38
ファエリに言ってしまった事を深く考えない事にする。
それよりも拠点を持ったけど思ってた以上に広かったので考えていた事がある。
「そういえば拠点に誘いたい人達がいるんだけど…」
フレンドリストをちらっと見たときにログインしていることは確認している。
ただ私の独断で誘って良いのか迷ってしまったんだ。
私がそう切り出すと。
「お姉ちゃんが誘うのはシュティも反対しないだろうから良いと思うよ~」
「わたくしはユキ様の拠点ですし好きにして良いと思います」
PTチャットでファエリとアエローちゃんにも聞いてみたけどスノウさんと同じ意見だった。
一応事前にシュティにも相談のメールを送ってあったんだけどさっきお任せしますと返ってきた。
ゲームの中と外で時間の流れが違うから返事はもっと遅いと思ってたけど思ったよりも早かった。
反対意見がなかったしフレンドリストからメールを送る。
こっちも返事はすぐに返ってきた。
内容は会って直接話ができないかという返事だった。
2人に連れてくると伝えて街へ向かう。
待ち合わせ場所は街の噴水の前にした。
一度拠点に連れてくるつもりだからすぐに移動できる様にだ。
別の場所で待ち合わせでもよかったけどすぐに移動して貰うと思うと噴水で良いかなって思ったんだ。
少し待っていると待ち人が来たみたい。
「すまない、待たせたか?」
「いえ、そんな事無いですよ」
「おい、てめぇがモタモタしてるからだぞ?」
「そんな事言ったって急だったんだから仕方ないでしょ」
ガイさん、ラギさん、ボルグさん、プリメラさんだ。
顔を合わせる機会は何度かあったけど結局一緒に遊べていなかったことが気になってた。
この際だから誘ってみようかなっと思っていたのだ。
「とりあえず場所を変えようか。目立ってるみたいだしな」
「じゃ、拠点に行きますか」
「ちょっと待った。そんな簡単に人を入れて良いのか?」
「え、4人は信頼できるから大丈夫かなぁと…」
「もうちったぁ用心しろよ…」
「でもそこがユキちゃんの良い所よね」
あまり喜んで良い内容じゃなかったとは思うけどこの際気にしないことにする。
ここに来る前にPTから抜けておいたので4人をPTに誘う。
PTを組んだら噴水の転移機能を起動させる。
私達は光りに包まれて拠点の噴水前に転移した。
光りが収まると4人はキョロキョロと辺りを見渡す。
見渡したところで特に何も無いんだけどね。
「ようこそ、私の拠点へ」
「何もねぇな」
「もっと自然があるところだと思ってたけど洞窟なのかしら?」
「暑さ対策で地下に拠点を置き、氷を張って冷やしてるんじゃ無いか?」
ボルグさんは辺りを見回しているけど何となくだけど目が真剣な感じ?
ラギさんは見たままの感想だけど…。
仕方ないんだよ、寝床の整備が先だったんだもの!
ガイさんとプリメラさんは拠点がどんな所でどんな目的か予想してる。
とりあえずここに居ても仕方が無いのでルナ達が居る小部屋の方に案内することに。
「足下は歩きやすく整備されてるのな」
「通路も広いから大きい武器や大型のテイムモンスターが居ても大丈夫そうだな」
「あの灯りに使われてるのは何なのかしら」
3人は拠点を見てどうするか考えているんだろうか。
できれば一緒に遊べれば嬉しいと私は思う。
けど決めるのは4人だもんね。
廊下を歩き暖簾をくぐって小部屋に入る。
「ただいま」
「「おかー」」「お帰りなさいませ」「おかえりー」
ルナとファエリ、スノウさん、アエローちゃんと返事を返してくる。
行くときは居なかったファエリとアエローちゃんは戻ってきてた。
「お邪魔する」「よろしくね」「あー、よろしくな」
ガイさん、プリメラさん、ラギさんは声をかけて入りボルグさんは礼だけをして入ってくる。
入り口に段差があり靴があるのに気づくと脱いでから上がってくれた。
ルナは4人を迎えると足りないイスの変わりに丸太を取り出した。
「何で丸太なんだ?」
気になったガイさんが聞くができれば気にしないで欲しかった。
ルナがテーブル周りに置いた丸太に四人が座っていく。
以前のように丸太だけというのから街で買って来たのかクッションが上に置かれており座り心地は改善されてるけどね…。
「お姉ちゃんの失敗の証かな」
ルナが答えるとガイさん達は理解したのか納得した表情だ。
それに対してスノウさんとアエローちゃんはわからないから首を傾げている。
「失敗の証ってどういう事?」
アエローちゃんがわからなかったからルナに聞く。
ルナはあーとかうーんとか唸りながら言いにくそうにしている。
「それはアレだ。魔物は倒すと光りになるけど動物や植物はならねえんだよ」
「へー、そうなんですね」
アエローちゃんとスノウさんは初めて聞いた事だからか興味深そうにしている。
「それが何故失敗に繋がるのでしょうか?」
「初心者は知らずに魔法とかアーツを木に試しちまうんだよ」
スノウさんの質問にラギさんがすんなり答えている。
二人はそれで納得したみたい。
「大体は持ち帰る為アイテムバッグに入れたいとは思っても方法がわからなかったり、倒れてくるときに自分の方に倒れてきてビビって動けなくなったりってのが失敗だな」
聞かれてないのに詳しく話すラギさんを恨めしく見る。
「ユキさんそう睨むなって。知らない二人が同じ事になっても困るだろ?」
そう言われると否定できないから頷くしか無くなる。
何て言うか私が不満に思うのも予想されてたみたいだ。
「貴方もビビって動けなかったもんね」
「そう言うてめぇは派手に魔法を撃って大量に木を倒しちまって、どうして良いかわかんねぇでオロオロしてたよなぁ?」
プリメラさんが突っ込みを入れるとラギさんは反撃を繰り出す。
何故か2人がにらみ合いになっている。
「2人ともみっともないぞ。実際のところ誰でも陥る可能性があるから知っておいて損は無いだろう」
ガイさんが2人をたしなめてまとめてくれる。
「とりあえずさ。自己紹介から始める?」
ルナがそう言うとガイさんは頷き口を開く。
「ついでに良い時間だし飯にしないか?」
時間を確認すると12時まではまだ時間があるけどちょっと早めの昼ご飯と考えると全然ありな時間だ。
私達が同意すると街で買って来たのかガイさん達がテーブルに出来合いの料理を並べていく。
食事が粗末だったアエローちゃんやこっちでは殆ど外に出れなかったスノウさんは料理に釘付けだ。
ちなみにファエリはラギさんの方に行っている。
以前ケーキを貰っているからか、何か貰えるのを期待してるのかも。
私はルナの方を見ると目が合いお互い笑みがこぼれる。
ルナがしまっていた飲み物を取り出して渡していく。
アイテムボックスにしまう前に私が作った氷を利用して冷やしているので冷たいままだ。
「そういえばユキさんが氷の魔法を使えるからこうやって飲み物も冷やせるんだな」
ガイさんが感心した様子でそんな事を言う。
「あんたは酒が冷やしたいだけだろうが…」
「温いのはまずいからな」
ラギさんの突っ込みを気にしていないようでガイさんは笑いながら言う。
ボルグさんはガイさんの言葉に頷いている。
正直私もガイさんの言葉には納得できる。
夏にキンキンに冷えたチューハイが好き。
ビールは苦手で美味しいと思えないからチューハイ。
そういえばどれくらいお酒を飲んでないかな…。
そんな事を思っていると。
「お姉ちゃんはダメだからね?」
ルナに凄く良い笑顔で止められた。
残念。
「見てるだけでお預けなのもなんだしいただきましょう」
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
余分に買ってきてあったお皿に各々が食べたい物を取って食べるようにした。
私の分はルナが、ファエリの分はラギさんが取ってくれていた。
何だかんだラギさんって面倒見が良いんだよね。
食事をしながらガイさん達とアエローちゃん、スノウさんが自己紹介しているのを眺める。
私とルナ、ファエリはどっちも知ってるからなしだ。
自己紹介が終わると先に食事を済ませてしまう。
各々食べ終わり落ち着いたところで皆が私を注目する。
うーん、拠点にいるメンバーは賛成してくれているし4人が入ってくれたら私は嬉しい。
けど、決めるのは彼等だから無理強いするつもりも無いのでどうなるかわからない。
「一応アエローちゃんとスノウさんには言ってなかったけど、人が集まったらチームを組もうって話はしてたんです」
ルナは嬉しそうにこちらを見てファエリは何か偉そうにうんうんと頷いている。
まぁ知ってる二人はほっといても良いよね。
「まだチームは組んでないけどマスターは私になる予定です。できれば拠点を利用する人には入って貰えたらって思ってるのでそれも含めてどうするか考えて貰いたいです」
私がそう言うとスノウさんが口を開いた。
「わたくしはユキ様のおかげで楽しめるようになりました。なので精一杯お仕えしますわ」
「チームに関しても予想できてたし参加するつもりです。ユキさん見てるだけでも楽しそうだし」
スノウさんはちょっと気にしすぎなんじゃないかなと思うけど楽しんで貰えるならそれでも良いのかな…?
いやでも、仕えるって言うのは何かおかしいよね。
続いてアエローちゃんはルナの言動から予想してたのかな?
と言うか失礼な事言ってるよね。
私を見てるだけでも楽しそうってどういう事!?
「俺達の方はとりあえず俺を除く3人はここで世話になりたい」
「ガイさんはダメなんですか?」
βから組んでたって聞いてたし仲が良さそうだったからまさかバラバラになるとは思ってなかった。
「お前本気で向こうにも顔出す気か?やめとけよ!」
「そうよ、あいつ等私達のことを駒の一つとしか考えてなさそうだったじゃない!」
ガイさんの言葉にラギさんとプリメラさんが食って掛かる。
それを聞いて頭を掻いて困っている様子だけどガイさんの中でもう決めていることみたい。
「お前等の言いたい事は理解してるつもりだし誘いを断る気もないさ。こちらに世話になる前に声をかけてきた別の相手に断りを入れてくるだけの話だ」
「危険とかはないんですか?」
「相手の方は多分欲しい人材は俺じゃ無いからな。俺を誘えばラギ達も入ると思ってのことだろうから居ないなら引き留められることは無いだろ」
そう言われてプリメラさんの方を見ると顔をしかめていた。
その様子から何かしら不快に感じることがあったのかなと思う。
「まぁ、すぐ戻ってくるさ」
そう言うとガイさんは立ち上がって噴水の方に向かう。
「ガイさん!」
「どうした?」
歩き出したガイさんを引き留める。
振り返ったガイさんに私は言わねばならないことがあった。
「許可まだだしてないので、ガイさんはまだ転移装置使えないです」
私がそう言うと後ろで吹き出したのが複数いるみたいだ。
ガイさんはちょっと恥ずかしかったのか赤くなってる。
「ぷっ、あはははは」
「だせぇ」
「転移装置まで行って戻ってくることにならなくて良かったじゃない」
ルナ、ラギさん、プリメラさんが笑っていた。
こうなった原因は説明を忘れてた私にあるよね。
「説明忘れてましたごめんなさい」
「いや…。ユキさんのせいじゃないからな…。と言うかお前等笑いすぎだろ!」
「ガイさんは戻られるのですか?」
「さん付けじゃなくて呼び捨てで良いぞ。そうだなさっさと用事を済ませてくるさ」
ガイさんの返事を聞いて何か考えている様子のスノウさん。
チラッとお腹を抱えて机に突っ伏してるルナを見た?
何かあるのかな。
「ユキ様、お兄様が謝罪をしてこちらに来たいと仰っているのですが…」
スノウさんがそう言うとルナががばっと起き上がる。
「私が面接してくる」
ルナは会った事無かったはずなのに何となくお怒り気味?
そういえばシュティもスノウさん連れて来るときに怒ってた感じだし何かしら私が知らない情報を共有してるのかも。
ルナに続いてスノウさんとガイさんが部屋から出て行く。
PTからガイさんが抜けたからルナ達とPTを組んで街に転移したんだろう。
「それで3人はここを拠点にするんだよね?」
アエローちゃんが確認するように聞くと3人はそれぞれ頷き返事をする。
「ユキさんにはデカい借りがある。それに約束もあるからな」
「ユキちゃん達と遊べるのは私達も楽しみにしてたのよ」
そう言ってくれた2人に嬉しく思う。
初日に迷惑をかけてしまったのはこっちの方なのにね。
「まぁ、出てった連中が戻ってくるまで適当に何か話でもするか」
「そうねぇ…。そういえばボルグは何してるの?」
プリメラさんが机に向かって何かをしていたボルグさんの手元を覗き込む。
ラギさんとアエローちゃん、ファエリも釣られて覗き込んでいる。
丁度作業が終わったのかそれを私が見える位置に移動させてくれた。
4人と一緒にそれを見る。
それは拠点の見取図の様だった。
しかしボルグさんが確認した内容だけが書かれているため完全では無い。
「ボルグそんなの書いてたのね…」
プリメラさんは呆れたように言うがボルグさんは真剣そうな感じ。
「だが案内板みたいなのを作るならあった方が良いんじゃねぇか?」
見取図を見て思ったのかラギさんがそんな事を言う。
そういえばまだ3人ともゲストだからユーザーに変更しておかないと。
「管理設定で3人に使用許可をだしてくるよー」
「あ、ユキさん。みんなで行ってついでに拠点のこと知って貰っておいた方が良いんじゃないかな?」
知って貰うって何をだろう。
一瞬そう思ったが私はアエローちゃんに言われてこの拠点の危険性を思い出した。
主に素材。
アエローちゃんに頷き返す。
「3人には拠点を利用するに当たって守って貰いたいことがあります」
そう言うと3人は何事かと私の方を見てくるが早めに伝えておいた方が良いことなので言ってしまおう。
まずは拠点で一番隠さなくてはいけない世界樹。
次いで採れる素材を持ち出さないこと。
とりあえず現状この二つは絶対だろう。
「了解」「わかったわ」
二人は返事をくれてボルグさんはサムズアップをしている。
拠点のことを話してる間に転移装置のところに着いたので管理設定でユーザーに変更していく。
「おぉ、転移できるようになった」
「でも遠目で見たことあるけどかなり目立ってたのよね…」
「みたいですね。初めての時なんて凄い注目されちゃって」
私達が話をしているとボルグさんが頭をがしがしと掻いてこっちを見る。
「ユキさん悪いが拠点のマップを作ってきたいんだが…」
「ぼ…」
「ん?」
「ボルグさんが喋ったー!」
つい大声を出して驚いてしまった。
だって今まで挨拶すらしてこないで無口を貫いてきたのに!
「ユキさん流石に失礼だよ…」
「私も初めて声聞いたー」
アエローちゃんに注意されるけど仕方ないと思うの。
ファエリも聞いたこと無いんだもん。
「このゲームでは初じゃねぇか?」
「私も記憶に無いわね」
ラギさんとプリメラさんが聞いたこと無いのが一番の驚きかもしれない。
「ボルグってば用事があるときとかメール送ってくるものね」
同じPTなのにそんな事してたの!?
違う意味で驚きだよ。
「ハハハッ、そんな事よりも調べてきても構わないか?」
「あ、はい。そういえばプリメラさんもしばらくはさっきの部屋で寝泊まりして下さい。ラギさんとボルグさんは反対の小部屋をとりあえず使って下さい」
「おぅ、じゃあ俺もボルグについて見に行ってきますかね」
ラギさんと一緒にボルグさんも未使用の小部屋の方に歩いて行った。
「向こうの部屋はどんな感じなの?」
「まだ何も無いですよー」
実際まだ手を付けれていない。
木材で床と壁は直接触れないようにはしてあるけどそれだけだ。
私とアエローちゃん、プリメラさんは外へ行ってみる事に。
通路を進んで入り口を目指す。
ぽっかりと口を開けていた入り口も今は扉を取り付けてある。
私は素通りできる扉だけどね。
何故なら扉には目と口がある。
イビルトレントの顔をそのまま残して扉を作ったのだ。
これを作るのに夢中になってルナが拗ねちゃったんだよね…。
ちなみに外から見るとこの扉、目の部分は紫色に光が見える。
さらに唸り声みたいな音も聞こえる。
ぶっちゃけちょっと怖い。
でも何やら妖精達に受けが良かったみたいだ。
喜んでる子達が結構居る。
あ、ワジオジェ様のところに居たから見慣れてるのもあるかもね。
アエローちゃんが妖精達を押しのけつつ扉を開く。
妖精達は嫌がる様子は無くわーとかキャーなんて言いながら楽しそうにしてる。
よく見たらファエリも混ざってる!
もうアエローちゃんに妖精の面倒見て貰った方が良い気がする。
扉をくぐって私達が外に出ると木でできたテーブルとイスが設置してある。
これはシュティが用意したモノで設置場所も一日の日の当たる場所から外れているのを確認している。
日陰で優雅にティータイムとかできるのだ。
しかし今は優雅では無く惨劇の現場のようになっていた。
その状況を作ったのは…。
「妾が自ら出向いてやったのじゃ。感謝するが良い」
凄く偉そうにそう言うのは実際に偉いメギーアー女王様だった。
解体されたコッコであったと思われる鳥に何の肉かわからない塊、大小様々で色も少しずつ違って見える肉団子がテーブルに所狭しと並んでいた。
「テーブルの上、もうちょっと何とかならなかったのですか?」
「腹が減ったのだから仕方あるまい。それよりもお主が言っておったモノができたから妾自ら届けに来てやったというのに…」
「それについてはありがたく思いますし感謝しますけどせめて皿に盛るなどしてテーブルを汚して欲しくなかったです」
私が言うとメギーアー女王様は近くにあったコッコのと思われる頭を持ち上げる。
ここに来てから頭を落としたようでまだ血が垂れていた。
それを見てまずかったと判断したようで。
「うむ、次からは気をつけさせる」
そう言って目をそらした。
「ゆ、ユキちゃん?」
「あぁ、アエローちゃん、プリメラさんうちのお隣さんになる昆虫エリア2で一番偉い存在のメギーアー女王様です」
「新顔か。望むのなら妾が鍛錬の相手になってやるので言うが良い」
腕と足を組んで偉そうにイスに座っていると何か悪の親玉っぽく見える。
それにしても腕を組んだことで胸が強調されてるからルナが見たら嫉妬で狂いそうだ。
「アエローと申します。その時は是非空中戦とか教えて下さると嬉しいです」
「ほう、空中戦か。回避の練習相手ぐらいにしかなれぬかもしれんぞ?」
「そうなんですか?あ、今度伺いますのでその時詳しくお願いします」
「うむ」
「プリメラです。よ、よろしくお願いします」
「む、そっちの小娘はすぐやるのか?」
「い、い、いえ。こ、今度伺います!」
プリメラさんはちょっとテンパっちゃったようだ。
そういえば以前シュティが怒ってるって言ったときもちょっとテンパってたっけ?
「そうか、待っておるぞ。魔術師相手の練習は久しぶりになるから楽しみじゃ」
そうメギーアー女王様が言うとちょっと落ち着いてきたのかプリメラさんが相手を見ていた。
プリメラさんが魔法を使うというのは知らなかったと思うし知る事ができる能力を持ってるのかも知れない。
『ユキちゃん、どんな訓練だったのかな…?』
『私が見たときは魔法使えなかったからわからないし聞いてみるよ』「魔術師相手だとどんな訓練をするんですか?」
『ユキちゃーん!?』「ん、もちろん的当てじゃな。ちなみに妾が的じゃ」
「難しいんですか?」
「妾基準の難易度設定で初級、中級、上級があるぞ。そこの小娘なら初級からじゃな」
「へぇー。あ、そういえばできたの見せて貰っても?」
「おぉ、そうじゃったな。下の娘に頼んで分けて貰うのには苦労したがな。預かった物をちらつかせたら一発だったわ」
そう言って付いてきていたガードが持ってきた容器を私の代わりにアエローちゃんが受け取る。
「これはなんですか?」
「蜂蜜酒だよ」「蜂蜜酒じゃ」
私が扉造りと木材加工してシュティが菜園を作っているときに遊びに来たメギーアー女王様。
あまりにも絡んでくるので酔っ払いか!って言ったら酔うとはどういう状態か聞かれてお酒のことを話した。
すると興味を持ったようで飲みたいと言うから作り方を教えてあげたんだ。
もしできたら分けてとも言っておいた。
余裕ができたら自分でも作ってみるつもりだけどね。
そんな事もあってやり方を知ったメギーアー女王様は試しに作って持ってきてくれたみたい。
「試しに飲んでみたが悪くなかったぞ。ガードに大量に飲ませたらしばらく使い物にならなくなったが酩酊状態じゃったな」
「飲み過ぎは危険なので気をつけて下さいよ?」
「妾は少ししか飲まぬから問題ない。それよりもこれらを持ち帰るのに入れ物を寄越すのじゃ」
メギーアー女王様が言うテーブル上の惨劇を見て呆れつつも入れられそうな革袋を渡す。
街で作られた物だした分大丈夫だろうと思う。
これはルナが荷物入れとしてちょっと多めに買ってきていた物だ。
用は済んだみたいで片付けを終わるとガードの1体に何か指示をする。
ガードは机に近づき何かを唱え始める。
そういえば闘技場で魔法を使って開始と終了の合図をしていたのもガードだったっけ。
ガードが魔法を使うと血で汚れていたテーブルから血が浮き上がってくる。
浮き上がった血は世界樹の根元に移動させると根が吸収したのか血は見えなくなった。
「では妾達は帰るとしよう」
「ありがとうございました」
私が御礼を言うと背を向けたまま片手を上げて応じるとガード達に運ばれていった。
うん、運ばれていったんだよ。
あまり動こうとしないのにあのスタイルを維持してるみたいで羨ましい。
「思ったよりも気さくな人…じゃなくて相手だったね」
「掲示板で存在は言われてたから知ってたけど実際に初めて見るとびっくりするわね…」
メギーアー女王様について感想を述べる二人だけど。
「先にこれはアイテムボックスに入れておかないとね」
アエローちゃんの手元にあった入れ物をしまう。
アイテムボックスで確認すると女王様が作った蜂蜜酒となっていた。
アルコールは10%を超えてる。
MP回復効果があるみたいだけど酩酊する可能性があるみたい。
「ユキちゃん飲むときは私にも分けて」
そういえば宿の食堂でお酒を飲んでたからガイさんも合流したときに5人で飲んでも良いかもしれない。
そう思ってプリメラさんに頷き了承する。
「ユキさん私も!」
「ダメ」
「えー」
「まだ未成年でしょ」
「がっくり…」
アエローちゃんはまだ学生だから却下しておく。
こっちで飲んでも現実に影響はないと思うけど念のためだ。
と言うかアエローちゃんに許可をだすと確実にルナも飲みたがると思うし。
さっき見た感じそんな量は無い!
あくまで私の楽しみに取っておく分は必要なのだ。
事故に遭ってからお酒なんて飲んでもいないしね。
ルガードさんに頼まれたのは私が自分で作れたときだからね。
これは別なのです。
それからは特にまだ何かあるわけではないけど外がどんな感じか見て周る。
世界樹の上に行くかアエローちゃんが聞いたけどプリメラさんが高いとこは苦手だと言う事で小部屋に戻る事になり地下に降りていった。




