さんがそう言うと訝しげにしながらも那月は頷いていた。
その時つけてあったテレビにニュースが映る。
そこには品切れになっていた機器が入荷すると言う事でそれを求めて凄く沢山の人が並んでいるというニュースだった。
それを見た那月は母さんの方を見る。
私も釣られて母さんを見ると苦笑している母さんがいた。
秘密にしていたかったのがバレて思わずといった感じかな。
「まぁ、そういう事ね」
「やったー!」
嬉しそうな那月に思わず私も笑みがこぼれる。
「あれ、でもお母さん並んだりしてないよね?」
「えぇ、持つべきモノはコネよね」
「うわっ、ずるい。コレが大人のやり方か…」
「そう言う事言うわけ?」
「あ、ごめんなさい。嘘です、嘘!」
「まったく」
そんなやり取りをしているけど2人とも楽しそうに見える。
楽しみにしていたのは間違いないだろうしね。
母さんが言うには午後にならないと届かないらしいから、午前中はいつもみたいにゲームで遊ぶ事にした。
部屋に戻りベッドで2人横になってゲームを起動させた。
ログインしてゆっくりと目を開く。
視界にはシュティの顔がアップでうつった。
「きゃっ」
「すみません。妖精さんの寝顔が可愛くて見てたんです」
驚いて声を上げた私に離れて距離を取ったシュティがそう言った。
それでようやく現状を理解した。
「びっくりしたよ…。おはよう」
「おはようございます」
「シュティおはよう」
シュティの後ろには笑顔のルナが立っていた。
「ルナもおはようございます」
シュティは挨拶をすると、ルナを引っ張って行き何かを話している。
話の内容は気になるけど私は伸びをして氷像を浮かせると飛び上がる。
『おはよう』
PTチャットで挨拶をする。
『おはようございます』『『おはー』』『おはよう…そしておやすみなさい……』
『え、おやすみ?』
『おやすみなさい』『おやすみー』
闇菜さんがインしてたから朝起きてインしたのかと思って挨拶をしたんだけど…。
『闇菜さんはリアルで朝の4時前からやってたみたいで、ゲーム内で眠くなってたのもあると思いますがリアルで朝食なのではないかと』
先にログインして話をしてたのかシュティがそう教えてくれた。
『朝の4時前って早起きなんだねー』
『ゲームばっかりやってて昼夜逆転してるみたいですね』
『あー、私にもそんな時期がありました…。学校始まると辛いんだよね…』
『ですね…』
2人とも身に覚えがある事だったみたいで共感していた。
今は私と一緒が良いようでルナも夜ずっとやる事はないけどね。
「闇菜さんもいないのでPTじゃなくても良いですね」
「ファエリはいいの?」
「今日は他の子達と外回りだそうです」
この拠点で外回りというのは迷いの森での悪戯の事を指す。
頻繁にではないけど入ってくるプレイヤーがいるそうで悪戯をしかけて迷わせて追い返すのだそうだ。
ちなみに妖精を連れていてもうちの迷いの森は道がわからないそうで、プレイヤー間では拠点があると噂になってるそうだ。
「それで2人は今日どうするんですか?」
「メギーアー女王様のところに行く予定だよ」
「腕試しですか?」
「ううん、指名依頼だけど…。腕試しもできるんだっけ」
「そうですね。遠距離だと女王様自ら相手になってくれますがその分ハードですね」
「そうなんだ?」
「えぇ、アドバイスをくれるんですけど魔法の調整は中々難しいですね」
「そっか。とりあえず広間行こうか」
私がそう言うと2人は部屋を出る。
それに続いて飛んでいく。
広間に向かう間ルナは昨日の事をシュティに話していた。
「そんな事があったんですね。現状少しでも妖精さんが強化されたのは大きいと思いますよ」
「そだね~」
交換して貰った物のうちアクセサリーの2つは装備している。
LUKのステータスをあげるアイテムは少ないそうで4でも馬鹿にできないと予想されてるとか。
まだLUKがどう影響するかわかってないのが予想の理由らしい。
「シュティの方はどうだったの?」
「楽しかったですよ。殆ど私が話してばかりでしたけど」
「えー、変な事言ってないよね?」
「大丈夫です。変な事は言ってませんよ」
そんな話をしながら歩いて行き、広間に到着する。
テーブルの所にいたのはプリメラさんだけだった。
朝食を食べてるところみたいでモグモグと口を動かしていた。
「おはよう、3人は早いのねー」
「「おはようございます」」「おはー」
「私とルナはさっきログインしたばかりです」
プリメラさんに挨拶を返して席に着く。
私達はそれぞれアイテムボックスから買っておいた料理を取り出していく。
「何食べてるんですか?」
プリメラさんが食べてるのが気になって聞いてみる。
「見ての通りピザパンよ。って言っても街に行って買ってきたパンに具材を乗せて窯で焼いてきただけだけどね」
「そういえば窯できてるんだっけ」
「火の調整は妖精の子が手伝ってくれたから助かったわ」
「妖精万能説」
プリメラさんに言われてルナが思い出したように言う。
火力は妖精が調整してくれるのは便利そうだと思う。
ルナの言う通りちょっと妖精が万能な気がするけど妖精が1人だとやれる事はそんなに多くないみたいだし万能って程じゃない気がした。
「ご飯食べたらユキちゃん達はどうするの?」
「指名依頼でメギーアー女王様の所に用事があるので、ついでに腕試しでもしてみようかなと」
「指名依頼ってどんなの?」
「森に道を作って良いか聞きに行くんです」
「へぇー、道を作るのね。腕試しってガードともやってみるのかしら?」
「私はやってみたいと思うんですけど4人いるんですよね?」
「そうね。やるなら私も行くわ」
勝手に決めちゃったのでシュティとルナを見ると2人も楽しみなようで頷いていた。
「じゃぁ、午前中はメギーアー女王様の所で午後から報告かな。その後は解散して各自やりたい事やろうか」
3人が頷いたのを確認して食べかけの料理に集中した。
食事が済んだら拠点の外に出て虫エリア側の出入り口へ向かう。
最初は小さな畑だったのが今はイベントの報酬のおかげで種類も増えて規模が大きくなっていた。
シュティが招いてアドバイスを貰ってたプレイヤーの方はチームを作って自分たちの畑を持って忙しいそうだ。
畑で野菜も取れてる、お肉も手に入れたのが余ってて調味料も試作だけど分けて貰った。
午後からは調理場の改装本格的にしようかな。
そんな事を考えながら拠点を出て森を進む。
マップで道もわかっているし慣れたように進んでいく。
ドーム状の巨大な巣に到着する。
見張りなのか立ってるスレイブワスプに挨拶をして中に入る。
このスレイブワスプだけど蜂系統を倒していると襲ってくるらしい。
と言っても戦闘になるとしたらスピアハニービーだとは思うけどね。
私達は中に入ると真っ直ぐ高い位置にあるメギーアー女王様の所へ向かう。
「良く来たな。して、今日は何用じゃ?」
「ここへ来たいという異人達が多くいるそうで森に道を作って良いかの確認をしに来たんです」
「ふむ…。森の木々を切らぬなら構わぬ。しかし娘の巣からは離せ」
「では道自体は許して頂けると?」
「街の方からだと娘の巣が近いのでな。目的が妾なら道があった方が安全であろう」
道は問題無さそうだ。
えっと、登山道みたいに必要最小限の整備なら良いんだよね。
これに関しては後で妖精達に手伝って貰えれば簡単な道は作れるかな?
「他に何かあるか?」
そう言う女王様の目は何かを狙っている様な感じだろうか。
「訓練お願いしまーす」
「ふむ、貢ぎ物は?」
明らかに期待してる様子でそんな事を言う女王様。
「じゃあ、これを」
私はそう言ってアイテムボックスからこの前狩猟したディフェンシブイベリコのお肉だ。
大きかっただけに量が一番多いのだ。
「ほう?これはこれは。有り難く頂戴しよう。まずはユキがどれ程やるか見てみようか。ついてまいれ」
そう言って闘技場のような所へ降りていくメギーアー女王様についていく。
中央辺りで向かい合う。
「妾は攻撃はせぬので存分に攻撃してくるがよい。開始の合図は覚えておるな?」
そう言われて頷く。
合図はガードが魔力の光を消していき全部消えたら開始だ。
私は魔法の設定を変更していく。
以前言ってた話だと女王様は攻撃なしでスキルを使って避けたりしないのが初級だったはず。
それなら必要なのは火力じゃなくて範囲かな?
幾つか設定を変えてから準備が完了した。
「もう良いのか?」
聞かれたので頷く。
女王様が手を上げるとガードが魔力の光りを3つ灯す。
1つずつ消えていく。
2…
1…
0!
私は詠唱を開始する。
女王様は様子を見ているようで動く気配はない。
「《ブリザード》!」
「むっ!?」
範囲を広げ効果時間を長めに調整した行動阻害の魔法を展開する。
攻撃が来ると思っていたのか女王様は範囲にいたため動きが少しぎこちなくなった。
効果時間を長めにしてあるため魔法が消える前に次の手を打つ。
「《アイスショット》」
これは氷属性魔法と風属性魔法で組んでみた。
前に妖精達やラギさん、プリメラさんに氷の粒を飛ばしたのをきちんと組み直したモノだ。
以前のは氷生成で氷の粒を作って風生成で飛ばしたから攻撃魔法ではなかった。
しかし、これは攻撃魔法として組み直し範囲に特化させた当てるためだけの魔法だ。
魔力の消費量で粒が増える調整なので大量に飛んでいく。
動きが鈍ってる女王様は躱したりはたき落としている。
だが数が多く鈍っている状態で当たる氷の粒を全て防ぐ事はできなかったようで一粒二粒と当たっていく。
「むぅ、予想外にやるな。ユキよ」
「ありがとうございました」
私は礼をしてみんなのとこに一度戻ろうとする。
「どこへ行く?このままもう一度じゃ。次は上級じゃな」
「えっと…、それはどんな感じですか…?」
プリメラさんは初級は何とか達成できたけど中級で苦戦してると言っていた。
理由はスキルによる高速移動と魔法による防御を行ってくるのだそうだ。
さらには武器を手にしていて攻撃魔法も武器で切り裂いてしまったとか何とか。
私もそんなのクリアできる気がしないのに上級だという。
「スキルに魔法も使う。それと妾からも攻撃するだけじゃ」
「攻撃って!当たったら無事で済まない気がするから却下で」
「安心せよ。拘束系の魔法だけじゃ」
「うっ、わかりました…」
目付きが怖くて断れそうになかったので頷く。
回復しておきたかったし準備に時間を貰ってからもう一戦だ。
私の様子を見て女王様が合図をするとガードが光りを灯す。
3…
2…
1…
0!
「《氷生成》!」
さっき使ったブリザードは有効だろうけど溜めにちょっとかかる。
なので女王様から攻撃が来るとなると使えないだろうと予想を立てた。
なのでまずは攻撃が来ても防げるように対策をとる。
壁生成でないのは拘束系なら壊される事は無いと考えたからだ。
ズドン…。
作ってすぐに凄い音がした。
拘束魔法が当たる音じゃなかった気がするんだけど。
「おぉ、すまぬな。つい手が滑って攻撃魔法を放ってしまったわ」
そう女王様の声が聞こえた。
アレだ。
多分さっきのやられ方が気にくわなくて大人げなくちょっと本気になってるんだ。
そんな事を考えていると今視界に何かが…。
咄嗟に氷生成で氷柱を立てていた。
ズドン…。
「ほうほう、今のも防ぐか…。楽しくなってきたのう!」
私は楽しくないー!
言葉にする余裕もなくて次から次に氷柱を立てて攻撃を防いでいく。
何もなかった闘技場は氷の柱だらけになっていく。
「ユキよ、逃げてばかりでは終わらぬぞ!」
そう言ってまた魔法が飛んでくる。
それは先ほどまでのと違い…。
氷の柱を切り裂いて私の頭上を通っていった。
ズズズ…と氷の柱は上の方がずれて落ちていく。
アレ当たったら絶対死ぬよね…。
一層激しくなった攻撃を避けながらどうすれば良いか必死に考える。
すでに念力は使わずに氷の柱を立てつつ飛び回っている。
一か八かに賭けて思いついた策を実行する事にした。
それは…。
「《閃光》!」
ただ強い光を放つだけの魔法。
それで一瞬でも怯めばと思って実行した。
効果はあったみたいで見失ったのかキョロキョロとしている。
「《氷生成》《イリュージョンベール》!」
氷生成で私と同サイズの氷の塊を複数作る。
それにイリュージョンベールで私の幻影を被せた。
作り出した私のダミーを念力で飛ばしていく。
特定の動きしかさせる事ができないけどそれに混じって私も飛んでいく。
「面白い、な!」
そう言いながら魔法を飛ばしてくる女王様。
ダミーの一つに当たり砕けた。
イヤイヤイヤ、砕けるっておかしくないですかね!
そう思いながらも上空にあるモノを作り出す。
「《光生成》」
ただの光源だ。
これが必要だった理由は…。
詠唱速度と拘束力を調整してある魔法。
「《チェーンバインド》!」
「そこか!」
影から沢山の氷の鎖が現れ女王様に巻き付いていく。
両手両足身体にも巻き付き動きを封じていくが…。
チェーンバインドが女王様を拘束する前に私は風の魔法で拘束されていた。
「ふふん、妾の勝ちじゃな」
「嘘つきで大人げないですね」
「妾がルールじゃ」
「しばらくケーキ用意しません」
「なんじゃとー!?」
ずっと怖くて緊張してたのもあって涙目でそういうのが精一杯だった。
それからみんなのとこに戻って休憩を取った。
流石に緊張状態が続いてたからまいっちゃったんだよね…。
休憩してからガードに挑戦したんだけど、何故かガードまで私を集中的に狙ってくるせいで何もできなかったよ…。
ガードとの戦闘は女王様が特殊なフィールドを形成してくれていたからやられても死なずに闘技場から追い出されるだけになってた。
何でも闘技場の機能だそうで使ってると動けないのだそう。
1戦ガードとやって疲れた私はそれからは休憩していた。
私が休憩してる間に3人も訓練してたんだけど、順番に必ず誰かが一緒にいてくれてなかったら多分泣いてたと思う。
と言うわけでしばらくメギーアー女王様にはケーキ禁止令をチームに出そうと思いました。
お昼近くになって冒険者ギルドに報告するためホームに帰る事にした。




