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ぉー、凄い勢いで景色が流れていく。
小さいからか周りが凄い迫力に見えるんだよね。
ルナが走ってる道は人通りは多いが結構な幅があり端にいくほどのんびり歩いてる人が多い。
道自体はコンクリート等ではないが石などは取り除いて固められているようだ。
もしかしたら魔法で整備とかしてるのかもしれないと思うとちょっとワクワクするね。
保冷バッグは膝立ちをしても顔が出る高さ。
縦は妖精の私が片手を広げたぐらいで横は寝ても余裕があるぐらいかな。
一応落ちないように縁を掴んで持っておく。
それにしても走ると揺れるね。
保冷バッグが。
さっきちらっと見たけど盛ってあってもそこまではないようだった。
私を気にしてくれてるみたいで保冷バッグを持って揺れにくいようにしてくれてる。
ごめんね、お姉ちゃんは酷い事を考えてたよ。
人通りの多い道を走っていたけど途中で曲がるといろんなお店が並んだ落ち着いた感じの通りに出た。
ルナが立ち止まったお店は酒場だった。
「ここはクエストも受けれて食事も安くて量があるのに美味しいんだよ」
変わってなければね、っと呟きながら店に入る。
ルナが辺りを見回すとテーブルの一つに座っていた女性が立ち上がり手を振っていた。
手を振り替えしてそちらへ向かう。
待ち合わせ相手のようだ。
テーブルには三人の男性と一人の女性が四人が座っていた。
「ゴメン、遅れましたー」
「思ったより時間掛かったな」「おかえりー」「おせーぞ!」
四人ともヒューマンのようだ。
最初にルナに答えた方は茶髪で落ち着いた感じの男性。
茶色っぽい革の鎧みたいなのをつけた長袖長ズボンという恰好でメンバーのまとめ役かな?
次に返事をしたのは黒髪を後ろで纏めてポニーテイルにしている明るそうな女性。
ファンタジー世界では珍しい気がする和服だけど似合ってる!
ルナに文句を言っていたのが金髪ショートでウルフヘアの男性。
ちょっと目つきが悪いし威圧的な感じでパンクの恰好が怖いかも。
もう一人は目を瞑って腕を組んでいる大柄で筋肉が凄い男性。
ツーブロックの髪型で見た目は結構ワイルドな感じで挨拶は手を上げただけで言葉にはしてないけど物静かな人なのかな。
ルナはこの人達とパーティーを組むみたい。
「それで姉とは合流できたのか?」
「もち、ちょっと予定外な事があって時間掛かっちゃったけどね」
「どこにいるの?美人だって言ってたから期待してるのよ?」
「おいおい。まさか置いてきたのか?」
ルナは私が入った保冷バッグをテーブルに置く。
四人の視線が私に向く。
挨拶した方が良いよね。
「ルナの姉でユキという名前でプレイしています。初心者ですがよろしくお願いします」
立ってお辞儀をする。
えっと、私を見たまま固まってる?
「か…可愛い!これがお姉さん?種族的に美人より可愛らしいって感じになっちゃってるわね!」
「落ち着け。俺はガイでPTのまとめ役みたいな感じだ、こっちのはしゃいでるのがプリメラ。
口を開いてない巨漢がボルグ、最後にラギだが口は悪いが根は悪い奴じゃない」
ガイさんの紹介に合わせてプリメラさんは手を振りボルグさんは手を上げる。
ラギさんはそっぽを向いて頭を掻いている。
もしかしたら紹介が恥ずかしかったのかな?
「んで、何で遅れたんだよ」
誤魔化すようにラギさんがルナに遅れた理由を聞いた。
原因は私の種族能力だけど。
『言っても良いかな?』
『人が多いのは大丈夫?』
『絶対じゃないけど多分大丈夫じゃないかな』
ルナは言う前に確認してくれた。
周りを見ると酔って楽しそうに歌ったり騒いでる人が多い。
テーブルも隣とは離してあって大きな声で言わなければ聞こえないかも。
パーティーを組んで一緒にやるなら話しておいた方が良いよね。
『そっか。一緒に組む人達なんだよね、良いよ』
私の返事を聞いたルナが保冷バッグを引き寄せる。
「きゃっ」
急だったからちょっとよろけた。
ルナの方を見ると睨んでいるようだったので視線を追っていく。
するとプリメラさんが手を伸ばして私に触ろうとしてきていたらしくそれを牽制していた。
「まったく…、プリメラ話が進まないからやめろ」
ガイさんがそう言うとはーいと返事をしてプリメラさんは大人しくなった。
うーん、私は別に触れられても良いんだけど…。
あ、流石に人の体温でダメージは受けないよね?
試しておいた方が良いかな…。
「お姉ちゃんはスノーフェアリーって種族でデメリットがあるらしくてすぐに移動できなかったんだよ」
「あぁ?デメリットって何だよ」
「暑い所だとスリップダメージ受けるみたい」
ルナが簡単に説明してくれてるんだと思う。
けどゲームをやらない私にはスリップダメージ?がわかんない。
『時間の経過で受けるダメージの事かな~。詳しくは知らないけど古いRPGの特殊技が由来だったかな?』
『そうなんだ』
ルナに聞いてみるとすぐに教えてくれた。
やっぱりゲーム用語だったみたい。
ゲームだと毒がよくある状態異常の定番でスリップダメージに分類されるみたい。
こういう用語は使い慣れてない人にはわからないよね。
「街中でも受けるのか。それは厳しいな」
「大変ねぇ。その為のその…保冷バッグ?」
「うん、暑さを凌げればダメージはないんだって」
「それで戦闘中もその状態でいるつもりかよ?」
ぁ、言われてみると確かに…。
ルナは剣と魔法を使って接近して戦うって言ってたから私邪魔になるよね。
そうじゃなくても相当揺れるだろうから私が攻撃とかできない気がする。
「それは…」
「仮に後衛に預かって貰うにしても、そいつが原因で死んだらどうするつもりだ、あぁ?」
私の代わりにルナが反論しようとするも遮られる。
ラギさんは思っている事を口にしている様だけど少しずつ声が大きくなっている。
できれば誰かの荷物になるのは迷惑が掛かりそうだから嫌だな。
「大体暑さでダメージだって?このゲームじゃ種族的に終わってるじゃねぇか。何も一人でできねぇなら足手纏いの役立たずだろ。キャラデリして作り直した方がよっぽどマシじゃねぇか?」
声が大きかったのもあってか辺りがしーんとしていた。
思ったよりプレイヤーの方がいたのか、それともラギさんの迫力のせいなのか。
「ちょっと言いすぎよ!」
プリメラさんがラギさんに対して注意するも。
「だったらお前がずっとお守りするのか?」
「それは…」
そう言われてプリメラさんは俯き黙ってしまう。
私も辛辣なラギさんの言葉にちょっとずつ視線が下がる。
あはは…。
まるでリアルの私みたいだ。
一人じゃまともに何もできずに妹や母さんに迷惑ばかりかけてる。
ゲームの中でも同じなのかな。
こんな事ならやらなかった方がよかったのかな。
そう思っていると机を思いっきり叩いて立ち上がるルナ。
「ガイさん、私PTの参加やめさせて貰いますね」
「はぁ?てめぇ何勝手な事言ってるんだ!遅れて役立たずを連れてきたと思ったら抜けるだと?勝手すぎるだろうが!」
ルナの言葉に過剰に反応するラギさん。
熱くなってきたのかこちらも途中で机を叩いて立ち上がっている。
「貴方はお姉ちゃんが気に入らないんでしょ?そんな人とPTは組みたくないし、元々頼まれて条件をつけての参加予定だったしね」
「二人とも落ち着け!」「ラギも座りなさいよ!」
ガイさんとプリメラさんが仲裁に入ろうとしても二人は聞く気が無いようで睨み合っている。
私のせいでこんな事になってるんだよね。
いなくなれば…。
「お話中すみません」
俯いてた顔を上げ声のした方を見る。
歩いてきたのは薄紫の髪を後ろで三つ編みにして縁が銀の青い鎧を着た女性だ。
その人が近づいてくると同時に周りがガヤガヤとしている。
有名な人なのかな…?
ルナの近くまで来て立ち止まる。
気になって見上げていると彼女の視線は真っ直ぐ私に向いている気がして目が離せない。
隣にいる人に気づいたのかルナが女性の方に向く。
女性はしゃがんで私に向かって話しかけてきた。
「可愛らしい妖精さん。私とパーティーを組んで頂けないでしょうか?




