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いつもいつも誤字脱字の報告ありがとうございます。

 ログアウトした私とシュティは楓さんが運んできてくれたお茶を飲みながらすごしてしていた。

 様子を見に行った楓さんによると那月はまだぐっすりと寝ているらしい。

 今回の事でゲームでも睡眠が取れるからーってのは当てにならない事がわかったよね。

 よく考えればゲームで8時間寝ても実際には2時間だもん。

 ちょっとやる分には良いだろうけど睡眠時間を削ってゲーム内で過ごすのはなしだね。

 今は蓮花ちゃんに付き合って貰って身体を動かしている。

 どうしても外を出歩かない私は身体を動かしておきたいと思う様になっていた。

 コレばかりは住んでるところにもちょっと問題があった。

 4階建ての賃貸のマンションでエレベーターがないのだ。

 戻ってきたときは…。

 あー、うん。

 運んで貰ったんだよね。

 何にしても車椅子で移動するにも階段が上り下りできないから家にいるしかないというのもある。

 そうやって過ごしていると食事ができたようで呼ばれる。

 母さんは那月に食事をどうするか聞きに行ったみたいだ。

 しばらく待ってると母さんと一緒に唇を尖らせている那月が来た。

 表情だけでも不満そうにしてるのが見て取れた。

 私達がおはようと挨拶をするとプイッと顔を背けてしまった。

 完全にご機嫌斜めだった。

 食事を始めても気まずい沈黙が続く。


「那月、どうしたら機嫌直してくれる?」


「夜、一緒に寝て」


 どうやら昨日の事も根に持っているようだった。

 それぐらいで機嫌を直してくれるなら良いかと思って頷こうと思ったら。


「ダメよ。喧嘩するといけないから蓮花ちゃんがいる間は私が雪菜と寝るわ」


 そう母さんが言った。

 那月の方を見ると完全に頭にきてるみたいで目が据わっていた。

 母さんは面白そうにしているし、また発言させると油を注ぐ事態にしかねない。

 とりあえず那月の機嫌を直すのが優先だろうと思った。


「那月、あーん」


 私がそう言うと那月は器用に母さんを睨むのと私を見るのを繰り返す。

 母さんを睨んで唸った後、私が出したクロックムッシュを私の指ごと咥えた。

 今日は珍しくご飯や麺ではなくてパンだよ。

 クロックムッシュとサラダにポタージュスープだった。

 ちなみに差し出したクロックムッシュは2枚の食パンで一人分を作ってあり4分割してあった内の一切れだ。

 私の指を咥えてハムハムしている那月をスルーして聞いて見る。


「今日のメニューは母さんにしては珍しいね」


「あー、そうね。今日は楓さんが殆どやってくれたのよねー」


 そう言われてなるほどと思った。

 那月の口から指を抜いて拭く。

 結果として那月の機嫌が直ったなら良いかなと思ってると。


「雪菜さんどうぞ」


 何故か蓮花ちゃんからクロックムッシュが差し出される。

 それに対抗してだろう。


「お姉ちゃん、あーん」


 那月からも差し出された。

 それを見た母さんはニヤニヤとしている。


「食べ物で遊ばないでください」


 楓さんにそう言われた2人は大人しく従って自分で食べていた。

 私はちょっと頭を下げて礼をしておいた。

 食べ終わって部屋に戻ってから2人が素直に従った理由を話してくれた。


「楓は大人しそうに見えて過激なところがあるんです」


「昨日のチョップで手が早いのはわかってた…。しかも痛かった…」


 やっぱり昨日のは痛かったみたいで那月は遠くを見つめていた。

 蓮花ちゃんが言う過激がどれくらいかわからないから首を傾げると。


「そうですね。楓は護衛も兼ねている武闘派なんです」


 言ってる事はわかったけど納得はできなかった。

 だってメイドって家庭内労働を行う女性の使用人ってネットで調べても出るんだよ。

 他にあるイメージは恭助が以前言ってたメイド喫茶ぐらいかな。

 それなのに護衛で武闘派と言われても想像がつかなかった。


「まるでアニメやゲームだよね。戦うメイドさん!」


 那月はそれを聞いて楽しそうにしていた。

 とりあえず深く考えない事にした。

 午前中に那月が寝ている間、何をしてたか伝える。

 それを聞いた那月は考えた末。


「掃除なら参加しなくてもよかったかな…」


 そう言って頷いていた。

 私も掃除するつもりじゃなかったんだけどなぁ…。

 今更言っても仕方がないけどね。

 お茶を飲みつつゆっくりと過ごす。

 那月と蓮花ちゃんは掲示板を見たりしてるみたいだ。


「そういえば朝言ってた遺跡の奥の敵って光になるの?」


 私がそう言うと2人は顔を上げて私の方を見る。


「そうですね。アイアンゴーレムには会ってませんけど土と岩は光になりましたね」


「ドロップが粘土と岩石で使い道はありそうだけど…、武器の事考えると金属の方が欲しいんだよねー」


 そう言う2人に私はある光景が浮かんだので聞いてみた。


「イビルトレントみたいに伐採つけて倒すと丸っと残ったら良いのにねー」


 私が思いついた事を口にする。

 すると2人は顔を見合わせると端末を操作していく。


「蓮花、情報あった?」


「ないです。そもそも採取系のスキルを持ったまま戦う人がいないんじゃないでしょうか?」


「あー、それはあるかも」


 那月は私の方を見ながら蓮花ちゃんの言葉に頷いている。

 そういえば昨日は2人共ゲームのキャラ名で呼び合ってたのが今は名前で呼んでいる。

 仲良くなったのかと思うとちょっと嬉しくなった。

 私がほんわかとお茶を飲んでいる間にも忙しそうにしている2人。


「今遺跡に潜ってそうな人にメールを送りました。報告は掲示板へと伝えたのでその内結果が上がってくるかと」


「きたきた。おぉ、上手くいったって。でも掲示板では信じられてないから馬鹿にされてるねー」


「なるほど、一度ギルドに戻ってもらって雪菜さんからの情報としてルガードさんに報告して貰いましょう」


 掲示板を見たりメールをしてるけどそわそわしている2人。

 時折私の方をちらっと見てくる。

 2人とも早くログインしたいのかと気づいて苦笑する。

 言ってくれれば良いのにと思いつつも、普段から時間を決めてやってるのを知ってるから言い辛かったんだろう。

 いつもログインしてる13時までは20分ほどあった。


「今日はちょっと早いけどログインする?」


「良いのですか?」


 蓮花ちゃんの問いに頷くと2人は顔を見合わせる。


「私お母さんに言ってくる!」


「機器の準備しておきます」


 ドタバタとリビングの方に行く那月。

 蓮花ちゃんは那月の機器をベッドの奥に用意して布団を敷き始める。


「今日はベッドの上じゃ無くて良いの?」


「ギリギリまでインしていたいと思ってしまうかもしれないので。雪菜さんが早くやめてもコレなら楓を呼べば問題ないと思います」


 そう言って布団の上で機器を着けていく。

 那月は戻ってくると蓮花ちゃんが離れているのに疑問が浮かんだみたい。

 けどすぐに察したのか納得した様子で私に抱きついてからベッドの奥に移動した。


「那月ずるいです」


「2人で朝やってたんだからこれぐらい良いでしょ」


 そう言われて蓮花ちゃんは言うのをやめた。


「お姉ちゃん、蓮花、ゲームで!」


 そう言うと那月はもうログインしたみたいだ。


「雪菜さん、私も先にインしてますね」


 私はまだ機器を着けずにベッドに座っていた。

 なので先にログインする事にしたみたい。

 今ログインすると朝の3時前なんだよねー。

 私がそう思ってると楓さんが部屋に入ってきた。


「御茶をお下げしようと思ったのですが…」


 部屋に来た用件を言うと、どうするか迷ってるようだった。

 ログインする前に飲み過ぎても困るかも、そう思って下げて貰った。

 しばらく携帯を見てメールを返信したりする。

 初詣のお誘いも来ていたけど、人混みの中を車椅子で行く勇気が私にはまだなかった。

 なので申し訳なかったけど断りのメールを返した。

 私は携帯でネットを使って調べたりしないからゲームの端末を利用する。

 正直コレがあれば十分そうに思える。

 そういえばと思って試しに掲示板を開いてみる。

 那月達が見てたのはどれかなー、と見ていると遺跡攻略と書かれてるのがあった。

 開くと私への感謝やら尊敬のような書き込みが並んでいる異様な状態だった。

 理由を探してみると簡単に見つかった。

 アイアンゴーレムが丸っと残ったという情報。

 最初は馬鹿にするような書き込みが多かったがあるときから一変する。

 ドロップアイテムの時は普通の鉄だったのに、ギルドに持ち込まれたそれは魔鉄だったというもの。

 それが意味するのは島における資源不足の解消。

 何故ならアイアンゴーレムはどこかでリポップするモンスターだと言う事だ。

 掘れば資源がなくなる鉱山とは違って、沸きの限界がなければ無限に採れるのだ。

 予想もしてなかった事態に冒険者ギルドも大騒ぎになってるそうだ。

 切っ掛けが私の情報と言う事になっている中で那月と蓮花ちゃんと思われる書き込みを見つけた。

 大量に置かれたイビルトレントだった木材の写真だけじゃなくて動画がアップロードしてあった。

 動画を見てみると私が消費MPの確認の為に那月とイビルトレントと連戦してたときのだ。

 そういえばあの時、那月に言われて伐採を一度だけ外した事があった。

 その結果は一撃で倒す事はできず、《アイスチェーンソー》は表面でガリガリとイビルトレントのHPをを削るだけになったのだ。

 ちょっと面倒な思いをして倒した結果、イビルトレントが光になって消えてしまったのだ。

 木材の入手も兼ねてたのでがっかりしている私が映っていた。

 編集はしてあるようで私達がイビルトレントと2戦したところで動画は終わっていた。

 私はそれを見て隣で眠るようにゲームをしている那月を恨めしく見る。

 そんな思いをしながらも仕方ないかなーっとも思って機器を着け準備をしていく。

 時計を見ると13時ちょっと過ぎたところだった。

 私はゲームを立ち上げログインした。





 目を覚ましたのはいつものベッド。

 いずれは部屋を増やして個室を作った方が良いだろうとは思う。

 起き上がって周りを見るけど部屋には誰もいないようだった。

 PTは遺跡に潜ったときに帰り一緒だったメンバーだ。

 ルナ、シュティ、プリメラさん、スノウさんに私を含めた5人。


『おはようございます』


 そうPTチャットで挨拶をすると。


『『おはー』』『『おはようございます』』『ユキちゃんおはよう』


 皆が挨拶を返してくれる。


『ユキちゃんしばらくギルドは避けた方が良いかも…』


 苦笑するようにプリメラさんが言ってくる。


『あはは…。やり過ぎちゃったかも……』


『ユキさんごめんなさい…』


 気まずそうなルナとシュティ。


『掲示板見たから何となくわかってるよ』


 そう言って拠点の噴水がある広場の方に向かう。

 テーブルにはラギさんとプリメラさんがいた。


「よう、メールが鳴り止まねぇ…。助けてくれ……」


「おはようございます。頑張って…」


 机に突っ伏しながらそんな事を言うラギさんに私は応援する事しかできなかった。

 メールを見ると私の方に来ているのは2件。

 光葉さんと闇菜さんだった。

 チームの件できるならお願いしたいですと書かれていた。

 私は2人に落ち着いたら会いに行きますと返事を返しておいた。

 連れてきて貰えば良いと思うんだけど、今はのんびりしたかった。

 プリメラさんとラギさんに木の上に行ってくると伝える。


「おぅ…」


「行ってらっしゃい。のんびりしておいでー」


 とぐったりとしているラギさんと笑顔でラギさんを突いているプリメラさんに送り出された。

 妖精達が遊んでるイビルトレントの木材で作った扉を通って外に出る。

 世界樹に添って上を目指して飛ぶ。

 速度はでないけど風が気持ちよく感じた。

 高いところまで来て枝の一つに腰掛けて街の方を見る。

 早朝の薄暗い中で街には光が灯っており、光に照らされながら動いているのが人なんだろう。

 沢山の人がいて忙しそうに動いているのをぼんやりと眺める。

 そうしているとゆっくりと日が昇っていく。

 その景色に思わず目を奪われた。

 スノウさんの撮った写真で見た事があったけど実際に目にするとやっぱり違う。

 腰掛けてから思いついたように撮り始めた動画は今も止めていない。


「きれい…」


 そう思って太陽の方へ手をかざす。

 こうやってゲームでのんびりするのは初めてだなと思った。

 脚をぶらぶらとさせながら風に当たって過ごしている。

 しかし忘れていたのだ。

 私は人より暑さに弱かった事を。

 スノウさんとはダメージの条件が違うと言う事を。

 日の光を浴び続けて暖まっていたことを。

 突然視界が真っ暗になって気づくと拠点の噴水に戻ってきていた。


「あら、ユキちゃんお帰り。転移でもしてきたの?」


「いえ、日光を浴びすぎたみたいで暑くなって…。録画切っておかないと…」


 私がそう言うとラギさんとプリメラさんは顔を見合わせ肩をふるわせる。

 そして声を上げて笑い出した。


「そんなに笑わなくても良いじゃないですか!」


「いや、ククク…悪かったな……ぷっ」


「あははは…」


 プリメラさんはお腹を押さえながら笑っている。

 笑う2人を睨むように見ている。

 そうしているとルナやシュティ達も帰ってきたみたいだった。

 のんびりと歩いてくる恰好は鎧などを着けていない私服みたいな恰好だ。

 スノウさんのお手製ができたみたいだ。

 ラギさんとプリメラさんの様子を訝しげに見つつ屋台で買ってきたモノをテーブルに広げていく。

 それから私達はワイワイと話をしながら朝食をとるのだった。

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